ドキドキ体育祭①
そして、いよいよ体育祭当日となった。
ついに来たのね……。
よく晴れ渡る青空。
絶好の体育祭日和である。
運動苦手だけど、せっかくだから楽しみたいな!
私のいるC組は青団だ。
ちなみに団は全部で五つあって、縦割りになっている。
つまり、私たちのチームには先輩たちもいるのだ。
これは下級生からしたら負けられないだろう。
そして今はちょうどクラス全員で円陣を組んでいるところである。
青団の全員が青色のTシャツを着ている。
「見て、今日の皇君物凄くカッコイイわ!」
「この体育祭で活躍して次こそは皇君の心を射止めてみせるんだから!」
そう言ったのは私のすぐ近くで円陣を組んでいた皇流星ファンクラブの美緒だ。
彼女は相変わらずというべきか、流星のことしか頭に無いようである。
まぁ、たしかに流星に青色のTシャツは驚くくらい似合ってるけど。
「絶対勝つぞー!」
「「「オー!!!」」」
年に一度の体育祭とだけあって、みんななかなかに気合いが入っている。
それにしても、女子たちがいつもよりキラキラしているように見えるのは私の気のせいだろうか。
ただ後ろで髪をポニーテールにしているだけの私が何だか遅れているように思える。
まぁまぁ、動きやすさが一番よ!
そして、今からは開会式である。
まず最初に行われるのは選手の入場で、選手というのはこの体育祭に参加する全校生徒のことだ。
「ただいまより、城鈴高等学校第三十回体育祭を開催いたします」
そのアナウンスで、入場行進の音楽が流れ始める。
「――選手、入場!」
最初に入場するのはA組の赤団だ。
赤団のリーダーが赤色の大きな旗を持って先頭を歩いている。
そしてその後ろを赤団の生徒たちが行進することとなる。
団ごとに三年、二年、一年の順番で入場する。
赤団に続いて入場したのはB組の白団である。
今度は白い旗を持ったリーダーに続いて生徒たちが行進する。
そして、ついに青団の番がやって来た。
うわぁ……行進苦手なんだよなぁ……。
一人ズレるとめっちゃ目立つし。
「続いては、青団の入場です。今年の青団は個性的な面々が揃っており――」
ドキドキハラハラしながらも、何とか行進を終えた。
それからもD組の黄団、E組の緑団が入場し、ようやく全校生徒が開会式の位置へと着いた。
「――全体、止まれ!」
その掛け声で、全員が行進を止めた。
それを確認した体育委員が壇上に上がって始まりの挨拶をした。
「ただいまより、城鈴高等学校第三十回体育祭を始めます」
あぁ、ついに始まるんだな……。
体育祭とか何年ぶりだろう。
去年やったというのに前世アラサーの私は、何故だか体育祭という行事がとても懐かしいもののように感じてしまうのだ。
「学校長の挨拶」
城鈴高校の校長先生が、体育委員と入れ替わるようにして壇上へと上がった。
うおぉ……ちゃんと姿見るの久しぶりかも。
「気を付け、礼」
校長先生の話って長いよなぁ……。
先生が話を終えると、先ほどの体育委員が今度は壇下でマイクを持って口を開いた。
「体育委員長の挨拶」
体育委員長が校長先生と同じようにして壇上に上がり、ベラベラと喋り始めた。
それからも式は続いていく。
「選手宣誓」
そこで前に出たのは青団のリーダーと緑団のリーダーの二人である。
あれ、あの人ってたしか……。
前に出た青団のリーダーは、桐生君が所属するサッカー部のキャプテンである彼だった。
青団のリーダーって桐生君ルートでお馴染みのあの先輩だったのか!
初めて知った。
というか自分のことで手一杯で、全然見てなかった。
「「宣誓!」」
二人のリーダーの溌剌とした声が、グラウンドに響き渡った。
こういうときの男子は何故だかすごく格好良く見えるものだ。
それから準備運動が行われ、無事開会式は終了した。
「ふぅ……」
これからはいよいよ種目の始まりである。
ちなみに私はしばらくの間応援席でお休みだ。
私の出場する種目はもっと後だったから。
開会式が終わってすぐに始まる最初の種目は百メートル走である。
そしてこの百メートル走でウチからは桐生君が出場することとなっている。
たまにお昼食べてるし、応援しに行こうっと!
「あ、桐生君!」
「……五条か」
私は青団のテントの前にいた桐生君に声を掛けた。
彼はチラリとこちらを振り返ったが、どうやら誰かと話している最中のようだった。
桐生君と重なっていてちょうど見えていなかったみたいだ。
「あれ、お話中だった?」
「――いいや、平気だよ」
そこで、桐生君と向かい合っていた人物が私の前に姿を現わした。
「……あなたは」
桐生くんと話していたのは、サッカー部キャプテンの青山先輩だった。
彼を見た私は思わず感動してしまった。
乙女ゲーム内で見た姿と本当に一緒……!
