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ドラゴンテイム 〜モンスターと心を結ぶテイマーの物語〜  作者: エフピー
第三章 ガルディア動乱編

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第六十五話 お互いのありがとう

 ゼインの石碑の前で、しばらく立ち尽くしていた。


 左手の熱は、少しずつ引いていっている。


 けれど、指輪の奥に何かが刻まれたような感覚だけは、たしかに残っていた。


「……」


 ふと、石碑の横へ視線を向ける。


 壁際には、小さな石の棚があった。


 そこに、三つのものが並べられている。


 薬草。

 エーテル。

 そして、ルミナストーンの入った小袋。


「……南の森の時と同じだ」


(ゼイン……ありがたく、使わせてもらうよ)


 僕はそれらを回収すると、石碑の間を出た。


 背中側で、重い音が響く。


 ゴゴゴゴ……と、扉が、ひとりでに閉じていく。


(とにかく、戻ろう)


⸻


 元の広間へ戻ると、ハルがすぐに気がついた。


「フライ!」


 片膝をついたまま、こちらへ顔を上げる。


「奥はどうだったんだ?」


「ゼインの遺物があった」


 僕は頷く。


「おお……」


 ハルの目が少しだけ見開かれる。


「じゃあ、何か手に入ったのか?」


「たぶんね……」


 僕は、自分の左手を見下ろした。


「まだ実感はないけど」


「器が広がった感覚は少し感じるよ」


「なら、ちゃんと来た意味はあったってことだな」


 ハルが、ほっとしたように笑う。


「うん」


 僕は小さく笑ってから、ふと思い出した。


「それとね」


「多分、ハルもびっくりすると思うけど」


「ん?」


「ムー?」


 僕はローブの中に向かって呼びかける。


「ちょっと喋ってみてよ」


「ムー?」


 ハルが首をかしげた、その瞬間。


「どうしたのん?」


 眠たそうな声が、はっきりと響いた。


「ムー、疲れて眠いのん」


「!?」


 ハルが飛び上がった。


「シャベタアアアアアアアアア!?」


「ね?」


 僕は苦笑する。


「びっくりするって言ったでしょ」


「いやいやいやいや!」


 ハルが、目をひん剥いたまま僕の胸元を指差す。


「ムー覚醒したか!?」


「いや、違うよ!」


 僕は笑いながら手と首を振る。


「僕と器で繋がってる仲間だけだと思う」


「ムー、もう眠っていいのん?」


 ムーが、ぐてっとした声で言う。


「ごめんごめん、ゆっくり休んでね」


 僕は慌てて謝った。


「なのん……」


 ローブの中で、ムーがすうっと静かになる。


 ハルは、まだ半分呆然としていた。


「おいおいおい……」


 頭を抱えるようにしながら言う。


「フライ、お前、どんどん人間離れしてくな……」


「僕人間だよ?」


「……まあいっか」


 ハルは苦笑した。


「お前相手に、今さらそこ突っ込んでもって気がしてきた」


 それから、ふっと表情を引き締める。


「それよりフリールだ」


「まだ目は覚めねぇけど、ちゃんと息はある」


「あっ」


 僕は、手に持っていた小瓶を見る。


「これ、使ってみよっか」


「それ……さっきの部屋にあったやつか?」


「うん」


 僕はフリールのそばにしゃがみ込んだ。


「ノエルさんがエーテルって言ってたのと、同じ色なんだ」


「色って……大丈夫かそれ?」


 ハルが不安そうに眉をひそめる。


「でも、魔力切れなら」


 僕は小瓶を見つめる。


「……試してみるか」


 ハルも、渋々頷いた。


 僕は小瓶の液体を、そっとフリールの口元に運び、少しずつ飲ませた。


 すると、フリールの体が淡く光った。


「……!」


 光は一瞬だけ全身を包み込み、すぐに引いていく。


 やがて、フリールのまぶたがぴくりと動いた。


 それから、ゆっくりと目が開く。


「……お?」


 何度か瞬きをして、フリールはぼんやりと天井を見上げた。


「なんか……魔力が」


「おー、よかった」


 ハルが、安堵したように息を吐く。


「目、覚ました」


「魔力切れは、あかんって思ってても」


 フリールは苦笑いを浮かべる。


