3話 佐々木那都という女
「了解。んじゃ連絡待ってるね〜」
私はそう言って彼に手を振ると彼も柔らかい笑顔で手を振り返してくれた。
あの反応だと今答えを求めるのは悪手だと判断したため、ここで話を切り上げた後夜に通話をする方向に方針をシフトして彼からの連絡を待つことにした。
私──佐々木那都は石倉遥の事が好きだ。勿論人間的にも恋愛的にも。
ハル君は昔と違って今は明るくなっているのもあり日を追うごとにこの気持ちは増幅するばかりだ。勿論やさぐれてるあの時のハル君も好きだけど。
私は長年の積み重ねが形になっている事を実感し嬉しさを胸に抱えながら自宅へ向かった。
私の家はハル君のマンションから歩いて10分程度の近場にあり、昔は彼をたまに家に招待していた。最近は自室がハル君には見せられないものになっているので家には呼べていないのだが、時が来たら彼をあそこに入れる予定ではある。まぁ入れたら出す予定は無いけれど。
「ただいま〜!」
家には誰も居ないのか返事は返って来なかった。両親は仕事でいつも帰りは遅いから居ないのは分かるのだが弟も居ないのは少し意外だった。
弟は最近チューニビョー?というものを拗らせている。その扱いに少々困っているのだが引き篭もり時代と違って元気はあるのでそこは唯一の救いだろう。意外だったのはパパとハル君の言ってる事が全く同じだった事だ。
パパも『昔は俺にもあんな時があったし見守るだけで大丈夫だ』と言っていたし、ハル君も同じような事を言っていた。男子中学生というのは皆そういうものなのだろうか。
私は自室へ向かい、PCを起動させて秘蔵のデータファイルを開いた。
これの中身は小説であり、私のとても大事な宝物だ。
タイトルは『転生したら爆乳美少女に狙われてスローライフが満喫出来ません!〜神様から貰ったチートスキル“魅了の神魔眼”で異世界無双生活。そろそろゆっくりさせて〜』で、ペンネームはハルナツアキフユというものになっている。
これはハル君のスマホのデータを漁っている時に偶然見つけたのだが、当時の私は中身を読んでもあまり内容が理解出来なかった。『欺騙』だったりの難しい単語を沢山使っているが、文が繋がっているように見えて繋がっていないような部分やご都合展開に思えてしまう箇所が多数散見され、自分の理解力と文法力の無さをいまだに痛感する。
ペンネームからして多分ハル君が書いたものなのだと推測していたが今日の発言でやっとそれが確信出来た。
「やっぱりハル君はこういう女の子が好きなのかなぁ。Hカップ……。うーん。Hってハル君の本棚の裏にある本の表紙くらいでしか見た事無いよ……」
私は自分の胸を触りながら大きく溜息をついた。
「大きい方ではあると思うんだけどなぁ。これ見ると自信無くしちゃうよ……」
ハル君の性癖はほぼ完全に把握しているためそれに沿った事は出来るのだが、身体の特徴だけは再現するのは難しい。こればっかりは自分の身体の成長に期待するしかないのだ。
「はぁ、ままならないなぁ…」
この気持ちが芽生えた時期はもう覚えていない。いつから彼が好きになったかのなんて私にとっては些事だった。大事なのは今であり、その今が順調に進んでいる。
最初は単純に好きという気持ちだけがあったが、今では私の中でハル君はかけがえのない大切なモノとなっている。私は彼が大切だからこそ、彼の思考こそ管理して操作してはいるが行動までは完全には管理していない。
勿論自由と言っても勝手な行動はさせないが、あまりに大切にしすぎると却って傷付きやすくなってしまうのは疾うの昔に学んでいるから。適度な自由を与えるのも時には必要なのだ。
私はこれからどう動こうかを脳内でシミュレーションしつつ、部屋中に居るハル君を眺めて幸せ気分に浸った。
「はぁ〜。ハル君…好きだよ……もっともっと依存させてあげるね………。待ってて」
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