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ドラゴンテイム 〜モンスターと心を結ぶテイマーの物語〜  作者: エフピー
第四章 フロワ編

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第九十五話 巡礼への準備

 巡礼の選別を終えたあと、僕はそのまま魔零派の宿舎になっている宿へ向かった。


 雪は静かに降り続いていて、街の石畳も屋根も白く覆われている。


 胸元には、さっき渡された巡礼の印。


 大聖堂から少し離れたその宿は、今日も蝋燭の灯りに照らされていた。


 僕は中へ入り、二階の黄色札の部屋へ向かった。


 軽く扉を叩く。


「どうぞー」


 中へ入ると、フリールが待ってましたとばかりに手を振った。


「ちゃんと選ばれてよかったね」


「そうだね」


 僕が答えた途端、ローブの隙間からムーがぽよんと飛び出した。


「フリールのおかげなのん?」


 フリールは、すぐに胸を張る。


「そうよん、ムーちゃん」


「あたいのおかげなのよん」


(ムー、この子すぐ調子に乗るから止めてね)


 器の中から、エルが呆れたように言った。


「ま、まぁ、それは感謝するとして」


 僕は苦笑しながらフリールを見る。


「どうしたの?」


 フリールは、さっきまでの軽い顔を少しだけ引っ込めた。


「ああ、呼び出したのはねぇ、巡礼のこと」


「ペール山ってさ、魔力の高いモンスターの巣窟みたいなとこって話があってね」


「確かに、山に魔力が集まってる感じがする」


 僕が頷くと、フリールも神妙に頷き返した。


「問題は、それでも一切の交戦ができないってこと」


「……そうなるよね」


 僕が息を吐くと、フリールはそこで少しだけ間を置いた。


「あたいとフライじゃ多分どうにもならない」


「ただ……」


 そのまま、ぽよんと机の上にいたムーを両手で持ち上げる。


「この子達なら、なんとかなるかもって」


「なのん?」


 ムーが、フリールの手の中で揺れる。


 その言葉で、僕の中に一つの考えが繋がった。


「……そうか」


「モンスターがモンスターを抑える分には……」


「そういうこと」


 フリールがにっと笑う。


「多分それは、神託ってことになると思う」


「じゃあ、みんなに守ってもらえばいいのか」


(いいねぇ、まかせろ)


 パディットが、すぐに言った。


(皆で見張れば、問題なかろう)


 ネールも落ち着いた声で続く。


(そうだね、魔零派はパンたちに手は出せないだろうからね)


 パンも賛成した。


(探知ならまかせてねー……ZZZ)


 クロープの声も聞こえてくる。


「みんな大丈夫そう」


 僕がそう言うと、フリールはぱんと手を打った。


「いいね、総力護衛戦だ」


「僕たちは見てるしかできないのは歯痒いけどね」


 フリールは、肩をすくめる。


「それは割り切るしかないよ」


「うん」


 僕は小さく頷いた。


「じゃあ、ちゃんと準備しとくよ」


「ありがとう、頼んだよ」


 そう言って、フリールは軽く手を振った。


 僕はムーをローブの中へ戻し、その日は宿へ帰って休んだ。



 次の日も雪だった。


 窓の外は更に白くなっていく。


 雪の上に雪が積もり始めてる。


 巡礼は明日。


 そう思うだけで、落ち着かない。


 僕は早めに支度を整えると、その足で魔導院へ向かった。


 研究室の扉を開けると、おばあちゃんとアーミさんが中にいた。


「来たさね」


 おばあちゃんが、すぐにこちらを見た。


「僕も巡礼に行けることになったよ」


「ひとまずよかったさね」


 おばあちゃんが、小さく息をつく。


「それで、一つ問題が出たんだ」


「問題?」


 アーミさんが眉を上げる。


「はい」


 僕は頷いた。


「ペール山ではモンスターとの戦闘を禁じられます」


「……魔零派らしいさね」


 おばあちゃんが、すぐに苦い顔をした。


「でもあの山は、魔力の巣窟さね」


「ニヴァリスがいるくらいだもんね」


 アーミさんが腕を組んで言う。


 おばあちゃんも頷く。


「そんな伝説になるくらいのモンスターが眠る場所さね」


「きっと、魔力の高いモンスターが、わんさかいるさね」


 アーミさんが不安そうに続けて言う。


「やっぱり危険だよね、どうするの?」


「そこで考えたのは、仲間に守ってもらおうと思うんだ」


 僕がそう言うと、アーミさんの表情が少し変わった。


「なるほど」


「モンスターには干渉できないのを生かすわけか」


 そのまま、少しだけ心配そうに続ける。


「でもそれじゃ、ムーちゃんたちが危険じゃないかな?」


「ムーたち、みんなつよいのん」


 ムーがぷるんと跳ねた。


「きっと大丈夫なのん」


「僕はみんなを信じるよ」


 僕がそう言うと、おばあちゃんは少しだけ目を伏せたあと、静かに口を開いた。


「わかったさね」


「それじゃあ、ニヴァリスに確認してほしいことを話すさね」


「まずは三百年前のことだね」


 アーミさんが指を一本立てた。


「何が起こって、この地の魔力循環が乱れたのか」


「次に、それをどうするといいのか」


「解決策を知るなら、それが一番早いさね」


 おばあちゃんが続ける。


「事は一刻を争うさね」


「そして、魔芒杖のこと」


 アーミさんのその言葉に、僕は思わず聞き直した。


「……それって」


 アーミさんが真っ直ぐこっちを見る。


「魔芒杖について知っているなら聞いてほしいの」


「僕も、それは知りたいと思っていました」


 僕ははっきりと言う。


「全部まとめて聞いてきます」


「ただ、アレイシスにだけは気をつけるさね」


 おばあちゃんの声が少し低くなった。


「あの人がいるから、魔零派が無茶しても、なかなか魔導院は強くあたれないの」


 アーミさんが続ける。


「逆に魔零派も強く出られないのは、アレイシスが抑えているからってのもあるんだけどね」


「とにかく、目をつけられないように気をつけるさね」


 おばあちゃんが念を押す。


「わかった」


(アレイシス、一体何者なんだろうね)


