20.不意の抵抗
「あんた、なにやってんだよ。まさかまた何も食べてないんじゃないだろうな」
若干、頭の中に浮かんでいた疑惑。腹が減っていても頑固に食事をとろうとしない奴。ありえない話ではない。
「うーん。そういわれてみれば、そうだったかも」
グウー。そのとき彼女の腹から、控えめに胃のサインが空腹を警告した。
まただ、やっぱりまただ。白井はしばらく物を口にしていない。空気の濁った埃だらけの部屋を開けたまま、前のめりに片膝をついている彼女を、階下まで運ぼうと手を伸ばした。
そのとき力尽きているはずの彼女から、不意の抵抗を受け、驚いて手を引いた。腕を払いのけられたのだ。
一人で立ち上がり、ぼくを見据えた目は、まるで憎む相手に向けられたような視線だった。これまで経験したことのない、明らかな悪意を感じ、ぼくは彼女から一歩退いた。
「勝手に触らないで」
こちらが驚き引いているのに気付いたのか、彼女は「ね」と子供を宥めるように、こちらの顔を窺がった。
ただ身体の弱っている彼女をリビングまで抱えて連れて行こうとしただけなのに、予想だにしない反応に戸惑った。何で、こんなにきつく言われないといけないんだろう。
微笑を浮かべる彼女を見ながら、気持ちの悪い、むかむかとするような感情が渦巻いた。
白井を放っておいて、借りる部屋の検分をするわけにもいかず、ぼくたちは元きたリビングに戻ってきた。
彼女はテーブルの前の絨毯には座らず、部屋の端に置いてある、ぼけた灰色の三人掛けソファにぐったりと腰を下ろした。自分も座ろうかと思ったが、先ほどのことが頭をちらつき、一席離れたソファとはいえ、となりに座ることが恐ろしく、近づけなくなった。
白井がこちらを見上げ「どうぞ、座って」と笑いかけてきた。
それでも、どうしても座る気になれなかった。彼女のとなりになんか座りたくない。
古いソファに、窓から細い日の光が差し込み、灰色の布に、きらきらと埃が舞っていた。




