表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドラゴンテイム 〜モンスターと心を結ぶテイマーの物語〜  作者: エフピー
第四章 フロワ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

82/132

第八十二話 新たな旅立ち

 シアンさんと別れて、僕は村の中をゆっくり歩いていた。


 夕方の柔らかい風が通り過ぎていく。


 さっきまで魔法練習場で、色々見てもらっていたせいか、頭の中はまだ少しだけ考えが巡っていた。


 魔人に対抗するために自分の力をつけたい。


 それと、護手を探す。


 そのために、まずは準備。


 そう思って、僕は工房の方へ足を向けた。



 工房の戸を開けると、木と鉄と油の匂いが混ざった匂いがした。


 奥では、金槌の音が一つ、短く響いて止まる。


「こんにちはゼンさん」


「おう、フライ」


 ゼンさんが顔を上げる。


「杖はどうだった?」


「何度助けられたかってくらい、いい杖でした」


 僕は、ダイナモの杖を見せながら答えた。


「さすがだな」


「少し見せてくれ」


 ゼンさんが手を差し出す。


 僕は杖を渡しながら、もう一つ伝えた。


「ゼンさん、あと牧場もありがとうございました」


「またメンバーも増えたので、やっぱり大きくしておいてよかったです」


「なら、よかった」


 ゼンさんが、満足そうに頷く。


「また大きくして欲しかったらいつでも言ってくれ」


「本当に助かります」


 ゼンさんは杖の先や柄を確かめながら、何度か頷いた。


「杖は問題ねぇ、さすがダイナモだ」


 そう言ってから、作業台の奥へ手を伸ばす。


「あと、これ持ってけ」


 差し出されたのは、もう一本の杖だった。


「これって……」


 思わず目を見開く。


 形はダイナモの杖より少し細い。


 けれど、先端だけじゃなく、柄の途中にも小さなルミナストーンがいくつも埋め込まれていた。


「余ったルミナストーンでこれを作った」


 ゼンさんが言う。


「ダイナモの杖には劣るけど、魔力を流すにはいい杖になった」


「まぁ、試作品みたいなもんだ」


 僕はそっと受け取って、少しだけ魔力を流してみた。


 すると、杖の中に通した魔力が、先端だけじゃなく、埋め込まれた石ごとに分かれて留まる感覚がある。


「この杖いいですね」


「色んな魔力を、留めておけますね」


「おうよ」


「俺のオリジナルだ」


「フロワまで行くなら持ってて損はねぇ」


「ありがとうございます」


 僕は、新しい杖を大事に抱えた。


 それから、袋の中から集めてきたルミナストーンを取り出す。


「これ、旅で集めたルミナストーンです」


「工房で、役立ててください」


 ゼンさんが少し目を見張る。


「……いいのか?」


「それ以上にゼンさんには、お世話になっていますから」


「じゃあ、ありがたくもらっておくかな」


 ゼンさんは、いつもより少しだけ真面目な顔で石を受け取った。


「フライ、気をつけて行ってくるんだぞ」


「はい」


 工房を出ると、夕焼けがさらに赤く染まっていた。


 手には新しい杖。


 その時、器の奥でパンが声をかけてきた。


(フライ、治療所にもちゃんと行っておかないと)


(またセラに何か言われるよ)


(あ、また忘れるところだった)


