↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドラゴンテイム 〜モンスターと心を結ぶテイマーの物語〜  作者: エフピー
第四章 フロワ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
82/200

第八十二話 新たな旅立ち

 シアンさんと別れて、僕は村の中をゆっくり歩いていた。


 夕方の柔らかい風が通り過ぎていく。


 さっきまで魔法練習場で、色々見てもらっていたせいか、頭の中はまだ少しだけ考えが巡っていた。


 魔人に対抗するために自分の力をつけたい。


 それと、護手を探す。


 そのために、まずは準備。


 そう思って、僕は工房の方へ足を向けた。


⸻


 工房の戸を開けると、木と鉄と油の匂いが混ざった匂いがした。


 奥では、金槌の音が一つ、短く響いて止まる。


「こんにちはゼンさん」


「おう、フライ」


 ゼンさんが顔を上げる。


「杖はどうだった?」


「何度助けられたかってくらい、いい杖でした」


 僕は、ダイナモの杖を見せながら答えた。


「さすがだな」


「少し見せてくれ」


 ゼンさんが手を差し出す。


 僕は杖を渡しながら、もう一つ伝えた。


「ゼンさん、あと牧場もありがとうございました」


「またメンバーも増えたので、やっぱり大きくしておいてよかったです」


「なら、よかった」


 ゼンさんが、満足そうに頷く。


「また大きくして欲しかったらいつでも言ってくれ」


「本当に助かります」


 ゼンさんは杖の先や柄を確かめながら、何度か頷いた。


「杖は問題ねぇ、さすがダイナモだ」


 そう言ってから、作業台の奥へ手を伸ばす。


「あと、これ持ってけ」


 差し出されたのは、もう一本の杖だった。


「これって……」


 思わず目を見開く。


 形はダイナモの杖より少し細い。


 けれど、先端だけじゃなく、柄の途中にも小さなルミナストーンがいくつも埋め込まれていた。


「余ったルミナストーンでこれを作った」


 ゼンさんが言う。


「ダイナモの杖には劣るけど、魔力を流すにはいい杖になった」


「まぁ、試作品みたいなもんだ」


 僕はそっと受け取って、少しだけ魔力を流してみた。


 すると、杖の中に通した魔力が、先端だけじゃなく、埋め込まれた石ごとに分かれて留まる感覚がある。


「この杖いいですね」


「色んな魔力を、留めておけますね」


「おうよ」


「俺のオリジナルだ」


「フロワまで行くなら持ってて損はねぇ」


「ありがとうございます」


 僕は、新しい杖を大事に抱えた。


 それから、袋の中から集めてきたルミナストーンを取り出す。


「これ、旅で集めたルミナストーンです」


「工房で、役立ててください」


 ゼンさんが少し目を見張る。


「……いいのか?」


「それ以上にゼンさんには、お世話になっていますから」


「じゃあ、ありがたくもらっておくかな」


 ゼンさんは、いつもより少しだけ真面目な顔で石を受け取った。


「フライ、気をつけて行ってくるんだぞ」


「はい」


 工房を出ると、夕焼けがさらに赤く染まっていた。


 手には新しい杖。


 その時、器の奥でパンが声をかけてきた。


(フライ、治療所にもちゃんと行っておかないと)


(またセラに何か言われるよ)


(あ、また忘れるところだった)


