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ドラゴンテイム 〜モンスターと心を結ぶテイマーの物語〜  作者: FP (エフピー)
第四章 フロワ編

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第九十九話 三百年前の大循環 前編

 ペールの山頂にある祭壇は、雲を抜けたその先だった。


 祭壇のまわりには、雪に埋もれた柱の残骸や、崩れかけた石壁がいくつも残っていた。


 どれも今の時代の造りじゃない。


 ネージュは、その祭壇の中央へゆっくり歩いていった。


 長い首で辺りを見回し、三百年ぶりの場所を確かめるみたいに、周囲を見回す。


 それから静かに口を開いた。


「今から話すことは、三百年前この世界に起こったことだ」


「うん」


 僕は自然と、頷いた。


 それから、ネージュは祭壇の奥に残る古い石板へ視線を落とした。


「じゃあ、始まりから話そうか」


「大地の循環が狂った、あの日のことを」



 三百年前。


 ペール山。


 その日、山はいつもと違う静けさに包まれていた。


 長くこの山に棲んでいたネージュには、それがはっきりと分かった。


(なんだろ?)


 山頂近くの岩場で、ネージュはふと顔を上げる。


 足元の雪を、細かな振動が伝わってくる。


 大地の奥を何かが流れるような、そんな感覚だった。


 目を細める。


(魔力の流れが変わった……)


 それは気のせいなんかじゃなかった。


 大地を巡っているはずの魔力が、急に不自然な動きを始めていたのだ。


 本来なら、ゆるやかに、大地の呼吸みたいに流れているもの。


 それが、ひとつの方向へ引っ張られるように偏り始めている。


(強い魔力が集まってくる)


 ネージュはその場で翼を少しだけ広げた。


 雪がふわりと舞う。


(あっちからだ……)


 視線の先は、遠い遠い地平線の向こう。


 山のモンスターたちも、それを感じていた。


 雪の下に潜む者たちが落ち着きをなくし。


 崖に巣を作るものたちが、意味もなく鳴き交わし。


 普段は姿を見せない大型の獣までが、唸っていた。


 ペール山が、ざわついていた。



 ネージュはそこで一度、言葉を切った。


 祭壇に吹く風が、僕のローブの裾を揺らす。


「それが始まりだったんだ」


 ネージュは静かに続ける。


「最初は、ただ流れが変わっただけだった」


「でも、あの時から、全部が一気に傾き始めた」


「大循環……」


 僕がその言葉を口にすると、ネージュがこちらを見る。


「そう」


「大循環が始まったんだよ」


「ちょうど、三百年前にね」


「リュミエールが言ってた」


 僕は思い出しながら言った。


 ネージュは頷く。


「彼らとの出会いも、それがきっかけだった」


「スラガの大地、そう呼ばれる場所がある」


「そこから、魔人界への門が開く」


 ネージュの声が少し低くなった。


「その門を通して、魔人界からこの世界に大量の魔力が流れたんだ」


「それと、モンスターを引き連れて、この世界に魔人達がやってきた」


 僕は、無意識に拳を握る。


「そして一斉に、大地をモンスターで覆い尽くし人間達を襲いはじめた」


「それが……大循環……」


「正確には、違う」


 ネージュは首を横に振る。


「本来、大循環の目的は違うんだ」


「魔人界とこの世界の魔力の均衡を保つための、大きな流れ」


「それ自体は、悪いものじゃない」


「でも、なぜか魔人は人間界を滅ぼそうと考えたんだ」


「魔力の流れを使って、モンスターをこの世界へ雪崩れ込ませた」


「その影響を受けたのが、ペール山があるこの場所だったのさ」


「なんでペール山だったの?」


 僕が聞くと、ネージュはすぐに答えた。


「それは、この大地の魔力循環を司る場所だからだよ」


「ガルディアにも、ウルズ大森林って場所があるでしょ」


「魔力が濃くて、モンスターが集まるっていう」


「そうだね」


 僕は頷く。


「集まるのには理由があるんだ」


「大地を巡る大循環、その太い通り道」


「そこへ向かって、モンスターは流れる」


「そこまでは別に自然なことなんだよ」


「魔力が流れ、循環することこそ、自然の摂理だからね」


 魔力の濃い場所。


 モンスターが集まりやすい場所。


 そう考えると、今までそういう場所には必ず強いモンスターがいた。


「でも、それがおかしくなった」


 ネージュは、少し遠いところを見る目をした。


「そこで立ち上がったのが、この世界の番人」


「光の竜、リュミエール」


「光の竜……」


 ネージュは静かに続きを言う。


「魔力の循環がおかしくなってから数日」


「モンスターと共に、それは現れたのさ」


「魔人ターク……」


 その名前を言った瞬間ネージュの表情が変わった。


「魔人……」



 三百年前。


 ペール山。


 ネージュは山頂近くから、フロワの街を見下ろしていた。


 雪原の向こうの街。


 そこには、人の暮らしの明かりがあった。


 けれど、その周囲を覆う魔力の流れは、日に日に濃くなっているのが分かった。


(こんなに毎日毎日、モンスターが押し寄せてるのはおかしい)


 山道の下では、雪を蹴散らしながら見慣れない群れが走っている。


 どれもペール山に元からいたものではなかった。


(雪原も危なくなる)


(このままだと、あの街もきっと飲み込まれる……)


 ネージュは翼を少し広げた。


 せめてペール山へ近づくものは払い、この地の秩序を守ろうと動いてきた。


 けれど、現れるモンスターの数が多すぎる。


 そして、流れてくる魔力そのものが、日に日に濃くなっていく。


 その時だった。


 凄まじい魔力が、この地へ迫っているのを察知した。


 ネージュの全身の羽が、一気に逆立つ。


(なんだ……)


 それは今まで感じたどんなモンスターとも違った。


(感じたことないくらい強い魔力だ)


(僕より、よっぽど強い)


 空気が張る。


 それから少しして、それは姿を現した。


 黒い外套のようなものをまとった、一人の魔人。


 雪の白さの中で、その存在だけが異物みたいに濃く見える。


 目は鋭く、全身から滲む魔力は、空間そのものを歪めているようだった。


 魔人タークは足を止め、山頂の気配を見渡した。


「ここが、この地の循環点か」


 その一言だけで、ネージュは本能的に何かを悟った。


(何者だ......)