 僕は苦笑いして、そのまま治療所へ向かった。



 治療所の扉を開けると、薬草の匂いがふわりと流れてきた。


 棚には瓶や包みがきちんと並び、奥では湯の沸く音がする。


「お邪魔します」


「あら、フライ」


 ケールさんが、カルテを書く手を止めてこちらを見た。


「おー、忘れないで来たかー」


 セラが、にやっと笑う。


「何か毎回それ言われるね」


「ちゃんと来て偉いってことだよ」


 セラが胸を張る。


「じゃあ診るわよ」


 ケールさんが、椅子を指した。


「お願いします」


 ケールさんの手が、僕の腕や肩、胸元に順に触れていく。


 しばらくして、ケールさんは小さく息を吐いた。


「問題ないどころか絶好調ね」


「通りはいいわよ」


「良かったです」


「この規模の魔力が詰まったらどうなるのか、すごい心配だけれど」


 ケールさんは少しだけ眉を寄せる。


「今のところ大丈夫そう」


「また村を出るなら気をつけて」


「はい」


 その時、奥の棚を整理していたノエルさんが振り返った。


「フライさん、南の森で採ってきたエーテルから新しいポーションを作ってみたので、持っていきませんか」


「いいんですか?」


「ええ」


 ノエルさんは、小瓶をいくつか布に包みながら言う。


「今後はたくさん作れると思いますし、試作品ですので」


「使った感想またくださいね」


「勿論です」


「じゃあ、フライ、頑張ってね」


 セラが明るく言う。


「セラもね」


 僕は頭を下げて、治療所をあとにした。



 家へ戻ると、ちょうど母さんが夕飯の支度をしていた。


 鍋の湯気が、台所の窓へ流れている。


「あらフライ、おかえり」


「ただいま母さん」


 僕は、少しだけ言葉を選んでから口を開いた。


「あの……僕また旅に出ないといけないなんだ」


 母さんは驚かなかった。


 少しだけ手を止めて、それから静かに頷く。


「祠に行った時から、そわそわしてたもの」


「そうだろうと思ってたわよ」


「うん」


「祠に行って、自分のやらないといけないことが分かったから」


 母さんは、鍋の火加減を見ながら言った。


「ガルディアに旅立った時から、母さんも覚悟はしていたわ」


「向き合うって決めたなら」


「頑張りなさい」


 その言葉はやさしいだけじゃなくて、ちゃんと送り出す強さもあった。


「ありがとう母さん」


「頑張るよ」


 母さんは僕の方を見て、少しだけ笑った。



 それから数日後。


 出発の日を迎えた。


 朝の空気は澄んでいて、村の屋根の向こうに、青い空が高く広がっている。


 僕は荷物を整えて、まず牧場へ向かった。


「行くのか、フライ」


 入口の近くで、パディットが待っていた。


「パディット、頼める?」


「まかせろ」


 パディットは、自信たっぷりに頷いた。


「フライ、いつでも呼んでね」


 パンが駆け寄ってくる。


「私も空からのことなら、いつでも呼んでくれ」


 ネールが翼をたたみながら言う。


「危険があったら言うねー……ZZZ」


 クロープは相変わらず半分眠っていた。


「わたしも器を通して見ているからね」


 エルが穏やかに微笑む。


「ムーはローブに入って一緒にいくのん」


「……いいのん?」


 少しだけ遠慮がちに、ムーが聞いてくる。


「いいよ」


「みんなありがとう」


「アルミ村をよろしくね!」


 僕がそう言うと、みんながそれぞれ頷いた。



 門へ向かうと、何人かが見送りに来ていた。


「やっぱ先を越されたか」


 ホップが笑う。


「ホップたちはテュリップさん待ちなんだよね」


「おう」


「サラームに行くには手筈を整えないとだからな」


「それまでは村で鍛えて過ごすさ」


 ホップは肩をすくめながら言った。


「フライ」


 ホルスさんが、一歩前に出る。


「今度は、何かを教えてくれる奴はいない」


「全部自分で見て、選んで、決めなきゃならない」


「はい」


 僕は、まっすぐ答えた。


「それも含めて、自分の足で歩いてきます」


「そうか」


 ホルスさんが頷く。


「なら、頑張ってこい」


「はい」


「フライ、私も村で自分にできることやるから」


 ファラが言う。


「ファラは私もサポートするからね、村のことなら任せてよ」


 セラがすぐに続けた。


「セラ、ありがとう」


「何かあったら牧場のみんなに教えてね」


 僕は、ファラを見ながら言った。


「うん、わかった」


 ファラが、しっかりとうなずく。


「気をつけてね」


「もし怪我したらすぐエルを呼ぶこと」


 セラが指を立てる。


「それと、毎度の約束、無事で帰ってくること」


「パディットもね」


 そう言って、今度はパディットにも視線を向ける。


「うん」


 僕はしっかり頷いた。


「オレたちもいるからな」


 パディットが、落ち着いた声で言う。


「ムーもいるのん」


 ムーがローブから顔を出して言う。


「でも、テイムもなるべく隠していきなよ」


