19話
後ろ姿だけだと分からなかったが、こうして見ると彼女はとても可愛い顔立ちをしていて清楚系というより活発なギャル系という方が近いような感じの人だった。制服を着崩し第二ボタンまで開けているため俺の知っている伝説上の『ギャル』という存在とは合致していた。
「突然話しかけてしまいすいません。自分は42Rの石倉です。ここを通りかかった時に泣いていらっしゃるように見受けられたので声をかけさせていただきました」
「めっちゃ謙るじゃん……。てか君高1でしょ?何でこんなとこ通りかかったのさ」
生徒会長からの依頼では1人の生徒として仕事をしてくれ頼まれているため人探しをしてるという説明は出来ない。なら今の俺に出来る説得力のある逃げ方は何か。
「あー、教室を間違えてしまってですね。入学してからまだ日が浅いもので…お恥ずかしい」
そう、新入生バリアである。新入生の間違いならこれくらいの行動は見逃されるはず。
「え?君高1でしょ……あ、外部生?」
ネイルをしているのか攻撃力の高そうな長い爪を頬に当てて小首を傾げる彼女は、大人びた印象とは裏腹にとても可愛く一瞬目を奪われてしまった。
「はい。つい先日入学しました」
新入生バリアが効力を示したのか、彼女は警戒心を解き近寄って来た。
座ってたから気が付かなかったのだが彼女の身長はとても高く、安芸坂先生程ではないものの170はありそうなくらいだった。
「そっか。じゃあ仕方ないね。次からは気を付けて………とはならないんだな」
ゆっくりと歩み寄って来た彼女は俺の両肩をがっしりと掴み、その手からは絶対に離そうとしない意思が伝わって来た。
「はい?あの…自分何かしました?……」
突然力強く肩を掴まれた事と黒髪ギャル先輩の顔が目の前にある事に内心ビビリ散らかしていた俺は、足がガクブル状態で生まれたてのトムソンガゼルになりかけていたが、安芸坂先生の顔と留年が脳裏にチラついた事で何とか正気を保って彼女と接することが出来た。
「何かしましたって、私の泣き顔見たでしょ。そして現在進行形で見てるでしょ。なのに何も無かったかのように逃がす訳にはいかないよ」
この人は冗談を言っているのかと思ったが肩から伝わる握力と彼女の眼を見るとそれがマジだという事がひしひしと伝わって来る。
でも現在進行形で見てるのはあなたが顔を向けてるからですって……。理不尽だ。
「それなら見なかった事にしますから。許してください。もう、すぐ忘れるんで。安心してください。俺教師も引くレベルの記憶能力の悪さなんで。ダチョウ並みですよ」
「いいや、信じない。君には女の子の泣き顔をまじまじと見つめた責任として今から私のする話を聞いてもらう。拒否権は無いよ」
「えぇ……。俺帰りたいんですけど……」
面倒な案件を引き受けてしまった上に面倒な人に絡まれるとかいう最悪の面倒くさコンボをくらって俺の精神はもうボドボドだった。
俺の帰りたい宣言を聞いても彼女は何も聞いてなかったかのように近くの椅子を引き、会場のセッティングをしていた。
「ほら、君はここに座って」
2つの席を隣り合わせで配置した彼女は自身の右隣の席をポンポンと叩き、ここに座れと促した。
「あの……本当に見なかった事にするんで。知り合いを待たせてるのでその話はまた今度って事に出来ます?……」
ナツをこれ以上待たせるとまた怒らせてしまうかもしれない。そうなると機嫌を取るのはかなりの時間を要するので出来るだけ避けたい。
その提案に彼女は首を横に振った。
「ううん、ダメ。ここに座って。拒否権なんて無いんだから」
「…………はい」
俺は諦めて大人しく屈する事にした。ここまで粘っても帰らせてくれないのならこの提案を呑んで彼女の話を聞いた方が早く終わるだろう。
「よろしい。それに君にとってもこの状況は嬉しいでしょ。こんな美人で可愛い先輩とこんな近くに居られるんだし」
あ、それ自分で言っちゃうんですね…。確かに美人で可愛いのは正しいので自己分析が出来ているとも言えるが。
「はあ。で、話したい事って何です?」
「せっかちすぎない?もっとさ、こう、美人で可愛くて胸も普通にある先輩と少しでも近くに居たい!とかは無いの?股に付いてる?」
唐突に下ネタをぶっ込んできた上にこの人は自尊心が高すぎるのかもしれない。自己評価が間違っていない分かなり面倒なタイプだ。
「付いてますよ。あとそれセクハラですからね。話を聞けって言ったのは先輩の方じゃないですか。さっきも言った通り人を待たせてるんですよ」
彼女は「私よりその人の方が大事なんだ」だの面倒くさい人を体現したかのような言葉をぶーぶーと言っていたが、大きなため息を吐いた後話し始めた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想、ブクマ等々してくださるとモチベーションの維持になるのでありがたいです!




