表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/32

春の体力測定①

朝のホームルームが終わった。

体操服に着替えた私は、朱里ちゃんと二人で集合場所のグラウンドへと移動した。



「日和ちゃん、体力測定で良い結果が出るといいね!」

「うーん……まぁ、そうだね……」



もうそれしか言うことが出来ない。

良い結果なんて出るはずがないということを私はよく知っているから。



あまり記憶には無いが、去年の体力測定の総合評価はたしかDとかだったような気がする。

記録の書かれた紙を他人から見えないように隠すのに必死だったのだ。



とほほ……。

何で私って本当に何も出来ないんだろ……。



グラウンドへ行くと、体操着を着用している二年生の生徒たちが集まっていた。



「あ、みんなもう集まってるみたいだね!」

「私たちも急ごうか」



それから全員が並んだのを確認した体育主任が前に出て話し始める。

今日は良い天気でどうのこうのとか言っていたような気がするか全く耳に入って来なかった。



体育主任の長々とした話が終わると、いよいよ体力測定の始まりである。

どうやらクラスごとで最初にやるものが違うらしい。



「えー、これから体力測定を始める。C組の最初の種目は五十メートル走だ」



五、五十メートル走だと!?

九秒切ったこと無いぞ、私。



「二人同時に計測するから、二人組のペアを作るように」



もちろん私と朱里ちゃんがペアになった。



「よろしくね!日和ちゃん!」

「よ、よろしく……」



どうしよう、朱里ちゃんが七秒台とか叩き出したら。

走るの苦手なのに!



そんなことを考えているうちに、一組目の計測がスタートした。

最初のペアは大人しい系の男子二人組である。



「位置について、よーい、ドン!」



スタートの掛け声と共に、二人一斉に走り出した。

走ってるときの顔見られるのってなかなかキツイよなぁ。





「――斉藤、8.1!右田、7.9!」



結果を聞いた二人はどこか浮かない顔をしていた。

何その顔。

良いじゃん、私よりは絶対上なんだし。



「では、次のペア用意!」



一組目が終わってすぐ、二組目の計測が開始された。



え、ちょっと待って!

こんなスピードならすぐ来ちゃうじゃん!



そうして二組目の計測もすぐに終了した。

どうやらトントン拍子で事を進めていくようだ。

まぁ、たしかに長々とやってたらいつまでも終わらないもんね。



それからも計測は続き、あっという間に五組の計測が終了した。



えっと、次のペアは…………………流星と桐生君?

どうやら次は流星と桐生君の番みたいだ。



「皇君!頑張って!」

「桐生君!負けないでー!」



二人がスタートラインに立った途端、女子たちの声援が聞こえてくる。

先に走った男子たちがそれを聞いて明らかに不満そうな顔をしていたが。



「次は皇と桐生か。これは面白いものが見れそうだな」



体育教師にまでそんなことを言われるだなんて……。

私みたいなのが傍をうろついてちゃいけない人じゃん。

今になってようやく気付いた。



「位置について、よーい、ドン!」



その声と共に、二人が全速力で駆け出した。

え、速ッ!

さっきまで走ってた人たちとは明らかにレベルが違った。



「キャーーーーー!!!」



あまりの速さに女子たちの歓声に近い悲鳴がグラウンドに響き渡った。

そして私もまた、内心興奮していた。



二人とも速い!

ほぼ互角だ!

あ、でも流星のがちょっとリードしてる!

どっちが勝つかまだ分かんない!

どうなる!?







「――皇、6.3!桐生、6.5!」



体育教師が測定結果を口にした瞬間、再び女子の悲鳴が轟いた。

二人して速すぎでしょ……。

さすがはヒロインと恋に落ちる二人なだけある。



本当に何でも出来るんだなぁ……。

羨ましい!






それからも男子たちの計測は続いた。



「阿久津、6.8!」



あれ、阿久津さんも意外と早かった。

普段授業をサボっている阿久津さんが思った以上に速くて驚いた。

乙女ゲームの攻略対象補正ってやつなのか。



「一ノ瀬、6.4!」



一ノ瀬君はさすがって感じだ。

彼は誰もが認める陸上部のエースだったから。

……よくよく考えてみたら、それより上の流星バケモンじゃないか?



「わぁ、みんな早いね!」

「ねー、さすが男子って感じだなぁ」



男子の計測が一通り終わり、次は女子の計測である。

……ついにこのときが来てしまった。



一組目の女子ペアは、スポーツ万能として知られているバリバリ運動部の二人組である。



「よーい、ドン!」



流星と桐生君のときほどではないが、なかなかに迫力があった。

やはり足が速い人の勝負は見ていて楽しい。



「――原田、7.6!西川、7.8!」



その瞬間、ワーッとクラスの間で歓声が起こった。



うわぁ、速い……!

