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35.自分で自分の行為を恥ずかしがり失笑してくれないか

 あれ以降、洋介はよくシューベルトに行き、厨房を手伝うようになった。一点だけ、彼のオリジナルレシピ、ナッツが入った豚肉のパテを店に置かせてもらっていて、評判は上上らしく、一日に六件ほどのオーダーがあるようだ。調理の下準備や後片付け、掃除にいたるまで積極的にこなし、ウエイターとして接客も勤めた。


 父と母は彼の姿勢に驚きながらも喜んだ。洋介が真剣になにかに取り組んでいるのは、あまり見たことがなく、めずらしいのだ。


 はじめはただの気まぐれかと思った。だが飽きるどころか、日に日にのめりこみ、進歩していく姿は、別人を見ているようだった。


 自分の方が何年も、長く、練習と勉強を積み重ねてきたのに、今はいつ追い抜かれるかという不安に駆られている。


 それにしても洋介は、男が料理をするということに、情けなさを感じてはいないのだろうか。たかが料理、結局回数さえこなせばだれにでもできる。形はあるが、食べてしまえば、残らず体へと消えていくもの。そんなものに一生懸命であることを、人に知られるのは怖い。


 学校の奴にいったら、男の癖にもっとでっかい夢はないのかと、馬鹿にされそうな気が拭い去れない。なんだっておれは料理が好きなんだ。どうしてもっと、器のでかいことじゃないんだ。


 白井は恥ずかしくないんだろうか。家の中に閉じこもって、小説を書いているということを知られたら、世間は彼女を暗くて現実を楽しめない奴だと笑うだろう。実際おれから見ても白井は滑稽だ。それなのにどうしてだ。なぜ自信に満ちてるんだ。つい笑ってしまったとき、白井は小さくならずに「くだらない」といい放った。かっこ悪いことを指摘されたら、自分で自分の行為を恥ずかしがり失笑してくれないか。取り繕って自分の顔を覆ってくれないと、指をさしたおれはどうしていいかわからなくなる。


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