1-13 無理かもしれない
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この世界に来てから一週間。なんと四人目となる信頼出来る人と出会いました、まる。
……ごほん。さて、俺の力を知っている人物リストに日本での知り合いでもある実久が加わったのだが、実久には色々と聞きたいことがある。
ということで、俺たち五人は訓練室の特殊環境部屋の一つに集まっていた。
「……まあ、この部屋についてツッコミはしないわ」
口ではそう言いつつもマーレ師匠にジト目を向ける実久。
「なんだ。この部屋が不服か?」
「不服ってわけじゃないですけど、なんか……」
「あはは……」
若干頬を赤らめている実久に俺は苦笑するしかない。
「もしかしてこれってマーレ師匠の趣味ですか?」
「そうよぉー」
俺はマーレ師匠ご本人に聞いたのだが、何故か木蓮が返事をした。
「この子ぉー、幼女扱いされるのは嫌いなのにねぇー」
「あはは……」
特殊環境部屋とは、色々な状況を設定して普通のやり方では戦い辛いような環境を意図的に作っている訓練室だ。
この部屋のテーマはズバリ。
「……ゴスロリって……」
たくさんのフリルがついた基本黒のドレスたち。その数は凄まじく、部屋一面にそんな衣装たちがばーっと並んでいる。
「こういう服が好きならどうして普段は来ていないんですか?」
「お前は馬鹿か。ワタシのような立ち位置の人間がこんなフリルだらけの服を人前で着れるわけないだろ?」
いや、そんなさぞ当然だろ? みたいな顔されても困るのだが、つまりメンツって事か?
そんなゴスロリ衣装に囲まれた部屋の中心で丸いテーブルを囲っている俺たち四人。
五人目である水連は今飲み物を取りに行ってくれている。
いやー、助かる。
「も、戻りましたぁー」
お盆を片手に戻ってきた水連。その姿はまるでウエイトレスだ。
うん。可愛い。
「さて、そろそろ実久の歓迎会を始めるか」
「歓迎会だったの!?」
声に出して驚く実久だが、驚いているのは俺も同じだ。
歓迎会? どうしてそうなった?
「なんだ。久しぶりに愛弟子が帰って来たんだ。歓迎会の一つぐらいやらせろ」
「え、けど……」
「安心してぇー。どうせ後日にギルド単位でもやるわぁー」
「規模の話なんてしてないです!」
なんか、実久も実久で苦労してそうだなぁー。まる。
「まあまあ、そう叫ぶな実久。ほら、酒もあるぞ?」
「あたしは未成年ですよ!?」
「お? そうだったか?」
「まだ高等部にすら入ってないですよ!?」
「あらあらぁー? 意外ねぇー」
「実久なら飛び級とかしてると思ったんだがな」
「たとえ飛び級して大学を卒業していたとしても未成年は未成年です! お酒だめ!」
そう言ってビシッと指を俺に向ける。
「あんたもそうでしょ! なんで堂々と飲もうとしてるのよ!」
「えーと、水連が注いでくれたから?」
「え、えと、一輝さんが盃を差し出したからですか?」
俺の持つ盃にお酒を注いでくれている水連。だけどこの近距離なら匂いでわかる。
これはお酒じゃない。ただの水だな。いや、比喩無しで。
「ということで」
「だから呑むなーっ!!」
実久の目の前で飲み干す俺。中身は水だ。本当に。
「うふふぅー。随分と楽しそうねぇーミクちゃーん」
「へ? いや、これは……」
俺がもう一杯呑もうとしているのを慌てた様子で止めようとする実久に木蓮さんが意味深な笑みを浮かべ言った。
何故赤くなる。実久。
「で、なんで実久がここにいるんだ?」
「……ずっと思ってたんだけど、あんたさっきからナチュラルに呼び捨てよね?」
「悪いか?」
「そうは言ってないわよ」
「ぶっちゃけるとお前の苗字知らないからな」
「そんな理由なの!?」
名前の方は良く聞いていたから知っていたのだが、そういえば実久の苗字ってなんだ?
まあ別に知らなくても困らないからいいか。
今重要なのはこいつの苗字なんかよりも。
「で? どういう事だ?」
「……はぁー。師匠。こいつにはどれくらい説明してるんですか?」
「ほぼしてないな。任せるぞ」
「……はぁー」
笑いながらいうマーレ師匠。なんとなくわかったのだが、実久、今まで苦労したんだろうな。
「まずこれは確認。一つ、この世界は……そうね、日本のある世界とは違うわ」
「それはわかってる。なんせ魔法を見せられたからな」
「そう。この世界の名前は幻理世界。対して日本のある世界の事を物理世界って呼んでるわ」
「……へえ。わざわざ二つを分けた呼称があるってことは……」
「ええそうよ。物理世界と幻理世界は互いの存在を知っているわ。けどまあ、今まであんたが幻理世界を知らなかったように、すべての人間が知っているわけじゃないわ。知っているのは国の上層部とあたしみたいな存在」
「実久みたいな存在?」
「そっ」
そう言って実久が取り出したのは、学校でよく見るような生徒手帳のようなものだった。
「幻理世界にある技術。それが魔法。それを物理世界でも扱う者たち。つまり、現代の魔法使い、それがあたしたち、操術師よ」
「操術師……」
聞いたこともない言葉だ。
だけどこの言いよう。
「実久はこっちの世界と元の世界を自由に行き来してるのか? いや、お前だけじゃない、その、操術師って奴はみんな……」
幻理世界での技術を物理世界でも使う存在。物理世界で面識のある実久との幻理世界での出会い。
実久は二つの世界を行き来している。そうでなければおかしい。
俺は帰れるのか?
