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ドラゴンテイム 〜モンスターと心を結ぶテイマーの物語〜  作者: FP (エフピー)
第四章 フロワ編

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第九十七話 神鳥の祠

 巡礼の列は、ペール山を登り続けていた。


 雪を踏む音だけが、辺りに響く。


 息は白く、足は重い。


 空はずっと曇ったままで、どこを見ても灰色と白しかない。


 その中を、白灰色のローブの列がゆっくりと進んでいく。


 見えない場所では、仲間たちが護衛についている。


 その後も、雪の陰や岩場の奥に、いくつかモンスターの気配はあった。


 けれど、どれも僕たちの列に近づく前に止められていく。


 誰にも気づかれず、ただ何事もなかったように列は進んでいった。


 そうして、どれだけ登っただろう。


 もう足の感覚が少し怪しくなってきた頃だった。


 前方から、アレイシスの声が飛んできた。


「神鳥の祠は近いぞ!」


 僕は、ふと、後ろを振り返った。


 出発の時は五十人ほどいた列も、今はその半分くらいに見えた。


 途中で引き返した者。


 登れなくなった者。


 残っているのは、まだ前を向いていられる者だけだ。


(ここからはもう、でかい魔力一つしか感じないのん)


 ムーが魔力を探知して言う。


(急に静かになったな)


 パディットも呟く。


(もう近いから頑張って)


 パンが背を押すように言った。


(頑張るよ)


 その少し後だった。


「よし、後列に到着だと伝えてくれ!」


 アレイシスの声が再び飛ぶ。


 そうして列が最後の坂を越えると、視界が開けた。


 そこは山の中腹にぽっかりと開けたような、平たい雪の広場だった。


 そして、その山肌に祠が埋め込まれていた。


 重々しい石造りの扉。


 人の背丈を大きく超える高さ。


 中央には大きな鍵穴があり、まるで何かを封じるための門みたいだった。


 長い巡礼を越え、ここまで来た者たちだけが、その前に立っていた。


「みな、よく頑張った」


 アレイシスが振り返り、全員を見回す。


「少し休んだ後、巡礼に向かう」


(よかった、休める……)


 膝が笑いそうだった。


 雪の上に座り込む者。


 その場にしゃがんで息を整える者。


 皆、口数は少ない。


(何か封印されてる感じだね)


 僕は、祠の扉を見ながら小さく思う。


(奥の存在、相当な魔力だよね)


 パンが言う。


(うん、ここからでも感じる)


(でも、テイムを使うなら、もっと奥まで行かないと)


 その時だった。


「はい、水です。どうぞお飲みください」


 横から声がした。


 見れば、雑務係の姿をしたフリールが立っていた。


「あ、ありがとうございます」


 僕が受け取ると、木の水筒と一緒に小さな紙切れが指の間に滑り込んできた。


 フリールは、そのまま何でもない顔でウインクだけすると、すぐ別の信徒の方へ行ってしまう。


(フリール……あの子も疲れているだろうに)


 エルが心配そうに言った。


(フリールの取り柄は元気なのん)


 ムーが言う。


(きっと大丈夫なのん)


 その時、少し離れた場所でアレイシスの声がした。


「……巫女様、大丈夫でございますか?」


 巫女の少女が、コヤン祭司とウルモイに支えられながら立っている。


「大丈夫です」


 巫女は息を整えながら答えた。


「コヤンさんとウルモイさんが支えてくれましたので」


 そこで、少しだけ言い淀む。


「あの……アレイシス、私……」


「今はやめておきましょう、巫女様」


 アレイシスは、やわらかくもきっぱりと言った。


 巫女は小さく目を伏せる。


「……はい」


 それきり、また静かになった。


 しばらく休んでいると、空から細かな雪が落ち始めた。


 風も、さっきより少し強い。


 アレイシスが空を見上げる。


「天候が変わるかもしれん」


「祠に入る!」


 その声で、全員が慌てて立ち上がる。


 コヤン祭司が前へ出た。


「皆、鍵を開ける。祈りを」


 その一言に、全員が祈りの形を取る。


 そうして、アレイシスが祠の扉へ歩み寄る。


 その手が、鍵を差し込む。


 重い音が鳴った。


 ぎり、と古びた機構が回る。


 次の瞬間、巨大な扉が左右へゆっくりと開きはじめた。


 中は暗い。


 けれど、その奥から静かで強い魔力が流れ出してくる。


「私は最後に入る」


 アレイシスが振り返り、全体へ告げる。


「皆、奥で祈りを捧げるがよい」


 そうして順番に、一人ずつ祠の中へ入っていく。


 まずは巫女。


 続いてコヤン祭司。


 ウルモイ。


 それから他の巡礼者たち。


 僕の順番は、後ろから三番目くらいだった。


(もう感じるね)


 パンが小さく言う。


(でも、これ、眠っているというより……)


(封印に近いな)


 パディットが続ける。


(誰かがここにニヴァリスを封印したのん?)


