20話
「はぁ、分かったよ。話すよ。……私さ、結構姿勢悪くてよく猫背になっちゃうんだけどそのせいでちょくちょく肩甲骨辺りに激痛が走るんだよね。それも立てなくなるくらいの痛み」
淡々と語る彼女の横顔を見ると、少し寂しそうに目を伏せていた。
「激しい運動した後とかにも激痛が走ったりもするの。症状が出たのは中3くらいからだったかなぁ。だからそれから体育祭とかの体育会系行事には出られないんだけど、それを言っても誰も理解してくれないんだよね」
「病院とかは行ったんですか?診断書とかがあれば教師側も無理矢理参加させるなんて事はしないと思うんですけど…」
「病院には行ったよ。何回も。CT検査だってしたしMRIだって撮ったよ。でも身体自体に異常は何も無いの。だから病院の先生にも姿勢の悪さが原因で筋肉が弛緩してるんじゃないかって言われた。それを学校の先生に伝えたんだけど私の見た目がこんなんだから信用出来ないとか言ってきてさ。それでもうどうしたらいいか分かんないんだよね」
彼女の口調や声色から察するにその背中の痛みというのは本当なのだろう。だが詳細な原因が不明かつ外傷があるようなものではないから他人にも伝わりにくい。
そして理解者が居ないどころか嘘だと怪しむ人が居る始末。それは教師としてどうなのだろうか。
「確かに私の見た目はチャラく見えるかもだけどさ、成績だって悪くないし他の行事はちゃんとやってるんだよ?私が好きでやってる見た目だけを理由に話を聞いてもらえないのは流石に凹むし傷付く。私、どうしたら良いのかな」
分からないというのが正直な答えだ。
外傷の無い痛みは他人から理解を得られ難い。俺も彼女が経験した痛みはどれ程のものか想像もつかない。何も出来ないし同じ痛みを経験した訳ではない人間が協力するのは無責任な事だ。それは彼女にとっても不要なものだろう。
俺はどう答えるか迷いながら地面を見つめていたが、ふと横を見ると彼女がこちらを見つめていた。彼女の表情からは先程のような自信は消えており人に絶望しているようなそんな寂しい表情をしていた。
そんな表情を見てしまってはここで投げ出す事も出来ない。流石に卑怯すぎますって…。
どう答えていいか分からなかったが、そんな『見覚えのある顔』を見てしまっては逃げる訳にもいかなかった。
結果、俺は言葉を間違えないように慎重に1つ1つ自分の思った事を紡ぐ事にした。
「正直、俺には分かりません。先輩の痛みも、先輩の経験した苦しみも。似たような苦しみなら経験した事はありますが、完全に同じではありません。なので、俺は先輩の理解者にはなれないです。ごめんなさい」
彼女は苦しそうに唇をきゅっと結び「そっか…」とだけ零した。
ここで終われたらどれ程良かっただろう。俺がそれほど無情な人間だったら彼女に無駄な希望を持たせずに断る事など容易だっただろうか。
だが現実はそんなに上手くいくものではなかった。その言葉を言うという事は責任を持つという事に同義だし本音を言えば面倒な事には極力関わりたくない。聞かなかった事にしたい。
しかし俺は彼女を助けたいと思ってしまったのだ。この中途半端な優しさのせいで。
「……でも、協力者にはなれます」
「……え?」
「先輩を、貴女を助ける事は出来ます」
嗚呼、言ってしまった。
「あなたの協力者として力を貸すことは出来ます」
「で、でも…君と私は今会ったばっかだし、君にそこまでしてもらう義理も……」
本当にその通りだ。俺に彼女を助ける義理など無い。この話だって無理矢理聞かされたようなものなのだから。
彼女もそれを承知で話したのだろう。今更頼っても誰も助けてくれないと絶望しながらも俺にその悩みを話してくれたのだ。そんな人を見たらほっとける訳がない。
「理由ならありますよ」
その言葉に彼女は呆気にとられたような顔をする。
「美人で可愛い先輩と少しでも長く近くに居たいから、ですかね」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想、ブクマ等々してくださるとモチベーションの維持になるのでありがたいです!




