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ドラゴンテイム 〜モンスターと心を結ぶテイマーの物語〜  作者: エフピー
第四章 フロワ編

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第七十九話 文献の示すもの

 おじいちゃんの家の、いつもの会議部屋には、朝の光が静かに差し込んでいた。


 部屋の空気はどこか張りつめている。


 みんな、口数が少ない。


 おじいちゃんは、僕たちを一通り見渡してから、囲炉裏の脇に置いてあった木箱へ手を伸ばした。


 箱の中には、ゼインの文献が入っている。


 端は擦り切れ、ところどころに薄い染みもあった。


「では、話そうかの」


 おじいちゃんが静かに言う。


 囲炉裏の火が、小さく鳴った。


「どうやら、三百年前、この世界で人知れず大きな争いがあったらしい」


「まさに、さっき言っておった魔人と人間とのな」


「なっ……そんなことが本当に」


 ホルスさんが、ゆっくり顔を上げた。


「ああ、そう書いておる」


 おじいちゃんは頷く。


「文献の断片を読み解いていくと、今の出来事と妙に繋がってくるんじゃ」


「大昔の争いって、何なんだ」


 レインさんが腕を組んだまま問う。


「まずは、魔人という存在じゃな」


 おじいちゃんは文献を一枚めくる。


「魔人は、この世界の者ではない」


「どういうこと?」


 思わず、僕は身を乗り出していた。


「この地よりはるか南の方角に、スラガと呼ばれる大地があるそうじゃ」


「誰も寄りつかぬ、モンスターの巣のような土地らしい」


「ここよりはるか南……」


 ホルスさんが呟く。


「そこには大量のモンスターが棲みつき、魔力が溜まり続けておるとある」


「ダンジョンみたいだな」


 ホップがぽつりと言った。


 おじいちゃんは、そのまま言葉を続ける。


「そして、その地に扉が開くとある」


「異界へと繋がる門」


 囲炉裏の火が、小さく揺れた。


「そこから現れたのが、魔人たちじゃったらしい」


「その門の先が、魔人の住む世界ってことか……」


 ホルスさんが言う。


「そうじゃろうな」


 レインさんがすぐに続ける。


「その魔人は、なんでこの世界に来たんだ」


「どうして争いになった」


 おじいちゃんは、目を細めた。


「そこは、まだ文献を読み切れておらんところじゃ」


「ただ、どうやらその世界の竜が関わっておるらしい」


「竜……」


 僕は自然に呟いていた。


「リュミエール……」


「いや」


 おじいちゃんは僕を見る。


「文献には、対の存在とある」


「対の竜、フォンセという名が残っておる」


「フォンセ……」


 ホルスさんが、その名を噛みしめるように呟いた。


「三百年前、そのフォンセと共に、魔人たちはこの世界へ現れた」


「じゃが、それがこの世界を滅ぼすためか」


「それとも何か、別の理由があったのか」


「分っとらん」


「でも、三百年前この世界はどうにか守られたんですよね」


 ケールさんが、おじいちゃんの方を向いて言った。


「うむ」


「リュミエールや護手の力によって、この世界は守られたようじゃ」


「フォンセもまた力を失い、門は閉じられたとある」


「そして、争いは表から消えた」


「三百年……この世界はモンスターこそ出るものの、大きな戦いはなく続いてきた」


「けど、今、また魔人は現れてます」


「サラームに」


 ホップが顔を上げて言った。


「俺も、この目で見た」


 ホルスさんも頷く。


「あれは、人間とは別物だ」


 オーガスさんが、そこで小さく息を吸った。


「……私も、長くあの魔人に使われてきました」


「ただ強いだけでは済まない何かがありました」


 その言葉に、誰もすぐには返せなかった。


 おじいちゃんは、しばらく囲炉裏の火を見つめたあと言った。


「ふむ……リュミエールの復活といい、今また三百年前と同じようなことが起ころうとしておるのかもしれん」


「しかし、だ」


 レインさんが口を開く。


「そんな大きな争いがあったなら、この文献だけじゃなくて、もっと記録を残してくれててもいいだろうにな」


 その言葉に、僕もはっとした。


「その通りじゃ」


「残せなかったのか」


「それとも、隠したのか」


「……どちらにせよ、表に出せぬ理由があったのやもしれん」


「表に出せない理由、ね」


 ケールさんが静かに繰り返す。


「何かを隠したかった……そういうものが関わってる可能性もありますね」


「あるじゃろうな」


 おじいちゃんは否定しなかった。


「護手、リュミエール、その力」


「隠し、守るために、あえて残さなんだのかもしれん」


 僕は、自分の左手を見た。


 この指輪も、テイムの力も。


 誰かに知られてはいけなかったものの一つなのだろうかと思った。


「それと、もう一つじゃ」


 おじいちゃんが別の紙を取り上げる。


