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1-12 VS実久

 ブックマーク評価共にありがとうございます!

 俺の訓練のために使っているかったいコンテナが障害物として多く設置されているこの部屋ではやりにくいということで、部屋移動。


 移動先は最もシンプルな部屋で、広さは日本での体育館くらい。中からの見た目はなんというか、プレハブ小屋みたいだ。


「さて、ここなら腕を見るのには丁度いいわね」


 ミクは左手首に着けているブレスレットを触りつつ、部屋の中を見回していた。


「ミク! 模擬戦だからな! 即死するような技は禁止だ!」

「わかってますよ!」

「ほう……そうか」


 あっ。今マーレ師匠に一瞬だったけど、悪い笑みを浮かべていたぞ。

 実久は見ていなかったぽいけど、俺はそれをバッチリ見てしまった。

 ……いや、あえて俺に見せたのだろう。あのドS幼女は。


 部屋の中心に三メートルほどの距離を取って立っている俺と実久。

 観客の二人は隅の方で立っている。


「さて、そろそろ始めましょうか?」

「……お前、そっちが素か?」

「そうよ」


 日本でのこいつは物静かで無口が特徴のミステリアスな少女だったはずだ。

 だが、なんだろうこの感じ。


「今のお前の方が俺は好きだな」

「はあっ!?」


 日本でのこいつはどこか薄っぺらだった。いつも自分を作っているかのような、そんな違和感があった。

 こうしてみれば当然だったな。

 なんせ、日本でのこいつは、偽物なのだから。


「くくっ。一輝め。面白い事を言うな」


 マーレ師匠のつぶやきが聞こえてきたのだが、何が面白いんだ?


 師匠に向けていた視線を正面の彼女に戻した事で、俺は悟った。


 やべ、顔真っ赤。激おこですかい?


「始めっ!!」


 あまりにも唐突な試合開始の合図。

 俺の反応が一瞬遅れてしまったのだが、それはあくまでも一瞬だ。


 この間合いならば隙にすらなりえないほどの時間。


 だがそれは日本での感覚ならだ。


「速いっ!?」


 俺の頭が開始を自覚し、動こうとした瞬間。目前に下を向いた状態の実久がいた。


「いっぺん死ねっ!!」


 しゃがんでいる状態から一気に身体を起こし、その勢いのままに繰り出された全身の体重を乗せたアッパー。


 無論それを俺は回避……出来るわけがない。


「がふっ」


 情けない呻き声をあげつつ、宙に浮く俺。

 そんな俺に実久はその場でクルリと一回転すると、遠心力をのせた強烈な蹴りをお見舞いする。


 空中で回避する事なんて人間には出来ない。……いや、マーレ師匠とかだと余裕で出来そうだけど、少なくとも俺にそんな技はない。


 おもちゃのように蹴り飛ばされる俺は壁に激突することによって動きを止めた。


「……あら? もう終わりなのかしら?」


 驚いた表情で首を傾げる実久。

 視線をマーレ師匠に向ける彼女だが、師匠は何も言わない。

 そんか師匠に実久は眉を顰めると視線を俺に戻す。


「……あら」


 さっきまでおもちゃのように、糸の切れた操り人形のように倒れていた俺。

 そんな俺が立ち上がり、構えを取っているのを見て実久は嬉しそうに笑う。


「随分と頑丈ね」

「頑丈とはちょっと違うか」

「あら、そうなの? まあいいわ。とにかく、このあたしを辱めた分は返させてもらうわよ!!」


 先ほどと同様に動き始めた実久。たが、マーレ師匠との戦いで動体視力は嫌でもあがっている。

 一度目はダメだったが、二度目になれば目が慣れてくれる。


(見えたっ!!)


