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34.知らない

 洋介のこんな顔は初めて見た。


「行くってどこへ」


 洋介はもう上着を肩にはおっていた。


「シューベルト。ぼくが考案したメニューを食べたいって客がいるんだって。それで今から作ってくれって」玄関に向かい靴を履く。


「考案したって、なんでそれを客が知ってんだよ」


「さあ、でもちょっと前に店を手伝ったから、父さんたちには食べてもらったことがあったんだ」


 まったく知らなかった。


「おれのカツ丼食べていいから。行ってくる」


 慌しく、扉の向こうに消えていった。


 洋介が前進していく。嘘だ。黙って見ているだけしかできないのか。


 あとに残ったのは、冷めた食べ残しのカツ丼と、笑いの絶えない欽ちゃんとぎこちない香取慎吾だけだった。


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