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ドキドキ体育祭③

午前の種目が全て終わり、今からはお昼休憩だ。



「日和ちゃん、お昼どこで食べようか」

「うーん、どうしようね」



約束通り、私は朱里ちゃんとお昼を食べることとなった。



「涼しい場所が良いね」

「じゃああそこはどう?」



朱里ちゃんが指差したのは第一グラウンドの隅にある木陰だった。



「いいね、あそこで食べよっか」

「うん!」



持って来ていたレジャーシートを敷き、私たちはその上に二人で座った。



「お腹空いたね!」

「うんうん!もうこの時を朝からずっと待ち望んでたくらいだよ」

「あ、朝から……?」



私は我慢出来ず、朱里ちゃんよりも先にお弁当の蓋を開けた。

あ、今日のお弁当いつもより豪華だ!



どうやらお母さんが特別に私の好物だけを入れてくれたようだった。

ふと隣を見ると、朱里ちゃんも膝の上に乗せた弁当箱を開けていた。



「今日は体育祭だからちょっと時間掛けて作ってきたんだ!」

「朱里ちゃん、お弁当自分で作ってるの?」

「うん!ウチ、共働きで忙しいから」



な、何て良い子なんだ!

しかもめちゃくちゃ美味しそうだし!

私が男だったら一瞬で惚れてるな。



それから私たちは、お弁当を食べながら楽しく会話を繰り広げた。





「朱里ちゃん、私ちょっとトイレ行ってくるね!」

「いってらっしゃい!」



お弁当を一足先に食べ終えた私は、グラウンドにあるトイレへと向かった。



トイレへ行く途中、学内でたくさんのカップルを発見した。

お姫様抱っこして記念撮影したり、ツーショットを撮ったりしている。

それをSNSに載せてキャーキャー言っている子まで。



羨ましくなんて無い!羨ましくなんて無いもん!

ハンカチを噛みたい気分になった。



しかし、その途中で予期せぬ人物と遭遇することとなる。



第一グラウンドの端の方に併設されているトイレの横で、私のよく知る人物が立っていた。



「……あれ、阿久津さん?」

「……五条さん」



それは阿久津さんだった。

彼は何故だか落ち込んだような顔をしている。



私はそんな阿久津さんに近付いた。



「こんなところで何してるんですか?」

「いやぁ……ちょっとね……」



私の問いに、阿久津さんは言いにくそうに視線を逸らした。



「さっきの選抜リレーで情けない姿を見せちゃったなぁって……」

「……」



どうやら阿久津さんは先ほどのリレーで抜かされたことを気にしているようだ。

しかし、それは仕方が無いのではないだろうか。

選抜リレーは元々トップクラスの集まりだから。

抜かされたとしても、それほど差を広げられなかった阿久津さんは十分すごいと言える。



他の三人と違って運動部でも無いのに……。



「大丈夫ですよ、阿久津さん」

「……五条さん」



私は暗い顔の彼にニッコリと笑いかけた。



「さっきの姿、とっても素敵でしたから」

「……同情してるの?」

「いいえ、違います」

「じゃあ何でそんなこと言うの?あれのどこがカッコイイんだよ……」



彼は私を責めるようにしてそう言った。

到底理解出来ないと言ったような顔だ。



「――何事においても一生懸命やる人はみんなカッコイイですから」

「……!」



その言葉に、彼はビクリとなった。



「頑張ってる阿久津さん、とってもかっこよかったですよ」

「……本当に?」

「はい!」



気のせいか、彼の瞳が少しだけ揺れているような気がする。



「きっと他の人たちもそう思っているはずです」

「……」



阿久津さんは黙り込んだ。

何を考えているのかは分からないが、この言葉が彼にとって少しでも励みになればなと思う。



「では、私はそろそろ失礼しますね」



それだけ言って私は彼の前から立ち去った。





***




お昼休みが終わり、いよいよ午後の部の始まりである。

午後の部の最初の種目は玉入れである。



「よっし!やるぞ!」



私はハチマキを巻き直して気合いを入れた。

玉入れは私が出場する種目だ。



「日和ちゃん、頑張ってね!」

「うん!頑張るよ!」



朱里ちゃんと別れて選手の待機場所へ向かうと、流星の熱烈なファンである川崎さんがいた。

……そういえば川崎さんも一緒だったっけ。

何だか途端に士気が下がりそうだ。



川崎さんは隣に来た私を見るなり敵視するかのように言った。



「ふんっ!アンタには死んでも負けないんだからね!」

「いや、同じクラスじゃん」



何故か宣戦布告をされることとなったが。





それから玉入れに出場する選手たちが入場し、それぞれの位置についた。

すぐに開始の合図が鳴り、全員が一斉に地面に置かれていた玉を手に取って中央にあるかごへと投げる。



待って、全然入んない!