 ネージュは雪を蹴り、タークの前へ降り立った。


 翼を広げる。


 言葉は通じないが、ここより先へは行かせない、という構えだった。


 タークは、わずかに眉を上げた。


「ここの主か」


 ただそのまま立ちはだかる。


 タークは口元を歪めた。


「ほう、荒らさせないとでも言いたいのか」


(ここから立ち去れ)


 タークは肩を鳴らす。


「まぁいい」


「循環点は破壊させてもらう」


(そんなことしたら世界が……)


 タークの目が冷たく細まる。


「あくまでどかないか」


 ネージュが一歩も引かないでいると、タークは小さく息を吐いた。


「ならば」


「分からせるまでだ」


 タークが手のひらをかざす。


 その瞬間、周囲の空気が一気に重くなった。


(すごい魔力だ……)


 黒い闇が、手のひらの前に集まり始める。


 霧とも炎とも違う、密度の高い闇の塊。


 それが渦を巻きながら膨れ上がっていく。


「〈〈ダークネビュラ〉〉」


 打ち出された闇は、そこにあった空間ごと押し潰すような圧を伴っている。


(まずい、受けないと)


(〈〈アイスウォール〉〉)


 ネージュがとっさに防壁を展開する。


 魔力を帯びた氷の壁が前方に広がった。


「無駄だ」


 タークの声と同時に、その氷壁はあっさりとかき消された。


 次の瞬間、闇の塊がネージュを飲み込んだ。


 世界が揺れる。


 羽が裂け、体が弾かれる。


 雪が大きく爆ぜ、山肌に深い傷が刻まれた。


 ネージュは何とか踏みとどまったが、その一撃だけでもう立っているのがやっとだった。


 桁が違う。


 タークはそんなネージュを見下ろした。


「わかるなら、消え去れ」


「同胞はなるべく手にかけたくない」



 現在の祭壇の上で、ネージュは一度目を閉じた。


「圧倒的だったよ」


 静かな声だった。


「僕は立ち尽くすことしかできなかった」


 僕は言葉を返せなかった。


 目の前にいるネージュが強いのは、もう十分すぎるほど分かっている。


 そんな存在が、何もできなかった。


 それがどれだけ絶望的な相手だったのか、想像するだけで息が詰まる。


「魔人の強さは、やっぱり異次元だ」


 ようやく、それだけ言う。


「そうだね」


 ネージュは頷く。


「覚悟したよ」


「ここで終わるんだってね」


「僕の存在はいい」


「でもこの大地は、それだけは守り抜きたい」


「そう思った、その矢先だった」


 ネージュが、ゆっくりと僕を見た。


「心の中で、声が聞こえたんだよ」



 三百年前。


 タークがもう一度手を上げようとした、その時だった。


「ん……?」


 タークの目がわずかに細まる。


「なんだこの魔力は……」


「フォンセ……いや、違うな」


 ネージュもまた、別の気配に気づいていた。


 何かがネージュに語りかけてくる。


(何?)


 次の瞬間、空から影が落ちる。


 竜だった。


 翼で雪を巻き上げながら、一体の竜が山頂へ降りてくる。


 その背には、二つの影。


 一人は人の姿。


 もう一人は、魔人だった。


「ターク! そんなことをしても何も解決しない!」


 先に声を上げたのは、魔人の女性だった。


 その声には焦りが滲んでいる。


 タークの顔が大きく歪んだ。


「アルミ……お前、まだそんなことを」


「では、あの世界はどうする」


 アルミと呼ばれる魔人は竜の背から飛び降り、真っ直ぐタークを見た。


「人間界を滅ぼしても魔人界は救われない!」


「今すぐこんなことはやめて帰ろう」


「帰る?」


 タークは吐き捨てるように笑った。


「ダメだ」


「オレはこの世界を滅ぼし、魔人界を元に戻す」


「みんなそれで一致してここまできたはずだ」


「ここまで待った……三百年だ」


「これで全てが終わる」


 タークの目には、執念めいたものが宿っていた。


「アルミ、お前も戻って来い」


 アルミは、その言葉に一瞬だけ目を伏せた。


 けれど、次に顔を上げた時には、もう迷っていなかった。


「どうしても、ダメなんだね……」


「くどい」


 タークの声は冷たい。


 その時、竜の背にいたもう一人がゆっくりと前へ出た。


 ただタークを見据え、その手をゆっくりと構えた。


 それだけで、空気が変わる。


 アルミが息を吸い、はっきりと言った。


「じゃあ、私たちが全力で止めるよ!」


 タークの口元がつり上がる。


「いいだろう」


「来いっ!!」


 その声と共に、三百年前の戦いの幕が上がった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

次話も読んでいただけると嬉しいです。

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