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ドラゴンテイム 〜モンスターと心を結ぶテイマーの物語〜  作者: エフピー
第三章 ガルディア動乱編

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第七十二話 旧ライゼル港の攻防 前編

 ネールが、デグの前に大きく翼を広げて立ちはだかった。


 その直後、上空から降り注いだ閃光が、デグの頭上へと走った。


 しかし──


 デグは、二本の魔剣をくるりと回転させただけで、その閃光をいなした。


 火花が散る。


 雷が、魔力を帯びた刃によって弾かれて消えた。


「ほう」


 ネールが空中で唸る。


 デグが白い顔をしかめる。


「魔物のくせに、僕に攻撃するんだあ」


 にたり、と笑う。


「殺すよ?」


「やってみるがいい」


 ネールがいなすように応える。


「……あれ?」


 デグの笑みが、ほんの一瞬だけ変わった。


「お前、喋ってるのか?」


 その目が細くなる。


「……まさか、この力……アルミか?」


「何を言ってる?」


 ホルスさんがデグに言う。


 だがデグは、もうホルスさんを見ていなかった。


「あっはは」


 白い顔が、大きく歪む。


「これはおもしろいねえ」


「まっすます殺さないとだあ」


 ネールへ向かって、声を張る。


「おい鳥い!」


「お前のご主人様は誰なんだあ?」


「私は私だ」


 ネールは一切ひるまない。


「いーーーーーや、答えろ」


 デグの声が、少しだけ低くなった。


「忌々しい竜の契約者がいるんだろお」


(なんだ)


 ホルスさんに違和感が走る。


(なぜ、こいつはそこまで知っている)


