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俺に魔法は使えない。でも、なぜ王国の結界が落ちたのかは説明できる  作者: pj.masta


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第2巻 第十三話 番号で分かれる

レントは地名を書かない木札を、十枚作った。


 荷役場の端にある空の石槽へ、札を一枚ずつ落とす。札には門の番号だけを彫った。荷送一番、旅客二番、補助四番。今は廃止されている番号も混ぜた。地名を読めば、古い呼び方が紛れる。なら、まず地名を外して、番号だけで何が動くかを見たかった。


 石槽の向こうに、使わない荷車を置く。荷車には何も積まない。門へ札を近づける役の門役は、昨日テオ以外で差を出した男に頼んだ。ミナが門枠から離れ、赤の確認灯、白の残留灯、雲母板の三つを同時に見る。


「番号を読まない。札を置くだけです」


 レントが言う。


 一番。


 札を石槽へ落とす。反応はない。


 二番。


 同じ。


 四番。


 門枠の下で白の残留灯がわずかに灯り、すぐ消えた。ミナが回収を止める。誰も近づかないまま待つと、灯は完全に消えた。


「札の彫り方は同じです」


 門役が言う。


「同じに作りました」


 レントは頷く。


 七番の札へ手を伸ばす前に、リオが荷役場から持ってきた青縄を石槽のそばへ置いた。六瘤の返し縄だ。


「これを置く理由は」


 セラが尋ねる。


「番号だけでは、昨日の残光と比べられません。縄の印は旧経路の候補です。ただし、札へ結びません」


 縄は触れさせず、見える場所へ置くだけだった。


 七番。


 札が石槽の底へ触れた。


 赤の確認灯が点いた。


 全員の体が固まる。次に青の冷却灯が、廃門にはあるはずのない場所で一度だけ光った。門枠の脇、苔の下からだ。


「冷却流がある」


 ガルドが低く言った。


「廃止した門に?」


「廃止したなら、ない」


 赤は二度明滅し、白へ変わった。石枠の内側に、薄い字が浮く。誰も声に出していないのに、番号だけが読めた。


 七。


 そして、受理の印。


 ミナが片手を上げる。


「中止。札を取らないでください」


「取り出せないのか」


 門役が問う。


「白の残留灯が消えるまで、石槽にも触れません」


 レントは目を閉じかけた。淡い線が、札から門枠へ伸びる。さらに、その線は北の森の方ではなく、見えないどこかへ折れていた。だが線を追っても、先の場所や理由は見えない。見えたのは、七番が廃番として扱われていない、という候補だけだ。


「廃番七号が、現役として応答した」


 彼はそう言った。


「地名ではなく番号に」


「番号だけでは、まだ足りないかもしれません。青縄を見せた影響も残っています」


「なら、もう一度」


 テオが言った。皆の後ろにいた彼が、拳を握っている。


「縄なしで、七番だけ。僕が読むなら、声も別にできる」


「人は使わない」


 セラの声は鋭かった。


「次の試験は、今の反応が消えてからです。今日中に答えを出すために、門を開ける試験へ進むことはしません」


 テオは唇を閉じた。


 白の残留灯が消えるまで、誰も札に触れなかった。風が青縄を少し動かす。六つの瘤の影が、石の上へ落ちる。


 石槽の札を回収したのは、日が傾いてからだった。ミナが白の残留灯の消灯を三度確認し、ガルドが木の鉤で札を引き上げる。札の表は乾いていたが、裏の七という彫りへ、白い粉が入り込んでいた。


「持ち帰って削れば消える」


 門役が言った。


「削らない」


 レントは止めた。


「この札は、七番が何へ返事をしたかを残します。次は別の札を作る」


 テオが、札を受け取る手を見ていた。自分の癖のせいだと思えば、札を消したくなるのかもしれない。レントは彼へ札を渡さず、保全箱へ入れる役を門役長へ頼んだ。


 日没の鐘が鳴るころ、北の門枠は再びただの石に見えた。だが苔の下に冷却流が残るなら、廃止の札を貼っただけで、仕事が終わっていたわけではない。


 保全箱を閉じたあと、レントは試験に立ち会った者へ、その場で次の約束だけを伝えた。七番の札を見つけても、持ち込まない。青縄を見つけても、切ったり捨てたりしない。門が赤く灯っても、通れると言わない。


