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ドラゴンテイム 〜モンスターと心を結ぶテイマーの物語〜  作者: エフピー
第三章 ガルディア動乱編

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第七十三話 旧ライゼル港の攻防 中編

 フリールの後ろに見えていた人影は、徐々にはっきりと輪郭を持ちはじめる。


 駆ける馬の足音。


 鎧のぶつかる音。


 大勢の掛け声。


 それは、紛れもなく騎士団だった。


 使われなくなった入江へ向かって、一直線に馬で駆けてくる。


 先頭を走るフリールは、エルに跨り、必死にフライたちの方へ向かっていた。


「騎士団まで出てきたかあ」


「どんだけ準備してたんだい、君たちい」


 そう言いながら、デグはフードを被り直す。


「すっごく嫌なことばっかりしてくるよねえ」


「殺し甲斐があるよ」


「たのしいねえ」


 戦いの最中だというのに、デグは心底不快そうに笑っていた。


「お褒めにあずかり光栄だな」


「だが、残念ながらやられてやる気はねぇな」


 ホルスさんがニヤリと笑う。


「騎士団……!?」


 ハルが目を見張る。


「親父、俺はまずいんじゃ……」


「それも手は打ってある」


 ホルスさんはハルを見て、落ち着いた声で言う。


「とにかく今は、目の前のこいつだ」


「親父がそう言うなら」


 ハルは頷き、王家の剣を握り直した。


「とにかく君と、その剣だけは消えてもらわないとねえ」


 デグの魔剣が、不気味な光を帯びる。


 刃の先に、風の魔力が集まり始めた。


 その時──


「〈〈プロテクション〉〉」


 澄んだ声が響いた。


「これは!?」


 ハルとホルスさんの体を、魔法の防御が包み込んだ。


「ファラ!?」


 灯台の方から、ファラが駆けつけてきていた。


「ハルさん、治療します」


「ヴェンドとジーナは、どうなった?」


 ホルスさんがファラの方を向いて言う。


「お父さんがお母さんを連れて、避難しました」


 ファラが息を切らしながら答えた。


「それより、この魔力……強い魔法が来ますよ」


「〈〈エアロバースト〉〉」


 デグが双剣を振りかざした。


 前方に、圧縮された風の塊が生まれる。


 空気が悲鳴を上げるように軋み、そのまま爆散する勢いで放たれた。


「受けるっ!」


 ホルスさんが二人の前に出る。


 魔剣にはまっているルミナストーンが、強く光った。


「うおおおおおおおおおおおお!」


 刃に魔力を帯び、魔剣の刀身が光る。


 その魔剣を全力で振り下ろした。


 刀身から放たれた魔斬撃が、エアロバーストを正面から押し返す。


 ぶつかり合う、風と魔斬撃。


 圧力で空気が歪み、港に衝撃波が広がった。


 ぎりぎりで、その風塊を上空へ押し上げる。


 次の瞬間、空で爆散し、爆風が港全体を揺らした。


 そして、ホルスさんの魔剣に嵌められていたルミナストーンが、ぱきん、と音を立てて砕け散る。


「あぶねぇ……たすかった……」


 ハルが息を吐く。


「〈〈リール〉〉」


 ファラがすぐに治癒魔法をかける。


 ハルの脇腹の傷が、淡い光に包まれて少しずつ塞がっていった。


「ありがとうな、ファラ」


「いいえ」


 ファラはデグを見据えたまま答える。


「しかし、すごい魔力ですね……」


「あんなもん連発されたら、ルミナストーンも尽きる」


 ホルスさんが舌打ちした。


「……これ、使ってください」


 ファラが胸元から、赤目キマイラから得た巨大なルミナストーンを取り出す。


「いいのか?」


「ええ」


 ファラは迷わず頷いた。


「みんなをこれで守れるなら、使ってください」


 加工されてはいない、ただのルミナストーン。


 ホルスさんはそれを受け取り、魔剣の鍔の窪みに押し当て、布で無理やり固定した。


 その時だった。