「おい魔人」


 ホルスさんが剣を構え直す。


「その竜は、お前と何が関係あるんだ?」


「もう君に興味はないね」


 デグが面倒そうに言い放つ。


「後で殺してあげるよお」


 そのまま、ネールだけを見上げた。


「それより鳥い、答えなよお」


「断る」


 ネールが言う。


「ふーーーーん」


 デグは肩をすくめた。


「まあいいや」


「殺せば出てくるかあ」


「たのしいねえ」


 そう言うと、二本の魔剣を前に突き出し、短く唱える。


「〈〈ウィンドバインド〉〉」


 次の瞬間。


 風が、目に見えるほど濃い糸になってネールの体へ絡みついた。


 ぐるぐると、幾重にも。


 翼も、脚も、胴も、空中で縛り上げるように。


「この魔力は!?」


 ネールの体が空中で軋む。


「はっはあ」


 デグが笑う。


「出れないよねえ」


 そのまま周囲へ向かって声を張った。


「どっかにいるんでしょー!」


「出てきなよー!」


「この鳥、殺すよー?」


「まだくるなー!」


 ホルスさんは叫ぶと、魔剣の鍔の窪みにルミナストーンをはめ込んだ。


 石が淡く光り、剣身に魔力が走る。


「……あのさあ」


 デグが、ようやくホルスさんを見た。


「君、いい加減うるさいし邪魔だよねえ」


 その瞬間、デグが地を滑るように踏み込んだ。


 剣が、ほとんど見えない速さでホルスさんへ襲いかかる。


「今度はそうはいかんぞ」


 ホルスさんが魔剣を振るう。


 刀身から、光る魔力の刃が伸びた。


 そのまま正面から、デグの斬撃を受け止める。


 刃と刃の、甲高い音が港に響いた。


「へえええ」


 デグが目を細める。


「それやっぱりいいねえ、僕が使うよお、今決めたあ」


「お前には散々奪われてきた」


 ホルスさんの声が、怒りに震える。


「これ以上、くれてやるもんは何もねぇんだよ」


 その時だった。


 灯台の方から、ひとつの影が走ってきた。


「親父!」


 ハルだった。


 一気に距離を詰めてくる。


「ん?」


 デグが目を向ける。


「ハル!」


 ホルスさんが叫ぶ。


「こいつは魔剣を使う、刀身に気をつけろ」


「了解だ!」


 ハルは背負っていた包みを取る。


 布を取り払うと、その中から王家の剣が姿を現した。


 両手で構え、そのままデグへと斬りかかる。


「うおおおおおお!」


 王家の剣が、真っ向からデグへ叩き込まれる。


 デグは双剣を交差させて受けた。


 火花が散る。


「ここだあ!」


 横から、ホルスさんが魔斬撃を放つ。


 魔剣の刀身から放たれた一閃が、空気を裂いてデグを捉える。


 ──はずだった。


「へえ」


 デグの声が、すぐ近くで響いた。


「いい連携するねえ」


「君たち、戦い慣れてるね」


 デグは寸前で体をひねり、その斬撃を紙一重でかわしていた。


「なんて身のこなしだ……」


 ホルスさんが舌打ちする。


「あっはは」


 デグが楽しそうに笑う。


 二本の魔剣を前に構えた。


「じゃあ、これはどうかなあ!」


「〈〈エアロバースト〉〉」


 デグの前方に、濃密な風の塊が生まれる。


 圧縮され、歪み、空間そのものが軋むみたいに膨れ上がった。


「その魔法はやばい!」


 ネールが風に縛られたまま叫ぶ。


 その瞬間、何かがその前へ飛び込んだ。


「絶対まもるのん!」


 ムーだった。


 小さな体を震わせ、前へ出る。


「〈〈アイスシールド〉〉なのん!」


 同時に、僕も塀の影から杖を突き出した。


「〈〈アイスシールド〉〉」


 前方に、二枚の氷の盾が重なる。


 次の瞬間、デグのエアロバーストが炸裂した。


 風の爆発が氷にぶつかり、氷片が一気に四方へ飛び散る。


 氷の盾は粉々に砕けたが、デグが放った風魔法も相打ちのように弾けた。


「へえええええ」


 デグが笑う。


「強い魔力だあ」


「わかったよお、君だねえ」


「だったらなんだ」


 僕は前へ出る。


「もう、何一つ奪わせない!」


 デグが冷たく笑う。


「何も奪わないよ、全部消えるだけさ」


 デグが僕の方へ突っ込む。


 だがその前に、ハルが一歩前へ出た。


「まてよ、魔人」


 斬撃を、王家の剣で受け止める。


「!?」


 デグの表情が、初めて明確に変わった。


 一瞬で後ろへ飛び退く。


「その剣……もしかして……」


「ガルディア王家の剣だ!」


 ハルが叫ぶ。


「あっはははは!」


「王家の剣かあ!そっかあ!」


 デグが大笑いした。


「何も知らないんだねえ」


「でもわかるよお、その剣は本物だあ」


「そして君は護手確定だあ」


「何が言いたいんだ……」


「目的が全部揃って、やってきてくれたんだあ」


 デグの笑みが、狂気じみて深くなる。


「ありがとうねえ」


「まず君は、真っ先に殺してあげるよお!」


 次の瞬間。


 デグの速度が、さらに一段跳ね上がった。


「ちっ!みえねぇ!」


 ハルが剣を構える。


 だが、デグの斬撃はその上をいった。


 残像のような連撃。


 双剣と、その先に伸びる魔力刃が、縦横無尽にハルへ襲いかかる。


「ハルっ!」


 ホルスさんが叫ぶ。


 ハルは致命傷を避けるため、咄嗟に身を捻った。


 だが避けきれない。


 脇腹を十字に切り裂かれ、血が噴いた。


「……くっそ」


 その時だった。


 すごい速さで何かが飛び込み、デグを横から吹き飛ばした。


「お前が、赤目の元凶だな」


 パディットだった。


 鋭い牙を剥いて立ちはだかる。


 デグは吹き飛ばされたが、双剣で衝撃を逃がし、着地した時には無傷だった。


「あっはははは」


 白い顔が歪む。


「次から次へと、ほんんんんんっとうに鬱陶しいねえ」


 デグが船の方を向く。


「おーい、もうアレ出してー」


 その声に応えるように、船からモンスターが降りてきた。

 

 どれも大型で、明らかに強い魔力。


 数十体ほどが、次々と甲板から飛び降りてくる。


「君だけは僕が殺すよお」


 デグが再びハルに向かって一直線に斬りかかる。


 今度はホルスさんが前へ出て受け止めた。


「ぐっ……!」


 魔剣と魔剣がぶつかり合う。


「はえーし、重てぇ!」


「ホルスさん!」


 僕は船の方を見て言う。


「船からモンスターが降りてきます!」


 デグの連撃を受け止めながら、ホルスさんが指示を飛ばした。


「お前たちはモンスターを止めろ!」


「絶対に平野に行かすな!」


「はいっ!」


(でも、こんな数……捌き切れるのか?)