 ムーの声が少し緊張を帯びる。


(とにかく行ってみよう)


 前の者たちが祈りを終え、戻ってくる。


 その流れを見ながら、僕も祠の中へ入った。



 中へ一歩踏み込んだ瞬間、空気が変わった。


 足元の石は古く、壁には淡く光る紋様が刻まれている。


 奥へ進むほどに、魔力がはっきりと分かるようになってきた。


 祠の最奥には、巨大な結晶があった。


 透明とも青ともつかない水晶のような塊。


 その中に、翼をたたんだ何かが見える。


 神鳥ニヴァリス。


 だが、その結晶に近づいた瞬間、僕は別の魔力を感じた。


(この魔力は……リュミエール……)


 間違いない。


 結晶そのものから、リュミエールとよく似た魔力が漂っている。


 すると、そのさらに奥から、かすかな声が響いた。


(ちから)


 気配のような声だった。


 眠りの底から、こちらへ触れてくるような。


(あなたが……ニヴァリス)


(ときはなつ)


(僕にそれができるの?)


(できる)


 左手が、じわりと熱を持ち始める。


 手の甲。


 そして指輪。


 丁度その時、入り口付近では──



「アレイシス、神鳥……いや、ニヴァリスは渡してもらう」


 鋭い声が響いた。


 最後尾にいた巡礼者の一人が、ローブを脱ぎ捨てていた。


 その下から現れた顔を見て、息を呑む。


 レバンだった。


「レバン……」


 アレイシスの声が低くなる。


「裏切り者め」


「俺は裏切ってなどいない」


 レバンは一歩前へ出る。


「魔制炉に落ち、考えることを放棄したのはレバン、貴様だ」


 アレイシスの目が鋭く細まる。


「違う」


 レバンが吐き捨てるように言う。


「それしか方法がないんだ」


「お前が、魔制炉を抑えると本気で思っていたっ!」


 アレイシスが剣を抜いた。


 金属音が祠の石壁に響く。


 レバンも剣を抜き放った。



(なんだ、入口付近が騒がしい)


 僕は思わず意識を外へ向ける。


(フライ、アレイシスが襲われてる)


(レバンみたいだよ)


 パンの声が飛ぶ。


(えっ、レバンさんがどうしてここに!?)


「さ、次の方、祈りを」


 コヤン祭司の声が僕に向けられる。


 ウルモイと巫女も、こちらを見ている。


 その時、入口側から激しい金属音が響いていた。



 レバンの怒声が、祠の外で響き渡る。


「ニヴァリスは渡してもらうぞ!」


 アレイシスが一歩踏み込む。


「ニヴァリスを魔導院に渡せば、もう魔零派は止まらんぞ!」


 剣と剣が激しくぶつかる。


 火花が散る。


 レバンの剣筋は重く速い。


 アレイシスはそれを真正面から受け止め、押し返した。


「〈〈バーンラウド〉〉」


 アレイシスの足元から、激しい爆炎風が巻き起こる。


 熱を帯びた衝撃が、レバンへ真っ直ぐ叩きつけられた。


「本気か、アレイシス!」


 レバンが後ろへ跳ぶ。


 そのまま剣を振り、魔力を放つ。


「〈〈ライジングストーム〉〉」


 雷を帯びた風が唸りを上げて広がった。


 アレイシスの爆炎風とぶつかり合い、凄まじい音が祠の前に響く。


 雪が吹き上がる。


 空気が震える。


 その衝突音は、祠の奥にまで届いていた。



「この音……まさか、アレイシス!」


 巫女が顔色を変える。


「しまった!」


 ウルモイも振り向いた。


「アレイシス様が!」


 コヤン祭司が声を上げる。


 三人は、その場から急いで入口へ向かった。


 祠の最奥には、僕だけが取り残された。


 その時だった。


(ふれる)


 再び、声が響く。


 左手の紋章が、はっきりと光り出した。


 指輪が熱を帯びる。


 僕は、半ば無意識に結晶へ手を伸ばしていた。


 指先が、水晶に触れる。


(これは……ニヴァリスの……)


(そう)


 今度は、もっとはっきりした声だった。


(やっと会えた)


(あなたが、アルミの力を継ぐものなんだね)


(アルミの力……?)


(そう)


 結晶の向こうから、やわらかい気配が触れてくる。


(アルミ……僕とこの大地を助けてくれた恩人)


(そして、僕の友達……)


(その力を、僕が?)


(そう)


(そのテイムの力は、アルミの力)


(僕の名前はネージュ)


(あの人は、そう呼んでくれた)


(ネージュ……君の名前)


(君は)


(僕はフライ、アルミ村のフライ)


(君からは、リュミエールの力を感じるね)


(ネージュ、君はどこまで知って――)


(今は僕を解き放って)


(その力で……テイムを)


(わかった)


 僕は頷いた。


 その返事と同時に、僕は左手を水晶へ押し当てる。


「〈〈テイム〉〉」


 光が走った。


 手の甲の紋章が強く輝き、指輪の熱が一気に結晶の中へ流れ込んでいく。


 ぴし、と小さな音がした。


 水晶に、細いヒビが走る。


 次の瞬間、それは一気に広がった。


 結晶全体に亀裂が走り、内側から淡い蒼い光があふれ出す。


 翼が、ゆっくりと動いた。


 そして――


 水晶が砕け、中からネージュが姿を現した。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

次話も読んでいただけると嬉しいです。

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