第7話
スサノオは、ある事件の後、はるか東の遠い荒野に追放となった。
そこまで読み解いた前野は、パイプタバコを激しくふかし、吐き出した紫煙の向こうで激しく頭を抱えた。
「……ちょっと待て。おい、嘘だろ。東だと……!?」
我が目を疑い、何度もルーペを覗き直す。レンズの向こうの古代文字は、冷酷にその方角を示し続けていた。
通常の歴史認識、すなわち『古事記』や『日本書紀』の記述であれば、高天原を追放されたスサノオが向かうのは、西の「出雲(現在の島根県)」のはずだ。そこでクシナダヒメと出会い、ヤマタノオロチを退治する英雄譚へと繋がっていく。
それがなぜ、この石板では「東の遠い荒野」へと飛ばされているのだ。空間が、歴史が、完全に反転している。
前野は混乱で破裂しそうな頭を無理やり抑えつけ、這うようにして解読を進めた。
そこには、既存の史書がひた隠しにしてきた、歴史の闇を切り裂くような驚愕の事実が書き連ねられていた。
『――スサノオは、はるか東の遠い荒野へ追放された。
しかし、彼はそこで朽ち果てる男ではなかった。言語を絶する過酷な修練の果てに、スサノオは強大な黒竜の力を掌握し、それを原動力として東の地に一つの巨大な国家を建国したのだ』
暗闇のなかで、前野の顔が引きつる。
石板の最下段、激しい欠損を免れた美しいヲシテ文字が、その国家の名を誇らしく刻んでいた。
『――その国の名は、日高見の国』
「日高見……! 大和に征服される前、東日本に実在したという、幻の巨大国家か……!」




