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二学期が始まりました!

長かった夏休みが終わり、二学期になった。



今日は始業式の日である。

そして私にとってはこの二学期が最も注意を払わなければならない時期でもあった。



何故なら悪役令嬢・五条日和のヒロインに対する嫌がらせが始まるのが二学期からだから!

そう、一学期はあくまでもヒーローとヒロインが仲を深めるだけ。

二学期になり私というライバルが現れて二人の恋はさらに燃え上がるというわけだ。



……何度考えてもムカつく設定だわ。

イケメンヒーローの幼馴染とか普通はヒロインになるべき人物でしょう?

まぁ、ヒロインは悪役令嬢よりもずっと可愛い存在なので攻略対象たちの気持ちも分からなくはないが。



私は絶対生き残ってやるんだから――!



そして、その日の始業式は無事に終わりを迎えた。



始業式で安心するのはまだまだ早い。

二学期は始まったばかりだ。

細心の注意を払わなければいけない。



それから私は二学期が始まってからというもの、流星を徹底的に避けた。

最悪な結末を回避する方法――それが流星を出来る限り避けること。

元々あまり頭が良くないため、もはやそれしか思い浮かばなかった。



単純ではあるが彼と一切関わらなければ、私が朱里ちゃんに嫌がらせをしているという噂が立つこともないだろう。

何より、ヒロインである朱里ちゃんは流星ルートに入っているのだ。

体育祭が行われたあの日、たしかに朱里ちゃんは黒い髪の人というお題を引いていたのだから。



「おい、日和――」

「……」



授業と授業の間の短い休み時間は女子トイレへ逃げ、お昼休みは弁当を持って目立たないところでひっそりと食べていた。

下校時は間違っても彼と鉢合わせないよう、いつもと違う遠回りのルートを使って家へ帰った。

かなり面倒なことだが、これも全ては自分が悲惨な目に遭わないようにするため。



疲れた……。

二学期が始まってからというもの、心に余裕の無い日が続いた。

彼を避けるのは何だか心苦しかったし、だいぶ疲れが溜まってしまっている。



「日和ちゃん、最近何だか様子が変だけどどうかしたの?お昼休みになると、すぐにどこかへ行っちゃうし」

「え、何でもないよ!ただちょっと外に出たくなってるってだけ!」

「そっか……」



そんな私を心配した朱里ちゃんが声をかけてきた。

どうやら顔に出ていたようだ。



「本当に大丈夫だから!何でもないよ!」

「分かった、でも悩み事があるならいつでも私に言ってね!」

「……!うん、ありがとう、朱里ちゃん」



その優しい笑顔を見て、私は再度心に誓った。

絶対に朱里ちゃんを傷付けないと。

というかこんなに優しい子に嫌がらせするとか絶対無理。



流星は突然私に避けられて困惑してるかな……。

だけど仕方がない。

これも全ては私と、ヒロインとヒーローのためだ。

流星も朱里ちゃんと結ばれた方が幸せになれるだろうし。



――幼い頃に受けた彼の心の傷だって、ヒロインと一緒になることで癒えるはずだから。



そんなこんなで、私は今日も流星と会わないために校内を行く当てもなく歩き回っていた。

その中で、私が隠れ家として選んだのは学校の屋上だった。



あ、ここいいかも……!

何か涼しそうだし!



屋上に続く扉をゆっくりと開けた私は、中に誰もいないことを確認して足を踏み入れた。

屋上へ出ると、涼しい風が吹き抜けた。



ああ、気持ちいい!

ここに来るの初めてかも!



私は転落防止用のフェンスに近付いて、広がる景色を見渡した。

私や流星の住んでいる町が一望出来るようになっていた。



あ、私の家だ!

りゅ、流星の家やっぱり大きいなぁ……。



流星の家はいわゆるお金持ちというやつだ。

顔良し、頭良し、実家もお金持ちなのである。

とっても羨ましい。



私じゃあ釣り合わないってことかぁ……。

そりゃあそうよね、私ってただの幼馴染でしかないもの。

顔も超絶美少女ってわけじゃないし、家柄もいたって普通。



自分で考えて、何だかショックを受けてしまった。



屋上へ入ってからしばらくして、突然背後から声がした。



「――誰かいるのか?」

「……!」



振り返ると、そこにいたのは桐生君だった。

どうやらちょうど今屋上に入ってきたようである。



「桐生君……どうしてここに……」

「それはこっちのセリフだ。ここは俺のお気に入りの場所だ」

「あ……」



そこで私は乙女ゲームの設定をふと思い出した。

桐生ルートだとヒロインと彼が最初に出会うのがたしか屋上だった。

友達が出来ず、教室に居辛くなったヒロインが逃げるようにして屋上へ行き彼と出会うのだ。

そして彼ら二人はそこで親交を深めていくこととなる。



「涼しいね、ここ」

「そうだな」



桐生君は頷きながら私の隣までやって来た。

そして突然私の顔をジロジロと凝視した。



「思ってたけど、お前最近何か変だぞ。いつもみたいにうるさくないし」

「えっ……」



まさか朱里ちゃん以外の周囲の人間にも気付かれていたのか。

いや、それにしてもうるさいは余計だ。



隠してたつもりだったんだけどなぁ……。



「ねぇ、桐生君……」

「何だ?」

「桐生君は……絶対に変えられない運命を信じる?」

「……何だよその質問」



桐生君は意味が分からないといったように不思議そうな顔をした。



「もし、自分が将来不幸になることが決まっているとしたら……桐生君はどうする?」

「……」



私の問いに、彼は黙り込んだ。



「お前が何をそんなに悩んでるのか知らないけど……運命は自分の手で切り開くものじゃないのか」

「……!」

「その決まった未来から逃げてばかりじゃダメだろ。自力で変えていくしかないんじゃないのか」

「桐生君……」



逃げてばかりじゃダメ……か。

たしかに、その通りかもしれない。



私はずっと運命から、流星から逃げていた。

でも本当は向き合うべきなのかもしれない。



「ありがとう桐生君、何だかすっきりした気がする」

「ああ、これからは何でも俺に言えばいい」

「……え?」



桐生君はクスリと笑った。

今まで見たことの無いような柔らかい笑みだ。



「悩んだらいつでもここに来い。俺がアドバイスしてやるから」

「……いいの?」

「お前ならいい。……俺も、お前に救われたんだから」

「桐生君……」



朱里ちゃんを始めこういう優しい人たちが周りにいると、本当に心強いなと感じた。




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