「ホルスー!」


 フリールがついに到着する。


「騎士団が急に出てきて、助けてくれるってさ」


「バルダン王……間に合ったか」


 ホルスさんはほっとした表情を浮かべたが、すぐに真剣な顔へ戻った。


「それはいいが、フライがやばい」


「このままじゃ持たない」


 エルが、遠くのフライたちの方へ目を向ける。


「他の子の魔力も持たないわ」


「騎士団には、そっちに行ってもらうよう言ってくれ」


 ホルスさんはフリールに向かって言った。


「うい!」


 フリールは即座に向きを変え、騎士団の方へ駆けていく。


 その時大きく声がかかった。


「ホップーーーー!」


「加勢に来たー!こっちはまかせろー!」


 ハルはその声にはっとする。


「ガ、ガレオンさん……」


「ガレオンさーん!ありがとうございますっ!」


 ガレオンさんは笑みを浮かべた。


⸻


「騎士団のみなさーん!」


 エルに跨ったフリールが、大きく手を振る。


「あっちのモンスターの方をお願いっ!」


 先頭の騎士団長が、フリールの前で足を緩めた。


「わかった」


 騎士団長が剣を抜く。


「入り江に見えるモンスターを殲滅するっ!」


「皆っ! 続けっ!」


「はっ!」


 数十名の騎士たちが、一斉に馬で入り江へと突っ込んでいった。


⸻


「誰かこっちに向かってる!?」


 僕は、氷の壁を維持しながら言う。


「フリール!? ってことは味方……なのか!?」


「もう……限界なのん」


 ムーの魔力が、ひどく弱っていた。


「ムー、もう少しだけ! もう少しでフリールが来る!」


「わかった……のん」


「フラーイ!」


 フリールが、遠くから叫ぶ。


「あとは騎士団のみんなにまかせてー!」


「やっぱり、騎士団!?」


「ムーは……もう……なのん」


 ムーが小さくなり始める。


「ムー! 頑張れっ!」


 その時だった──


「その魔法壁を解除して下がれー! あとは引き受ける!」


 騎士団長の声が飛ぶ。


「わかりましたー!」


 僕が魔法を解いた瞬間、ムーの防壁もふっと消えた。


「ムー、ありがとう……無茶させてごめんね」


 僕はぐったりしたムーを抱きかかえる。


「みんなー! 騎士団のみなさんに任せて下がるよ!」


「了解っ!」


「応!」


 パディットとネールが応える。


 僕たちは一斉に入り江を離れた。


「ここは、まかせろー!」


 騎士団が僕の横を駆け抜けていく。


「よく持ち堪えた、行くぞっ!」


 僕に声をかけると、そのまま大型モンスターに突っ込んだ。


 剣戟。


 重装の騎士たちが隊列を保ったまま大型を押し返していく。


 数十名とはいえ、その制圧力は圧倒的だった。


⸻


「あっちはなんとかなった」


 ホルスさんが言う。


「ふーん」


 デグが、面倒そうに肩をすくめた。


「何か色々面倒になっちゃったあ」


「ちゃっちゃと殺すだけ殺して、退散しよっかな」


 その瞬間。


 デグが凄まじいスピードで、僕の方へ突っ込んだ。


「君からだよおおおおお!!」


 双剣を振りかぶる。


「!?」


 僕は目を見開く。


 デグは、そのまま二本の魔剣を僕へ向かって投げつけた。


 一直線。


 見えた時には、もう遅かった。


 僕は咄嗟に、抱えていたムーを空中へ投げる。


「まずい……かわせな──」


 言い終わるより早く。


 デグの二本の魔剣が、僕の腕と腹に突き刺さった。


「ぐあああああっ!」


 激痛。


 焼けるような痛みが、腹から全身へ走る。


 視界が一気に歪み、足元が消えるような感覚。


 それでも、震える手で刺さった剣を抜き放った。


 血が吹き出す。


 抜いた剣は、石畳の上をカラン、カランと音を立てて転がった。


「フラーーーーーイ!!」


 ハルの叫びが響く。


「フライ……? え……うそ……?」


 ファラの顔が凍りつく。


「くっそおぉ!」


