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俺に魔法は使えない。でも、なぜ王国の結界が落ちたのかは説明できる  作者: pj.masta


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第5巻 第24話 基準内の試験操業

晴天試験操業の朝、黒嶺の空は雲一つなかった。


 オルドは坑口の板壁に貼った紙を、出勤する坑夫全員へ読ませた。採掘量は通常の七割。午前の弁は一回、午後の弁も一回まで。坑内、溜め場、上流、中流、下流で、朝、昼、夕に二本ずつ採る。二本は同じ刻に満たし、青と白の別番号で二つの測定台へ送る。


 重い健康兆候は一つでも出れば、水番か治癒院のどちらかが即時停止。それ以外は、異常色、決めた人数を越える症状増加、魚の異変のうち二つが重なれば、一時停止の札を出す。オルドは停止条件も省かずに読んだ。


 紙の下には、今日の担当が並ぶ。排水輪はバンとエダ。水位はオルド。採水箱の入口確認はユードの妻とリナ。坑内の瓶はオルドが採る。採掘を落とした分、待機する者には基礎賃が出る。試験のために槌を置く者を、休んだ者としては扱わない。


 「七割なら、昨日と同じようには掘れない」


 若い坑夫が言った。


 「同じように掘る日じゃない」


 オルドは答えた。


 「晴れて、水が少ない日に、何が出るかを見る。出なかったなら出なかったと出す。出たなら、弁と水位を先に変える。今日の槌は、帳面の外で振るな」


 坑夫たちは頷いた。誰も、町の水を軽く見ているわけではない。だが、晴天の日に鉱山の名がまた紙に並ぶことは、賃金箱の先にある冬を揺らす。だからこそ、約束した量より多く掘らないことも、坑夫側が守らなければならなかった。


 試験のため、坑内の荷車には七割用の白札が結ばれた。通常なら一荷車へ積む鉱石箱を十とするところを、七つで止める。積み残した三つは、入口の乾いた台へ置く。台の前にはユードが立ち、箱を動かさない。鉱石を掘った者が、あと少しなら積めると考えても、箱の数が先に見えるようにするためだった。


 「箱が残れば、帰りの荷車も減る」


 ユードが言った。


 「減る分は、今日の帳面に出る」


 オルドは答えた。


 「帰りの車が少ないから、採掘班の賃金を引くと言われないように、試験の七割だと箱にも書く」


 入口の外では、町から来たミラが、その白札を見ていた。水を調べるための紙が、坑夫の働きを少なく見せる紙になれば、次に誰も共同採水へ箱を出さない。ミラは水番所の紙へ、白札七、入口に残した箱三、と写した。鉱山の人だけが数えた七割ではないことを残すためだった。


 午前一刻、最初の水位は指二本だった。排水輪は一定の音で回り、沈め槽の泥は昨日までより少ない。雨が止んで川が下がれば、坑道の壁から来る水も少し遅れて減る。オルドは板帳へ、採掘開始、七割、坑内水位指二本、排水輪正常、と書いた。


 坑内の朝の二本は、昨日の公開採水と同じ順番で採った。入口で空瓶と青の組三十一、白の組三十一を見せる。坑内では集水溝の同じ石の前で、二本を同じ鐘の刻に満たす。外へ出てからリナが二つの栓を確かめ、マラが蜜蝋へ別番号を押す。オルドは自分で採った組箱を持ち運ばず、青と白の箱は別の運搬者が受け取った。


 溜め場、上流、中流、下流の残る四組八箱も、朝のうちに出た。採る人と運ぶ人は昨日と替わっている。上流の組箱を鉱山側のエダが場所指定者として見届け、中流は畑番のハグが立ち会い、下流の組箱は治癒院の看護者と鉱山側の運搬者が一箱ずつ受け取る。青と白それぞれの封印番号は、栓、箱、帳面に三つずつ残る。


 午前の五組十箱を運ぶ間、リナは治癒院から届いた聞き取りを、サナと一緒に読んだ。朝の腹痛は二人。手の震えは一人。いずれも前日から続く者で、新しい発症ではない。サナは、数が少ないことを「安全」と書かず、前日から継続、東の泉の水を使用、と添えた。試験の日に北水路を飲まなかった人が多ければ、症状が少ない理由も一つではない。


 オルドは、その紙を見てから坑内へ戻った。水を見ている者が、水だけを見ていないことが分かる。だから、自分も水位板だけを見て今日の青を喜ぶわけにはいかなかった。


 昼の採水は、朝と違う人が二本ずつの瓶を持った。坑内の空瓶確認には、ユードの妻と火の見の老人。溜め場はマラ、中流は畑番の孫娘、下流はミラが立つ。オルドが坑内から戻ると、マラは二つの栓の封印を読む前に、彼の手袋が朝のものと同じ泥で濡れていることまで帳面へ書いた。


 「そんなことまで必要か」


 バンが言った。


 「今日の瓶が坑内から出たと、明日も言えるように」


 マラは答えた。


 「泥があるから悪いとは書かない。昨日と違う泥なら、違うと分かるように書く」


 オルドは、その言葉に何も返さなかった。排水の仕事では、壁の湿りや泥の匂いを覚える。だが、覚えているだけでは次の人に渡らない。マラの紙に残るなら、彼がいない日に別の者も同じ瓶を見られる。


