第12話「翼を持つもの」
「タスケテ……」
その一言に、誰も動けなかった。人型の個体を前に、全員が言葉を失ったまま立ち尽くしている。
最初にその沈黙を破ったのは、志摩だった。
「――迷ってる場合か。あれが何であれ、今は危険な相手だ。行くぞ!」
「はい!」
白雨、鬼頭、御影、黒瀬の四人が、弾かれたように動き出す。
「散開! 各個で攻めろ、纏まって突っ込むな!」
志摩の指示と同時に、四人はそれぞれの得意な間合いから、人型の個体へと襲いかかった。
白雨が右手の片手剣を振るいながら踏み込み、鬼頭が左右から拳を叩き込む。御影は空中に展開した複数のガジェットから同時にビームを放ち、黒瀬は死角から短剣を突き立てようとした。
完璧な連携だった。少なくとも、これまで彼らが挑んできたどんな瘴魔にも通用してきたはずの、練度の高い連続攻撃だった。
だが。
「――弾かれた!?」
白雨の斬撃は、人型の個体を覆う黒い瘴気に触れた瞬間、まるで見えない壁に阻まれたかのように弾き返された。鬼頭の拳も同様だった。御影の放ったビームは、着弾する直前でわずかに軌道を逸らされ、命中しなかった。
「くっ――」
黒瀬の短剣だけが辛うじて掠ったが、それすらも、人型の個体が最小限の動きで躱してしまう。
「なんだ、この動き……」
鬼頭が距離を取りながら低く呟いた。
「攻撃、全部見られてる。読まれてるっていうより、勝手に反応されてる感じだ」
「反射だけで捌かれている、ということですか」
黒瀬が、静かに、しかしどこか鋭い声で分析する。
人型の個体は、四人の連続攻撃を受けながらも、むしろその動きの中に無駄がなかった。瘴気を纏った腕が薙ぎ払われるたびに、白雨たちは後退を余儀なくされていく。
「――ちょっと、これ結構やばくない?」
白雨が苦笑いを浮かべながらも、剣を構え直す。好戦的な彼女らしく、劣勢の中でも目には闘志が宿っていた。
「――押されてる!」
志摩が思わず声を上げた瞬間、人型の個体が一歩踏み込み、四人まとめて薙ぎ払うような一撃を放った。
「うわっ!」
「――っ!」
四人が同時に吹き飛ばされ、地面を転がる。
「くそ、隊列が――」
立て直そうとした瞬間、追撃が迫った。だが、その一撃が届く前に、青白い刃がその軌道を割って入った。
「――悪い、待たせた」
蒼司だった。剣を構え、人型の個体の追撃を正面から叩き付けて吹き飛ばす。
「お前ら、大丈夫か!」
「た、助かりました……蒼司さん、ナイスタイミングです」
白雨がなんとか身を起こしながら、それでも軽口混じりに答えた。
「すまん、援護に感謝する」
志摩も苦い顔で頷いた。
蒼司が前に出たことで生まれた僅かな隙を、紫音は見逃さなかった。
「――今のうちに、下がってください」
紫音のデバイスから展開された光の障壁が、四人と蒼司の背後を覆うように広がる。人型の個体の追撃は、その障壁に阻まれて空を切った。
「はぁ……助かった」
鬼頭が肩で息をしながら短く呟く。
「紫音さん、すまんな。おかげで立て直せた」
志摩が礼を言うと、紫音は小さく頷いた。
「一旦、態勢を整えましょう」
だが、そう言った直後、志摩の表情が僅かに険しくなった。
「――だが、まずいな」
「何がです」
「攻撃が、ほとんど通ってない」
志摩は、白雨たちの方を見やった。四人とも、目立った外傷こそないものの、明らかに攻撃を弾かれ続けたことで消耗している。
「あの黒い瘴気、防御用の膜みたいなものなのか、それとも単純に身体能力が桁違いなのか……どっちにしろ、通常の火力じゃ削りきれない」
「厄介ですね」
紫音も、人型の個体を見据えながら呟いた。焼け焦げていたはずの輪郭は、いつの間にか元通りに近い状態まで再生しているようだった。
「志摩さん、皆さんの武装について、改めて聞いてもいいですか。連携を組み直したいので」
「――ああ、そうだな」
志摩は、自分の足元――ブーツのような形状のガジェットを軽く叩いた。
「俺のはこれだ。空中に浮かせて、機動力を確保するタイプだ」
言うが早いか、志摩の体がふわりと宙に浮かび上がる。地面を蹴らずとも自在に位置を変えられる、それだけで戦況を動かせる強みだった。
「白雨さんは」
「片手剣と、もう片方にアンカー型の拳銃かな」
白雨が腰の拳銃型ガジェットを軽く掲げる。好戦的な口調のまま、どこか誇らしげに続けた。
「ワイヤー撃ち込んで、建物とか瓦礫に引っ掛けて三次元的に動けるの。剣で斬りながら空中戦もこなせるし、結構自信あるよ」
「鬼頭さんは」
「両手の籠手一本でやらせて貰ってる」
鬼頭は短く言い切ってから、少しだけ付け加えた。
「あとは、拳を地面に叩き付ければ土煙くらいあげれるぞ」
「なるほど…御影さんは」
「わたくしは、先読み狙撃ですわ」
御影が、上品な仕草で軽く一礼しながら答える。
「相手の動きを予測して、複数角度からビームを撃ち込んで攻撃を潰します……多数の雑魚処理なら私一人でも倒せますわ」
「なるほど」
紫音は、話を聞きながら素早く頭の中で戦術を組み立て直していた。