「いいえ。違うわ」
「えっ?」
返ってきた言葉は俺が望むそれとは違かった。
「正確には少しね」
「何が……」
「確かにあたしたち操術師は物理世界に生きているわ。だけど、本来操術師が行き来しているのは物理世界と幻理領域」
「幻理領域?」
「そうよ。この幻理世界ってのは本当に異世界そのものなの。ほとんどの操術師は幻理世界の存在すら知らないわ」
「そ、それならどうして実久は」
「あたしもあんたと同じ落人だからよ」
「えっ?」
☆ ★ ☆ ★
どうやら実久は説明に慣れていないらしい。
その後も長々と説明されたのだが、実に分かり辛かった。
元々の世界は物理が支配する物理世界。
そしてこの世界は物理の上に幻理が存在している幻理世界。
この二つの世界は元々表裏一体だったらしいのだが、この二つの世界が交わる事は本来ありえないないらしい。
一般的にイメージされる異世界と同じだ。
だけど昔、物理世界から幻理世界に落ちて来た存在があったらしく、その存在は幻理世界から魔法の技術を学んだ後、どうにか物理世界に戻る事が出来たらしい。
そうして物理世界に現代魔法の元になる技術が伝えられ、それを今のレベルまでバージョンアップさせる過程で特殊な魔法が生まれたらしい。
その一つが幻理領域という魔法だ。
これは人工的に幻理を適応させた世界を作り出す魔法の事らしく、その有り様は物理世界と幻理世界の中間とされている。
どうしてこんな物が開発されたかというと、どうやら幻理の無い物理世界では魔法をうまく運用する事が出来なかったらしい。
そのため、意識だけを別の空間に飛ばし、物理に支配されている肉体から脱した場所に魔法を学ぶための学園を建てたらしい。
そんな学園で魔法を学び、扱う者たちの事を、操作する術を持った者。操術師と呼ぶそうだ。
「つまりあれか? 昔二つの世界は交わった事があるから記録としては残ってるけど、今じゃ言い伝えに近いものだって事か?」
「そうね。普通の操術師は幻理世界の事を存在そのものから知らないわね」
目の前で二つの世界を語っている少女こと、実久は操術師だからここにいるのではなく、俺と同じく、そして、昔この世界に落ち、その後物理世界に戻って魔法の伝えた存在と同じく、物理世界からこの幻理世界に落ちて来てしまった存在、落人だかららしい。
「俺と同じく落人の実久は自由に行き来してるんだろ?」
「まあ、そうね」
「なのに俺は無理なのか?」
「ええ。無理ね」
何故?
「そんな顔しないでよ。意地悪言ってるわけじゃないわ。あたしの場合は元々操術師だったからどうにかなっただけなのよ」
曰く。
元々操術師だった実久と違って一般人だった俺の場合だと物理世界にある本体とここにある仮の身体の結び付きが薄くなってしまっているらしい。
ん? 何か気になる単語でもあったか?
そう。
今ここにあるこの俺の身体は物理世界での身体とは別物だ。
曰く。
物理世界に存在している時、その身体は二つの有り様が重なっている状態らしい。
その二つとは実体と幻体。少し違うが、わかりやすいように言い方を変えると、肉体と精神体だ。後者は霊体と呼んでも良いかもしれない。
物理世界ではこの二つがないとダメなのだが、逆に幻理世界では実体が入る事が許されないのだ。
これは幻理世界を結界領域として再現している幻理領域も同じなのだが、この二つの空間では実体はなく、幻体だけになっている。
だけど幻理のある世界ではこの幻体に物的な力があるため事実上物理世界と代わりはないらしい。
操術師は物理世界から幻理領域に入る際に、幽体離脱のように己の意識と幻体だけを実体から剥がしているらしい。
操術師は日常的に実体と幻体を分離させているため、この分割されるということ自体に無意識的になれるらしい。
俺の場合、操術師ではないため実体と幻体の分離という状態になれていないにもかかわらず、幻理世界という幻理領域よりも物理世界から遠い場所まで来てしまったため、物理世界に戻ること、つまり、己の実体に戻るのが凄まじく難しいらしい。
だがそれはあくまで難しいだけなのだ。つまり、不可能ではない。
昔物理世界に魔法の原型を伝えた存在だって俺と同じ状況だったのだ。
つまり、俺が物理世界に戻る方法は必ずどこかにあるはずだ。
次回更新は明日です!
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