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乙女ゲームの設定

昼休みになった。



私は持って来ていたお弁当を最速で食べた後、すぐにトイレへと向かった。



「ふぅ……」



トイレの便座に座り込んで一息つく。

本当なら、こんなことをしている場合ではない。

私がここに来たのはやらなければいけないことがあったからである。



「じゃんっ!」



私は服の中に隠しておいた一冊のノートを取り出した。



ちょうど使ってないノートあって良かったぁ……。



私はノートを開き、胸ポケットに挿してあったペンを手にした。

これからは前世の記憶を必死に思い出す時間である。



私はノートを開いて一ページ目のタイトルのところに「五条日和生き残り大作戦」と大きく書いた。



今日が始業式で……ヒロインとヒーローが出会ったのがまさに今日。



ヒロインとヒーローは同じクラスで、前後の席となったことで親交を深めるのだ。

そして私が見た限り、ヒーローの流星とヒロインの朱里は既に言葉を交わしていた。



ということは、ヒロインが流星のルートに入る可能性は十分にある……。

そしてその流星ルートの悪役令嬢が私だった。



ヒロインと攻略対象が正式にお付き合いを始める、つまり結ばれるのは二年の終わり頃である。



日和がヒロインに対する本格的な嫌がらせを始めるのは大体物語の中盤くらいから。

それを考えると途端に憂鬱な気分になる。



そもそもゲーム内での日和があんな風になってしまったのには理由があった。

彼女が歪んでしまったのは、周囲の人間のせいだった。



流星とヒロインがよく行動を共にするようになってから日和は学園で肩身の狭い思いをすることとなるのだ。

いつも幼馴染なのをいいことに流星の傍を陣取っていた日和を良く思っていなかったファンクラブの女子たちは、ここぞとばかりに彼女を詰った。

結果的に彼女は、「あれだけ彼女面してたくせに」と学園中から嘲笑されてしまうのである。



長年の想い人である流星には振られ、学校にも居づらくなる。

そんな辛い状況が、彼女を悪魔へと変えた。

次第に日和は、自分がこんな辛い目に遭っているのは全てヒロインのせいだ、とそう思い込むようになってしまうのだ。



ホンット、一体日和が何したって言うの!



日和はただ好きな人に尽くしてきた優しい女の子である。

何か、流星に腹立ってきたわ。

こんなに自分のために尽くしてくれる女の子の何が不満なんじゃい!



「……だけど」



彼の行動を責めることも出来ないのかもしれない。

流星があれほど無愛想なのにも実は理由があったからだ。




それは彼の家庭環境だ。

流星の家庭環境はかなり複雑だった。



流星の母親は彼が幼い頃に亡くなっている。

そして経営者である父親は奥さんが亡くなってからほとんど家には帰って来ず、彼の生活費だけを家に入れている状態だ。



つまり、彼は家でいつも一人なのである。

近所の噂だと、流星のお父さんには愛人がいて亡くなった奥さんとの子供である彼が邪魔になったのだとか散々な言われ方をしていた。

それが原因で、流星は幼いながらにして心を閉ざしてしまったのだ。



そういえば、彼をウチの夕食に誘ったこともあったっけ……。

一人じゃ寂しいからと、流星を五条家の夕食に誘ったことがあった。





「と、に、か、く!今は断罪回避の方法を考えるのが先ね!」



ヒロインとの明るい未来が約束されている流星のことは別に気にかけなくてもいいだろう。

今は暗い未来しか見えない私のことが最優先だ。



私は覚えている限りのイベント・設定をノートに書き写した。

やり込んでいただけあって、かなり鮮明に書き出すことが出来た。



ちょ、ちょっと待って。

このゲームいくら何でもラブイベント多すぎじゃない?

文化祭で行われるカップルランウェイとか普通の高校無いだろこれ。



さすが恋愛ゲームの世界と言うべきか、恐ろしい。



これ私卒業まで持つかな……?



前世アラサー喪女にはしんどすぎます。





そうこうしているうちに、トイレに立てこもってからかれこれ十分が経過した。

イベントと設定を一通り書き終えた私は、ノートをパタリと閉じた。



流星は今頃ヒロインとお昼食べてるかなぁ?



メインヒーローである流星とヒロインが昼食を共にするようになるのは、乙女ゲームの中だともう少し遅い。



まぁ、早くなったところで別に問題は無いよね!

トイレの個室で一人うんうんと頷く。



そんなことより流星と桐生君の二人によるヒロインの取り合い、あれ最高だったなぁ……。



乙女ゲームのラブシーンを思い出すだけでニヤニヤが止まらなくなる。



親友である二人が一人の女を取り合うのだ。

しかも学内でも人気ツートップの二人である。

普段冷静沈着な流星が珍しく感情を露わにして「アイツに近付くな!」って親友の胸倉を掴むシーンはファンの間でも好評で、名場面とまで言われていた。



ホンットに、どこまでもヒロインのための世界なんだなぁ。



そのことを考えると、複雑な気持ちになるがこればっかりはどうしようも無い。

ここはヒロインである朱里のための世界で、私は彼女と敵対する悪役で。



……だけど、尊い二人のイチャラブを間近で見れるなら悪くないかも?



断罪されないためには、私が悪役令嬢役を全うしなければいいだけだし!

そもそもヒロインが誰のルートに入ったのかもまだ確定していない。



だけど万が一、後にヒロインに対する嫌がらせが起きたとする。

今の状態だと真っ先に疑われるのは私だろう。

だからこそ、流星のことは徹底的に避けなければいけない。

それと日頃の行いを良くしていれば、疑われることも無いはずだ。



私はそこで立ち上がった。



よしっ!昼休み終わるまでもう少し時間あるから聖地巡礼でもしよーっと!



それから私はノートを胸に抱き締めてトイレの外に出た。




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