通常授業開始です!
それから朝のショートホームルームが終わり、すぐに通常授業が開始された。
今日の一限は数学である。
数学嫌いなんだよなぁ……。
数学こそ一番話を聞かなければいけないというのに、苦手な教科というのはどうしても耳に入って来ないものである。
お母さんにあれだけ言われたのになぁ……。
記憶を取り戻してもおバカなのは変わらないらしい。
「じゃあここ、五条分かるか」
「……………えッ!?」
どうやら考え事をしていたら、当てられたようだ。
まさか話聞いてないことがバレた!?
ど、どうしよう……!
もういっそ、適当に答えてしまおうか。
私はそう思って口を開いた。
「答えは2です!」
「…………お前は今までずっと寝ていたのか?どう計算すればこれの答えが2になるんだ」
「え」
その瞬間、教室中が笑いに包まれた。
は、恥ずかしい……!
あまりの恥ずかしさに顔が真っ赤になる。
ふとヒロインである朱里の方を見ると、彼女もまた私を見てクスクスと笑っていた。
ヒロインにすら馬鹿にされた!
これは今日一日ショックで立ち直れないかもしれない。
私は赤くなった顔を教科書で隠した。
しかし、この後それどころではない事件が起こった。
何と授業の最後には小テストがあったのだ。
しかも一年の頃の復習問題も出されるのだと。
そんなの覚えてない、どうしよう。
「じゃあ、プリントを配布するから各自問題を解くように」
一通り解説を終えた後、数学教師がプリントを前から配布し始めた。
あーもうどうしよう、絶対分かんないや。
やる前から既に絶望を感じていた。
「ほら」
「ありがとう、桐生君」
桐生君から渡されたプリントの束の一番の上にあったものを取り、それ以外は後ろに回す。
…………って、何これ?
何と、私が受け取ったプリントの名前の欄のところに「アホ」と書かれていたのだ。
誰だ、私をアホ扱いしたやつは。
そのとき、前にいた桐生君が口元に笑みを浮かべながらチラリと後ろにいた私を見た。
………絶対コイツだな。
その時点でもう確信した。
というか、桐生君ってこんなことする人だったっけ。
私が知っている桐生君はいつもクールだったけど。
「では、始め!」
その声で、クラス全員が一斉に問題を解き始める。
………本当に分かんないや。
「五条、お前はもう少し勉強を頑張れ」
「は、はーい……」
採点した小テストの紙を見た教師が私にそう言った。
とほほ……と席に戻ると、桐生君が馬鹿にしたような笑みを浮かべながら私の点数を見た。
「やっぱりアホなんだな」
「なッ……そんなハッキリ言うことないでしょ!」
本当にこの人こんなキャラだったっけ。
ゲームで見た桐生君はもっと冷たいイメージだったはずだ。
「そういう桐生君は何点だったのよ!」
私は桐生君の机の上に置かれていたテスト用紙を覗き込んだ。
そこで見た数字に衝撃を受けた。
「ウソ……九十五点!?」
そういえば桐生君もかなり頭良い方だったっけな。
流星ほどではないが、彼もまた学年で十位以内に入るほどの秀才である。
彼で九十五点なら、おそらく流星は百点だろう。
そしてヒロインの朱里もまた、かなり頭が良い方だった。
彼女の場合は努力型だったが、流星や桐生くんは完全に天才型だ。
……な、何かムカつく!
こうして一限が終わった。
二限目は国語である。
「――ではここの章を、五条さんお願いします」
「え、ええっ!?」
ま、また当たった!
メガネを掛けているいかにもインテリという感じの女性教師は大声を上げてしまった私をジロリと見た。
「あ、す、すみません……」
私は立ち上がり、国語の教科書を手に持って朗読し始める。
「えーっと……むかし……むかし、ある……ところにおじいさんと、おばあさん、が……」
「ハァ……もういいです。それでは次からを白石さんお願いします」
「あ、は、はい!」
朱里はすぐに返事をして立ち上がり、よく通る美しい声でスラスラと文章を読んでみせた。
彼女が章を読み終えた後、教師が感激したかのように声を上げた。
「何と素敵な声なのでしょう!ありがとう」
「い、いえ……」
え、ええ!?