「ゼインは、テイムの力を一つにして残さなんだらしい」


「力を?」


 僕が聞き返す。


「うむ」


「文献には、各地に分けて残したような記述がある」


 ホルスさんが顔を上げた。


「各地に……」


 おじいちゃんは紙面を指でなぞる。


「試練のようなものかもしれんな」


「それってもしかして、ダンジョンのことなんじゃ」


 ホップが言った。


「たぶんな」


 レインさんが低く返す。


「実際にフライが力を得たことと、文献の内容が噛み合っている」


 三百年前のゼインが。


 まだ見たこともない子孫のことを思って、力を分けて残した。


 その先に、僕たちがいる、そんな気がした。


「リュミエールなら……」


 気づけば、言葉がこぼれていた。


「目覚めれば、もっと何かわかるかも」


 みんなの視線が集まる。


「うむ」


 おじいちゃんがゆっくり頷く。


「ではやはり、北の祠へもう一度行って、リュミエールに会ってくるのが良さそうじゃの」


「呼ばれたということはきっと何かあると見ていい」


「うん」


 僕はまっすぐ頷いた。


「俺も行きます」


 ホップがすぐに言った。


「私はどう動くべきでしょうか」


 オーガスさんが慎重に尋ねる。


「お前さんには、ガルディアや外の動きを知る役目がある」


 おじいちゃんが言う。


「村の外から見えることもあるじゃろう」


「ケールやレインとも連携してくれ」


「わかりました」


 オーガスさんは深く頷いた。


「酒場の方でも、噂に耳を立てとくさ」


 レインさんも言った。


「うむ、頼む」


 おじいちゃんは文献をそっと閉じた。


「まだ謎は多い」


「わしにも、読めておらんところは山ほどある」


「じゃが、分かるところから動いていかねばならない」


 部屋の中の誰も、すぐには口を開かなかった。


 しばらくして、おじいちゃんが口を開く。


「三百年前の続きが、今また動き出そうとしておる」


 僕は、無意識に左手を見た。


 呼ばれている。


 あの時よりももっとはっきりと。


「……行こう、ホップ」


 僕が言うと、ホップは隣で立ち上がった。


「ああ」


 確かめたい。


 知らなければならない。


 そんな気持ちが、僕を動かした。


⸻


 おじいちゃんの家を出ると、昼前の光が村の屋根を明るく照らしていた。


「じゃあホップ、一回帰って準備したら集合ね」


「おう」


「集合場所だけどさ、牧場でいいかな」


「ホップ見たことないでしょ」


「お、確かにな」


「一回顔出したいとは思ってたんだ」


 ホップが頷いて言った。


 その時、器からパンの声が響いた。


(フライ、こっち来るの?)


(うん、少し顔出すよ)


 続いてパディットの声が響く。


(ホップが来るのは、初めてだな)


(そうだね、見てもらおうよ)


(きっとビックリするね)


 僕は小さく笑った。


「じゃあ、牧場集合ね」


「おう」


 ホップは軽く手を振って、自分の家の方へ走っていった。


 僕も家へ向かう。


⸻


 家の扉を開けると、中からは、味噌と焼けた野菜の匂いがする。


「おかえり」


 母さんが振り返った。


「まだ昼前ね」


「思ったより早かったじゃない」


「話さなきゃいけないことは、だいたい決まってたからね」


 僕は靴を脱ぎながら言う。


「母さん、北の祠に行ってくるよ」


 その言葉に、母さんの手がぴたりと止まった。


 僕の方を見る。


「……大丈夫なの?」


「前回、北の祠に行った時、倒れて帰ってきたのよ」


「わかってる」


 僕は、少しだけ息を整えてから答えた。


「心配かけない……とは言えないけど」


「僕は大丈夫だから」


 母さんはしばらく黙っていた。


 それから、小さく頷く。


「なら、フライのその言葉を信じるわ」


 母さんは、少しだけ笑った。


「今、軽く弁当にするから持っていきなさい」


「ホップの分もね」


「ホップのも?」


「当然でしょ」


「どうせあの子、ちゃんとしたもの持って行かないんだから」


 僕は少し笑ってしまった。


「ありがとう」


「その間に準備してきなさい」


 僕はうなずいて、自分の部屋へ向かった。


 水袋。


 簡単な布。


 小さな薬草包み。


 それと、ダイナモの杖。


 旅に出てから、こういう支度はだいぶ早くなった気がする。


 荷物をまとめて台所に戻ると、母さんは小さな弁当包みを二つ並べていた。


「はい、ちゃんと食べるのよ」


「ありがとう」


 受け取ると、まだ少しあたたかかった。


「気をつけて、いってらっしゃい」


「行ってきます」


 そう言って僕は家を出ると、牧場へと向かって歩き出した。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

次話も読んでいただけると嬉しいです。

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