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1-36 代償

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 俺の刀じゃこいつの硬い皮膚に傷一つ与える事が出来ない。

 だからと言って、ピピカの攻撃は魔力を遮断されてしまって通じない。

 そもそもピピカが封じられてしまっている。


 後俺に残っているのは解除(アンリミット)による高い身体能力なのだが、さっきの手応え的に三倍程度の力でどうこう出来る気がしないんだよな。


 ……さて、本気で困ったな。


「どーっうしましたかっ! 逃げてばかりではなぁーいですかっ!!」


 何回攻撃を加えたところで今の攻撃力じゃどうにかできそうにないからな。


 俺は解除した身体能力を使って回避に専念していた。


(なんか、なんか弱点とかないのかこいつ!)


 焦ったところでどうしようもないんだ。

 冷静に冷静に。何度も自分に言い聞かせながら俺は回避行動を取り続ける。


 だめだ。見つからない。


 勝ちの目が見えない。


   ☆ ★ ーーーー


「なぁーに諦めた顔してんのよっ!!」


 聞き覚えのある声が耳に届くと同時に背後の扉がはじけ飛んだ。


「ちょっ! はっ!?」


 突然の事に俺は目をまん丸にしていた。


 驚いたのはラッセルも同じだったらしく、攻撃の手を止めて視線を弾け飛んだ扉に向けていた。


「勝手に諦めるのやめてくれる?」


 崩れた瓦礫を蹴り飛ばしつつ、煙の中から出てきたのは、今回のクエストの相棒こと、実久だった。


「おややー? まっさか二人ともやられたんですかー?」


 ここに雇われていた用心棒は二人だったはずだ。


 もう一人はやっぱり実久の所に行っていたのか。


 実久に怪我らしい怪我は見えない。それは俺もだが、俺の場合は回復魔法があるからな。


 もしもあの鎧男並みの奴と戦って無傷だとすれば。


(やっぱり実久って強いんだな)


 そんな事を呑気に考えていると、睨まれた。実久に。


「何手こずってるのよ」

「だってこのおっさんめちゃめちゃ強いぞ?」

「そうは見えないわよ?」

「硬いんだよめちゃめちゃ」

「……そう」


 視線を俺の腕に落とし、握られている刀を見る実久。


「まっ。相性の問題ね。相性の」

「おいっ実久」


 俺の隣を通り過ぎて、俺とラッセルの間に立つ実久。


「ここからはこのあたしが相手をしてあげるわ。巨人さん」


 実久の両手から激しい雷が発される。


「にひっひっ」


 それを見てラッセルは楽しそうに嗤う。


(まっ、言う必要ないか)


 何をだって?


 ラッセルが持っている機械みたいなやつについてだよ。


「一輝。あんたはおとなしく見てなさい!」

「へいへい」


 何やら一人テンションが上がっている実久。


 ……いや、これはテンションが高いというより。


「いくわよこのでっかいサンドバッグっ!!」


 毒舌。


 直後、電気の軌跡を残して実久の姿が消える。


「っ!?」


 そのあまりにも早いスピードに声にならない声をあげるラッセル。


 そしてラッセルの正面に現れた実久は、軽く跳ぶと拳を固く握り。


「ていやっ!」


 正拳突き。


 ラッセルの体表に激しい雷が流れていた。


(……やっぱりか)


 それを見たのと同時に俺は心の中で密かに思った。


 確かにラッセルは魔法を無効化出来るのだろう。

 あの機械の効果は本物だ。でなければピピカの一撃を防げるわけがない。


 だが、ならばどうしてピピカを封じた?


 精霊の最たるものはその圧倒的な魔力質と強力な精霊魔力だ。


 それをラッセルは防げるというのに、何故捕まえた?


 念のため? ちょろちょろしていると鬱陶しいから?


 違う。こいつは完全に俺たちの事を見下している。


 己こそ最高の大天才だと思っているタイプだ。


 そういうやつは、念のためだなんてしない。


 つまり、ピピカの動きを封じる必要があったのだ。


 念のためだなんて曖昧なものではなく、確実な何かがある。


 あの機械は魔力を遮断する。


 言い換えれば、魔力だけを遮断する。


 ならば、魔力で強化されているものの、実体のある攻撃ならどうだ?


 その答えはたった今実久が証明してくれた。


「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!」


 実久の拳がラッセルの腹にめり込んでいるような様子はない。

 だが、後ろにラッセルは事実お腹を押さえて悲鳴をあげていた。


「……あら? 思ったより弱いわね」


 こいつの弱点。

 それは、属性を持った通常攻撃ってところだな。


「一輝……あんた、こんなのに手こずってたの?」


 後ろに振り向き、ジト目を向けてくる実久。

 ……うるさい。


「ーーっ! 実久!」


 こっちを向いている実久。その背後でニンマリとした笑みを浮かべているラッセルがいた。


 両手を振り上げ、背後から実久に攻撃をしようとしている構え。


 俺が焦りながら叫ぶと。


「焦り過ぎ」


 小さくそう言って、ニヤリと笑う実久。


 振り向くと同時にラッセルの攻撃よりも早く奴の腹にそっと手を添える実久。


(何してんだよ!)


 そう俺が思うと同時に、実久が気合いを入れる。


「ハッ!」


 その瞬間。

 実久の掌から激しい雷がほとばしった。

 それはさっきのようにラッセルの体表を流れる事なく、ラッセルの内部へと注ぎ込まれているかのようだった。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!」


 さっきとは比べものにならない音量で叫ぶラッセル。


 どうやら今度のは効いた振りではないらしい。暴れることもなく、ただ、その場でうずくまる。


「こういう場合。ここで殺しちゃっても問題ないんだけど……」


 チラリと俺の顔を覗く実久。すぐに視線をラッセルに戻した。


「まっ。生け捕りの方が推奨されてるしね」


 うずくまるラッセルの両肩に手を置く実久。


「……えいっ」


 再び実久の掌から電気がほとばしり、今度はラッセルの意識まで刈り取っていた。


「まさか……鎧通しか?」


 ラッセルが気絶しているのを確認した後、俺のところに戻ってくる実久に問う。


「ええ。あんたが硬いって言ってたから。それに一撃の時、やけに電撃が体表を流れてたもの。頑丈な肉体が避雷針の役割を果たして内部を守っていたのよ」

「……よくわかったな」

「経験よ経験。イーターの中にもいたのよ。そういう奴が」


 それはまた……。他にも厄介そうな奴と戦ってそうだな。


「だから直接体内に電撃を送ってあげたのよ。そうしたらほら、この通り」


 白目を向いて倒れているラッセルを見る俺たち。


 ラッセルの口の中から煙のようなものが漏れ出すと、徐々に身体の大きさが戻っていき。そして元の細身の男。いや、それ以上の骨と皮だけのような姿と成り果てていた。


「……反動ね」


 元々ある力以上の力を強制的に取り込んだが故の反動か。


「……哀れだな」

「ええ。これじゃもう何も出来ないわね」


 黒髪も白髪になってしまい、若さまで無くしているように見えた。




 次回更新は明日です!

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