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21.弟の食事風景

「飯、作ってくる」


 なんだかその場にいられなくなって、投げていたスーパーの袋を拾い、台所へ向かった。


 腹立たしい。今まで白井のような女に出会ったことはなかった。彼女のとなりに自分が座ることは似合わないような気がする。


 気になって振り返ると、白井はソファに仰向けになり、手を腹の上に乗せ、目を閉じていた。空腹で起きていられないのだろう。今は、あれこれ考える前に、飯を作ろう。部屋を借りることの、交換条件でもある。


 台所はお屋敷の大きさと比較すると、狭い、といってしまっていいかもしれない。それでも料理をするには十分なスペースだった。


 若林の自宅がいかに、台所にスペースを配分しているかが分かる。お屋敷の十分の一くらいしか広さのない若林家で、台所だけは白井家とほとんど同じ広さで、調理をする要領が変わらないのだから。


 二日前、弟と久しぶりに『シューベルト』に行った。店は変わったところもなく、新たなことといえば、新メニューが増えていたことくらいだ。


 父さんも母さんもずいぶん間の空いた、ぼくたちの訪問を喜んでくれた。


 いつもの席に座り、いつもと同じように、食べたいメニューをひとつ、新メニューをひとつ、頼んだ。


 ちがっていたのは、メニューとにらめっこしている弟だった。いつものワンパターンをオーダーせず、迷ったあげく、お勧めのビーフシチューをパンとセットで頼んだ。


「ビーフシューなんて食べるくらいなら、カレーかハヤシライスがいいよな。そのほうがご飯をたくさん食べられるし、どうせ同じようなものなんだから」


 以前、悪びれもせず、そんなことを言ったのは、彼の台詞だ。


 珍しいことがあるもんだ。料理漫画を読んでから、食通宣言し、必要ないとまで言っていたビーフシチューに弟自らスプーンをひたす。


 ビーフの香ばしい香りが、皿一面から立ち込めた。弟はとろみのあるスープと牛肉を一緒にほおばる。スプーンを置き、パンをかじる。


 眼前の風景は、まるで他人を見ているように不思議で、同時に喜ばしいことだった。


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