ちょっと、あからさまにひいきしてない!?
私のときと人が違うように感じるのは気のせいだろうか。
私って朗読もダメだったんだなぁ……。
何だか落ち込む。
***
それから三限、四限と時間は過ぎて行った。
そしてこれからはお昼休みである。
やっとだ、やっと来た。
楽しい楽しいお昼ご飯の時間である。
バッグの中からお弁当を出して笑みを浮かべた私に、桐生君が話しかけてきた。
「五条、今日は弁当か?」
「うん、桐生君は?」
「俺はコンビニ。良かったら一緒に食わないか?」
「えっ……」
何だ、その突然のお誘いは。
ヒロインに恋をするはずの桐生君が私を昼に誘っている。
だけど、せっかくこんな風に誘ってくれているというのに断るのは何だか心苦しい。
「うん。誰とも約束してないし、いいよ」
「じゃあ行くか」
「そうだね」
私は椅子から立ち上がり、桐生君の後について教室から出た。
しかし、その途中で――
え、ちょっと待って。何アレ、こっわ!
何と流星が教室から出て行くところの私と桐生君を、ヒロインに言い寄っていた男子たちを見たときと同じ鋭い目で見つめているではないか。
いくら何でも怖すぎる。
「五条、どうかしたか?」
「う、ううん……何でもないよ……それより早く行こう、桐生君」
怖くなった私は、すぐに桐生君と共に教室を出た。
私に桐生くんを取られたからって、そんな風にすることないのに!
それから私たち二人は、昼ご飯を食べるために中庭へと向かった。
中庭のベンチに二人並んで座り、それぞれ昼食を摂り始めた。
やった!今日は唐揚げだ!
お母さんの手作り弁当を開いた私は、その中から出てきた一番好きなおかずに顔を綻ばせた。
いただきまーす!
お腹が空いていたせいか、一つ食べたら止まらなくなった。
「随分美味そうに食うんだな、お前」
「だって本当に美味しいんだもん」
桐生君はお弁当のおかずを頬張る私を横目でじっと見つめていた。
そんな彼の膝の上にはコンビニの袋が置かれている。
「五条って休みの日は何して過ごしてるんだ?」
「休みの日?うーん、そうだなぁ……家族とお出かけしたりしてるかな!」
「へぇ、家族仲良いんだな」
私の隣に座っていた桐生君は、何故だか私のプライベートについて積極的に聞いてきた。
「その弁当も母さんが作ったのか?」
「そうそう、ウチのお母さん料理上手いんだよ!桐生君も今度食べに来なよ!」
「……本気で言ってるのか?」
「もちろんだよ!ウチ、そういうの気にしないタイプだからさ。昔から流星のこともよく誘ってたし!」
「流星が……」
私の母は料理好きなので、友達だと言えば快く受け入れてくれるだろう。
しばらく黙り込んでいた桐生君が口を開いた。
「……俺にそんなこと言ってくる奴は初めてだ。五条って結構フレンドリーなんだな」
「えへへ、そう言ってくれるなんて嬉しいなー」
「……!」
そのとき、私の顔を見た桐生君が驚いたように目を瞠った。
あれ、笑顔変だったかな。
まぁいいや、気にしない気にしない。
***
その日の帰り。
教室から出ようとした私に、声をかけてきた人物がいた。
「あ、あの!」
「…………えっ、ヒロイ」
「え?」
「あ、いや……白石さん」
何と、私に話しかけてきたのはヒロインの朱里だった。
相変わらず顔が良すぎる!
何でこの学校こんなに顔面偏差値高いの!
朱里は恥ずかしそうにしながらも頭を下げた。
「きょ、今日はありがとうございました!私のせいであんなことになってすみません……」
「……」
どうやら今朝のお礼を言いに来てくれたようだ。
本当に良い子だな~。
あんなの気にしないでいいのに。
そう思った私は固くなっているヒロインに対して気さくに接した。
「ああ、気にしないで!全然痛くなかったからさ!」
「……!」
それを聞いた彼女が、目を丸くした。
本当に天使みたいな子だ。
「じゃあ私、そろそろ帰るね。また明日!」
「あっ、ちょっ……」
早く家に帰りたかった私は、そそくさと彼女の前から立ち去った。




