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歪しい人の愛し方  作者: お麩の府


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6話 新しい出会い

 疲れた身体に対する最後の追い打ちとして4階分の階段を登らされて俺の身体は既にボドボドになってしまったが何とか力を振り絞った後、ナツと別れて教室に辿り着いた。

 時刻は8時12分を指しており、朝礼開始まで1時間程ある。教室には既に人がまばらに居て人が居ない席にもバッグだけが掛けてあったりした。

 俺の席は窓側から2列目の一番後ろの席なのだが、教室は机の数が多いせいかかなり狭く感じられた。ナツが言うには中学の方は1クラス40人の6クラス制なのだが、高校になると1クラス50人の5クラス制になるらしい。内部生からしたらこれが普通なのかもしれないが高校から編入した自分としては何故こうなるのか意味が分からなかった。

 何で高校になったらクラス数が減るんだ?……人数増えてるのに。


「それにしてもあと1時間何しようかな…」


 椅子に座ってナツを待ちつつ独りごちていると、既に着席していた左隣の席の人が話しかけてきた。


「外部生?来るの早くない?この時間に来る人って大体決まってるんだけど皆勉強してるんだよな」


 突然話しかけてきた男子生徒はフレンドリーな雰囲気を纏っている如何にも友達が多そうな人だった。 

 突然話しかけられた事に驚き本当に自分に話しかけたのか周りを確認したが、付近にも視線の先にも他の生徒の姿は無かった。


「あっ、ごめん。自己紹介忘れてた。俺は出席番号1番の新井駿(あるい すぐる)。中学からそのまま上がってきた内部生だ。よろしく」


 手を差し出してきた新井と名乗る男子生徒は雰囲気と変わらずフレンドリーな声色で気さくな人物に思えた。

 出来るだけ初対面の相手には好印象を残さねばと差し出された手を握る。ここで失敗すると目つきが悪くて感じの悪いという最悪の人になってしまう。それだけは避けなくては。


「俺は6番の石倉遥だ。外部生だから何も分からんから何かあったら教えてくれ。これからよろしく」

「おう、1年間よろしく!」


 初動の挨拶は成功したのか感じ良く終われた気がする。

 その後俺は新井君にこの学校の構造について質問していると、突如視界が誰かの手によって遮られた。


「だーれ──」

「ナツ」

「はやっ!!」


 こんな事をする人間などこの学校に1人しか居ない。そもそもこの世界に1人しか居ないと思う。


「こんな事するのナツくらいしか居ないだろ」

「もっと忖度してくれていいじゃーん。ケチ」


 忖度とか国会でしか聞かないしいつからナツは俺より偉い立場になったのだろうか。

 2人でいつものようなやり取りをしていると、隣で新井君がポカーンと目を見開いて呆けていた。


「ん?どうしたの?新井……君?」


 俺がツッコむと現実に戻って来たのか新井君は息を吹き返した。


「え、あ、いや、呼び捨てで大丈夫なんだが、2人はその……知り合いなのか?」

「あぁ、それか。ナツとは同じ小学校と中学校だったんだよ。気が合って今に至るまで一緒によく遊んでるって感じかな。あ、ナツも自己紹介しといて」


 言うと、ナツはニコニコの笑顔を浮かべて軽くお辞儀をした。


「4R21番の佐々木那都です。よろしくね〜」


 彼女の挨拶に呼応するように新井君もお辞儀をした。


「お、俺は2R1番の新井駿だ……です。よろしくお願いします」


 新井君は何故か途中から畏まった態度になってしまったが、とりあえずは最初の挨拶は無事通過しただろう。

 ふと周りを見ると教室に居る人は少しずつ増えており、教室に居る人ほぼ全員がこちらを見ていた。

 ナツは凄いなぁ。人目を集めるし礼儀正しいしこれで勉強も運動も出来るんだから完璧に思えてしまう。

 ナツは先程まで話していた俺達の会話内容が気になったらしく、挨拶を終えた後俺の机に腰を掛けた。


「さっきは何の話してたの?」

「この学校の構造についてだよ。何かこの学校ってめっちゃ実験室があるらしい。物理科実験室と化学科実験室と生物地学実験室がそれぞれ3個ずつあるんだって」


 俺も話を聞いた時は意味が分からずオウム返しをしてしまった。


「そんなあるんだ、確かにホームページに実体験を重要視とか書いてあったけどそれってそういう事だったんだ。なるほどなるほど」

「多分その実体験ってのはそれ以外にも意味があると思う……ます」


 新井君は鞄から折り畳まれたA3用紙を出した。

 中身を見るためにナツとその紙を覗き込むと紙の上には『年間予定表』と書いてあった。

 新井君は年間予定表の9月の欄に指を差したのでそこを見ると長い矢印で『研究旅行』と書いてあった。研究旅行ってなんだ?


「研究旅行?」

「ああ。本来は中3から準備を始めて9月に現地に行ってレポートを書く。書き終えたらそれを提出って感じなんだが、こういう風な旅行系がちょくちょくあるんだよ」


 なるほど、実地調査を伴うレポート活動も実体験の内なのか。確かにこれは楽しそうだな。レポートという響き以外は。


「レポート?準備?俺何も聞いてないけど」


 ナツの方を見ても首を横に振っていた。


「うーん、多分今日放課後残らされて説明を受けるみたいな感じだと思うぞ。やる事を簡単に纏めると、レポートのテーマ作成と研究意義とかだな。確か5月の半ば辺りが締め切りだから今から始めても間に合うはず。それが先生から承認されたらいざ班と場所を決めるって感じだな」


 聞く限りだとかなり本格的な班活動らしい。それに場所まで自分達で決められるって相当自由度高いな。


「班は自由なの?それとも同じクラスだけ?」


 確かにそこは重要だ。そこはどうなんだ、新井君。


「俺の記憶が正しければ……班は同じクラスの人と自由だった気がする。部屋割りは現地で決める的な事言ってたな。場所決めは班決めの後各々の班で日程と行きたい場所を調整して決めるって感じだったはず」


 なるほどなるほど。本当に自由度が高いな。レポートという存在を除けばかなり神の行事なのだが、そいつの存在感があまりにも強すぎる。


「なるほど、ありがとう。ならハル君と同じ班にはなれないのか〜。大丈夫?寂しくない?」

「大丈夫だろ、多分」


 ナツこそ寂しくないか?と言おうとしたが俺はその言葉を飲み込んだ。周りの人間がこちらを凝視している事に気が付いたからだ。多分この場で下手な発言をすると後に吊るし上げられて班を作るのが困難を極める予感がする。

 危険を察知して無事回避する事に成功し、少し安堵していると教室の前方から俺とナツの名前が呼ばれた。

 声のした方に目を遣ると眼鏡を掛けた背の高い男─42Rの担任の市原武智先生と少し老け顔の中肉中背の男性─恐らく44Rの担任が手をこまねいていた。

 俺達は新井君に呼ばれたから行ってくるとだけ言い残して先生の居る方へ向かった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


感想、ブクマ等々してくださるとモチベーションの維持になるのでありがたいです!

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