たまたま出会ったのは……
思いがけない夏祭りデートが終わってしばらくした頃。
私は図書館へと来ていた。
図書館なんて久しぶりだなぁ……。
私は勉強があまり好きではない。
だからこそ、学校にある図書館にもほとんど行ったことなど無かった。
そんな私が何故図書館へ来たのか。
それには色々と訳があった。
数時間前に遡る。
『日和、アンタ今日も家にいるの?』
『え、うん、そのつもりだけど……』
『お友達と遊びに行ったりしないの?』
『え……』
私は夏休みのほとんどの時間を家で過ごしていた。
せっかくの休みなのに何故か。
それは単純に友達がほぼいないからである。
幼馴染の流星に付き纏いすぎて友達を作る暇なんて無かったし、親友と呼べるのは朱里ちゃんくらいだろう。
しかし、もちろん両親の前でそんなこと言えるわけがない。
変な心配をされたくなかったのだ。
『うん、ちょっと遊びに行ってこようかな』
『そうよ、せっかくの夏休みなんだから。勉強も大事だけどたまには遊んだっていいじゃない』
母に背中を押され、私は遊ぶ相手もいないのに勢いで外へ出てしまったのである。
どこに行こうか悩んだ挙句、涼しそうな図書館へ吸い込まれるように入ったというわけだ。
とはいえ、これからどうしよう。
することも無いし、かといって外は暑いし。
私はひとまず興味のある本が無いか、図書館の中を歩き回った。
時間が来るまではここで過ごすというのも良いだろう。
と、思っていたのに――
「あれ?桐生君?」
「……五条?」
図書館で何と桐生君と出会ってしまった。
彼は本棚の奥で本を立ち読みしていた。
どうしてこんなところで読んでるの?
席はたくさん空いてるのに……。
疑問に思いながらも私は彼に近付いた。
「久しぶりだね、桐生君」
「そうだな」
部に所属していない私は、夏休みに学校へ行く必要はない。
だからこそ、時々遊んでいる朱里ちゃんや元々家が近い流星以外とは会うことなどほとんどなかった。
何か久しぶりに桐生君の姿を見たような気がするなぁ……。
一学期の頃はちょくちょくお昼一緒に食べてたし、これはもう友達って言っていいよね!
「まさかお前に会うなんてな」
「私もびっくりだよ」
「ここには何をしに来たんだ?」
「……暇だったから」
「そうか」
本当のことを言えなかった私は、来た理由を適当に誤魔化した。
「桐生君はどうしてここに?」
「……本を借りに」
「あ……そっか……」
私はそこで、桐生君の趣味が本を読むことという設定だったのを思い出した。
乙女ゲームの中だと、ヒロインと一緒に学校の図書室へ行ったりしてたっけ……。
「何の本を読んでたの?」
「……」
私は桐生君の手元の本を覗き込んだ。
『第一印象は見た目で決まる!人は見た目が全てである理由』
てっきり難しい本を読んでいるかと思ったが、そうではないようだ。
真面目な彼がこういう本を読むというのが意外だ。
というか、桐生君って自分の見た目とか気にする人なのか……。
「……お前も、そう思うか?」
「え……?」
桐生君はいたって真剣な顔で私に尋ねた。
人は見た目が全て……か。
「多少はあるんだろうけど……でも私はそんなに気にしないかな!」
「……本当か?」
「うん、だって人は見かけによらないもん。流星がまさにそうじゃない?あんなキラキラ王子様みたいな見た目なのに話してみたら超無愛想で冷たいヤツじゃん。まぁ私はもう慣れたけど」
「……」
「私は関わる人は見た目より中身で選ぶかな。桐生君だって喋ってみて良い人だったからああやって一緒にいたわけだし」
「……!」
そのとき、ほんの一瞬だけ桐生君が動揺したように見えた。
「桐生君、こんなところで立ち読みしてないで座ろうよ」
「……あぁ、そうだな」
それから私たちは図書館内にある椅子に向かい合って座った。
桐生君の手元を見てみると、すでにさっきの本はなかった。
棚に戻したのかな?
ここは図書館のため、基本的に私語はNGだ。
私も桐生君もそのことはよく分かっているため、椅子に座ってから私たちの間には重い沈黙が流れている。
喋っちゃダメなのは分かってるけど気まずいわね……。
というかこの部屋寒い!
長袖着てこれば良かった!
「――おい、どうした?」
「いや、ちょっと寒いなーって……」
それを聞いた桐生君が、突然自身の上着を脱ぎ始めた。
え、何!?
そして、脱いだ上着を私に手渡した。
「なら、これ着てろ」
「…………え!?」
シンとした空間に、私の声が響いた。
意味に気付いた私は両手をブンブンと振った。
「いやいやいや!そこまでしてもらうわけには!」
「寒いんだろ、遠慮するな」
「遠慮するって!」
「風邪引くぞ、せっかくの夏休みに体調崩したくないだろ?」
「あ……」
それはそうかもしれない。
結局私は桐生君から手渡された上着を受け取り、袖を通した。
元々背が高い桐生君の上着は、私が着るとダボダボのワンピースのようになった。
流星よりも高身長な桐生君と私では、スタイルはハッキリ言って雲泥の差だ。
嫌でもそのことに気付いてしまった私は思わず苦笑いを浮かべた。
アハハ、本当に似合わないな。
でも…………あったかい。
「……ありがとう、桐生君」
「……」
上着を着てお礼を言うと、桐生君は私からぷいっと顔を背けた。




