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ドラゴンテイム 〜モンスターと心を結ぶテイマーの物語〜  作者: エフピー
第四章 フロワ編

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第九十六話 神山ペール

 信徒たちは慣れた様子で列を作っていった。


 僕もその流れに紛れ、前すぎず、後ろすぎずの位置へつく。


 先頭から少し離れたくらいの位置。


 巫女やコヤン祭司の姿は後ろの方にある。


 フリールは雑務班の方へ回っているらしく、今は見えなかった。


⸻


 零の大聖堂を出ると、巡礼の列はそのままフロワの街を北へ抜けていった。


 ペール山は、街から北へ半日ほど進んだ場所にある。


 フロワの中にいる時は大きく見えていたが、近づくにつれてその存在感はもっと増していく。


 曇り空の下にそびえる白い山。


(始まった)


 僕は歩きながら、意識だけは広く張る。


(探知だけは広げておかないと)


 白い息を吐きながら、列はゆっくり進んでいく。


 誰も無駄口は叩かない。


 そんな中、異様な隊列はペール山へ向かって、着実に歩みを進めていった。


(みんな、どうかな?)


 意識の中で仲間たちへ声をかける。


(今のところ、気配はない)


 ネールの返事は短い。


(クロープ、周囲は?)


(このままペール山まで大丈夫そうだよー……)


(じゃあ、ひとまず安心か)


 そうして列は止まることなく進み続け、やがて山の麓へ辿り着いた。


 アレイシスが先頭で立ち止まる。


「全体に伝えよ」


 その声が前から伝わってきた。


「これから神山へと入る」


「まずは祈りを」


 巡礼の列が、一斉に止まる。


 白い雪の前で、全員がまた祈りの形を取った。


 僕もそれに倣う。


 入山前に、こうして全員で祈る。


 その行為自体が、この山をただの山ではなく神域として扱っているのだと分かった。


(ここからはさらに慎重に探知してね、みんな)


 みんなが頷くような気配が伝わってきた。


 そして巡礼の列は、ペール山へと足を踏み入れた。


⸻


 最初のうちは、まだ人が歩けるだけの山道があった。


 けれど進むにつれて、その道もどんどん雪に埋もれていく。


 踏み固められた白い斜面。


 足を置くたびに、雪が沈む。


 歩きにくい。


 しかも、進むほどに空気は薄く冷たくなっていった。


(前方の右方向、奥にモンスターだ)


 ネールが警戒を告げる。


(パディット、そっちはまだ確認できないか?)


(こっちはまだだな)


(列とぶつかるかな?)


 僕が聞くとネールが答える。


(動く気配はない)


(ただ、じっとしている)


(それなら放置で大丈夫だよ)


(了解)


 気配はある。


 でも、今のところこちらへ向かってくる様子はない。


 こうして魔力の高い場所に、何体も何体もモンスターが潜んでいるのだと思うと、やはり気は抜けなかった。


 巡礼の列は、雪山を進んでいく。


 祈りを捧げながら進む者。


 無言でただ前を見て歩く者。


 そうして、半日ほど歩き続けた。


(やっぱり、雪道だと流石にきつくなってくるね)


 足が重い。


 吐く息も、少しずつ荒くなっていく。


(大丈夫なのん?)


 ムーが心配そうに聞く。


(頑張るよ)


 そう返した、その時だった。


(何か強い魔力が眠ってるー……)


 クロープの眠たげな声が響いた。


(ニヴァリス……かな?)


(可能性は高いね)


 パンが言う。


(まだ、あんなに高い位置まで行かないといけないのに)


(ここからでも魔力を感じるのか)


 パディットが低い声で言った。


(とにかく、警戒は続けていこう)


 列はそのまま、休憩らしい休憩もなく雪山を登っていく。


 前を見る。


 白。


 横を見る。


 白。


 ただひたすら、曇った空と雪だけの世界だった。


⸻


「もうすぐ開けた場所に出る」


 前方から、アレイシスの声が飛ぶ。


「そこで夜を越す」


「下の者にも伝えよ」


 その声は列の後ろまで伝わっていた。


 しばらくして、視界が少し開ける。


 そこは周囲より広く、比較的雪も穏やかな場所だった。


 今夜の野営地らしい。


(今日はここで休憩らしいけど、みんな大丈夫?)


