助けてくれたのは……!?
翌日。
「おはよう、お父さん、お母さん」
「ああ、おはよう日和」
「日和、ちゃんと先生の話聞くのよ」
朝起きた私は、両親に挨拶をした後用意されていた朝食に手を付けた。
「ふああ~眠い……」
「ハハハ、眠そうだな、日和」
「もう、新学期早々そんなんでどうするのよ」
新学期だったとしても眠いものは眠いのだ。
こればっかりはしかたない。
朝食を終えた私は、いつも通り制服に着替え学校に行く準備を始めた。
「いってきまーす」
「「いってらっしゃい」」
両親にそれだけ言って私は家を出た。
家を出た私は、早速どちらへ行くべきか迷った。
学校に行くか、流星の家に行くか……。
数分間に及んで悩んだ末、私はある結論を出した。
ま、いっか。ほっといても勝手に来るでしょ。
私はそのまま学校への道のりを歩き始めた。
思えば、学校までの道を一人で歩くのは初めてかもしれない。
いつも流星と歩いていたから。
今日からは通常授業が始まるんだよなぁ……新学期早々お勉強かぁ……。
教科書が入っているせいか、昨日よりもカバンがだいぶ重い。
体力が無い人間にはこれまたキツい。
しばらくして、学校へ到着した。
私と流星の家は私たちが通っているこの高校からはそう遠くはなく、歩いて十分もすれば着く。
学校に近付くにつれて、私と同じ制服を着た生徒が増えてくる。
「見て……あれって五条さんじゃない?」
「本当だ……いつもは皇君と一緒にいるのに今日は違うのね」
「ついに振られたんじゃない?あの子独占欲すごいから」
一人で登校する私を見て、生徒たちがヒソヒソと噂話をした。
今までは隣に流星がいたから抑えていたのだろうが、どうやらこれが女生徒たちの私に対する本音のようだ。
……こう考えると、流星の相手がヒロインで良かったのかも。
ヒロインは天真爛漫で誰にでも優しい女の子だった。
散々嫌がらせをされたというのに、日和が学園を退学になるとき彼女だけは日和の身を案じていた。
それに加えてあの容姿だもんね……攻略対象たちが惚れるのも無理ないわ……。
女として完全敗北したような気分になった。
学校の中に入った私は靴箱で靴を履き替え、教室へと向かった。
私が教室に入るなり、生徒たちの視線が私に集中した。
特に女子生徒は何かを期待するかのようにじっと教室の扉を見つめていた。
考えなくても彼女たちの考えてることなどすぐに分かる。
きっと彼女たちは流星の登場を待っているのだろう。
しかし今日、彼はいない。
「皇君はいないの?」
「いつも五条さんと一緒に来ていたのに……」
ザワザワするファンクラブの会員たち。
「あれ、今日は流星と一緒じゃないんだな」
「桐生君……」
席まで行くと、既に登校して席に着いていた桐生君が私に声を掛けた。
「うん、今日は別々」
「お前、どういう心境の変化だ?」
「え?」
「お前、流星のこと好きだったじゃん。それも周りが見えてないくらい」
「え……そ、そうかな……」
私、そんな風に思われてたんだ……何かショック……。
まぁ、間違いではないので否定は出来ないが。
すぐにでもその誤解を解かなければならないと思った私は、アハハと笑いながら言った。
「いや、何だろ。何かいつも冷たいから冷めちゃってさ!」
「……今になってかよ」
「ア、アハハ……」
桐生君は呆れたような顔で私を見た。
どうやら上手く誤魔化せたようだ。
一年の頃の私を知っている人間なら、たしかに信じられないだろう。
しかし、私はもう流星と必要以上に仲良くするつもりは無い。
どうぞヒロインとよろしくやっててください。
「「「キャー!!!」」」
そのとき突如、耳をつんざくような女子たちの声が教室に響いた。
こ、この悲鳴はまさか……!
もしかしてと思い、振り返ってみると流星が教室に入って来るところだった。
やっぱり流星か……アイツはアイドルか何かなわけ?
いいや、アイドルならもっと愛想良いから違うな。
あれ、今日って新学期二日目だよね……。
そこで私は思い出した。
そうだ、これからヒロインとメインヒーロー流星のイベントじゃん!
そう、今日はヒロインである朱里とヒーロー流星のラブイベントがあるのだ。
ああ、何で私こんな大事なこと忘れてたんだろ!双眼鏡持ってこればよかった!
これから起こるラブイベントの内容は以下の通りだ。
ヒロインの朱里はその整った容姿から新学期早々多くの男子に言い寄られることとなる。
『朱里ちゃんって言うの?可愛いね』
『俺と連絡先交換しない?』
『今度学校帰りに遊ぼうよ』
しかし、誰とも付き合ったことの無い純粋無垢なヒロインは困惑してしまう。
『あ……えっと……』
ハッキリと断ることも出来ずに困っていたとき、メインヒーロー・皇流星の登場なのである。
『おい、やめろ。嫌がってんだろ』
登校してきた流星がキッと鋭く睨み付け、ヒロインに言い寄っていた男子たちを一掃するのだ。
ああ、素敵……!