誤算だったのは、かごが思った以上に高い位置にあったことだ。

そのため、私はなかなか玉をかごの中に入れることが出来なかった。



「くっ……!何よ、全然入んないじゃない!」



私だけではなく、元々低身長である川崎さんもかなり苦戦しているようだった。

その結果――



「優勝は、D組!」

「「「キャー!!!」」」



ま、負けた……!

完全なる負けである。

結果を聞いた川崎さんが気まずそうに私に言った。



「ひ、引き分けみたいね。まぁいいわ!次は負けないわよ!」



だから何の勝負だよ。





玉入れが終わった後はクラス全員参加の綱引きだ。

綱引きでは綱のちょうど真ん中に分かりやすく赤い布が巻かれており、終了した時点でその布が自分の陣地にあるチームが勝利となる。



協力系で良かった……!



「日和ちゃん、頑張ろうね!」

「うんうん」



このときの私は、クラス全員での協力戦ということで余裕綽々としていた。

しかし、現実はそう甘くなかった。



「ぐぬぬ……!」



このときばかりは綱引きという競技を甘く見ていたことに後悔した。

誰か一人でも力を抜けばみんなして引きずられていってしまいそうなほどの接戦である。



あぁ、手が痛い……!

でも負けたくはない!

今こそ体力測定で発覚した私の馬鹿力を見せつける時だ!

絶対に放してやらないんだから!



その一心で縄を引っ張り続けた。



「――勝者、C組!」

「「「うおーっ!!!」」」



私の馬鹿力のおかげか、一回戦は勝つことが出来た。



それから二回戦も勝利し、A組とC組での決勝戦が行われた。

結果として、一位は逃してしまったものの私たちC組は何と二位に輝いた。



なかなか良い結果だったんじゃない!?

みんなで協力して勝利するってこんなに嬉しいんだなぁ。





綱引きが終わり、いよいよ最後の種目となった。



……来たのね。

そう、最後の種目はクラス対抗リレーである。

前回私が盛大にやらかした種目だ。

そのせいか、今の私は心臓が破裂しそうなほどに緊張していた。



「――選手、入場!」



集合場所に集まった二年生全員が入場する。

入場してからは、奇数と偶数に分かれてそれぞれの位置についた。



流星は私の次なので、反対側でのスタンバイとなる。



「位置について、よーい」



すぐにリレーが始まった。

トップバッターは前回と変わらず陸上部の一ノ瀬君だ。



さすが陸上部というべきか、スタートが軽快である。

一ノ瀬君っていかにも陸上選手って感じのフォームだなぁ……。

そして以前のように、一ノ瀬君はトップで二番手にバトンを渡した。



前の走順では二番手もかなり速い子だったが、今回では平均タイムより少し上くらいの子に変更されていた。

抜かされはしたものの、良い順位をキープしたまま三番手にバトンを渡した。



リレーは続き、あっという間に十人近くが走り終えた。

その次に走るのは朱里ちゃんだった。



「朱里ちゃん、頑張れ!」



あ、すごい!

一人抜かした!



私の応援が功を奏したのか、朱里ちゃんが前にいた一人を追い抜いた。

ちなみに私の順番は最後の方なので、走るのはまだまだ先である。



「阿久津さん、頑張ってください!」



リレーが中盤に差し掛かった頃、阿久津さんがグラウンドに降臨した。

昼休憩のときとは打って変わって、走っている彼の顔は晴れ晴れとしていた。

彼が元気を取り戻したようで良かった。



「……」



――そして、いよいよ私の番がやって来た。



「五条さん!」

「はい!」



バトンを手にした私は、すぐに走り出した。

今のC組の順位は二位だ。

このまま行けば優勝も狙える。

しかし……



ま、まずい!



