9話 那都の事情
「それじゃ、1個ずつ質問答える……前に1回NGだけは設定させてもらうね」
ナツはこの手の流れに慣れているのかスラスラと条件設定と質問の種類を限定していった。
俺はと言うと、ナツの隣で大衆の視線に晒されて今にも卒倒しそうだった。ぼく………わるいすらいむじゃないよ……おうちかえりたいよ……。
ナツが設定したNGは予想通りのもので、「恋愛関係」「プライバシーに踏み込みすぎているもの」が禁止となった。
「んじゃ答えるよ〜」
最初の質問は俺とナツの関係についてだった。
ナツが質問に答えている間に俺は、多分これ自分のクラスでやったのと同じ流れになるよなぁ…と思いながら今日の晩ご飯に思いを馳せていた。
「私とハル君は同じ小学校と中学校に通ってて、仲の良い友達って感じだよ」
恋愛関係には答えないとは言ったがこれは遠回しにそういう関係ではないと言ってるようなものだ。その遠回しな牽制は効果があったようで、周りの人はそれにより少しずつ落ち着きを取り戻していた。
それにしてもここまで人を集めるというのもすごいな。
ナツはまだ入学2日目のはずなのだが、こんなに衆目を集めているというのはやはり彼女の魅力故なのだろう。ひいき目無しにナツは可愛いからそれも当然ではあるのか。
なんかナツが傾国の美女に見えてきた。言うなら傾室の美女とかか。
益体もない事を考えて現実逃避をしていると質問は次々に進んで行き、それにナツが手際良く対応していた。
そして時間的にも最後となるであろう質問は俺の頭ポンポン事件についてだった。
これに関しては俺に非があるため俺自身が説明すべきなのだが、はたしてどう説明しようものか。初日からこんな大騒ぎになるなんて思ってなかった。
しかし説明しないままだとナツの評価に関係してくるため、俺は必死にそれっぽい言い訳も考えるために頭をフル回転させた。
「それについては俺が説明する。佐々木さんに説明させる意味も分からないし」
尻込みして佐々木さん呼びしてしまったがこれがこの場面では最善ではあると思う。ナツも笑顔のままこっちを見て何も言わないし。でも何故だろう、すごい圧がある。
「うーん。今もそうなんだけど、さっきみたいに人にめっちゃ囲まれてたから佐々木さんが怖がってるんじゃないかと思ってさ……。それを友人として心配するのは当然だと思わない?」
かと言って頭ポンポンとかいうのはあり得ないが。
語尾を質問形にする事であくまでも相手に意見を押し付けるという印象を与えずに説得力を生み出した事で、完全に質問には答えていないものの、相手に罪悪感を植え付ける事には成功したはずだ。これなら──
思惑通りクラスの雰囲気は好奇心旺盛なものから申し訳ないムードを漂わせるようになり、「確かにそうだよな。ごめん」「怖がらせてたらごめん」というような声が出てきて人は段々と散らばって行った。
これで納得しちゃうんだ……。チョロ……じゃなくて、話せば分かる人って居るんだな。
周りに集まっていた人が少なくなった事に安堵していると、最後まで1人のイケメンだけが残っていた。
風貌はモテそうだなって印象があると同時に髪が金色に染められているためチャラそうという印象がある人物だった。この学校って髪染めるのアリだったんだ。
そのイケメンは何を話すのかと思えば、開口一番頭を下げた。
「ごめん、議長として俺が皆を止めるべきだった。怖がらせてたりしたら本当に申し訳ない」
お前が議長かよ…………見た目で判断してごめんなさい。
心の中で謝罪しつつナツの方に目を遣ると少し困った様子で胸の前で手をアワアワさせていた。
「いや、大丈夫だよ〜。慣れてるしそこまで気にしないで!」
イケメン議長はその言葉で安心したのかホッと胸をなで下ろしていた。
だが、この状況は少し不味いかもしれない。この議長に悪気は無い事は分かるのだが、恐らくこの人物はモテる。この状況はナツがイケメン議長に媚びてるように見えなくもないのだ。
これだと女子達の反感を買いナツのクラスの立場が俺のせいで危うくなるかもしれない。これは杞憂かもしれないが、実際似たような事が中学時代にあったので最悪のケースを考えざるを得ない。
どうにかせねば、と必死にこの状況の打開策を考えていると、そんな事はナツも既に承知の上だったらしい。彼女は意を決したように口を開いた。
「あと、誤解を招きそうだから一応言うんだけど、恋愛関係の質問を受け付けなかったのには理由がちゃんとあってね」
話すのか?……
ナツの方に目を遣ると覚悟を決めたかのような目で俺を見ていた。
ナツが覚悟を決めてるのなら俺の出来ることはその応援だけだ。
最悪自分が何とかする。
そう心に近い頷くとナツは話を続けた。
「自慢とかじゃなくて私、中学の頃バスケ部だったんだけど部の人からも部外の人からも結構告白された事があってね。それ関連で色々あって同性の子を怒らせちゃったの。でもここでは皆と仲良くなりたいから、そういう話題は出来れば避けて欲しいなっていうだけ。恋バナとかは好きだけど誰かと恋愛ってのはまだいいかなって思ってるから。だから変に誤解はしないで欲しい」
ナツが真剣な顔で語るとクラスの雰囲気は先程の少しピリついていたそれとは変わり、女子側も擁護に傾きつつあった。
こういう対応をする事で多数を味方に付ける事が出来る。そして特に恋愛関係云々の話をナツの前で禁句にする事で、口ではあんな事言ってるけど本心では〜勢力も潰せる。
俺がやるより彼女がやる方が最適な手段ではあるだろう。それに、この学校の人は見た感じだと話せば分かるタイプの人が結構多い。
でもナツが無理をする手段ではあるためアフターケアの必要はあるかもしれない。
そんな事を思っていると昼休みの終了を告げるチャイムが鳴った。
「あ、じゃあ俺はこんなところで……」
チャイムが鳴り終わった後俺は何事も無かったかのように教室を抜け出した。逃げた訳じゃない。俺に出来る事がもう無かったからだ。だから逃げた訳じゃないぞ。
今回はちゃんとナツに謝らないとな………。余計な事をしすぎた。
反省会を開いて自分の愚行を猛省しつつ俺は自分の教室に向かった。
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