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1-29 質の次は量っすか

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   ☆ ★ ☆ ★


「……一体なんだったんだよ」


 鎧男が消えた後、しばらくの間呆然とそこに立ち尽くした俺は再び足を動かしていた。


 ピピカの姿は見えない。どうやら俺が立ち尽くしていた間に俺の中に戻ったらしい。


(ピピカの存在は確かに俺の中から感じる。戦いになったら助けを呼ぶことも出来るだろう)


 だけど俺はピンチ以外ピピカに助けを求める気はない。


 ピピカの力で強くなったとしてもそれは俺自身の力ではないからだ。


 俺自身が強くならなければ、これから先やっていけないだろう。


 あの鎧男が世界最強ということはまずない。ならばあの男ぐらい俺自身の力で倒せるようにならないとだな。


(戦う道を選んだんだ。強くなければ、失いたくない人たちを失ってしまうかもしれない。……もう、別れなんていやだ)


 実久に否定された元の世界への帰還。


 それはつまり、もう会えない事を示しているのだ。


(……母さん……)


 心の中を流れる想いを振り払うように首を激しく振った後、俺は先を急いだ。


 鎧男に襲われてからは実に平和な道だった。


 まあ、その唯一の障害であった鎧男の強さが半端なかったわけだけどな。


 ピピカと契約していなかったらと思うとぞっとする。


 運いいな。俺。


 同じような光景が続く廊下を進んでいると、また広い場所に出た。


「ダンスホールって感じだな」


 実際に見たことはないが、ドラマとかでは不思議なぐらいよく出てくる場所だからな。


 ギルドに地下ある研究所だというのに、まるで内側は洋風のお城だ。


「さてと、こういう開けた場所っていやーな予感がビシビシするんだよなー」


 警戒から俺の歩幅は小さくなっていた。


 周囲に警戒をしつつゆっくりとホールの中心に向かっていく。


 そして、ちょうどまんなかにたどり着いた瞬間だった。


「ほら! やっぱり!」


 ホールの中心を踏むと同時に幾何学的な模様が床一面に広がった。


 これはあれだな。完全に罠だな。


(ピピカ! これ、どんな魔法式かわかるか?)


 生物というよりも概念に近い存在である精霊のピピカならばわかるかもしれないと期待したのだが。


(わかんない!)


 元気一杯な返事だな。内容は残念だが。


 とりあえず俺の身体に何か不調が生まれたなんてことはない。


 警戒をマックスまで引き上げると同時に俺はその変化に気付いた。


(周囲の空間が歪み始めた?)


 この感じまさか!!


「撒き餌の式かよ!」


 通常撒き餌の式は実技訓練の際などにイーターを実験体として呼び出すためのものだ。


 だが、この式の規模に輝きから察する事のできる膨大な魔力。


 一匹二匹ってレベルじゃない。


 それを自覚し、俺が舌打ちをした瞬間。歪みは空間の亀裂となり、その内部から多量の黒が溢れ出した。


 黒たちは床に流れると盛り上がるようにして形を成していく。


 そしてそこに成された形は異形。

 自然界に元々あったであろう形から派生したかのような化物。


「中位イーターってやつかね」


 この世界で無数に蠢いている闇の存在。それがイーター。


 刀を慣らすために行った森で戦った猿型とかゴリラ型もそうだ。


 最下級の奴は確か全部姿が一緒らしいからな。だけど、だからと言って一匹一匹からボスみたいな力を感じるわけじゃない。


 正にザコの下位とボスの上位の間だな。


 そんなのが約三○匹か。


 泣きたい。


 まあ、あのゴリラ型みたいな強さを感じる奴はいないな。多分あの時のあいつだけは上位だったんだろうな。


「ピピカ。お前は手出ししなくていいからな」


 一応相棒にそう声を掛けてから俺は走り出した。


 それにしても俺っていきなりハードモードが多いよな。


 初戦から敵は複数だったし、呪われていたりして。なんてな。


「はっ!」


 刀剣の使い方ならこの目で見ている。今まではちゃんとしたものをイメージすることすはできなかった。


 だけど、あのやろうの剣は見事だった。


 敵の型をなぞるってのはちょっと癪だが、まあ、しゃーない。


 右手はしっかりと柄を握り、左手は軽く添えるだけ。そして斬撃の一瞬間だけ力を入れて握る。


「おっ?」


 こいつは凄いな。刀の性能が素晴らしいから一刀両断は前提だったのだが、手に掛かる負担がまるで違う。


 二つにわかれた虫みたいな化物が煙になって消えるのを尻目に、俺は次の敵に向かう。


 一振一殺。


 俺が浅斬を一つ振るえば一つの化物が煙と化す。

 前に猿型たちと戦った時は細かい事を考えないでただただ淡々と振るう事を繰り返していたが、今回は違う。

 一太刀一太刀の感覚を身体に馴染ませる。


 身体の動かし方を、刀剣の振るい方を、あの男の太刀筋を記憶する。


 化物を倒すために刀剣を振るうのではなく、刀剣の扱い方を身体に馴染ませるために化物を斬り捨てる。


 それに繰り返す。


(この感じか? いや、違う。こうか?)


 試行錯誤。

 攻撃、修正、攻撃、修正。納得するまでそれを繰り返す。


(これだっ!)


 そして至った。納得できる一太刀を俺を見た。この身体で感じたのだ。


 それと同時にこのダンスホールを覆い尽くしていた黒はなくなっていた。


 次回更新は明日です!

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