 俺の顔面に向かって突き出される実久の拳。

 見えているのであれば対応の仕様はある。

 どうするのか? 単純だ。


 その拳に向かって俺は……何もしない。


「おらっ!」


 ただその痛みに耐え、吹き飛ばないように踏ん張って、カウンターを仕掛ける。


 痛みはすぐに無くなる。一撃必殺のような技じゃなければダメージを受けようともすぐに治癒出来る。


 だからこそあえて相手に取って反撃が来るとは思わないような良い当たりを避けずに喰らう。


 拳が直撃したというのに反撃されるとは思っていなかったのだろう。俺の蹴りは実久の胴に横側から食い込んだ。


「くっ!」


 実久の口から漏れる音は小さい。だが、確かな呻き声。ダメージは入った。

 威力は普通の蹴りと同じだ。一応痛みはあるだろうがそこまでのダメージにはならない。

 だが、怯ませる事は可能。


 好機は今だ。


「おらっ!」


 鼻から血を流しつつも俺は拳をぎゅっと握ると、実久に向かって突き出す。

 え? 女の子を本気で殴るなんて良くないだって?


 確かにそうだ。だが、それは日本のある物理世界ではだ。

 魔法があることによって、男女の力関係が変わっているこの世界ではむしろ手加減する方が失礼だ。

 許されない侮辱になってしまう。


 実久は日本人だ。だが、実久はこの世界で俺よりも長く生きているらしい。


 ならば同じだ。


 実久の意識は痛みによって一時的に無防備になっている。避けられるわけがない。


 だが、それは俗に言うフラグだったのだろう。


「ーーっ!?」


 実久の目に光は戻っていない。まだ軽い混乱状態のはずだ。にもかかわらず、俺の横っ腹に彼女の脚が突き刺さっていた。


 あくまで人間レベルの体術しか発揮出来ない俺と違って、スピードからしてもマーレ師匠と同等と言っても良いその蹴りの威力は凄まじく、俺は別の面の壁まで一直線。


「ああっ! ……良くもやってくれたわね……」


 声を出し、体勢を直した実久。あの様子からして彼女の意識が正常に戻ったのは今だ。

 さっきのは無意識の攻撃か?

 反射による反撃。

 おー、怖い怖い。


 いや、何より怖いのはその事実ではなく、今の実久かもしれないな。

 美人の怒った顔は怖いと良く言うが、どうやらそれは美少女にも適用されるらしい。

 ……いや、マーレ師匠の怒った顔はそこまで怖くなかったな……まあ、あれは美少女でもどちらかと言えば美幼女。可愛い系だからな。


 可愛い系のマーレ師匠と美人系の実久では感じられるイメージも変わるか。


 ……さて、現実逃避はこれくらいにしてっと……。


「……怒ってます?」

「ええ。とってもね!」


 彼女の全身から放出されているそれはマーレ師匠がやっていたような魔力ではない。

 あれは。


「……電気?」

「そうよ。あたしの魔法は雷魔法。全身に電気を流して身体能力を極限まで引き上げる。同時に電気の刺激で身体のリミッターも外しているわ」

「おいおい。そんな事したら身体が……」


 人間は自分の身体を守るために力の最大値にリミッターを掛けるものなのだが、確かにそれを解除すれば身体能力は凄まじいことになるだろう。


 確かに通常時は三○パーセントぐらいの力しか出なかったはずだ。つまり、単純計算でも三倍。そこに電気による強制稼働。


 肉体に取っては二重苦のはずだ。


 実久の身体を心配する俺に向かって、彼女はニヤリと笑う。


「安心しなさい。知ってるでしょ? 魔法によって起きた矛盾は消される。魔法によって身体能力を引き出した場合、その負荷は身体に悪影響を及ぼさないのよ!」

「なんだそれ反則だろ!」


 つまり魔法の効力で限界突破した場合反動は無しって事ですか!?


 気のせいか? 今、一瞬だけ実久の顔が歪んだ気がする。

 ……そうか。おそらく物理的な反動は無いとしても、幻理的な反動はあるって事か。


「ほらほら、行くわよ!」


 腰を落とし、両足からビリビリと発している電気を激しくした直後、彼女の姿がそこから消えた。


(さっきより速いっ!?)