女子で七秒台は普通に凄い。



彼女たちの後にスタートラインに立った二組目は、おっとりした文化部の二人組だった。



「よーい、ドン!」



スタートと同時に二人並んで走り出す。

何だか走り方が可愛い。



「川原、9.0!清水、8.7!」



頑張った二人にパチパチと軽めの拍手が起こる。

まあまあ、女子ってこんなもんでしょ。



そして、次々と女子の計測が行われついに私たちの番がやって来た。



「日和ちゃん、頑張ろうね!」

「うん!」



朱里ちゃんが手をグーに握ってニッコリと笑った。

その可愛らしい笑顔を見た私は何だかいつもより良い結果が出るような、本当にそんな気がしてきた。

よし、頑張るぞ!



「ドン!」



その声と共に私は駆け出した。

タイムを0.1秒でも速くするというその一心で走り続けた。

同じタイミングでスタートした朱里ちゃんは既に私よりもだいぶ前を走っている。



体力が圧倒的に無い!全力疾走疲れる!



それから少しして、タイムを測っている先生の横を通り過ぎた。



「ハァ……ハァ……何秒……?」





「――白石、8.2!五条、8.8!」



え、九秒切った!?

ていうか、朱里ちゃん速ッ!



「日和ちゃん、頑張ったね!」

「うん!ありがとう!というか朱里ちゃん速すぎじゃない!?」

「いやいや、私なんてまだまだだよ!」



謙遜するなんて、何て素晴らしい子なんだろう。

それにしても九秒を切るだなんて、今年の体力測定は本当に良い結果となりそうだ。





***




五十メートル走が終わった後はアリーナに移動して握力測定である。



「日和ちゃん!空いたみたい!」

「じゃああれ使わせてもらおうか」



握力測定は各自で計測して紙に記入するという形で行われる。



「じゃあ、私からやるね!いくよ!」



右手で測定器を握った朱里ちゃんがグッと手に力を込めた。

そんな姿までも愛らしい。



朱里ちゃんは……まぁ、そんなに無いんだろうなぁ。ヒロインだし。



「出たよ!右、二十八!」



……待って、意外とあった。

良い意味で期待を裏切られた瞬間だった。



バグかと思ったが朱里ちゃんが握っている握力計にはしっかりと「28.3」と数値が出ている。

私はすぐに朱里ちゃんのシートに結果を記入した。

右手が終わったら、今度は左手を計測していく。



「左、二十五!」

「あ、朱里ちゃんって意外と力あるんだね……」

「そうかな?そう言ってもらえて嬉しいな!」



その言葉に嬉しそうな顔をした朱里ちゃんが、私に握力計を手渡した。



「次は日和ちゃんだよ!」

「う、うん……頑張る!」



朱里ちゃんから握力計を受け取った私は、サイズを合わせた後右手でしっかりと握った。

果たして五条日和は力が強いのだろうか。

去年の結果はまるで記憶に無いため、どんな数値が出るか見当もつかない。



「ふんっ!」

「お、おお……」



しゃがみ込んで私の握力計の数値を見ていた朱里ちゃんが驚いたような顔をした。



「日和ちゃん!すごいよ!右、三十三だって!」

「ウ、ウソ……!?」



続いて左も計測してみる。



「左、三十!日和ちゃんすごい!」

「……」



日和ってそんなに力強かったのか。

私も驚きだ。



「日和ちゃんって力強いんだね!」

「ア、アハハ……た、たまたまだよ……」



何だか恥ずかしくなってくる。





「キャーッ!皇君、すごーい!」

「!?」



突然大声がして振り返ると、そこには私のよく見知った人物が二人いた。



「右手の握力五十もあるだなんて!さすが皇君!」

「……」



一人は流星だ。

どうやら彼の握力測定の結果は五十らしい。



……まぁ、流星は運動なら何でも出来るからなぁ。

メインヒーロー補正ってやつか。



「皇君、握力あるんだね!私なんて右の握力十五しかなくって……」

「……」



そして流星の前でやたらとブリブリしている彼女は皇流星ファンクラブの会員の一人・川崎美緒だ。

ミルクティー色の髪の毛をツインテールにしている熱烈な流星ファンで、一年の頃は私も何かと争った記憶がある。



頬を染めて流星を見上げる美緒に対し、流星は興味無さそうに彼女を見ていた。

完全に相手にされてない……。



「日和ちゃん、あの人ってたしか皇君のファンの……」

「……行こう、朱里ちゃん」

「えっ」



私はそれ以上見たくなくて朱里ちゃんの手を引っ張ってアリーナを後にした。



「……」



そんな私の後ろ姿を流星がじっと見つめていることに、このときの私が気付くことは無かった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