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44.北高台中学の購買パン

 北高台中学の昼休憩では、吹き抜けの一階廊下に、購買パン売り場が姿を現す。たくさんのパンが詰めこまれたいくつものケースが、並べられた長机の上に設置されるのだ。


 パンの製造先、種類、数も豊富で、昼休憩を知らせるチャイムが鳴ると同時に、人気パン(熱々のカレーパン、ピロシキ、ピザ、揚げクリームパン、ミルクフランスなど)をつかみ取るために、四方の校舎から生徒が階段をダッシュで駆け下りて来る。


 どれだけ沢山あっても、人気パンはあっという間に、箱の中へ無造作に伸びる手によって、奪い取られ、瞬殺で売り切れてしまう。手にしたいくつかの戦利品と小銭をおばさんに渡し、紙袋に入れてもらったパンを受け取ると戦いは終わる。

  

 本日、たまたまパン食だった洋介は、例にもれず争いの渦に巻き込まれていた。オニオンブレッドとカレーパンとチョコロールの入った紙袋をなんとか手中にし、雑多の中を抜けようとしていたところ、足元にコロッケパンが転がってきた。大勢の生徒が押し合いへし合いしている地面に放られたコロッケパンは、あっというまにだれかの上靴に踏みつけられ、ぺしゃんこになって、コンクリートに貼り付いてしまった。


「うわ、ぐちゃぐちゃ」


 パンを落とした女子が顔をしかめる。混沌とした売り場では、踏んだ犯人がだれかはわからない。


「あんなの食べることないって。行こ行こ」


 一緒にいたグループの女子が、その子の袖をぐいぐい引っ張る。


「むかつく。ああ、損したあ」という言葉を吐き捨てながら、その子は女子グループと共にパン売り場から去っていった。


 コロッケパンはつぶれたとはいえ、ビニール越しに踏まれて、ひしゃげただけた。害あるものに変わったわけでもないのに、運悪くあのパンはもうだれにも食べてもらえない。売り場の片づけをするおばさんに捨てられるか、掃除時間に手でつかみたくもない奴に、ほうきで掃かれて終わりだ。


 コロッケパンに心の中で掌を合わせながら、教室に戻ろうとしたとき。痩せた背の低い女子が潰れたコロッケパンの前で立ち止まった。と思ったら、何食わぬ顔で前屈みになり、素早くそれを拾い上げた。おれは呆然として、コロッケパンがコンクリートからぴりぴり剥がされるところを見ていた。他に気づいている人はいない。彼女はパン争奪戦の喧騒の中、それを腕に抱えて、歩き去って行った。


 授業が長引いて教室を出られなかった生徒たちも駆けつけて来て、一階の吹き抜けは一層騒然とし出す。秋の風が吹き込むも、その熱気に一気に分解されてしまう。


 拾われた厚さ三ミリのコロッケパンの行方が気になった。洋介は校舎に戻らず、校庭に歩いて行った彼女を追いかけていった。


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