「珍しい力なんだから」


 シアンさんが、少し真面目な顔で言った。


「わかりました」


「じゃあ気をつけて行ってきな、我が弟子よ!」


 シアンさんが胸を張って言う。


「ありがとうございます」


 僕はみんなを見渡した。


 守りたい場所がある。


 自然とそんな気持ちになった。


「では、行ってきます」


 そう言って、僕はパディットの背に乗った。


 門の向こうへ、アルミ村をあとにする。



 北の森を抜けて、一直線にカイバル平原へ向かう。


 森の中では野営をして進んだ。


 モンスターは探知で避けたので、大きな戦いにはならなかった。


 村を出て二日目。


 カイバル平原へと辿り着く。


 今回は街道沿いではあるけれど、人目につかない脇道の方をパディットが駆けていった。


 風を切る音。


 揺れる草。


 見渡す限りの空。


 以前よりも、この道のりの長さに慣れている自分がいた。


 平原も二日ほどで越え、村を出て五日目。


 ドーナ大橋までやってきた。


 橋の手前で、僕は思わず足を止めた。


「すごい……人が増えてる」


 僕がそう言うと、パディットが周りを見渡して言う。


「これが本来のドーナ大橋ということだろう」


 以前は人もまばらだった橋が、今は活気に満ちていた。


 荷を運ぶ商人。


 橋を渡る旅人。


 キャラバンの車輪の音。


 以前の賑わいが、戻ってきている。


 大型モンスターの脅威が減ったおかげだった。


 あの時、平野で討伐を続けた日々は、意味があったんだなと思った。


 橋の上では、パディットから降りて徒歩になる。


 橋の石を踏みしめながら進む。


 橋を渡り切ると、今度はガルディア平野が広がる。


 モンスターの気配は、以前よりもずっと薄い。


「ずいぶん変わったね」


「モンスターの気配はもうほとんどないな」


 パディットが、前を見たまま答えた。


 それからさらに二日。


 特に大きな苦労もなく、僕たちはガルディアまで辿り着いた。


 村を出て、ちょうど七日目の夕方のことだった。



 ガルディアに入ると、まず宿を取った。


 部屋の扉を閉めた瞬間、ようやく全身から力が抜ける。


「ふー、やっと着いたね」


 旅をしていると、ベッドや椅子があるだけで、ひどく安心する。


「パディットもご苦労様」


(走るのは好きだから、またいつでも呼んでくれ)


 パディットの声は、疲れた様子もなくいつも通りだった。


 するとムーも、ローブの中から顔を出した。


「やっぱり、パディットと走るのはきもちいいのん」


「ムーもご苦労様」


 ムーを撫でながら言う。


「明日、ガルディア港からフロワに行く船を探そう」


「船初めてなのん、楽しみなのん」


 ムーがベッドの上でぷるぷる震えて言う。


「僕も船ははじめてだ」


 そう言いながら、ふとシアンさんの言葉を思い出す。


「そういえばシアンさんが、船は魔力切れみたいになるって言ってたな」


(魔力切れは辛いわね)


 エルが静かに言う。


(ポーションも効かないし、回復魔法も効かないから、注意しないと)


 少し間を置いて、エルが続ける。


(フロワに着いたらフリールを探すの?)


 僕は少し考えてから答える。


(いや、まずは一人で行動してみようかなって)


(どこかでフリールとは会う気がするから)


(そう)


 エルが短く頷いた。


(フロワまではどのくらいなの?)


 次はパンが聞いてくる。


(船で海を七日渡って、大陸を四日ほど行くとフロワらしいよ)


(海ってさ、モンスターとか出るのかな)


 パンが、少しだけ不安そうに聞いてきた。


(うーん、どうなんだろうね)


 僕は天井を見上げながら考える。


(一応探知はしておくけど)


(じゃあ、ゆっくり休めるね)


 パンは、ほっとしたようにそう言った。


「じゃあ今日はもう休んで、明日に備えるよ」


 そうして、旅の疲れをベッドに置くように、僕は眠りに落ちた。



 そして次の日。


 部屋の中で身支度を整え、荷物を背負い直す。


 新しい杖も、忘れずに手に取った。


 宿屋を出る前に。


「あの、すいません」


「なんだい」


 宿屋の主人は朝の掃除の手を止めて僕の方を向いた


「ガルディア港に行きたいのですが、どちらの方向か教えていただけますか」


「ああ、港なら少し歩くよ」


「ガルディアの北門から出て、半日歩いたくらいかな」


「街道沿いだから迷わないで行けると思うよ」


「そうなんですね、教えていただいてありがとうございます」


 僕は丁寧に頭を下げた。


「気を付けてな」


 宿屋の主人は笑顔で手を振った。


 宿を出ると、朝の光が石畳を明るく照らしていた。


 僕はガルディアの街並みを眺めつつ、ガルディア港へ向かって歩き出した。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

次話も読んでいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