 僕は苦笑いして、そのまま治療所へ向かった。


⸻


 治療所の扉を開けると、薬草の匂いがふわりと流れてきた。


 棚には瓶や包みがきちんと並び、奥では湯の沸く音がする。


「お邪魔します」


「あら、フライ」


 ケールさんが、カルテを書く手を止めてこちらを見た。


「おー、忘れないで来たかー」


 セラが、にやっと笑う。


「何か毎回それ言われるね」


「ちゃんと来て偉いってことだよ」


 セラが胸を張る。


「じゃあ診るわよ」


 ケールさんが、椅子を指した。


「お願いします」


 ケールさんの手が、僕の腕や肩、胸元に順に触れていく。


 しばらくして、ケールさんは小さく息を吐いた。


「問題ないどころか絶好調ね」


「通りはいいわよ」


「良かったです」


「この規模の魔力が詰まったらどうなるのか、すごい心配だけれど」


 ケールさんは少しだけ眉を寄せる。


「今のところ大丈夫そう」


「また村を出るなら気をつけて」


「はい」


 その時、奥の棚を整理していたノエルさんが振り返った。


「フライさん、南の森で採ってきたエーテルから新しいポーションを作ってみたので、持っていきませんか」


「いいんですか?」


「ええ」


 ノエルさんは、小瓶をいくつか布に包みながら言う。


「今後はたくさん作れると思いますし、試作品ですので」


「使った感想またくださいね」


「勿論です」


「じゃあ、フライ、頑張ってね」


 セラが明るく言う。


「セラもね」


 僕は頭を下げて、治療所をあとにした。


⸻


 家へ戻ると、ちょうど母さんが夕飯の支度をしていた。


 鍋の湯気が、台所の窓へ流れている。


「あらフライ、おかえり」


「ただいま母さん」


 僕は、少しだけ言葉を選んでから口を開いた。


「あの……僕また旅に出ないといけないなんだ」


 母さんは驚かなかった。


 少しだけ手を止めて、それから静かに頷く。


「祠に行った時から、そわそわしてたもの」


「そうだろうと思ってたわよ」


「うん」


「祠に行って、自分のやらないといけないことが分かったから」


 母さんは、鍋の火加減を見ながら言った。


「ガルディアに旅立った時から、母さんも覚悟はしていたわ」


「向き合うって決めたなら」


「頑張りなさい」


 その言葉はやさしいだけじゃなくて、ちゃんと送り出す強さもあった。


「ありがとう母さん」


「頑張るよ」


 母さんは僕の方を見て、少しだけ笑った。


⸻


 それから数日後。


 出発の日を迎えた。


 朝の空気は澄んでいて、村の屋根の向こうに、青い空が高く広がっている。


 僕は荷物を整えて、まず牧場へ向かった。


「行くのか、フライ」


 入口の近くで、パディットが待っていた。


「パディット、頼める?」


「まかせろ」


 パディットは、自信たっぷりに頷いた。


「フライ、いつでも呼んでね」


 パンが駆け寄ってくる。


「私も空からのことなら、いつでも呼んでくれ」


 ネールが翼をたたみながら言う。


「危険があったら言うねー……ZZZ」


 クロープは相変わらず半分眠っていた。


「わたしも器を通して見ているからね」


 エルが穏やかに微笑む。


「ムーはローブに入って一緒にいくのん」


「……いいのん?」


 少しだけ遠慮がちに、ムーが聞いてくる。


「いいよ」


「みんなありがとう」


「アルミ村をよろしくね!」


 僕がそう言うと、みんながそれぞれ頷いた。


⸻


 門へ向かうと、何人かが見送りに来ていた。


「やっぱ先を越されたか」


 ホップが笑う。


「ホップたちはテュリップさん待ちなんだよね」


「おう」


「サラームに行くには手筈を整えないとだからな」


「それまでは村で鍛えて過ごすさ」


 ホップは肩をすくめながら言った。


「フライ」


 ホルスさんが、一歩前に出る。


「今度は、何かを教えてくれる奴はいない」


「全部自分で見て、選んで、決めなきゃならない」


「はい」


 僕は、まっすぐ答えた。


「それも含めて、自分の足で歩いてきます」


「そうか」


 ホルスさんが頷く。


「なら、頑張ってこい」


「はい」


「フライ、私も村で自分にできることやるから」


 ファラが言う。


「ファラは私もサポートするからね、村のことなら任せてよ」


 セラがすぐに続けた。


「セラ、ありがとう」


「何かあったら牧場のみんなに教えてね」


 僕は、ファラを見ながら言った。


「うん、わかった」


 ファラが、しっかりとうなずく。


「気をつけてね」


「もし怪我したらすぐエルを呼ぶこと」


 セラが指を立てる。


「それと、毎度の約束、無事で帰ってくること」


「パディットもね」


 そう言って、今度はパディットにも視線を向ける。


「うん」


 僕はしっかり頷いた。


「オレたちもいるからな」


 パディットが、落ち着いた声で言う。


「ムーもいるのん」


 ムーがローブから顔を出して言う。


「でも、テイムもなるべく隠していきなよ」


