第6話「蒼い炎」
「――さて」
志摩が、ふと視線を巡らせた。
「そういえば、さっきの奴は」
「あ」
紫音の表情が、初めてわずかに動いた。
「……完全に忘れてました」
「お前ら、本当に大丈夫か」
「多分。蒼司は頑丈だけが取り柄なので」
「頑丈って言葉で片付けていいのか、それ」
志摩が呆れ顔で呟いた、その瞬間だった。
瓦礫の向こうから、青白い光が爆ぜるように弾けた。
「――なっ」
志摩が思わず身を強張らせる。光は一瞬で膨れ上がり、次いで轟音と共に爆風が周囲の瓦礫を吹き飛ばした。
「今の、何だ!?」
「……蒼司です、多分」
紫音が答える声には、驚きよりも「またか」という色が濃く滲んでいた。
爆発の中心、巨大な蛸型の瘴魔が、まるで蹴り上げられたかのように宙へと打ち上げられていた。その巨躯を軽々と持ち上げたのは、青白く輝く炎を全身に纏った蒼司だった。
刀身だけではない。彼の腕、肩、背中――全身の輪郭に沿って、蒼い炎が生き物のように揺らめいている。
「――お前、たこ焼きにしてやるって言ったよな!!」
叫び声と共に、蒼司は宙へと跳んだ。青と白、二本の刃が交差するように瘴魔の本体を斬り裂く。斬撃の軌跡に沿って、蒼い炎が尾を引くように奔った。
瘴魔の巨躯は、悲鳴のような咆哮を上げる間もなく、真っ二つに両断され、光の粒子となって崩れていった。
「……終わった、っと」
蒼司が着地すると同時に、全身を包んでいた炎が、すっと消えていく。何事もなかったかのように、彼はいつもの軽い足取りで振り返った。
*
「――今の、何だ」
志摩が、瓦礫の向こうから戻ってきた蒼司を見据えて問う。
「何って、いつものやつです」
「いつものやつ、って言い方で済ませられる現象じゃないだろう。あれは、ガジェットの光じゃなかった」
志摩の視線が、紫音へと向く。
「説明してくれ」
紫音は少し言葉を選ぶように間を置いてから、静かに口を開いた。
「共鳴者は基本的に、瘴魔から取り込んだ力はガジェットを通してしか使えません。エネルギーの変換と出力の調整は、全部ガジェット側の仕組みに依存してます」
「ああ、さっきそう説明してくれたな」
「ですが、蒼司だけは違います。あいつは、ガジェットを介さずに、体から直接あの炎を出せる」
「……直接?」
「はい。理屈は俺にもわかりません。ただ、あいつが本気で頭に血が上ると、時々ああなります」
「頭に血が上ると、って……」
志摩が呆れたようにこちらを見てくる。蒼司は気まずそうに頭をかいた。
「いや、あの、俺もよくわかってないんですけど、なんかキレると出るんですよね、これ。ライター要らずですぜ?」
「便利な体質だな、おい」
「便利かどうかは知りませんけど、制御はあんまりできてないです」
「制御できない力を戦場で振り回すな」
「もっともです……」
珍しく素直に頷く蒼司を見て、志摩は小さくため息をついた。
「……まあいい。とにかく、お前らの実力はよくわかった」
*
それから、四人は改めて隊列を組み直し、残る瘴魔の掃討にあたった。紅華と蒼司が前線で斬り込み、翡翠が後方から狙撃で援護し、紫音が全体の位置取りを調整する。数の暴力とも言える瘴魔の群れは、それでも着実に数を減らしていった。
だが、無傷というわけにはいかなかった。
「……いってぇ」
全ての瘴魔を処理し終えた頃、蒼司は満身創痍だった。戦闘装束のあちこちが裂け、腕には浅くない傷が幾つも刻まれている。
「あんたもボロボロね」
紅華も同様に、髪は乱れ、頬には切り傷、片方の袖はほとんど千切れかけていた。二人とも、立っているのがやっとという有様だった。
「二人とも、大丈夫か」
紫音が駆け寄ってくる。
「大丈夫、いつものことだから」
「いつものことで済む怪我の量じゃないだろ、それ」
「細かいことは気にすんな」
蒼司が軽く笑うと、紅華も同じように苦笑を返した。
志摩は、そんな二人を眺めながら、静かに頷いた。
「――第七小隊、な」
「はい」
「噂以上だ。正直、ここまでとは思ってなかった」
彼はそう言うと、テントの奥を指し示した。
「この先の話をする。お前らには、この周辺にしばらく留まってもらうことになる」
「留まる、っていうと」
「東側の野営地を用意してある。案内するから、まずは怪我の手当てをしろ」
志摩に連れられて向かった先には、簡易的ながらもしっかりと設営された野営地があった。テントが並び、簡易的な医療設備や、休息用のスペースも整えられている。
「ここを、お前らの拠点にしてくれ」
「……ずいぶん本格的ですね」
紫音が周囲を見渡しながら言う。
「本部からの応援――闇夜部隊長の増援部隊が到着するまで、一週間はかかる見込みだ」
「一週間……」
「それまでの間、この周辺の防衛は、実質お前らに任せることになる」
志摩の声が、僅かに真剣味を帯びた。
「瘴魔の越境はこれからも続く。数も読めない。だから、決まった作戦通りに動くことは求めない。その時々の状況に応じて、臨機応変に対応してほしい」
「つまり、行き当たりばったりでいいってことですね」
「言い方は選べ、蒼司」
紫音の突っ込みに、蒼司が肩をすくめる。
「――だが、間違ってはいない」
志摩は苦笑しながら続けた。
「今のお前らの実力なら、それができると判断した。一週間、頼めるか」
四人は顔を見合わせた。ボロボロの蒼司と紅華、涼しい顔の翡翠、そしていつも通り冷静な紫音。
「――やりましょう」
紫音が答えると、他の三人も頷いた。
「よし。じゃあ、まずは休め。今日のところは、それで十分だ」
志摩がそう言って踵を返す。夕暮れの光が、野営地に長い影を落としていた。
【第七小隊 日報】
日付:〇月✕日
記入者:紫音
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本日の任務
瘴魔の大規模迎撃。
結果として任務は成功。
……成功したから良かったものの、胃には良くなかった。
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隊員評価
蒼司
・戦闘開始数秒で誘拐される。
・助けに行く前に自力で帰ってきた。
・キレたら炎を出した。
・本人も理由は知らないらしい。
・「たこ焼きにしてやる」と叫んでいた。
総評:主人公なのに行動が意味不明。
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紅華
・敵陣に笑顔で突撃。
・弾を撃ちすぎ。
・本人は「節約してる」と言っていた。
絶対嘘。
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翡翠
・狙撃成功。
・建物も消えた。
・「ちょっと威力ミスった。」
ちょっととは。
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自分(紫音)
・胃痛担当。
・みんなの尻拭い担当。
・苦労人担当。
・誰か褒めてほしい。
総評:転職したい。
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所感
隊員三人とも実力はある。
本当にある。
でも、それ以上に自由人である。
一週間、この三人と野営生活。
今から胃薬を追加で申請したい。
以上。
※闇夜部隊長に提出予定。
……いや、やっぱり提出やめよう。




