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瘴魔と蒼白のツルギ~世界を滅ぼす剣を持った少年と、問題児だらけの第七小隊~  作者: 堕落だらだら
第一章 始まりの夜明け

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第14話「二人だけの戦場」

「――やるか」


「――やろっか」


 蒼司と紅華は、それぞれの武器を構え、見えない気配の中心へと意識を集中させた。


 次の瞬間、空気が唸った。


「――っ!」


 蒼司が咄嗟に身を捻る。何もなかったはずの空間から、一撃が斜めに振り下ろされた感触が確かにあった。剣先を合わせると、金属同士がぶつかるような硬質な音が響く。


「こっちにも来た!」


 紅華が背後を振り返りざま発砲する。銃声と共に、何もない空間から鈍い呻き声のようなものが漏れた。


「当たったっぽいけど、致命傷って感じじゃないね」


「向こうも本気ってわけか」


 蒼司は剣を握り直し、感覚を研ぎ澄ませた。姿は見えない。だが、確かにそこに「圧」がある。空気が押し出される感触、殺気とも呼べる粘つくような気配。それを頼りに、彼は次の一撃を読んだ。


「そこだろ!」


 剣を横薙ぎに振るう。手応えがあった。何もない空間から、瘴魔特有の紫がかった体液が飛び散る。


「見えなくても斬れるもんだな、意外と」


「調子乗んないの。まだ全然倒せてないんだから」


 紅華の言う通りだった。斬りつけても、撃ちつけても、敵は致命的な一撃を受ける前に、するりと間合いを外していく。まるで、こちらの攻撃の軌道を見切っているかのようだった。


「こいつ、動き速いし、しかもこっちの手の内読まれてる気がする」


「見えてないのはこっちだけって、控えめに言って腹立つんですけど」


 紅華が悪態をつきながら、二丁の拳銃を構え直す。彼女は右手で正面を牽制しつつ、左手で側面に一発撃ち込んだ。


「――っしゃ、当たった!」


 今度は明確な悲鳴が上がる。命中したのだ。だが、次の瞬間、紅華の足元が大きく揺れた。


「うわっ!?」


「危ねっ!」


 地面が抉れるように陥没し、紅華の体勢が崩れる。蒼司はすぐさま彼女の前に割り込み、見えない一撃を剣で受け止めた。


「大丈夫か!」


「平気平気、ちょっとバランス崩れただけだから」


 紅華はすぐさま体勢を立て直し、再び銃を構える。


 二人は背中合わせになり、周囲を警戒しながら少しずつ位置を調整していった。


「――おら、姿くらい見せろよ。それとも見せられない理由でもあんのか?」


 蒼司が挑発するように叫ぶ。答えるように、姿なき敵の気配が一段と鋭くなった。


「あ、今の効いたっぽい。図星突かれると弱いタイプかもよ、それ」


 紅華も追い打ちをかけるように笑う。


「にしても、こういう戦い方って一番腹立つよね。姿隠して不意打ちとか、根性なしのやり方じゃん」


「お前が言うと妙に説得力ないな。猪突猛進しない時は不意打ちばかりしてるくせに」


「あれは戦術っていうの。一緒にしないでくれる?」


 軽口を叩き合いながらも、二人の武器の動きは一瞬たりとも緩まなかった。剣先は常に次の斬撃へと備え、銃口は常に次の標的を探っている。


「――動いた、そこ!」


 蒼司が僅かな空気の揺らぎを察知し、剣を振るう。狙いは寸分違わず、敵の輪郭があったであろう場所を正確に捉えた。


「くっ――」


 悲鳴と共に瘴魔の退役が散る。だが、致命打には遠い。


「なんかさ、これ効率悪すぎない? 削っても削っても芯まで届かない感じ」


 紅華が苛立たしげに呟いた。


「だよな。姿見えないから、急所がどこにあるかも分かんねえし」


 蒼司も、剣を握る手に力を込めながら舌打ちする。


 姿なき敵は、時折空間そのものを裂いて瘴魔の増援を呼び込もうとした。そのたびに蒼司が斬り込んで牽制し、紅華が銃撃で押し留める。二人の連携は噛み合っていたが、決定的な一撃には至らなかった。


