45.必要のないミンチ
距離を取り、足音を立てず、ついて行く。
上靴のまま、土の付かないコンクリートの上を選んで、彼女は進んで行く。人影もなくなっていった。花壇があり、名の知らぬ花が太陽に向かって咲いていた。
彼女は立ち止ると、校舎の建物を背にし、コンクリの上に座り込んで、足を伸ばした。おれはいつ気付かれてもおかしくない位置で、立ち止まっていた。
昼休憩のざわめきが、かすかに届いてくる。高く昇った陽の光が、花壇に降り注ぎ、花たちをやわらかく照らしていた。
「気持ちいいーっ」
校舎の壁に頭を預けて、彼女が気の抜けた声を発した。髪がさらさらと頬にかかって、横顔が見えない。
すでに隠れることなく、ほとんど近くで立っていた俺の姿を、彼女の目が捉えた。驚いたような顔をしたあと、疑わしそうな顔に変わったが、なにもなかったのように正面に向き直って、手元にあるパンの袋をピリリと破った。あのぺしゃんこのコロッケパンだ。油で揚がったコロッケと、パンのイーストの香りが漂ってくる。彼女はコロッケパンに噛み付いた。潰れたコロッケが、おからのようにパンからはみ出ている。
思い出したかのように、へこんだ腹が空腹を訴え始めた。昼休憩も残り半分てとこだろう。俺は彼女から少し離れたところに座って、紙袋からオニオンブレッドを取り出し、ビリッと包装袋を破って噛みついた。彼女はじっとおれを見ていた。柔らかいタイプのオニオンブレッドで、ふんわりとして、玉葱の甘味と焼いたチーズの香ばしさがうまかった。
「なに?」
離れた彼女から、ドスの効いた声が届いた。
「そのコロッケパン、どうするのかと思って。上靴で踏まれてただろ」
パリっとキャベツを噛みちぎる音が聞こえた。
「潰れただけで、中身はなにも変わってないよ」
頬張って食べられると、潰れたコロッケパンが、おいしそうに見えてくるから不思議だ。
「なんで拾ったの?」
「もったいないから」
「それだけ?」
「まだ食べられる物を捨てるのは、もったいないでしょ。必要のないミンチを作り出すために、牛は解体されるんじゃないの」
「……そうはいうけど、スーパーなんかで売れ残った肉はどうするの。みんな処分されてしまってしまってるんじゃないのか」
彼女は残りのコロッケパンを、コンクリに落ちないよう、慎重にビニールから剥がす。
「あれってやっぱり、捨てられてるんだろうか。他に使われる可能性はないんだろうか」
うつむいた眉間に皴が寄っている。
「肉でも牛乳でも、賞味期限が切れる前に、売り場から引っ込められるでしょ。引っ込められてから、賞味期限が切れないうちに、再利用されてるんじゃないの?」と彼女は考えた。