「ちっ、やるしかないな」


 パディットが前へ出る。


「ムーがネールを助けるのん」


 ムーが、風の魔力に拘束されたネールの鎖を、魔力で一気に凍らせた。


 パキパキと音を立て、拘束が砕ける。


「ムー、この礼は必ず」


「そんなこといいのん」


「早く、あれを食い止めるのん」


 ムーが船の方を見る。


「承知」


 ネールが大きく翼を広げた。


「僕とムーで、壁を張る」


 僕は杖を構える。


「食い止めてる間に、できるだけ数を減らして」


「わかった」


「いくぞ!」


「〈〈ウォーターウォール〉〉なのん!」


 ムーの魔力が一気に膨れ上がった。


 港の海水が持ち上がるようにして、巨大な水の壁が船と港の間に立ち上がる。


「〈〈アイスウォール〉〉」


 僕も、それに重ねるように氷の壁を生み出す。


 水と氷の二重壁が、大型モンスターたちの進路を塞いだ。


「パディット!」


「任せろ」


 パディットが、スピードアップのバフ効果を乗せた速さで駆ける。


 目で追えない速度。


 そのまま大型の一体の喉元へ飛び込み、爪で切り裂く。


 さらに跳ね、別の一体の脚を噛み砕き、そのまま横腹をえぐる。


 上空からネールが応戦する。


「〈〈ネオ・エクレール〉〉」


 雷が連続で落ちる。


 水の壁に触れた魔力がさらに広がり、港の一角が白く瞬いた。


「まずい……数が多すぎる」


 僕は歯を食いしばる。


「このままじゃ、ジリ貧になる」


 横を見ると、ホルスさんとハルが、まだデグの相手をしている。


 デグは一人なのに、その圧が異常だった。


「くっそ、持ち堪えられるか?」


「頑張って魔力を捻り出すのん!」


 ムーが叫ぶ。


「諦めないのんんんん!」


「そうだ」


 僕は杖を握り直した。


「諦めたら終わりだ、魔力を捻り出す!」


 その時、ホルスさんの声が飛ぶ。


「もう少しだけ持ち堪えてくれ!」


「苦しいだろうが、絶対なんとかなる!」


「……はいっ!」


 僕は全力で壁を維持した。


 氷が砕け、水が吹き飛ぶ。


 それでも魔防壁を張り直す。


 ネールの雷。


 パディットの爪牙。


 皆が限界まで魔力を絞り出して耐える。


 しばらくして──


(フライ)


 エルの声が届いた。


(今からそっちにいくから、もう少し……もう少しだけ耐えて)


(……頑張るよ)


「えー、なんか耐えてるねえ」


 デグが、ハルとの打ち合いの合間にげんなりする。


「戦ってる最中によそ見すんじゃねえ!」


 ハルが王家の剣を振るう。


 重い一撃。


 デグは双剣で受けるが、足元が少しだけ沈んだ。


「君たちも君たちで、粘るよねえ」


 デグがうんざりしたように言う。


「いい加減、飽きてくるよ」


 ハルはもう何ヶ所も斬られている。


 肩で息をしている。


 それでも一歩も退かない。


(まずいな)


 ホルスさんの胸に焦りが走る。


(このままだと、こいつに勝てねえ)


「くっそ……」


 その時だった。


「みんなーーーーーー!」


 声が響いた。


 小高い森の影から、フリールがエルに乗って走ってくる。


 しかも、その奥には騒がしい人影が沢山見えた。


「間に合ったか……」


 ホルスさんが呟く。


「……あとは、こっちをなんとかするだけだ」


「ハル、まだ行けるか」


「おう、親父」


 ハルが、血のついた口元をぬぐいながら笑う。


「二人で、こいつを仕留めるぞ」


「行くぞっ!」

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

次話も読んでいただけると嬉しいです。

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