第2巻 第三十九話 開門の朝
翌朝、ラグナ東門には人送の列ができていた。
誰も以前のように、門が開けばそのまま歩き出そうとはしない。台の前で、門役が出発札を読み、隣の机で荷役が荷札を読む。人と荷の札は色を変えた。名前、出発門、到着門は二人の手で確かめ、到着側にも同じ欄を残す。
蓮人は少し離れた場所から、その流れを見ていた。全門を一度に戻すのではない。最初に人送は、現役番号だけを使い、一便二人まで。荷送は薬と治療具を優先し、青麦印の縄は使わない。冬種と羊乳は、陸路の荷車が昼ごとに引き継ぐ。遅い。だが、止まったままよりは届く。
最初の人送に並んだのは、旅商人ではなく北街の治癒師だった。王都で夜番を終え、昨日なら門停止で戻れなかった者だ。腰の鞄には、患者ごとに分けた薬包がある。門役が本人の名を読み、荷役が鞄の荷札を別に読む。
「人はラグナ北街。荷も同じです」
治癒師は自分の口で行き先を言った。
「到着したら、北街門役へ二つとも答えてください」
テオが告げる。治癒師と鞄は同じ光へ入るが、到着確認は人と荷の二件で返ってくるまで次を開けない。
待つ砂の間、陸送車が門前を横切った。昨夜、二つに分けた冬種の片方を載せている。荷車の轍には新しい泥がつき、御者の目は赤い。門が動き始めても、荷をすぐ積み替え直さない。到着の返事が来るか分からない一便へ、種まきの残りを賭けないためだ。
治癒院から使いが走ってきた。
「トーマさん、薬が効きました。今朝は粥を三口」
薬師が使いの腕を掴み、幼い姉妹と荷車引きの容体も聞く。姉妹は熱が下がり始め、荷車引きは傷を洗い直せたという。届いた薬箱は空になり、次に必要な薬の札がもう作られている。
リオはその知らせを聞き、陸送の縄を締める手を一度止めた。隣ではユナが、到着名簿の新しい欄を案内所の板へ留めている。兄妹は互いを見たが、仕事場を離れて抱き合い直しはしなかった。二人が待たせたものが、生活の中へ戻っていくのを見ていた。
「次の人送、二人」
テオが言う。
札を読み上げる声は、以前より少し低い。最後に小声を足さない。終えたあと、旅客へ自分の行き先を尋ねる。
「王都南宿場」
「札にも同じ名があります。到着したら、名前をもう一度聞かせてください」
客は頷いた。門が開き、二人は白い光へ入る。ミナは計測板を見、到着の返事が来るまで次を通さない。待つ間に、列の者は不満を言うこともある。けれど門の前の板へ、次の確認時刻と、止める灯の意味が書かれている。説明を聞いていない者が、黙って列の後ろへ回されることはない。
列の三番目にいた宿屋の女将は、予定の便を逃した客二人の札を持っていた。
「本人は昨日、陸路で南へ出たよ。部屋を空けていいか、まだ戻るのか分からない」
到着側の返事だけでは、出発しなかった人の行き先は分からない。ノアが陸送の出発板を持ってくる。二人の名は、朝一番の乗合馬車にあった。
「南宿場へ到着確認を送ります。返事までは荷を保管してください」
「部屋は?」
「新しい客へ貸してかまいません。戻った場合の宿は、組合の仮払いで別に確保します」
女将は鍵を握って宿へ戻った。空室だった二部屋には、門前で夜を越した旅人を入れられる。停止中に無料で受け入れた分も、ディーンの机で宿泊日数として数えられていた。
羊乳の女は、昨日作った乳酪を籠へ並べていた。乳のまま王都へ送れなかった分だ。
「今朝の乳は門便へ戻すか」
荷役が聞く。
「半分だけ。半分はまた乳酪にする」
「門は開いたぞ」
「閉じる日が分からないうちは、売り先を二つにする」
女は白い桶だけを荷送の列へ置き、茶色い桶を陸送車へ積んだ。代替陸送は、門が直ったから消える失敗策ではなく、次に止まっても乳を捨てない道になっていた。
ディーンは、組合会館から運んだ長机の前にいた。商人組合の者と、守備隊の若い兵、薬師、荷役親方が同じ紙を見ている。
机の端には、停止中に支払われなかった日当札が積まれていた。門前で待った荷役、陸路へ乗り換えた御者、宿屋へ薪を運んだ者。ディーンは人別に、何刻働き、どの荷が止まったかを読み上げる。
「荷が届かなかったから、日当もないと言われた」
若い荷役が札を握っている。