 昼まで、二つの測定台の石はどの瓶でも基準外の色を示さなかった。


 未使用石も、隣領の比較器具も、坑内と溜め場で赤へ寄らない。中流の魚は流れの中央を泳ぎ、岸の草には寄っていない。治癒院から届く紙にも、新しい腹痛や手の震えは、停止基準の数まで増えていなかった。


 午後、測定台の外には、町の人が数人集まった。結果が出るまで入らない約束だったが、窓から青い光が見えると、皆が息を詰める。ミナは扉を閉めず、ただ机の内側へ入らない線だけを白い粉で引いた。測る人を邪魔しないことと、測ったことを隠さないことを、同じ場所で守るためだった。


 比較器具が青の範囲を示したとき、パン屋の使いが小さく笑った。だがリナは、掲示の紙を先に書かなかった。五組十箱の封印番号、受領の刻、測定に使った器具、沈殿を待った溜め場の水、そのすべてが帳面に並んでから、初めて色を書く。


 「青だったら、すぐ水を戻せると思ってました」


 使いが言う。


 「私も、前はそう思っていました」


 リナは答えた。


 「でも、今日の青が何の青かを言わずに戻したら、次の雨や次の弁で違うことが起きても、誰も止められません」


 オルドは窓の外の人々を見た。晴天試験が、鉱山の無罪を決める舞台にならなかったことに、少しだけ救われる思いがした。赤が出なかったことは、坑夫の家にとって大事だ。けれど、赤が出なかった紙だけを持って商会へ行けば、次に出た赤を隠す理由にもなる。だから今日の紙には、青の横に今の試験の条件を誰でもきちんと読める形で残す。それが、明日の水と賃金を守る。


 「晴れても出ない」


 エダが、測定台の青を見て言った。


 声には安堵と、言いにくい戸惑いが混じっていた。雨が薄めたなら、今日こそ色が変わると思っていた者が、鉱山にも町にもいる。だが、再現しない結果を、なかったことにして次の仮説へ飛べば、共同採水は噂を紙へ写すだけになる。


 「出ないと書く」


 オルドは言った。


 「採掘七割、午前の弁一回、晴天、水位指二本。今日、この条件では出なかった。それ以上でも、それ以下でもない」


 午後、弁を開ける刻が近づいた。バンが沈め槽の前で、水位板を見ている。帳面では、採掘七割なら昼までに指二本半へ上がるはずだった。昨日までの試験停止と、通常操業の間を取った値だ。


 「二本半まで、あと少しだ」


 バンが言った。


 オルドは板帳の朝の数字と、壁の刻みを見比べた。水面は、予定より下にある。指一本半に届くかどうか。水が少なければ良い、とすぐには言えない。採掘を七割へ戻したのに、坑内へ入る水が急に減る理由も、排水輪がいつもより多く汲んでいる理由も、帳面には書かれていない。


 「輪を見たか」


 「軸は鳴ってない。回す刻も、朝から変えてない」


 バンは答えた。


 「弁は」


 「まだ開けてない」


 坑道の水位だけが低いままなら、外へ出す量を減らせるかもしれない。だが、低い理由を知らずに弁を遅らせれば、別の溝へ水が回っていることを見落とす。オルドは予定どおり、午後の弁を一回だけ開けた。外の溜め場へ出た水は、封印のある瓶へ採られ、住民側と鉱山側の帳面に刻が残る。


 夕方の測定も、基準内だった。


 ノアは掲示の紙へ、坑内、溜め場、上流、中流、下流、すべて仮基準内と書いた。横には、採掘七割、弁二回、雨なし、停止基準の症状増加なし、と添える。オルドは、その紙を読んでから、自分で一行足した。


 「本結果は、黒嶺の水と症状の関係がないことを示すものではない」


 ノアは、すぐに筆を止めた。


 「町側が納得しますか」


 「納得させるために消す文じゃない。今日、出なかったことを、鉱山が無罪になった紙へ変えないためだ」


 オルドは答えた。


 「俺たちは、晴れて七割掘って、二回弁を開けて、赤を出さなかった。それは出す。だが、鐘の空白も、子どもの震えも、これで消えない」


 夕暮れ、坑夫たちは槌を片づけた。日当の帳面には、採掘班、排水班、待機班と別々に名がある。ユードの妻は基礎賃の印を確かめ、靴職人へ渡す銅貨を布袋へしまった。町の水が解決したとは誰も言わない。それでも、結果を隠さず出したことで、今日の賃金が噂だけで消えなかった。


 オルドは、最後に沈め槽の水位板へ戻った。


 朝の指二本。昼の見込み二本半。午後の弁を開ける前は、指一本半。夕方、弁のあとでも指二本に戻っただけだった。


 採掘量、排水輪の刻、弁の回数は、帳面と合っている。


 排水槽の水位だけが、記録と合わなかった。

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