(今のところはね)


 パンが返す。


(ただ、やはり上に行くほど魔力が濃い)


 パディットの声が続く。


(出会わないように進めればいいけど、こう一本道じゃね)


(大丈夫なのん)


 ムーが言う。


(出会いそうになったらムーたちが倒すのん)


(ありがとう)


 広場では、魔零派の人たちが慣れた手つきで雪山用のテントを張っていった。


 小さく、背の低いテントがいくつも並ぶ。


 その中に、雑用をしているフリールの姿も見えた。


 ローブの上から荷を運び、指示に従って忙しそうに動いている。


 与えられたテントは、三人がようやく休めるくらいの広さだった。


 床はシートとマットが敷かれているだけで、底冷えはする。


 それでも、雪の上で直接休むよりはずっとましだった。


 体を横たえると、思った以上に疲れが出ていたらしい。


 気づけば、僕はそのまま眠りに落ちた。


⸻


 目が覚めた時には、もう朝だった。


 外は相変わらず曇っている。


 薄い光が、テントの布越しに差し込んでいた。


 外へ出ると、空気は前日よりさらに冷たい。


 吐く息が真っ白に広がって、すぐに消える。


「引き返したものは何名だ」


 近くでアレイシスの声がした。


「はい、確認できるのは十四名です」


 雑用の男が答える。


「今回は随分残っているな」


 アレイシスの目が細くなる。


「巫女様は大丈夫か」


「はい、大丈夫です」


「コヤン祭司様とウルモイ様がついておられますので」


「……ならいい、任せよう」


「何かあったらすぐに知らせてくれ」


(あの巫女の女の子、すごいね)


 僕は思わず言った。


(ちゃんとここまで登ってこられるんだ)


(途中、何度かおぶってもらってたけど、すごい胆力だよ)


 パンが返す。


「ではそろそろ出る」


 アレイシスの声が再び全体へ響く。


「神鳥様の祭殿はもうすぐだ」


 その掛け声で、再び列を作る。


 ローブの群れは、また山の上へと進み始めた。


⸻


 しばらくは、ただ雪道が続いた。


 足を取られながら進む。


 空気は重い。


 周囲は静かすぎる。


 その静けさの中に、ふいにクロープの声が器に響いた。


(パディット、そこから右の奥に、列に進んでくるモンスターがいるー……)


(わかった、対処する)


 次の瞬間、雪の下から気配がした。


(地面からなのん……)


 ムーが声を上げる。


(ムー、くるぞ)


 パディットの声と同時に、雪の下から何かがすごい勢いで突っ込んできた。


 白い雪を跳ね上げ、蛇みたいな長い体が現れる。


 だが、ただの蛇じゃない。


 太い胴に、雪を掻くためみたいな短い手が生えていた。


 体長は五メートルほど。


 目は細く、牙は鋭い。


 ホワイトサーペントだ。


(行かせないのん)


 ムーがすぐに前へ出る。


「〈〈アイスシールド〉〉」


 透明な氷の壁が生まれる。


 ホワイトサーペントはそのまま勢いよくぶつかり、鈍い音を立てて止まった。


「シャアアアアアアアア!」


 威嚇の声が、雪の奥で響く。


「〈〈エレク〉〉」


 パディットの雷が、頭部へ向かって走る。


 だがホワイトサーペントはぎりぎりで首をひねり、その雷をかわした。


(結構早いな)


「じゃあ動きを止めるのん」


「〈〈アイシクルバインド〉〉」


 ムーの魔法で、足元から分厚い氷柱が伸び上がる。


 ホワイトサーペントの胴と手が、そこで一気に拘束された。


(よし、行ける!)