 目視はどうにか出来ているもののさっきとは違いぼんやりとしている。

 まるでピントのズレた写真のようだ。


「はあっ!」


 ジクザクの動きで正面まで走ってきた実久は俺の目の前でクルリと縦に回ると、その勢いのままカカトを振り落とす。


「おわっ」


 身を投げ出すかのようにしてそれを躱す。俺の代わりにカカト落としを喰らった床に目に映る程の電流が流れ、そして砕ける。


「よく避けたわねっ!」


 すぐに体勢を直した実久が未だに体勢の直っていない俺に向かって突撃をする。

 向かってくる彼女の拳を今度はガードするものの、そんなもの関係ないとばかりに俺は後ろに吹き飛ばされた。


(良し、いい感じに距離は取れたな)


 マーレ師匠との戦いで吹き飛ばされる事には慣れている。

 風圧が割と厄介だが、逆にこの風を利用して空中を飛んでいる最中に体勢を整えた俺は、壁を床のようにして着地すると、チラリとマーレ師匠に視線を向ける。


 確かに彼女と目が合った。

 目で問い掛ける俺に、マーレ師匠はゆっくりと頷いた。


「行くぞっ!」


 俺の能力は回復能力だ。

  俺は考える。この力を戦闘能力に変換する事は出来ないかと。


 すぐにこっちは回復出来る。その利点を利用した先ほどの後出しカウンターだけでは強い奴に勝つ事なんて不可能だ。


 ならば別の有り様が必要だ。


 カウンターがあったとしても、攻撃力がなければ意味がない。

 今の俺に致命的程に足りていないもの、それは攻撃力だ。


 実久の戦闘能力を見た時、俺は密かに思っていた。


 似ていると。


「ぐぐっ……ーー」


 この一週間で可能にした唯一の魔法。

 外に力を放出する他響魔法ではなく、己の内に掛ける自響魔法。

 それが。


「ーー『解除(アンリミット)』!!」


 やっている事は実久と変わりがない。ただ、全身のリミッターを外すだけ。


 通常時の三倍まで引き上がった身体能力を使い、俺は壁を強く蹴った。


 蹴った後はその威力によって凹み、重力に逆らって真横に跳ぶ俺はまるで銃弾のようだった。


「ーーっ!?」

「一○○パーセントっ!!」


 筋肉の力を引き出し、本来人間の身体で発揮出来る最大限の力を解放した上で放たれた拳は、突然俺のスピードが段違いに上がり、驚いてしまっている実久へと直撃した。


「ちっ。ガードされたか」


 流石は実久と言ったところだろう。不意打ちと言ってもいいものだったというのに、あの一瞬の間に腕でガードされてしまっていた。


 しかも、その時電気を腕に集中していたのか、俺の拳が電気にやられて焼け焦げてしまっている。

 ……痛い……。


「あ、あんた! 何やってるのよ!」


 吹き飛ぶはするものの、反対側の壁まで届くことなく着地した実久が焦った表情で叫ぶ。


「手加減した方が失礼なんだろ? こっちの世界はさ」

「そういう事を言ってるんじゃないのよ!」


 あからさまに怒ってますオーラを全開にしつつドシドシと近寄ってくる実久。

 正直逃げたい気もするのだが、雰囲気的にしちゃだめだろう。


「腕見せなさい!」

「いや……」

「一輝! 問題ない。信用しろ」

「マーレちゃん……」


 俺とマーレ師匠のやり取りに眉を顰めるものの、抵抗をやめた俺の手を取る実久。


「ーーっ!?」


 傷一つない(・・・・・)俺の手を見て驚く実久。


「なんでよ……あたしの雷撃手甲(らいげきしゅこう)は発動していたはずよ……電気で焦げてないなんて……」


 今実久が見ている手は正真正銘、先ほど攻撃に使い、彼女が腕に纏わせていた電気によって焦げてしまった手だ。

 だが、傷はない。理由は無論。


「治したからな」

「治した? どういう……っ! まさか!」


 驚愕の感情を顔に乗せてマーレ師匠に視線を向ける実久。

 そんな彼女にマーレ師匠は静かに頷いた。


「そう……あんた、式持ち……それも、回復系……」


 視線を俺に戻した実久の顔に映るのは驚きと、同情。


「師匠。これからどうするつもりですか?」


 歩み寄って来たマーレ師匠に向けて真剣な眼差しを向ける実久。

 どうやら実久も知っているらしいな。回復系魔法の希少性を。


「とりあえずはワタシの元で強くなって貰う」

「……その後は?」


 控えめに問う実久に向かってマーレ師匠の返事は。


「ニッ」


 満面の笑み。


「……ああ」


 同情的な視線を俺に送ってくれる実久。

 なんだそれ、めちゃくちゃ不吉なんですけど。

 次回更新は明日です!

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