 ホルスさんが、特大ルミナストーンを付けた魔剣に力を込めた。


 魔剣が眩く光る。


「うおおおおおおおお!」


 放たれた魔斬撃が、一直線にデグへと飛ぶ。


 デグは半身でかわす。


 だが、完全には避けきれなかった。


 斬撃がデグの腕を切り裂き、ローブのフードを吹き飛ばした。


「痛ったいねえ」


「それでも、絶対僕は殺せないけどねえ」


 デグが、切れた腕から血を流しながら笑う。


「君たちの希望は、今消し飛ばしたよお」


「たのしいねえ」


「……っ、今、回復を」


 ファラが駆け出す。


 エルも走った。


「〈〈フォールリール〉〉」


 エルの回復魔法が、僕の体を包み込む。


「フライ、ダメよ、しっかりして……」


 ファラもすぐに重ねる。


「〈〈リール〉〉」


「まだ息はあります! 持たせてみせます!」


「くそおおおおお!」


 パディットがデグへ向かって飛びかかる。


 だが、大型モンスターとの戦闘で、すでに消耗が激しい。


「オオカミごときが邪魔だあ」


 デグは双剣を横に一振りした。


 風をまとった一閃が、パディットを弾き飛ばす。


「ぐあああああっ!」


 パディットの巨体が、地面を転がった。


 その時、上空から雷が落ちる。


「〈〈ネオ・エクレール〉〉」


 ネールの放つ雷が、デグへ直撃──するはずだった。


「それじゃあさあ」


 デグが笑う。


「さっきとおんなじじゃないかなあ」


「雑魚がイキっちゃダメだよお」


「〈〈エアロイレイザー〉〉」


 今度は、鋭く圧縮された風の弾丸。


 それが一直線にネールの羽へ突き刺さった。


「……ぐっ!」


 翼を撃ち抜かれたネールが、空から落ちる。


 地面に叩きつけられ、意識を失った。


 ホルスさんが魔剣で斬りかかる。


 しかし、もう力が入っていない。


 あっさりといなされる。


「君も、すぐ殺してあげるよお」


 デグの魔剣が怪しく光る。


「……めろ」


 ハルが、小さく呟く。


「や……め」


「あっはは、よっこい、しょ」


 掛け声と共に、振り下ろされた斬撃が、ホルスさんを十字に切り裂いた。


 血が吹き出す。


「がああああああっ!」


 ホルスさんが地面に倒れ込む。


「あっはあ」


 デグが、息を吐くように笑った。


「つぎは、君だあ」


「たのしいねえ」


 デグが、ハルの方を向く。


「……やめろ」


 ハルの声が、今度ははっきり響いた。


「やめろっ!!」


 その時。


 ハルの持つ王家の剣が、金色に光り始めた。


 光は剣から漏れるのではない。


 剣そのものが、目覚めるように輝いていた。


「!?」


 デグが目を見開く。


 ハルに近づいていた足を止め、後ろへ大きく距離を取った。


「その……光い……」


 ハルが、光る剣を構える。


 息は荒く、血も流れている。


 それでも、その目だけは一切揺れていなかった。


「お前だけは、絶対にここでっ!」


「はったりだああああああああ!!」


 デグが吠え、ハルへ突っ込む。


 しかし──


 ハルは、ただ金色の剣を振り下ろした。


 その一撃が、デグの魔剣を弾き飛ばす。


「……な!?」


「……まさか……ほんとうに……」


 言い終わるより早く、ハルが踏み込む。


「斬ッ!」


 金色の斬撃が、一直線にデグを切り裂いた。


 その一撃は、デグの右腕を肩口から吹き飛ばした。


 切断された腕が、石畳の上を転がる。


「ぐああああああああああっ!!」


 デグの絶叫が、港に響き渡った。


「護手ええええええええええ!!」


 ハルは剣を構えたまま、血走った目で叫ぶ。


「俺は、お前を許さないっ!!」

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

次話も読んでいただけると嬉しいです。

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