8話 質問攻め②
朝礼内容は何の変哲も無いもので朝の伝達事項と俺の自己紹介をするだけだった。編入生は他クラスには2名ほど居るらしいがこのクラスは何故か俺だけらしく少し寂しい気持ちになる。
自己紹介に関しては既に無難な物を用意してきたので変な事を言い出さずに何とか乗り切れた。痛々しい自己紹介をすると後に響くと俺は知っている。
順調に授業をこなしていき、気が付いた時には4限目が終わりを迎えて昼休みの時間となっていた。
この学校は校則で校内でのスマホの使用は禁止のため、俺は新井君と少し話した後ナツを直接呼びに44Rに向かう。
44Rは人が他クラスからも来てるせいか自分のクラスよりかなり多くの人が居り、その中でも教室のど真ん中には一際大きな人だかりが出来ていた。
確かナツは21番だから………もしかしてあの中に居るのか?
ナツは人付き合いが得意で人間関係を広げるのが好きではあるものの、友人から見てあそこまで囲まれるのは流石に許し難いものがあった。なのであの輪の中に居る人が本当にナツなのかを確認したかったのだが、人が多くて外からだと中の様子がよく見えなかった。
「かと言ってあそこの中に突っ込むのもなぁ……」
俺はどっちかと言うと人混みが苦手なので正直あそこの中に入るのは躊躇ってしまう。
44Rの入口でどうしようか迷っていると1人の女子生徒が声をかけてきた。
「君外部生?誰かに用事でもあるの?」
その女子生徒は落ち着いた雰囲気を纏っており、髪は明るい茶髪となっているが快活な雰囲気というよりかは立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花という言葉が相応しいような清楚な女子生徒だった。
「あ、はい。佐々木那都さんってこの教室で合ってますかね?……」
すると彼女はそれまでは優しい笑顔を浮かべていたが、ナツの名前が出た瞬間表情が少し険しくなったように感じられた。
「佐々木さんを探してるの?それなら多分あそこの人混みの中よ」
そして名前も分からない彼女はそれだけ言い残して去ってしまった。
俺何かしちゃったのかな……。ナツの名前に反応したと思ったけど実は俺が知らぬ間に無礼を働いたという可能性もある。次会ったら謝っておこ。
謎の美少女をとりあえず干物系美少女ウマル・ハイヤームさんと仮定して、俺は今置かれている現状を再確認した。
ウマル・ハイヤームさんが言うにはあの中にナツが居るのは確定だろう。ならどう呼び出そうか。あの中に突っ込むのは悪手な気もするしここで大声で呼ぶのも良くない気がする…。
俺は考え抜いた結果、クラスの人に頼む事にした。
別にチキった訳じゃない。ちょっと尻込みしただけだ。
「あの…佐々木那都さんを呼んでくれませんか?…多分あの人だかりの中に居るのですが少し入りにくくて…」
一番近くに居た男子生徒にそう言うと、まさかの快諾を頂き心の底から安堵した。
「佐々木那都さん居る?なんか誰か呼んでる」
すると、教室全員の視線が俺に集まった。
やばい、殺されるのか俺。
視線ビームで殺されると思い今すぐに逃げたくなったが、人混みの中のナツと目が合ったおかげで何とか踏ん張れた。
「あ、ハル君!ちょっと待ってて〜」
ナツは人混みの間を器用にすり抜けてこちらにてとてとと駆け寄ってきた。
教室は「ハル君?」「ハルってあいつか?」と少しどよめいていたが、それを気にすると今にでも死にそうなのでその全てに対して聞かないフリをした。
「どしたの?何かあった?」
「いや、一緒にお昼ご飯食べようと思っただけだ。さっきは大丈夫だったか?めっちゃ囲まれてた気がするんだけど」
そんな俺の心配をよそにナツは何事も無かったかのように淡々と話す。
「もー、人混みなんて慣れてるって〜。でも心配してくれてありがとね。お昼ご飯はそうだなぁ…今日は別々に食べても大丈夫?ハル君も教室の人と交友関係作った方が良いと思うの。私も色んな人から質問攻めされてるからそれに答えなきゃだしね」
ナツはふんすと胸を張って自慢気に言った。
ナツは俺の思う以上に強くて逞しいようだった。彼女が自分でそう言うなら大丈夫なのだろう。
これなら俺も心配する必要も無い………とは言い難いが。
自分のクラスでは答えてしまったが彼女が答えたくないような質問が来る場合も大いにあり得る。それで彼女が傷付かない保証は無い。
過保護と言われるかもしれないが彼女はこう見えてちゃんと繊細だ。
俺が守らなきゃ!みたいな感じではないが、大切な友人が傷付く可能性を看過する程薄情な人間でもない。たとえ俺のエゴだとしてもこれだけは譲れない。
「そっか……じゃあ俺も44Rで一緒に食べていい?俺のクラスの方はもうあらかた質問には答えちゃったし仲良く出来そうな雰囲気だったしさ」
言うと、ナツは目をぱちくりとさせて呆けていた。自分でもこんな事を言う日が来るとは思いもしなかった。
「それに、何かあったら嫌だしな」
俺はいつものようにナツの頭に手を軽く置く。いや、置いてしまった。
クラスが少しざわめいており、その様子を不思議に思っているとナツが身体をモジモジさせながら口を開いた。
「ハル君……それは外でやるのは……あんまり良くない………かも………」
その言葉を聞いた時は何を言ってるかよく分からなかった。
だが現状を俯瞰してみると、俺はクラスの注目の的の人物に頭ポンポンとかいう少女漫画のイケメンしか許されない激キモ蛮行をしている謎の男であることに気が付いた。
自分達にとっては慣れたスキンシップでも、それを知っているのは自分達の2人だけだ。一般的に見たらイケメン気取りのイキり野郎だろう。
あ、やらかした。
そう気がついた時には既に遅かった。こうして俺は一緒にご飯を食べるという選択肢を取った結果、更に自分の首を絞める事になったのだった。
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