後ろにいた二人に抜かされて四番目となった。

これじゃまた……



『五条さんのせいで負けたんだよ』



少し前の辛い記憶が蘇ってきて、思わず下を向いてしまう。

そんなときだった――



「――日和!」

「……!」



流星が大声で私の名前を呼んだ。

そこで私は、ハッとなって前を見た。

すぐ前では、流星がバトンを受け取る準備をしていた。



私に向けられた彼のその瞳は驚くほどに真っ直ぐで、そこで私はようやく自分の犯した失態に気が付いた。



私ったら……しっかりしないと……!

今はそんなことを考えている場合じゃない!



私はそう思いながら走り続け、次の走者である流星にバトンをパスした。



「流星!」



バトンを受け取った流星はスタートから全速力で駆け出した。

走り出した彼はすぐに前にいた一人を抜いた。



「流星……」



その後も百メートルという限られた距離の中で立て続けに他クラスを追い抜いた流星は何と一位に躍り出た。

それからも彼は他クラスとの差を付けていく。



流星……!すごい……!



「キャー!!!」



C組の女子たちの歓声が聞こえてくるが、そんなこと気にも留めず私は彼の走りをじっと見ていた。



私と流星の順番は最後の方だったため、彼が一位になってからアンカーにバトンが渡されるまでそう時間は掛からなかった。



C組のアンカーは桐生君だ。

アンカーといえば各クラスの最速が集まっているとまで言われている順番である。



実際、彼の後ろから他クラスの強者たちが少しずつ距離を縮めてくる。

果たして桐生君は逃げ切ることが出来るだろうか。



桐生君……頑張って……!

私は心の中でそう祈り続けた。



「あ……」



私の祈りが届いたのか、桐生君は無事に逃げ切って一位でゴールした。

桐生君が一位でゴールテープを切った瞬間、C組のみんなが手を取って喜び合った。



「一位、C組!」



す、すごい……!

まさか最下位から一位になるだなんて……!



「キャー!一位!桐生君すごい!」

「皇君の怒涛の追い上げもすごかったね!」

「これも走順決めた皇君のおかげじゃん!」



喜ぶクラスメイトたちはみんなアンカーだった桐生君と――流星を褒め称えていた。



あ……流星……





最後の種目であるクラス対抗リレーが終わった後、少し休憩を挟んで閉会式となる。

そして閉会式は総合成績発表の場でもあった。



「流星!」

「……日和」



私はクラス対抗リレーが終わった後の休憩時間、流星に声をかけた。



「流星、その……ありがとう」

「……」



そういえば彼にちゃんとお礼を言うことが出来ていなかった。

流星はそう言った私をしばらくじっと見つめた後、口を開いた。

彼の口から出てきたのは意外な言葉だった。



「お前、あんな奴らに泣かされるなよ」

「え……?」



そこで流星は私から顔を背けるように背を向けた。



「お前らしくなかったぞ」

「あ……」



流星がボソッと呟いたその言葉で、私は思い出した。

彼の前で初めて見せた、自身の弱い姿のことを。



今になってふと考えた。

流星はあれを見てどう思ったのだろうか。

何故、わざわざ私を助けてくれたのか。



流星が私を好きになるはずがない。

そんなことは分かりきっている。

でも放っておけなかったってことは、一応友達としての情はあったのかな?



気付けば、去って行く流星の後ろ姿から目を離せなくなっていた。





それから少しして、閉会式が始まった。

始めの言葉を終えた後、すぐに成績発表が行われる。

壇上に立って結果を発表するのは、開会式で挨拶をした体育委員長だった。



「結果発表です」



応援発表、競技、バックボードなど各項目でのランキングが発表されていく。

そして――





「――総合優勝は…………青団!」



「……え」



その瞬間、競技で勝ったときとは比べ物にならないほどの歓声がグラウンド中に響いた。



「「「キャー!!!」」」

「「「うおーっ!!!」」」



こうして私たち青団は体育祭で見事一位に輝いたのだ。

ま、まさか優勝するだなんて……!



後で委員に確認してみたところ、最後に行われた二年生クラス対抗リレーでの得点で一位だったクラスを上回ったらしい。

な、何という奇跡……!



でもやっぱり、勝つと嬉しいものだ。

私は喜びに浸っているクラスメイトたちを見てクスリと笑みを溢した。




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