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ドラゴンテイム 〜モンスターと心を結ぶテイマーの物語〜  作者: エフピー
第三章 ガルディア動乱編

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第七十一話 再会の港

 黒いローブ姿が、ゆっくりと港へ降り立った。


 潮風の吹く、使われていない入江の港。


 その人物だけが妙に浮いて見えた。


 ファラは、その姿を見つめながら、ぎゅっと拳を握る。


 隣に立つヴェンドさんが、ファラに声をかける。


「大丈夫だ、ファラだけは必ず守る」


「ううん」


 ファラはすぐに首を振った。


「お父さんは、お父さんの心配をする」


「そう約束したでしょ」


「私は大丈夫だから」


「……」


 ヴェンドさんは答えず、ただ前を見た。


⸻


 その日の朝。


「すまない、ファラ」


 ヴェンドが、苦い顔で言った。


「巻き込むことになってしまって……」


「お父さんは何も悪くないよ」


 ファラは、はっきりと答えた。


「もう、それは言わないって約束でしょ?」


「でもさ」


 ファラは、少しだけ表情をやわらげた。


「これでよかったんだよ」


「私、何も知らないで生活してて」


 ファラは、自分の胸元に手を当てる。


「お父さんのこと、過去のこと、お母さんのこと」


「もしそのまま、知らないで生活してたらって思うと……辛いもん」


「お父さんに、ずっと守ってもらってるだけだなんて」


「ファラ……」


「それに、私は無関係なんかじゃないよ」


 ファラは、ヴェンドの目をまっすぐ見た。


「家族だもん」


「一緒に戦わせてよ」


 ヴェンドはしばらく何も言えなかった。


「……すまない」


 そう言いかけて、ヴェンドは止まった。


 そして、小さく首を振る。


「……じゃないな」


「ありがとう、ファラ」


 声は少し震えていた。


「三人で、必ず家に帰ろう」


「うん」


 ファラは強く頷いた。


「フライたちを信じようよ」


「ホルスさんとも、今度は笑って会えるようにね」


 ヴェンドも、ほんの少しだけ口元を緩める。


「こんな形では会いたくなかったからな」


 それから、ふっと目を細めた。


「それにしても、ファラは……ジーナに似てきたな」


「そうなの?」


「たくましくなったし、何より笑った顔がそっくりだ」


 その言葉に、ファラの目が少し潤んだ。


「行こう」


「そして帰ってこよう」


⸻


 そして、今。


 黒ローブの人物は、ヴェンドさんとファラの前まで来ると、楽しそうに首をかしげた。


「やあ、お二人さん」


 ねっとりとした声。


「僕の言った通り、来てくれたんだねえ」


(この人が……)


