22話
「おかえり、ハル君。どこ行ってたの?」
教室に戻ると俺の席には笑顔を浮かべたナツが座っていた。
「ちょっと用事が出来て下の階に行ってた……てか、図書室で待つって言ってなかった?迎えに行こうと思ってたんだけど」
「待てど暮らせどハル君が来ないから私から迎えに来たんだよ。で、あの綺麗な先輩と何話してたの」
唇を尖らせながら不満そうな口調で彼女は聞いてきた。
「まぁ色々とな。……ん?何でそれをナツが──」
「ハル君が教室に居なかったからどこに行ったのか探してたら高2の教室で美人な先輩と話してるのを見つけただけ。私がハル君の心配をしてる間、ハル君は私の事なんて考えずにあの先輩とイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャしてたんだもんね、楽しかった?」
相当ご立腹のようだ。だがナツの事を考えていなかった訳ではない。その証拠に俺は何度も帰って良いか打診していた。その度に断られていたが。
「別にそんなんじゃないって。ちょっと話を聞いてただけ。それで、ナツはどこからどこまで聞いてたんだ」
もし彼女の秘密を知ってるのならナツに対して口止めをする必要がある。
「どこからって…ハル君が美人で可愛い先輩と一緒に居たいみたいな事言ってた時からだよ」
最悪のとこだけ聞いてるじゃん……。
「それはアレだ。言葉の綾ってやつだ。その後の会話も聞いてただろ?あくまでも協力するってだけなんだ。絶対にナツは別のものと誤解してる」
「誤解?ふーん、先輩に抱き着かれて鼻の下伸ばしてたのに?」
な、何故それを!?聞いてただけではなかったか。
「それもアレだな。あの人のスキンシップが激しいってだけなんだ。俺だって男子高校生なんだから仕方ない。うん、仕方ないんだ」
「ふーん、仕方ないで済ませちゃうんだ。ハル君のバカ。もう知らないよーだ」
ふんと顔を横に逸らすとナツを見るに、今回の件はちゃんと怒っているらしい。
「ごめんって。別に俺と先輩はさっき初めて会ったばっかだし特に何かある訳じゃないんだって。信じてくれ。それに、ナツを待たせた件については謝る。この通りだ」
頭を下げ誠心誠意謝罪の意を伝えると、それちゃんと伝わったらしい。
「分かってるならいいよ……。本当にあの先輩とは何も無いんだね?信じるよ?」
「安心してくれ、なんせ名前すら知らないからな」
あの先輩は本当に誰なんだろう。黒髪ギャルだから黒ギャル先輩とでも呼ぼうか。
「え?ハル君知らないの?あの先輩、結構有名人だよ」
「え?」
ナツが言うには、あの先輩はこの学校でも数少ないギャルでありフレンドリーな性格と顔の良さも相まって男女問わず数多の生徒が彼女に告白をしたらしい。
そしてその全てを断り、皆等しく『友達』に収まったというのだ。
「あの先輩そんなに人気だったんだ……あ、そんなに有名ならなんて名前か知ってるか?聞きそびれちゃったんだよな」
「えっとね……確か朧先輩だっけな。下の名前は忘れちゃった」
朧?…………
あまりにも聞き覚えのあるその苗字は生徒会からの依頼にあった苗字と合致していた。
だが俺の想像していた朧先輩とは掠りもしない程にかけ離れていた。
もうちょっと清楚で大人しめを想像してたんだけどなぁ……。あれ、でも髪留めなんてしてたか?もしかすると双子で俺の知っている人とは別人なのかもしれない。
「もしかしてなんだけど、下の名前って夜子だったりする?」
「あ、それだ。ヤコ先輩だ」
双子じゃなかったようだ。じゃあ髪留めをしていなかったのは偶然か?それとも記載ミス?
謎は深まるばかりだったがそれはナツも同じらしく、小首を傾げていた。
「ん?でも何でハル君がそれ知ってるの?」
そりゃ生徒会からの依頼書にあったから……と言いたいが生徒会からの依頼なので流石に無関係の人に内容を説明するのは情報漏洩に該当してしまうだろう。たとえその相手がナツだったとしても。
なにか上手い言い訳は見つからないだろうか。そう考えていると1つの逃げ道を思い付く。
「あー、名前だけ知ってたんだ。新井君がそんな感じの名前を出してた気がする」
心の中で新井君に謝りつつ良い感じの言い訳を思い付けた事に一安心する。
「なるほどねぇ。……まぁいいや。もう遅いし帰ろ?完全下校時刻になっちゃうよ」
時計に目を遣ると時刻は17時27分となっていた。
「だな、帰ろ帰ろ」
朧先輩の姿を思い出しながら明日の休みに策を練らなければと思う俺だった。
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