 約束は、派手な対策ではない。だが荷役、門役、見張りの三人が別々に動く場所では、同じ言葉で止まれることが必要だった。


 テオは最後まで残り、石槽の周りに張った紐を回収した。手つきは遅い。


「俺が言わなければ、七番は反応しなかったかもしれない」


「そうかもしれません」


 レントは否定しなかった。


「でも、札だけでも反応した。あなた一人の声だけで、全部を説明しないでください」


 テオは何も言わず、紐を束ねた。その束を、青縄とは反対側の棚へ置く。次に試験をするとき、余計なものを近づけないための仕事だ。


 翌朝の再確認では、レントは七番の札を使わなかった。四番の札を同じ石槽へ置き、青縄のある時とない時を比べる。四番はどちらでも白の残留灯を一度だけ揺らした。七番だけの反応ではない可能性が増える。


 それでも、冷却灯が点いたのは七番だけだった。


 ガルドは苔を少しだけ剥がし、石の継ぎ目へ耳を当てた。流れの音は聞こえない。けれど指先へ、冷えた震えが返る。


「流れてるんじゃない。流れる準備をしてる」


 レントはその違いを書き留めた。準備だけなら、門を開かずに止められるかもしれない。だが、止めるために石を外せば、どこかで待っている人の呼び鈴まで切るかもしれない。


 テオは、石槽のそばで門番の姿勢を取った。札へ触れない。綱にも触れない。通行人が近寄れば、二歩手前で止める。昨日までなら、彼は自分の小声だけを怖がっていただろう。いまは、誰かが札を落とすことも、荷役が縄を置くことも、同じくらい見ていた。


 レントは北の石枠を振り返った。答えはまだ一つにならない。だからこそ、次に変えるものを、一つずつ決めるしかなかった。


 午後、レントは七番と同じ大きさの木札をもう一枚作らせた。彫る数字を入れず、重さと木目だけを揃える。番号がない札では赤の確認灯は点かなかった。門役長が札を置く向きを反対にしても、何も起きない。


 次に、空札へ墨で七を書いた。浅い字では反応しない。彫りを深くすると、石槽の下で冷えた震えが戻った。


「声でも縄でもない。札の番号が、ここで読まれている」


 ミナが言った。


「少なくとも、番号を彫った札が条件の一つです」


 レントは訂正する。今度は青縄を遠ざけ、テオにも口を閉じてもらった。それでも白の残留灯は揺れた。七番だけを、一つの人の失敗にする理由がまた減った。


 札を回収したあと、レントは石槽へ蓋をした。次の人が落とし物と思って札を入れないよう、蓋の上へ赤い布を結ぶ。


 ガルドは石槽の蓋を叩き、釘の浮きがないか確かめた。蓋が外れれば、子どもでも札を落とせる。門役長は赤布の横へ「試験中、投入禁止」と太く書く。文字を読めない者のため、手を止める形の印も添えた。


 夕方の見張りが替わると、テオは新しい兵へ七番の話を全部はしなかった。ただ、赤布の箱へ触らせないこと、白の灯が消えるまで近寄らないことを伝えた。事情を知る者だけが安全を守る形に、戻さないためだった。


 試験札は三枚とも、布で包んで別々の箱へ入れた。番号なし、浅い墨の七、深く彫った七。門役長は箱の外へ、反応した順ではなく、作った順を書いた。結果に都合のよい札だけを後で選ばないためだ。


 レントはその箱を、見張りの机へ置いた。今夜の兵が交代しても、七番だけが特別だったことではなく、何と比べたかを見られるように。


 夜の兵は三つの箱を見て、番号の札だけが危ないのではないと理解した。彫りの深さ、置く向き、近くの縄。門の前では、ひとつの小さな違いが、人を別の場所へ押すかもしれない。


 だから兵は、交代の鐘が鳴るまで、蓋の上の赤布を何度も確かめた。


 レントは、兵の見張り表へ七番の札を見た時刻を足した。これから同じ反応が起きるなら、誰が何を持ち込んだ直後だったか、あとで比べられる。今は分からないものを、忘れないための欄だった。


 テオは表の空欄を見て、明日の番で自分が書くと言った。声を出さずにできる仕事を、彼は自分から引き受けた。


 見張り表の紙は、夜露で端が少し波打った。テオは石を置いて押さえ、交代者の名を書き足す。紙が湿れば、数字まで滲む。門の異常を追う前に、見たことが読めなくならないようにした。


 北の石枠には、夜の霜が静かに降り始めた。


 兵は火を近づけず、灯だけを見守った。


 夜番は黙って立った。


 廃番七号は、いまも誰かの荷を待つように、現役の返事をしていた。

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