「――ねえ、これいつまで続くと思う?」


 紅華が肩で息をしながら聞く。


「知らねえよ。俺だって早く終わらせたいっつーの」


「じゃあ、さっさと終わらせなさいよ。こういう時の見せ場でしょ、あんた」


「無茶ぶりすぎるだろ、それ」


 言い合いながらも、二人の呼吸は乱れ始めていた。長引く消耗戦は、確実に体力を削っていく。


「――もう、まどろっこしいのなしだ」


 蒼司は剣を鞘に一度収め、通信用のデバイスに手をかけた。


「翡翠、聞いてるか」


「――はいはい、聞いてるよ。どうしたの、そっち」


 通信の向こうから、翡翠のいつも通り気だるげな声が返ってくる。


「姿の見えない敵と鉢合わせてる。埒が明かないから、そっちの力を借りたい」


「力って、もしかして迫撃砲もどきのレーザーの事?」


「ああ。派手にやってくれ。座標送る」


「――ちょっと待って、本気で言ってる? お姉さんに丸投げする気満々じゃん、それ」


「他に方法ねえんだよ、こっちも。このまま続けてたら、その内ぺちゃんこにされちまう」


 蒼司はデバイスを操作し、周辺一帯の座標を送信した。


「――蒼司、あんた正気? 自分も巻き込まれるかもしれないんだよ、それ。てか、まえも巻き込まれてたわよね?」


 紅華が眉を寄せる。


「他に方法ねえだろ。姿見えねえ以上、範囲ごと潰すしかない」


「脳筋プレイ過ぎでしょ」


「今回だけは翡翠に美味しい所あげる」


 通信の向こうで、翡翠が小さく笑う気配がした。


「――まあ、面白そうだからいいけどね。了解、ちょっと待って、狙点合わせるから。二人とも、頭低くしといてね」


 二人は瓦礫の陰へと身を寄せた。


 数秒後、遠く上空から、甲高い風切り音が空を裂いた。


「――来た!」


 蒼司の声と同時に、無数の光の弾が、緩やかな放物線を描きながら降り注ぎ始めた。それは一発ではなかった。二発、三発、四発――まるで迫撃砲の乱射のように、次々と着弾していく。


「ちょっ、多すぎだろこれ!」


「だから言ったじゃん、巻き込まれるって!」


 二人は瓦礫の陰で身を縮めながら、爆音と閃光の嵐をやり過ごした。地面が何度も跳ね、土煙が視界を覆い尽くす。


「うわ、近い、近い、近い!髪の毛チリって当たった!!微妙に当たった!!」


「頭下げてなさいってば!禿げるわよ!!」


 轟音が連続し、周囲一帯が瞬く間に更地に近い状態へと変わっていく。爆風が瓦礫の陰にまで届き、二人の体を軽く揺らした。


「――終わったか、これ?」


 しばらくして、蒼司が恐る恐る顔を上げる。


「みたいね」


 紅華も、土煙の向こうを警戒しながら立ち上がった。


 だが、二人の視線が、ふと同じ場所に釘付けになった。


 爆撃で巻き上げられた粉塵――その細かな塵が、空間の一角にだけ、まるで何かに纏わりつくように留まっていたのだ。目には見えない輪郭に沿って、埃が薄く積もり、うっすらとした人型のシルエットを浮かび上がらせている。


「……ちょっと、あれ」


 紅華が、思わず声を漏らした。


「効いているかは兎も角、見えた、っていうか……浮き出てる?」


「粉塵が、あいつの体表に纏わり付いてるのか」


 蒼司も目を見開いた。


「完全に見えないわけじゃなくて、埃とか塵に紛れれば、輪郭が拾えるってことね」


 二人は、顔を見合わせた。


「――それだ」


 蒼司の口元に、獰猛な笑みが浮かぶ。


「攻略法、見つけたかもな」


「でしょうね」


 紅華もまた、不敵な笑みを浮かべながら、二丁の拳銃を構え直した。

あとがき・幻のNGシーン集

~姿なき瘴魔との戦い、その裏側~

NG① 透明な敵に困惑する蒼司

蒼司「……見えねえ」

紅華「うん」

蒼司「……本当に見えねえ」

紅華「だから透明って言ってるじゃん」

蒼司「いや、こう……主人公補正で見えるとかないのか?」

紅華「ないわよ」

蒼司「薄情な世界だな」

NG② 蒼司、気配を読む

蒼司「来る……!」

紅華「どこ!?」

蒼司「右!」

(誰もいない)

紅華「……」

蒼司「……」

紅華「今のは?」

蒼司「フェイント」

紅華「敵の?」

蒼司「俺の」

紅華「意味分かんない」

NG③ 紅華の銃撃

紅華「当たった!」

蒼司「やったか!?」

紅華「その台詞、死亡フラグだからやめて」

蒼司「でも言いたくなるだろ」

紅華「ならない」

蒼司「主人公なら一度は言う」

紅華「その後、敵が復活するやつね」

蒼司「……」

紅華「ほら」

NG④ 翡翠への通信前

蒼司「このままだと埒が明かねえ」

紅華「何か策あるの?」

蒼司「ある」

紅華「珍しい」

蒼司「翡翠を呼ぶ」

紅華「それ策って言う?」

蒼司「強い奴を呼ぶ。これ以上ない戦術だろ」

紅華「開き直った脳筋じゃん」

NG⑤ 翡翠、巻き込まれる未来を察知

翡翠「確認するけど」

蒼司「ん?」

翡翠「撃ったらあなた達も巻き込まれるよね?」

蒼司「大丈夫」

翡翠「何が?」

蒼司「たぶん」

翡翠「その“大丈夫”が一番信用できない」

紅華「私も同意」

NG⑥ レーザー着弾直前

翡翠「撃つよ」

蒼司「頼む!」

紅華「ちょっと待って」

蒼司「どうした?」

紅華「私たち、あの爆撃範囲の中にいるよね?」

蒼司「……」

紅華「ね?」

蒼司「細かいことは気にするな」

紅華「命が細かい扱いされた」

NG⑦ 瘴魔さん側の愚痴

瘴魔「我の透明化能力は完璧……誰にも姿は見えぬ……」

(数秒後)

瘴魔「なんで埃が付着してるんだ」

瘴魔「違うだろ。もっとこう、魔眼とか解析とかあるだろ」

瘴魔「粉塵ってなんだ」

NG⑧ 作者会議

作者「今回は知略で敵の能力を攻略します」

蒼司「爆撃」

紅華「爆撃」

翡翠「私が撃つ」

作者「……」

作者「粉塵を利用した高度な知略です」

紅華「言い換えただけじゃん」

作者「瘴魔さんは現在、 「透明化したら絨毯爆撃に遭う」 という人生初の経験を味わっております」

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