 パディットが飛び込む。


 鋭い爪が、ホワイトサーペントの側面を深く切り裂いた。


「シャアアアアアアアア!」


 ホワイトサーペントの目が光る。


 次の瞬間、地面から雪が反り立ち、何本もの槍になって飛び出した。


(あんまり派手にやるとバレるんだけどな……)


(いいのん、やるのん)


「〈〈ハイ・エレク〉〉」


 放たれた雷が枝分かれするようにあらゆる方向へ走り、雪土の槍を全て撃ち落とす。


 さらに、そのままホワイトサーペントの全身へ直撃した。


 雷光が一瞬だけ雪の影を青く染める。


 そして、ホワイトサーペントは完全に沈黙した。


(こっちは大丈夫だよ、バレてない)


(よかった)


 パディットが短く返した、その時だった。


(……次は空からだぞ)


 ネールの声が落ちてくる。


(やっぱり多いな、ネールさん頼めますか)


(任せるがよい)


 ネールが上空から急降下する。


 その先にいたのは、羽根に氷をまとった大きな鷲型のモンスターだった。


 ホークアイス。


 全身から冷気と雷気を漂わせている。


 ネールは堂々とその前へ出た。


「私はネール、空の支配者――」


 だがホークアイスは、その名乗りを無視した。


 真っ直ぐパンの方へ突っ込んでいく。


「ほう、私を無視するか……」


(大丈夫だよ! 任せて!)


「〈〈エクスプロージョン〉〉」


 次の瞬間、目の前で炎が大爆発した。


 どん、と雪山全体が揺れるような衝撃。


 僕のところまで振動が伝わる。


 周囲の巡礼者たちが、さすがにざわついた。


(……パンさん?)


(ごめんごめん、出力がまだ安定しなくって)


 しかしホークアイスは、寸前で致命傷を避けていた。


 炎をすり抜けるように飛び、今度はネールへ向かう。


「ほう、今度は向かってくると」


 ホークアイスの目が光る。


 羽根に氷が張り巡らされ、そこへ雷が流れる。


「ピュウウウウウウウウウウ!」


 鳴き声とともに、凍える雷がネールへ向かって飛んだ。


「その程度の魔力で、私が止められるとでも?」


 ネールは余裕で羽根繕いをすると、そのまま魔力を放つ。


「〈〈サンダーバード〉〉」


 全身に雷をまとったネールが、一気にホークアイスへ突っ込んだ。


 ホークアイスの魔法がぶつかる。


 だが、ネールはまるで意に介さない。


 僕たちから見ると、それはまるで空から雷そのものが落ちるように見えた。


 次の瞬間、ネールはホークアイスを貫いていた。


「ピュウウ……ウウウウウ」


 そのままホークアイスは煙を上げながら、雪の上へ落ちていった。


(やったね、ネール)


(パンの魔法も凄かったぞ)


(あのー……)


 僕は内心で少しだけ困りながら言う。


(盛り上がってるところ申し訳ないですが、もう少しだけ抑えて倒してもらうことってできますか……)


 自分の周りは、まだざわざわしていた。


 さっきの爆発と雷鳴が、巡礼の列まで伝わっていた。


 その時だった。


 前方にいたアレイシスが、わずかに目を細めた。


「あの魔力……」


 小さく、そう呟く。


 僕の背中に冷たいものが走る。


 だがアレイシスは、それ以上何も言わなかった。


「……まぁいい」


 視線を前へ戻し、強く声を張る。


「鎮まれ、ただの雷だ」


「先を急ぐ」


 その声に押されるように、巡礼の列は再び雪山を歩き始めた。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

次話も読んでいただけると嬉しいです。


ホワイトサーペント

大きさ:5m

蛇型:雪道をもろともしない体

生息:雪原、ペール山

魔力:地寄り、氷小

アーススティング(地面からの鋭い棘を放つ魔法)


ホークアイス

大きさ:2m

鷲型:冷気と電気を翼に纏う

生息:ペール山

魔力:水寄り、雷中

アイシクルボルト(氷に雷の魔力を纏わせて放つ)

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