表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/32

今までに見せたことのない彼の優しさに困惑します

さらにその数日後のこと。

この日、校内にある第一グラウンドには二年生の生徒全員が集結していた。



よし、頑張るぞ!



今からは体育祭の練習である。

何でもクラス対抗リレーを試しに一度走ってみるのだという。

これを経て、各クラス走順を変えたり作戦を練ったりして本番に臨むようだ。



まぁ、やるしかないよね!

抜かされるかもしれないけど、全力で走ろう!

気合いだけは十分にある私は、心の中でそう意気込んだ。



しかし、ふと他のクラスの五番手を見てみると、いかにも速そうな人間が集まっていることに気が付いた。



え、待ってあの子スポーツ万能で有名な子じゃない?

あっちは陸上部の子だし……。



――ど、どうなる、私!?



そんなことを考えているうちにも、クラス対抗リレーがスタートした。

ウチのクラスのトップバッターは一ノ瀬君である。



やはり彼は陸上部なだけあって速い。

初っ端から何と一位に躍り出た。

キャー!という女子たちのはしゃぐ声が聞こえてくる。



やっぱり一ノ瀬君はすごいなぁ!

クラス対抗リレーで走る距離はグラウンド半周なので、すぐに次の走者にバトンがパスされる。

ウチのクラスは次もかなり速い子だ。

一位をキープしたまま三番手にバトンを渡した。



ま、待って……これってまさか……。



私はもしや、と最悪の事態を想定した。



そしてそれは的中することとなる。

私のところにバトンが渡されたとき、C組の順位は何と一位だったのだ。



う、嘘でしょ……。

私の番は足の速い子が集まってるのに!



そうは思ったものの、バトンを受け取った私は全速力で駆け出した。

しかし、私の危惧していた通り、私は足の速い他のクラスの子たちにあっという間に抜かされてしまった。



その瞬間、盛り上がっていたC組全体がシーンとなった。

無理もない、一位から突然最下位になったのだから。

天国から地獄とはまさにこのことである。



「嘘でしょう……さっきまでは一位だったのに……」

「急に最下位だなんて…」



走り終えてクラスの輪に戻ると、クラスメイトたちの落胆したような声があちこちから聞こえてきた。

しかも最初にやたらと速い子が固まっていたせいか、そのあとは差を広げられるばかりだった。



そして、アンカーである流星にバトンがパスされた頃には何と一位とグラウンド半周の差。



アンカーは各クラスで最も速い人間の集まり。

流星でも前の人を追い抜くことは出来なかった。



結果、彼は最下位でゴールした。



一位を獲って喜ぶクラスと、最下位になって絶望する私たちC組。



誰が悪いのか。

誰のせいでこうなったのか。

犯人探しが始まるまでそう時間は掛からなかった。



「最初は一位だったのに何で……!」

「五条さんのせいじゃない?」

「たしかに!五条さんから急に遅くなったもんね」

「それまではずっと一位だったのに……」



考えていることは皆、同じだった。



「……!」



聞きたくなくて、私は辛い現実から目を背けるかのようにして走り出した。





***





あの後、私は一人校舎裏に来ていた。



「ハァ……」



地面に座り込んでいた私は、溜息をついた。

土で服が汚れてしまうのも気にならなかった。



どうして私は何も出来ないんだろう……。

ただただ何も出来ない自分に嫌気が差した。



私は決してふざけてやったわけではない。

それでも、状況が私に味方をしてくれなかった。

それも全て、私が何も出来ないせいだ。



地面に座り込んだままグッと俯いたそのとき、背後から足音がした。



「――日和」

「…………流星?」



チラリと後ろを振り返ると、そこにいたのは流星だった。

何故彼がここにいるのだろうか。



流星は座り込んでいる私の傍に来ると、私をじっと見下ろした。



「落ち込んでるのか?」

「……流星には分かんないよ」

「……」



そう、彼に私の気持ちなど分かるはずがない。

何でも出来てみんなの憧れである彼と、一つも秀でたところが無い私。



「さっきのリレーが原因か?」

「……何も出来ない自分が嫌になっちゃって」

「……」



彼の前で初めて見せる自分の弱い姿。

暗い雰囲気にしたくなくて、彼の前ではいつも明るく振る舞っていた。

たとえ、どれほど辛いことがあったとしても。



そこで流星はしゃがみ込むと、地面に着けていた私の手を取った。



「……え?」



流星の突然の行動に困惑した。

そして彼は、座り込んでいた私を半ば強引に立ち上がらせた。



「俺がどうにかしてやるから、そんなに心配するな」

「え……?」



私の手をギュッと掴んでいる流星と目が合った。



「俺がお前を、助けてやるって言ってるんだ」

「どういうこと……?」



しかし彼は、私のその問いに答えることは無かった。

その代わりに、安心させるように私の手を握っていた両手に力を込めた。



「だから、お前が不安になる必要は無い」

「流星……?」



それだけ言って、流星はパッと手を離して私の前から立ち去った。

私はというと、何が起きたのか分からずしばらくその場から動けなくなっていた。





***




その翌日。



教室へ入ると、クラス中が掲示物の貼られている背面黒板に集まってザワザワしていた。



「な、何この騒ぎ……」

「あ、日和ちゃん!」



気になった私は、背面黒板から少し離れたところで様子を見守っていた朱里ちゃんに尋ねた。



「朱里ちゃん、あれは一体何の集まりなの?」

「それがね、リレーの走順が変わったみたい!」

「え……?」



朱里ちゃんと共に走順の書かれた紙を確認してみると、たしかに順番が大きく変わっていた。

トップバッターは一ノ瀬君のままだったが、アンカーは流星から桐生君になっていて私の順番も最後の方に変わっている。

そして私の次は流星だった。



「これ、皇君が決めたんだって」

「流星が……?」



流星がそんなことを?

普段、何事に対してもやる気を見せない流星がわざわざ?



にわかには信じられない。



「あ、皇君!」



そのとき、流星が教室に入ってきた。

クラス中の視線が彼に集中した。



流星が入ってくるのを確認した女子の体育委員が彼に駆け寄った。



「ねぇ皇君、私思ったんだけどやっぱりアンカーは一番足の速い人が良いんじゃないかな?」

「……俺よりも、負けず嫌いで本番に強い力人の方が適任だ」

「だ、だけど……ウチで一番速い皇君をこんな微妙な順番に置くのは勿体ないんじゃ……」

「どのクラスも考えてることは同じだ。最後の最後に一番速い人間を置いてくるだろう。昨日のように前半で差を付けられたら、俺でも追い抜くことは難しい」



流星のその言葉に、シンとしていたC組の生徒たちがざわめいた。



「さすが皇君!」

「興味無さそうなフリしといて、本当はクラスのことを思っていたのね!」

「何て素敵なの!惚れ直したわ!」



これには隣にいる朱里ちゃんも驚いた顔をしていた。



「皇君って意外とクラス思いだったんだねぇ……」

「……」



しかしその中で、私だけは全く別のことを考えていた。



ま、まさか……。

そのとき私の頭によぎったのは、昨日流星から言われた言葉だった。



『――俺がどうにかしてやるから、そんなに心配するな』



まさか、私のためにこんなことを……?




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