 ファラはその顔の見えないフードを見つめる。


「何か暗いねえ」


 黒ローブの人物が肩をすくめる。


「それは暗くもなるさ」


 ヴェンドさんが言った。


「ガルディアでやっていたことが、全部ダメになっていくのだからな」


「ほんとだよねえ」


 ローブの下で笑う。


「誰のせいなのかなあ?」


「私のせいだと言いたいのか」


 ヴェンドさんは問い返す。


「違う、違うよお」


 楽しそうに両手を広げる。


「誰か意地の悪いクソ野郎が、邪魔してるんだよねえ」


「目星はついているのか?」


「いーーーーや」


 間延びした声で答える。


「まーーーったくだよお」


「じゃあどうする」


「でもねえ」


 黒ローブの人物が、船の方へ親指を向ける。


「いーーーーっぱい、魔物を放てば出てくるよねえ」


「……まさか!?」


 ヴェンドさんの表情が変わる。


「そうだよお」


 黒ローブの人物は、まるで気軽な相談でもするように言った。


「ガルディアに直接放つんだよお」


「そのお手伝いを、君達にしてもらいたいんだあ」


 黒ローブの人物が、考えるように首を傾けた。


「怖がらなくたっていいよ」


「ちゃんとやってくれれば、無事にお父さんと帰れるからさあ」


「サラームにね」


「サラームに!? 私たちをどうするつもりだ?」


 ヴェンドさんの声が少し震える。


「何かされると思ってる?」


 黒ローブの人物が笑う。


「あっはは、大丈夫だよお」


「サラームで、みんなで仲良く暮らしていけるようにしてあげるよお」


「ガルディアは……」


 ファラが呟く。


 黒ローブの人物が、少しだけ声を落とした。


「ガルディアは、おしまいだよ」


「たのしいねえ」


「家族で暮らせる……それを、今さら信じろと?」


 ヴェンドさんが奥歯を噛みしめる。


「ん?」


「信じるとか信じないとか、関係ないんだよねえ」


「僕がそうするって言ってるんだよねえ」


 そこで、ローブの人物は顔の見えないまま、笑みを浮かべる。


「それに、君には感謝してるんだあ」


「ここまで来られたのも、君のおかげだからさあ」


「……」


 ヴェンドさんは何も言わなかった。


 だが、その沈黙の中には、怒りと、後悔と、殺意のすべてが詰まっていた。


「わかった」


 そこで、ファラが口を開いた。


「言う通りにする」


「ファラ!」


 ヴェンドさんがファラを見て叫ぶ。


「お父さん、いいの」


「いい子だねえ、助かるよお」


 黒ローブの人物が嬉しそうに笑う。


「あ、違うか、選択肢なんてないんだっけ」


「たのしいねえ」


「……あの」


 ファラが一歩、前に出た。


「その前に、お母さん」


「お母さんと会わせてほしい」


「いいよお」


 黒ローブの人物は、あっさり頷いた。


「おーい、ジーナちゃん連れてきてー」


黒ローブの男は、乗ってきた船の方に向かって言った。


⸻


 船の影から、兵士らしき男が現れた。


 そして、それに連れられるように、一人の女性がいた。


 顔色はあまり良くない。


 けれど、その目だけは死んでいなかった。


「……オーガス」


 声を聞いた瞬間、ヴェンドさんの声が飛んだ。


「ジーナ!」


「お母さん!」


 ファラの顔が、一瞬で涙に崩れた。


「……え?」


 ジーナさんの目が大きく見開かれる。


「ま、まさか……ファラ!?」


「私だよ!お母さん!」


 ファラは泣きながら叫んだ。


 ジーナさんもヴェンドさんも、顔を歪めた。


 何年も閉じ込められていた感情が、ようやく決壊したみたいに。


「感動の再会だねえ」


 黒ローブの人物が、手を叩いて笑う。


「あはは」


「話してきていいよお」


 兵士がジーナさんを二人の方へ押し出した。


 ファラはたまらず駆け寄り、ヴェンドさんも一歩踏み出す。


「ファラ……大きくなったね……」


 ジーナさんの声は震えていた。


「こんなことになって、ごめんなさいね」


「ううん」


 ファラは首を振る。


「私が、お母さんに会いたいって望んだんだよ」


「オーガス……」


 ジーナさんがヴェンドさんを見る。


「正直、あなたがファラまで巻き込むと思ってなかったわ」


「すまない……こうするしかなかった」


 ヴェンドさんは目を伏せる。


「それは、言い訳のしようがない」


「でも、私もダメね」


 ジーナさんは涙を流しながら、それでも笑った。


「素直に、これまでの人生で一番嬉しい」


「生きててよかったって……思っちゃった」


「お母さん……」


 ファラは、ジーナさんの耳元にそっと顔を寄せた。


「今から助けるからね」


「何が起こっても、安心していて」


「え?」


 ジーナさんが目を見開く。


 その瞬間だった。


 ヴェンドさんが、眼鏡を外した。


 それを合図に、港の塀のあたりで、一瞬光が走る。


 刹那。


 ジーナさんの体が、目で追えない速さで奪い去られた。


「なっ──!?」


 黒ローブの人物が反応するよりも早く、ヴェンドさんが叫ぶ。


「目をつぶれ!」


 ヴェンドさんの手から、閃光玉が放たれる。


 次の瞬間、港が真っ白な光に包まれた。


 その隙に、ヴェンドさんとファラも一気に灯台の方へ走り出す。


「へえ」


 黒ローブの人物は、眩しさの中で軽く笑った。


「やるんだ、そういうこと」


 光が晴れ始める。


「でも僕から逃げられるって思ってるなら、それは、かなしいねえ」


 ぞっとするほど穏やかな声。