 パンが小さく言う。


(魔力といい、たたずまいといい、強者だということは確かだ)


 パディットも低い声で返した。


「じゃあフライ、頼んだよ」


 アーミさんが言う。


「はい」


 僕は二人を見て、しっかり頷いた。



 そうして宿に戻り、巡礼の日の朝を迎えた。


 日の出と共に出発ということもあって、外はほとんど夜みたいな暗さだった。


 天気は曇り。


 空の色は重く、白い雪だけがぼんやりと地面を照らしている。


 部屋の中で、僕は一度大きく息を吸った。


(じゃあ、確認するよ)


(うん)


 パンが落ち着いた声で返す。


(まずはネールさんは、上空からの探知)


(何かいたら、みんなに知らせて)


(承知)


 短い返事が返る。


 続けて、僕はパディットへ意識を向けた。


(パディットは探知で、僕たちからギリギリ見えない範囲でついてきて)


(何か出てきたら対処お願い)


(任せろ、そっちに向かう前にオレが仕留める)


 次にムーを見る。


(ムーもパディットと一緒に行ってくれる?)


(わかったのん)


 それからパンに聞いた。


(パンはどうする?)


(パンも戦えるよ)


(わかった、じゃあパディットたちと逆側をお願い)


(わかったよ)


 僕はクロープにも声をかけた。


(クロープは器から探知)


(魔力があったら知らせるよー……)


(エルは牧場待機ね)


(こっちから見ているわね)


(怪我したら呼んでね)


 エルが少しだけやわらかく言った。


(よしっ、じゃあみんな、雪原に出て呼ぶからね)


 僕はローブを羽織って宿を出ると、まだ人の少ない雪原の端まで足を運んだ。


 周囲を見回して、人目がないことを確認する。


 白い息が、夜明け前の空気に溶けていった。


「〈〈テイムバンク〉〉」


 足元に魔法陣が浮かび上がる。


 淡い光が雪の上に広がり、その中から仲間たちが次々と姿を現した。


 パン。


 パディット。


 ネール。


 ムーも僕のローブから飛び出した。


「じゃあみんな」


 僕は全員を見回して言った。


「警護お願いね」


 全員が静かに頷く。


 そうして牧場の仲間たちを見送り、僕はそのまま零の大聖堂へ向かった。



 大聖堂の前には、もう巡礼の人たちが集まり始めていた。


 白灰色の巡礼の証を付けたローブ姿が、薄暗い雪景色の中にいくつも並んでいる。


 昨日までの祈りの場とは、また違う、出立前の空気だ。


 僕はその流れに紛れて中へ入る。


 礼拝堂の中には、巡礼前の独特な雰囲気が漂っていた。


 灯された蝋燭の明かり。


 神鳥の彫刻。


 並ぶ信徒たち。


 すでに巡礼へ向かう者たちが集まっていた。


 白灰色のローブ姿が、蝋燭の灯りの中にいくつも並んでいる。


 ざっと見ただけでも、人数は五十人くらいだろうか。


 昨日の選別をくぐり抜けた者たちだけあって、みな顔つきがどこか引き締まっていた。


 祈りの言葉を口の中で反芻している者。


 目を閉じて静かに呼吸を整えている者。


 緊張を隠せていない者もいれば、ただ恍惚としたように祭壇を見つめている者もいる。


 僕は列の中に紛れながら、できるだけ目立たないように周囲を見回した。


 礼拝堂でその時を待っていると、パンの声が器から響く。


(みんな、もう配置についたよ)


(わかった、よろしくね)


 僕がそう返した時だった。


 祭壇の奥の扉が開いた。


 ざわめきが、一瞬で静まる。


 現れたのは、コヤン祭司だった。


 その後ろにはウルモイも続いている。


 コヤン祭司は祭壇の前まで進むと、神鳥の彫刻へ深く一礼した。


「皆さん、今日という日を迎えられた事、大変喜ばしく思います」


 礼拝堂全体に、穏やかな声が響く。


「まずは祈りを」


 その言葉を合図に、全員が一斉に祈りの形を取った。


「神鳥様は、きっと我々を導いてくれるでしょう」


「つきましては、ウルモイの方から説明がございます」


 コヤン祭司が一歩下がる。


 代わりにウルモイが前へ出た。


「神山ペールでは、神の使いへのいかなる干渉も禁じます」


 低く、よく通る声だった。


「これは神託です」


 堂内の空気が、また少しだけ張る。


「そして、入山から下山までの予定は、大体三日を見ております」


(三日……)


 思ったより長い。


 雪山で、それだけの時間をかけるのだ。


(過酷な登山になりそうだね)


「食料は運搬、雑務班に任せてありますのでご安心を」


 ウルモイは事務的に言葉を重ねていく。


「わたしたちは巫女様と中心辺りにおります」


「先頭は、そちらのアレイシス聖護衛にお任せします」


「皆、険しい道になるが着いて来てもらいたい」


 礼拝堂の脇に立っていたアレイシスが、短く応じた。


「では、そろそろ日が昇ります」


「皆、出立いたしましょう」


 その一言で、白灰色のローブの群れが静かに動き始める。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

次話も読んでいただけると嬉しいです。

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