チラリとヒロインの方を見てみると、やはりゲーム通り彼女は男子たちにウザ絡みをされていた。
「そ、そういうのはちょっと……」
「えーいいじゃんいいじゃん」
「そうだよ、友達になろうよ」
「俺ももっと朱里ちゃんと仲良くしたいし」
うわぁ……あれはウザいわ……。
これはいくら何でもヒロインが不憫だが、私は彼女に対して心の中でそっと呟いた。
あと少し頑張ればヒーローが助けに来てくれるからね!
そう、あれを助ける予定の流星は既に教室に来ている。
つまりもうすぐ彼が困っているヒロインを助けてくれるのだ。
お、来てる来てる!
流星が自分の席へと向かっている。
このままいけば、ヒロインは彼のルートに入ることになるだろう。
そのことを考えると嬉しい反面、何だか複雑な気持ちになる。
嬉しいような……悲しいような……。
私はそう思いながらも流星の動向をじっと見守っていた。
が、しかし――
流星はあろうことか、ヒロインを素通りし、自分の席に着いてスマホをいじり始めた。
ちょ、ちょっと何してんのよ!
ウザ絡みをされているヒロインを助けるどころか、ガン無視である。
ちょっと待ってよ!乙女ゲームを展開が違いすぎるんですけど!
そうしているうちにも、ヒロインたちの方では彼女の意思など関係無しに事が進んでいた。
「ほら、スマホを出して」
「あ……は、はい……」
男子の圧に負け、何とヒロインが連絡先を交換しようとしていた。
ちょっと待ったあああ!そんなよく分かんないモブのルートに入っちゃダメよ!
それを見た私は、足が勝手に動いていた。
「――ちょっと、アンタ」
「……?」
私は悪役令嬢らしく、男子たちの前に一瞬で君臨してみせた。
「その子嫌がってるじゃない。やめなさいよ」
「……アンタに関係ないだろ」
「とてもじゃないけど見過ごせなかったの」
男子たちは突然割り込んだ部外者に不快そうな顔をしていたが、ヒロインがこんな奴らのルートに入ってしまうよりかはマシだ。
「何だよ、俺は今朱里ちゃんに話しかけてるんだよ。アンタじゃない」
「私には無理矢理連絡先を交換しようとしているように見えたけど?」
「全部合意の上だよ!」
合意の上のわりには滅茶苦茶嫌がっていたが。
ヒロインを見てみると、突然現れた私を驚いたような顔で見上げていた。
か、可愛い……。
こりゃ無理矢理手に入れたくなるのも分かる。
分かるけどやっちゃダメ。
「うるせえな!部外者は引っ込んでろよ!」
「キャッ!」
そのとき、男子たちのうちの一人が私の腕を強く掴んだ。
……イタッ!
掴まれた箇所に痛みが走り、思わず顔を歪めた。
女の子に暴力振るうなんて最低!
苦痛に顔を歪ませながらもヒロインの方を見てみると、あたふたしている彼女と目が合った。
優しい子だから、私の心配をしてくれているのだろう。
そこでヒロインは見ていられないと言ったように椅子から立ち上がった。
「ちょ、ちょっとやめてくださ……」
「――おい、何してるんだ」
しかし、そんなヒロインを遮って出てきた人物がいた。
え………りゅ、流星……?
驚くことに、割って入ったのは流星だった。
「す、皇……!?」
流星は私に手を上げた男子を凍えきった瞳で見下ろした。
彼はかなり背が高いため、なかなか迫力がある。
「ヒ、ヒィッ……!」
どうやら三人は流星の凍てついた視線に完全に恐れをなしたようである。
まさか流星に助けられるだなんて。
「――席に着け!出席を取るぞ!」
流星の登場に全員が驚きを隠せなかったそのとき、2年C組の担任教師である谷先生が入って来た。
その声で男子たちを含めた全員が席に着き始める。
「ふーん……」
自分の席に戻る途中で、口の端を上げて私をじっと見つめていた桐生君と目が合った。
まるで面白いものを見せてもらったとでも言ったような表情だ。
な、何よその顔は……。
顔が良すぎて辛い。
全員が席に着いたのを確認して、教卓の前に立った谷先生がコホンと一つ咳払いをした。
「……橘、伊集院、田中の三人は後で生徒指導室に来るように」
橘、伊集院、田中とはヒロインに言い寄っていた三人の名前である。
ヒロインとヒーローの恋路を邪魔した罰ね。
三人の絶望したような顔を見た私はニヤリとほくそ笑んだ。