青山先輩は私の前まで来ると、優しい笑みを携えながら声を掛けた。
「もしかして、君が五条さん?」
「え、あ、はい……」
私のことを知ってるのかな?
そんな私の心の中を読んだのか、青山先輩がクスリと笑みを溢した。
「君は学園内では有名人だからな」
「アッ、ソウデスカ」
何か恥ずかしい。
私は話題を逸らすように、桐生君に話しかけた。
「桐生君、百メートル走頑張ってね!私、応援してるから!」
「……ああ、先輩たちのためにも一位獲ってくるさ」
桐生君は口の端を上げてそう言った。
彼はその外見から、冷たいように見えるけれど全然そんなことはない。
私もそう思っていた時期があったが、今となってはどちらかというと接しやすい方だと思っている。
「じゃあ、俺はそろそろ行ってくる」
「うん、いってらっしゃい!」
それからすぐに、出場選手の集合がかかり、百メートル走が始まった。
ちなみにフィールド外では既に走り幅跳びと走り高跳びが行われている。
どうやら他の種目と同時進行のようだ。
「「「桐生くーん!頑張ってー!」」」
彼のファンである女子たちの声援がグラウンド中に響いた。
それを聞いた青山先輩がハハハと笑った。
「相変わらずすごい人気だな、力人は」
「本当にそうですね……緑色のうちわも去年に比べたらかなり増えたような気がします」
そう、この学校の女子たちは”推しの色”でうちわを作るのである。
応援物の制作係が作ったうちわとは別に、それぞれが自分で推しを応援するために作ってくるのだ。
流星なら黒、桐生君なら緑、一ノ瀬君なら茶、阿久津さんなら黄、と言ったようにそれぞれのイメージカラーが定まっている。
去年と変わらず黒が一番多いけど……他の色も増えたなぁ。
二個持ちなんていう猛者もいる。
女子たちのうちわを見た青山先輩が落ち込んだような顔で言った。
「本当に羨ましい限りだよ……」
「そんなこと言って、青色のうちわもチラホラいるじゃないですか」
青色は青山先輩の色である。
青山先輩も流星や桐生君ほどではないが、女子からの人気が高い人なのだ。
大人の男性に憧れている一年生なんかは特に。
それから選手たちがスタート位置についた。
桐生君はちょうど真ん中の三レーンである。
「うお……結構速そうな子が多いけど大丈夫か?」
「きっと大丈夫ですよ!桐生君は負けず嫌いで本番に強いんですから!流星が言ってました!」
「……そうだな、力人を信じよう」
そして、ついに百メートル走がスタートした。
ピストルの音に合わせて、五人が一斉に駆け出した。
「桐生君!頑張れー!」
「力人……」
桐生君は今二位だ。
それぞれのクラスの代表が出場しているだけあって、レベルが高い。
足の速い彼でもこれはどうなるか分からない。
桐生君、頑張って!
と、思ったそのとき、彼が一歩前に出た。
「「「キャーーーー!!!」」」
女子たちの悲鳴が聞こえてくる。
彼がトップに立ったのだ。
そしてそのまま桐生君は見事、一位でゴールしてみせた。
「桐生君、すごい!有言実行ですね!」
「ああ、そうだな……何だかしみじみするよ」
「どういう意味ですかそれ」
「可愛がってた後輩の成長を感じられたような気がしてね……」
青山先輩は何故か泣きかけていた。
何だかこの人が後輩たちに好かれている理由がよく分かる気がする。
百メートル走が終わり、次は二百メートル走である。
そこで私は桐生君の元へ向かった青山先輩と別れ、自分の席へと戻った。
二百メートル走では、一ノ瀬君が出場する予定だ。
「日和ちゃん!」
「あ、朱里ちゃん!」
席に座った私の隣にやって来たのは、朱里ちゃんだった。
「次、一ノ瀬君が出場するんだってね」
「うん!一ノ瀬君速いからきっと一位獲れるよ!さっき応援してきたし」
「わぁ……」
攻略対象の一人である一ノ瀬君は、順調にヒロインとの仲を深めているようである。
おい、流星。
モタモタしてると朱里ちゃん取られるぞ。
入場し、スタートラインに立った彼に向かって朱里ちゃんが珍しく大声を出した。
「一ノ瀬君、頑張って!」
そこで一ノ瀬君がチラリと朱里ちゃんの方を見た。
「……!」
ほんの一瞬だけ一ノ瀬君の口元に笑みが浮かんだのを、私は見逃さなかった。
もちろん当の本人である朱里ちゃんは気付いていないだろうが。
「位置について、よーい」
パンッとピストルの音が鳴った。
「一ノ瀬君速い……!」
「すごいね!」
何と、一ノ瀬君は序盤から驚異的な速さを見せつけた。
体力測定のときも速かったが、あそこまでではなかったはずだ。
茶色のうちわを持った彼のファンたちがきゃあきゃあ騒ぎ始める。
結果、一ノ瀬君は二百メートル走で一位を獲得した。
きっと朱里ちゃんの応援があったからだろう。
好きな人からの声援は最大の武器なのだ。