「珍しい力なんだから」


 シアンさんが、少し真面目な顔で言った。


「わかりました」


「じゃあ気をつけて行ってきな、我が弟子よ!」


 シアンさんが胸を張って言う。


「ありがとうございます」


 僕はみんなを見渡した。


 守りたい場所がある。


 自然とそんな気持ちになった。


「では、行ってきます」


 そう言って、僕はパディットの背に乗った。


 門の向こうへ、アルミ村をあとにする。


⸻


 北の森を抜けて、一直線にカイバル平原へ向かう。


 森の中では野営をして進んだ。


 モンスターは探知で避けたので、大きな戦いにはならなかった。


 村を出て二日目。


 カイバル平原へと辿り着く。


 今回は街道沿いではあるけれど、人目につかない脇道の方をパディットが駆けていった。


 風を切る音。


 揺れる草。


 見渡す限りの空。


 以前よりも、この道のりの長さに慣れている自分がいた。


 平原も二日ほどで越え、村を出て五日目。


 ドーナ大橋までやってきた。


 橋の手前で、僕は思わず足を止めた。


「すごい……人が増えてる」


 僕がそう言うと、パディットが周りを見渡して言う。


「これが本来のドーナ大橋ということだろう」


 以前は人もまばらだった橋が、今は活気に満ちていた。


 荷を運ぶ商人。


 橋を渡る旅人。


 キャラバンの車輪の音。


 以前の賑わいが、戻ってきている。


 大型モンスターの脅威が減ったおかげだった。


 あの時、平野で討伐を続けた日々は、意味があったんだなと思った。


 橋の上では、パディットから降りて徒歩になる。


 橋の石を踏みしめながら進む。


 橋を渡り切ると、今度はガルディア平野が広がる。


 モンスターの気配は、以前よりもずっと薄い。


「ずいぶん変わったね」


「モンスターの気配はもうほとんどないな」


 パディットが、前を見たまま答えた。


 それからさらに二日。


 特に大きな苦労もなく、僕たちはガルディアまで辿り着いた。


 村を出て、ちょうど七日目の夕方のことだった。


⸻


 ガルディアに入ると、まず宿を取った。


 部屋の扉を閉めた瞬間、ようやく全身から力が抜ける。


「ふー、やっと着いたね」


 旅をしていると、ベッドや椅子があるだけで、ひどく安心する。


「パディットもご苦労様」


(走るのは好きだから、またいつでも呼んでくれ)


 パディットの声は、疲れた様子もなくいつも通りだった。


 するとムーも、ローブの中から顔を出した。


「やっぱり、パディットと走るのはきもちいいのん」


「ムーもご苦労様」


 ムーを撫でながら言う。


「明日、ガルディア港からフロワに行く船を探そう」


「船初めてなのん、楽しみなのん」


 ムーがベッドの上でぷるぷる震えて言う。


「僕も船ははじめてだ」


 そう言いながら、ふとシアンさんの言葉を思い出す。


「そういえばシアンさんが、船は魔力切れみたいになるって言ってたな」


(魔力切れは辛いわね)


 エルが静かに言う。


(ポーションも効かないし、回復魔法も効かないから、注意しないと)


 少し間を置いて、エルが続ける。


(フロワに着いたらフリールを探すの?)


 僕は少し考えてから答える。


(いや、まずは一人で行動してみようかなって)


(どこかでフリールとは会う気がするから)


(そう)


 エルが短く頷いた。


(フロワまではどのくらいなの?)


 次はパンが聞いてくる。


(船で海を七日渡って、大陸を四日ほど行くとフロワらしいよ)


(海ってさ、モンスターとか出るのかな)


 パンが、少しだけ不安そうに聞いてきた。


(うーん、どうなんだろうね)


 僕は天井を見上げながら考える。


(一応探知はしておくけど)


(じゃあ、ゆっくり休めるね)


 パンは、ほっとしたようにそう言った。


「じゃあ今日はもう休んで、明日に備えるよ」


 そうして、旅の疲れをベッドに置くように、僕は眠りに落ちた。


⸻


 そして次の日。


 部屋の中で身支度を整え、荷物を背負い直す。


 新しい杖も、忘れずに手に取った。


 宿屋を出る前に。


「あの、すいません」


「なんだい」


 宿屋の主人は朝の掃除の手を止めて僕の方を向いた


「ガルディア港に行きたいのですが、どちらの方向か教えていただけますか」


「ああ、港なら少し歩くよ」


「ガルディアの北門から出て、半日歩いたくらいかな」


「街道沿いだから迷わないで行けると思うよ」


「そうなんですね、教えていただいてありがとうございます」


 僕は丁寧に頭を下げた。


「気を付けてな」


 宿屋の主人は笑顔で手を振った。


 宿を出ると、朝の光が石畳を明るく照らしていた。


 僕はガルディアの街並みを眺めつつ、ガルディア港へ向かって歩き出した。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

次話も読んでいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。