1-30 その頃もう一人はって奴だな
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「……ふぅ」
無心に刀を振るっていたのだが、結構疲れたな。
だがあの感じ。まだ完璧とはいえないけど、とりあえず納得出来るレベルまではものに出来たな。
実戦で得られる経験値って本当に凄まじいな。
「さてと、先はどっちだ?」
キョロキョロとダンスホールの中を見回してみるが……あれ? 道がないぞ?
先の道だけじゃなくて、ここまで来た道すらも見えなくなっている。
……あれ? 閉じ込められた?
☆ ★ ☆ ★
「それじゃ、あたしはこっちから行くわ。あんたも気を付けなさいよ」
「へいへい」
一輝と別れた後、あたしは一人廊下のような道を走っていた。
(……変な奴)
それが一番最初に感じたあの男の印象だった。
学校でのあたしは自分を隠していた。良い子でいればいろいろと楽だったからだ。
それにしてもこっちの世界であいつに会った時は本当にびっくりしたわね。
噂であいつが意識不明の重体になっているって聞いたけど、まさか意識そのものが既にあの世界から離れていたなんて世界の裏側を知らない一般人じゃ知るよしもないもの。
一応委員会の方に連絡しておいたけど、きっとあいつが自分の肉体に戻る事なんてない。
だから、あいつが知らないって事を知った時は動揺した。
あいつのお母さんは今……。
「……人の気も知らないで出てくるんじゃないわよ」
あたしは足を止めると正面にこれでもかというくらいに不機嫌な感情を乗せて言い放った。
「侵入者の気持ちなんて知りたいもないですわ」
まるで外国の貴族みたいだ。
目の前にいる女性の第一印象がそれだった。
綺麗なウェーブのかかった長い金髪。
そしてまるでドレスのようなお召し物。うん。貴族ね。
「あんた誰よ」
「侵入者に名乗る名などありませんことよ」
「あらそう。ならいいわ。黙って散りなさい」
これ以上の会話は無意味ね。
そう判断したあたしはあたしの十八番である、電撃を全身に流すことによって高速移動を強制する術『電纏』を起動する。
「おやおや。属性纏いですわ。珍しい使い手もいるものですわね」
「舐めてると後悔するわよ?」
一般教養のレベルが低いこっちの世界では人間の身体が電気信号によって動いているということがほとんど知られていない。
だからこそ『電纏』をただの属性纏いだと油断する。
そのバカにしてる笑みをすぐに崩してあげるわ!
肉体のリミッターを外す事によって発揮出来る通常時を遥かに上回る力で地面を蹴ると、相手からすれば瞬間移動したように見えるスピードで相手の目前に迫る。
「はっ!」
気合いを入れた掌打で女の顎を狙う。上手く当たれば身体が麻痺して動けなくなるはずだ。
「うふふ。甘いですわよ」
上体を軽く後ろに逸らす事で避けた女は何かを取り出すと、それの先端をあたしに向けた。
(拳銃!?)
慌てて身体を逸らしてみるものの、かすってしまったわね。
この感じ、ただの拳銃じゃないみたいね。
「……魔法銃なんて珍しい法具ね」
「うふふ」
楽しそうに笑っている貴族風の女。なんだか腹立つわね。
魔力を光線のようなものに変えて放つ法具。形状からしても特化式ね。
厄介だわ。
引き金を引いた後に銃口の先に魔法陣が描かれるため一瞬の間があるとは言ってもあまりにも早い。
武器の性能自体良いだろうけど、本人の技量もなかなかね。
「うふふ。雑草は雑草らしく惨めに散りなさい」
銃口をあたしに向けて引き金を引く貴族風の女。
確かに弾速も起動速度も早いけど電纏を起動している今のあたしなら躱すのはそう難しい事じゃないわね。
光線を連発する貴族風の女。あたしはそれらを全て余裕を持って躱し続けていた。
(それにしても、なんて魔力量よ)
放っている光線の規模からして消費魔力は結構な量だろう。
そんな攻撃をまるで牽制技の如く連発しているのよ? 魔力量に自信がなければ出来ない芸当ね。
あるいはただのバカか。
その場から一歩も動く事なく、光線を連発し続けている貴族風の女。既に撃っている回数は二○を超えているというのに、魔力が尽きたとかそんな感じはまったくない。
何かカラクリがありそうね。
躱し続けていれば勝手に自爆してくれると思ってたけど、どうやらそう簡単には行きそうもないわね。
仕方ない。
一定の距離を取りながら移動していたのを一変させ、あたしは一気に女の目前に迫った。
女の目は確実にあたしの動きを捉えている。見失ってもいいはずのスピードなんだけど、随分と良い目をしてるわね。
「はっ!」
見えているからと言って身体が反応出来るのかは別の問題よ。
さっきの掌打はわざと顎に掠るようにスレスレで打ったから簡単に避けられてしまったけど、今度ば技術ではなく、魔法で動きを止めてあげるわ。
掠らせるなんて考えないで、あたしは女の胴に向かって拳を突き出した。
その手には迸るほどの電撃が纏われている。
「『雷撃手甲』!」
あたしのスピードに身体の反応は間に合わなかったらしく、あたしの拳は深々と女の胴に、正確に言うと憎らしいほどに育っている豊満な胸と胸の間に突き刺さった。
拳を両サイドからぷるんとした弾力のある柔らかいものが押し当てられる。……むかつく。
「何よ! おっきいからっていい気になるんじゃないわよ!!」
自分でも八つ当たりだって自覚してるけど叫ばないわけにはいかないのよ!
「貧乳はステイタスなのよ!!」
半分涙目になりながらあたしは反対の拳を突き出した。
一撃目の段階で手応えがあったのだ。今頃こいつは雷撃にやられて身体が痺れて動けないはず。
回避の選択肢なんてあるわけがなかった。
「あまいですわよ?」
「……えっ?」
あたしの後頭部に筒状の何かがそっと当てられた。
「チェックメイトですわ」
次回更新は明日です!
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