「どこまででも追いかけてえ」


「どこまででも追い詰めてえ」


「どこにも行けなくしてえ」


「次は一人ずつ、目の前で殺すからねえ」


「たのしいねえ」


「おい、クソ野郎」


 その声は、港の反対側から響いた。


 黒ローブの人物が振り向く。


「誰?」


 ローブを脱いだホルスさんが、そこに立っていた。


「お前は知らないんだよな」


「俺が生きてるってことを」


「いや、誰なの?」


 黒ローブの人物が本気で不思議そうに言う。


「お前は知らなくっても」


 ホルスさんの声は低く、怒りが含まれている。


「こっちは忘れらんねぇんだよ」


 ホルスさんはゆっくりと歩き出す。


「は?」


「いきなり来て、何言ってるんだい君い?」


 黒ローブの人物が、首をかしげた。


 ホルスさんは一歩、さらに踏み出す。


「十八年前」


 背後の城跡を顎で示す。


「ライゼル城を襲ったのは、お前だな」


「ああ、そっかあ」


 黒ローブの人物が笑う。


「生き残りかなあ」


「ごめんねえ」


「始末してあげられなくってえ」


「今まで苦しかったねえ、たのしいねえ」


「あと」


 ホルスさんの目が細くなる。


「お前は、なぜガルディアをそこまで狙う?」


「なぜってえ」


 黒ローブの人物は、まるでくだらないことを聞かれたように言った。


「いらないからだよお」


「ゴミ掃除だよねえ」


「ご……み?」


 ホルスさんの目が大きく見開かれる。


「そうそう」


 黒ローブの人物が、嬉しそうに笑う。


「ぜーーーーーーんぶいらないゴミ」


 ホルスさんの声は、逆に静かになった。


「……お前、本当にサラーム国の者か?」


「へえ」


 黒ローブの人物が、本当に楽しそうに声を上げる。


「するどいねえ、君」


「まぁでも、そうだよお」


「サラームはもう、僕の物だから」


「僕の操り人形、僕の手足、僕の奴隷」


「物、そうか……」


 ホルスさんは小さく息を吐く。


「お前が全ての黒幕なんだな」


「黒幕かあ」


 黒ローブの人物が、くすくす笑う。


「そうなるのかなあ」


「んで、君あれかあ」


「オーガス君の知り合いか、なんかなの?」


「ああ」


 ホルスさんは即答した。


「戦友だ」


 黒ローブの人物が、少しだけ声を低くした。


「ふーん」


「まあ、もう全員殺すって決めたから、どうでもいいけど」


 そのまま、ローブを脱ぐ。


 現れたのは、少年のような顔立ちだった。


 いや、少年に見えるだけで、人間ではなかった。


 肌は病的なほど白く、血の気がない。


 耳は少し尖り、瞳は人のものよりも冷たかった。


「な……」


 ホルスさんの目が見開かれる。


「お前、なんなんだ!?」


「あはは」


 その白い顔が、嬉しそうに歪む。


「その反応いいねえ」


 にたりと笑った。


「僕はデグ」


「見ての通り、人間じゃない」


「人間……じゃない?」


 デグは肩を揺らして笑う。


「僕は、魔人さ」


「ま……魔人だと!?」


 ホルスさんの背筋を、冷たいものが走る。


 魔人。


 伝承や、古い戦記の中でしか聞かない存在。


「そんな者の存在を、認めろってのか」


 ホルスさんは、現実に見ながらも、まだ信じられないでいた。


「あーあ」


 デグが心底残念そうに言う。


「知ったら殺さないといけないねえ」


「たのしいねえ」


 そう言うと、デグは懐から二本の魔剣を取り出した。


 ホルスさんも背中の剣に手をかける。


(なんだ、あの気配は)


 塀の影で見ていた僕の背筋が、ぞくりと震えた。


(人間じゃないみたいだ)


(それと、あの魔力は……なんなんだ)


(フライ)


 ネールの声が響く。


(私も時を見て加勢する)


(わかりました)


 僕は息を整える。


(戦闘に入ったら、ネールさんはホルスさんに加勢してください)


(承知)


 デグが、ゆっくりとホルスさんへ近づく。


「ねえ」


 白い顔に笑みを浮かべたまま言う。


「君は強いかなあ?」


 ホルスさんが剣を抜く。


「確かめてみろ」


 その瞬間。


 デグの姿がぶれた。


 一気に間合いを詰め、二本の短剣がホルスさんに向かって走る。


 尋常じゃなく速い。


 ホルスさんは反射で剣を横に構え、その斬撃を受け止めた。


 金属音が鳴る。


 防いだ。


 はずだった。


「ぐっ!」


 胸元から、血が散った。


 ホルスさんが一歩よろめく。


「なんだ、その剣……」


 受けたはずなのに、斬られている。


「これ、いいよねえ」


 デグが嬉しそうに短剣をくるりと回す。


 よく見ると、刃の先から、薄く伸びた魔力の刃が揺れていた。


「こんなことも、できるよお」


 デグが双剣を十字に振り下ろす。


 刹那、二本の魔力の刃が飛んだ。


「っ!」


 ホルスさんが身構えるより早く、その体が横へと突き飛ばされた。


 次の瞬間──


「ピィイイイイイイイイイ!」


 鋭い鳴き声。


「〈〈エクレール〉〉」


 頭上から、雷が落ちた。


 デグのいた場所へ、白い閃光が直撃する。


 雷光の中、大きな翼が広がった。


「我は雷鳥!空の支配者!」


 ネールが、大きく翼を広げていた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

次話も読んでいただけると嬉しいですね。

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