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倭王年代記  作者: 水前寺鯉太郎
巻の一:天地開闢

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第2話

前野はパイプの煙を低く吐き出し、焦げ茶色の灰をトレイに落とした。ルーペを握り直す指先に、じっとりと汗がにじむ。

 視線を石板に戻し、さらに解読を進めていく。


【第一石板:承前】

『――次に、クニ(……数文字欠損)、そしてト(……数文字欠損)が出現した』

 国之常立神クニノトコタチノカミ豊雲野神トヨクモノノカミ


 記された内容を脳内で記紀の記述と照らし合わせ、前野は喉を鳴らした。


 ここまでの神々はみな、配偶者を持たない「独神ひとりみがみ」だ。そして彼らは、歴史の表舞台から速やかに姿を消す。だが、この石板の記述は決定的に違っていた。


「……『お隠れになった』ではなく、『お休み(……)』とある。死でも、隠遁でもない。彼らはまだ、この大地の底で機能しているという意味か……?」


 謎が深まるなか、石板の文字列は、ある種の規則的な「リズム」を帯び始める。男女一対の神々が交互に現れる、呪術的な音韻だ。


『――これ以後に出現する神は、それぞれ男女のつがいの姿を成す。

 まず宇(解読不能)、および妹の(……判読不能)。

 次に、角(……意図的な削り跡のため解読不能)と、妹の(解読不能)。

 次に(……判読不能)、および妹の〇斗乃弁神……トノベノカミ

 次に、〇〇(解読不能)と、〇〇(……削り取られているため解読不能)』


 そして――。

 その文字列の最下段、そこだけが奇跡的に無傷のまま、鋭く、深く刻み込まれていた。


『――そして最後に、イザナギ、および妹のイザナミが出現した』


 濁ったライトの光の下、前野の眼球が小刻みに震える。

 ついに現れた、国生みの男女神。しかし、その手前にある「削り取られた神々」の傷跡は、まるで激しい戦闘の痕跡のように生々しかった。

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― 新着の感想 ―
『古事記』や『日本書紀』もあることから、物語の世界は我々が知っている世界らしい。 そこに出現した、全く知らない日本神話。 これが古事記らとどう絡むのか、絡まないのか。 神に全く勝ち目がないイワレビコの…
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