「昨日の待機は、組合の停止判断による仕事だ。半日分を払う」
「誰の損にする」
「組合の共同損へ入れる。誤着の責任が決まるまで、お前の腹で待たせない」
ディーンは銭袋から仮払いを出した。全額ではない。残りの支払日を札へ書き、荷役と会計が一枚ずつ持つ。停止理由を公開しても、待った者へ賃金が戻らなければ生活は再開しない。
「次の停止席は、七日後」
彼が言う。
セラが眉を上げた。
「組合長が日を決めるのか」
「勝手に決めるなと、今度は言うと思った」
「理由を聞く」
「陸送の荷車が、七日で一巡する。薬がどれだけ遅れたか、日雇いが何日分を失ったか、門を一便ずつ増やせるか。その日に並べる」
ディーンは卓上の暦を開き、七日後の朝鐘二つ、と自分の手で書いた。場所は組合会館ではなく門前会議所。組合員だけで席を埋めないため、招く者の欄も作る。
薬師。荷役。陸送御者。宿屋。ミレア住民。門役。守備隊。
「患者の家族も」
リオが机の外から言った。
ディーンは一瞬、筆を止めた。患者の病名や家の事情を商人の席へ出すわけにはいかない。
「薬師が人数と期限を出す。家族本人が来たい場合は一席空ける。名前の公開は本人に聞く」
薬師が頷く。ディーンは空席一、と追記した。
「救出の名簿も」
「入れる」
「ミレアの冬も」
ノアが加える。
ディーンは一瞬、返事をしなかった。停止席が増えれば、組合の損は紙に残る。けれど住民の空欄も同じ紙に残る。
「入れる。次回から、ミレアの人も席へ呼ぶ」
オルダは壁際でそれを聞いていた。すぐに礼は言わない。
「来るかどうかは、村で決める」
「そうしてくれ」
「呼ぶなら、橋が落ちたままでも来られる日を決めろ」
オルダが加えた。
七日後に来いと書くだけでは、村からの道と日当を無視することになる。セラが崩れた橋の仮修理予定を確かめる。三日後に歩行者用の板橋、荷車はまだ通せない。
「ミレアの席は、伝声石でも受ける。現地から来る者には往復一日分の宿と日当を出す」
ディーンは日付の下へ条件を書いた。席を開くことと、そこへ辿り着けることを同じ紙へ置いた。
セラは紙の端へ、守備隊の確認印を置いた。
蓮人は、以前ならすぐに次の抜けを探していた。門の再開便数、荷の滞留、王都地下七番の調査。どれも残っている。だが、ここで自分が席の中心へ入り、全部の問いを拾えば、今日作った仕組みはまた自分を待つものになる。
「レントさん」
ミナが呼ぶ。
「三便目、青の警報灯が点きました。止めますか」
蓮人は計測板を見た。青の警報灯は、監視中で停止基準未到達の印だ。赤ではない。到着側の返事もまだない。
「判断者は」
「私と門役長です」
「なら、私は聞きます。何を待つ予定でしたか」
ミナは門役長を見る。
「到着確認。冷却値の戻り。二つそろうまで、次を通さない」
「それで」
「待ちます」
彼女が決めた。
蓮人は頷き、列の先頭へ行って待つ人たちへ伝えた。
「青の警報灯が点いています。中止ではありませんが、次の便を通す前に確認します。次の判断は、砂が落ちた時刻です」
誰かがため息をつく。だが列は散らない。荷役は陸送車へ冬種を積み、薬師は別の小箱を封じる。止まることが、何もしないことではなくなっていた。
列の横で、ユナは到着した二人の名を受け取った。テオが出発側の札を読み、ユナが到着側で本人へ聞く。兄の太い字とは違う細い文字が、二つの欄へ揃う。
「荷の鞄は」
「治癒院の荷役が受け取った。封印は無傷」
人の返事と荷の返事が揃う。ミナは青の冷却灯が規定へ戻ったことを指で示した。三つの確認が届いてから、次の砂時計を返す。
昼前、到着確認が届き、冷却灯は明るさを戻した。四便目が通る。
治癒院の使いが、洗い終えた空の薬箱を門前へ返してきた。宿主から届いた紙には、濡れた外套を干し終えた人数が書かれ、陸送車は蓮人の見える広場で冬種の残りを積む。以前の速さではないが、止めた間に途切れた仕事が、それぞれ別の道からつながり直していた。
門前の列からも、次の判断時刻を見て茶を買いに離れ、鐘までに戻る者が現れた。
ディーンは停止席の紙へ、次回の日付を自分の手で書いた。
その下に、セラが「停止理由と停止損失を双方で確認」と加えた。
門の前には、新しい朝の列が続いていた。