「――もう一度、隊列を整えましょう。今度は、俺が全体の防御を張りながら、皆さんの攻撃のタイミングを調整します」
「頼む」
志摩が頷き、皆が再び構えを取った瞬間だった。
*
「――待って!」
場違いなほど幼い声が、戦場の空気を切り裂いた。
「な――」
全員の視線が、その声の方向へと向く。
瓦礫の合間を縫うようにして駆けてきたのは、ゆうとだった。その後ろから、慌てた様子で紅華と翡翠が追いかけてくる。
「ちょっ、待ちなさいって!」
「ゆうと君、危ないから!」
「――お前ら!」
志摩が声を荒げた。
「何を考えてる、民間人をこんな場所に連れてくるなんて!」
「いや、これは、その」
紅華が言い訳しようとするが、志摩の剣幕は収まらなかった。
「戦場だぞ、ここは! 子供が来ていい場所じゃない!」
「――違うの!」
ゆうとが、紅華と翡翠を庇うように前に出た。小さな体で、精一杯の声を張り上げる。
「二人は、僕が無理やりついてきたの! 止めようとしてくれたのに、僕が勝手に走って来ちゃったの!」
「ゆうと君……」
紅華が困ったような顔でゆうとを見た。
「なんで、こんな危ないところに」
紫音が問いかけると、ゆうとは涙をこらえながら答えた。
「……野営地で、みんなが話してるの聞こえたの。人型の化け物と、蒼司お兄ちゃんたちが戦ってるって」
「それで?」
「あいつだよ」
ゆうとは、震える指で人型の個体を指し示した。
「あいつが、ママを連れて行ったんだ」
その場の空気が、一瞬で張り詰めた。
「――確かか?」
志摩が真剣な顔で問う。ゆうとは強く頷いた。
「うん。でも、あいつだけじゃない。もう一体、もっと大きい化け物がいた。あいつは、その大きい化け物を、こっちに連れてくるみたいに一緒に歩いてた」
「もう一体、大きいのが……」
紫音の表情が険しくなる。
「だから、もし本当にあいつがママを連れて行った奴なら、僕、返してって言いたくて……いても立ってもいられなくて……」
ゆうとの目に、再び涙が浮かんだ。
「ごめんなさい……二人は、本当に止めてくれたのに」
「……もういい」
志摩は、大きく息を吐いた。
「来ちまったもんは仕方ない。今はとにかく、お前を安全な場所まで下げる」
「志摩さん」
紅華が申し訳なさそうに口を開く。
「私たちがちゃんと見てなかったのが悪いです。すみません」
「詫びは後だ。今は――」
志摩が言いかけたその時。
人型の個体が、再び声を発した。
「シニタイ……」
掠れた、しかし今度ははっきりと聞き取れる声だった。
その言葉に、全員が息を呑んだ。
「――今、なんて」
白雨が思わず呟いた、その直後。
人型の個体の輪郭から、耳をつんざくような甲高い悲鳴が発せられた。
「――っ!?」
「うわああっ!」
全員が思わず両耳を押さえてうずくまる。まるで空気そのものが震えるような、不快で異様な音だった。
「な、なんだ、この声――」
蒼司が顔をしかめながら、それでも視線だけは人型の個体から外さなかった。
そして、悲鳴が響き渡るのと同時に――人型の個体の背中から、黒い瘴気を纏った翼が、勢いよく生え広がった。
「――翼!?」
紫音が驚愕の声を上げる。
人型の個体は、翼を大きく広げると、耳障りな悲鳴を響かせたまま、地面を蹴って空へと舞い上がった。
「――待て!」
志摩が咄嗟にブーツ型のガジェットで浮上しようとするが、間に合わなかった。
黒い翼を広げた人型の個体は、あっという間に上空へと消えていく。悲鳴の余韻だけが、耳の奥に不快に残っていた。
「……逃げられましたね」
鬼頭が、呆然と空を見上げながら短く呟いた。
誰も、しばらくの間、言葉を発することができなかった。
蒼司
「おい作者ァ!! また俺ぶっ飛ばされたんだけど!?」
紫音
「死んでない。」
蒼司
「その基準で人を評価すんな!」
紅華
「しかも今回は爆撃されたあとに謎パンチ食らって、最後は翼生えた奴に逃げられるとか主人公補正どこ置いてきた?」
翡翠
「主人公補正は作者が換金しました。」
蒼司
「最低だな作者!!」
紅華
「でもさぁ……」
蒼司
「ん?」
紅華
「この作品さ。」
翡翠
「ついに――」
紫音
「ブックマークを頂きました。」
蒼司
「よっしゃあああああ!!!!!」
紅華
「しかも感想まで来たんだよね!」
翡翠
「ありがとうございます。本当にありがとうございます。」
蒼司
「つまりもう逃げられないってことだ。」
紅華
「ブクマした人は最後まで付き合う契約だから。」
翡翠
「そんな規約はありません。」
紫音
「ありません。」
蒼司
「……ないの?」
紅華
「ないよ。」
蒼司
「じゃあ今から作るか。」
翡翠
「作者ごと通報されます。」
紫音
「なので普通にお願いします。」
四人
「『続きが気になる!』と思ったら、ブックマーク・★★★★★・感想をお願いします!」
蒼司
「作者が通知を見るたびにニヤけます。」
紅華
「スマホ見て『うおっ!?』って声出してたからね。」
翡翠
「非常に気持ち悪かったです。」
紫音
「次回もよろしくお願いします。」