「全力でやっちまったよ……」


「そのおかげで僕たち助かったんだけどね」


 僕は、素直に言った。


「本当、ありがとう、フリール」


「よせやい……照れるじゃあねぇか」


 フリールが、少し照れたように頬をかく。


 そう言ったところで、ふと何かに気づいたように首を巡らせた。


「……ん?」


 崩れたフレアゴレムの残骸の中で、何かが光っている。


 フリールの目が、一気に輝いた。


「おおおおおお!」


 さっきまで寝ていた人とは思えない勢いで飛び起きる。


「光ってるー!」


 一直線に駆け寄って、両手で拾い上げた。


「うおー!めっちゃでっかい!」


 大きなルミナストーンだった。


 魔力を吸っていたのか、赤みを帯びたような透明感がある。


「あたい、完・全・復・活!」


「たはは……」


「元気になって何よりだね」


 笑うしかなかった。


「あ……」


 そこで僕は、ふと思い出した。


「そういえば、帰りはパディットじゃないと帰れないんだった」


(呼んでくれれば、いつでも行けるぞ)


 頼もしい声が、器の中から響いた。


(じゃあ、頼むよ)


「〈〈テイムバンク〉〉」


 白い魔法陣が足元に浮かび上がる。


 光が広がり、その中からパディットが現れた。


 灰色の毛並み。


 鋭い金色の眼光のキラーウルフ。


 フリールが、こちらを向いてぴたりと固まった。


「また何か増えてる!」


 次の瞬間、後ずさる。


「って、キラーウルフ!?」


「でっか!おっかねぇ!」


「俺も初めて見た」


 ハルが感心したように言う。


「強そうだな」


「二人とも、初めましてか」


 パディットが、当然のように口を開いた。


「オレはフライの仲間のパディットだ、よろしくな」


「よろしくな、パディットっ!」


 フリールが、条件反射みたいに挨拶を返して――


「……?」


 きょとんとする。


「今、この子……喋らなかった?」


「う、うん……」


 僕は苦笑する。


「パディットも、どうやら喋れるようになったみたいで……」


「そんなこと……ほんんとうに……」


 フリールの表情が驚きに変わり、口を押さえた。


 しかしすぐいつもに調子に戻ってみせた。


「ち、ちょっと理解が追いつかないけど! そういうもんだってことにしとく!」


(また、この違和感だ……)


 僕はどうしても引っかかっていた。


「考えたら頭爆発しそうだしね!」


「ま、まぁ、なんだ」


 ハルも、まだ戸惑いながら言う。


「よろしくな、パディット」


「オレはフライを通して、散々お前たちを見てきたからな」


 パディットが、少し口元をゆるめる。


「大抵知ってるぞ」


「ホップには言いたかったことがある。幽閉から出られ――」


「わーわーわー!」


 僕は慌てて割って入った。


「パディットさん! ハルです!」


「……あ、お、おう」


 パディットが不満そうに目を細める。


「なんじゃ?」


 フリールがきょとんとする。


「なんか、賑やかになったな」


 ハルが苦笑した。


「と、とりあえず戻ろっか」


 僕は話を無理やり進める。


「パディット、案内頼める?」


「まかせろ」


 パディットは胸を張った。


「匂いを辿るだけだから、簡単だ」


「うっしゃ!」


 フリールが小袋を抱えたまま拳を上げる。


「帰ろうか!」


⸻


 帰り道は、パディットを先頭に迷路を戻っていった。


 右へ、左へ、また右へ。


 僕たちが来るときには気配だけでは絶対分からなかった分かれ道を、パディットは迷いなく選んでいく。


「すげぇ……まじで戻れてるのか」


 ハルが、素直に感心する。


「これくらい楽勝だ」


 パディットは自慢げに言った。


「さすがキラーウルフだねぇ」


 フリールが言う。


「鼻が効く」


「ありがとう、パディット」


 僕がそう言うと、パディットは少しだけ照れくさそうに前を向いた。


「せっかくだ」


「入り口までは行こう」


「モンスターも出るかもだからな」


 その言葉通り、途中でヴィットリザードが数匹、陰から飛び出してきた。


 けれど、行きで強いモンスターはあらかた片づけていたこともあり、パディットが前足と牙であっという間に蹴散らした。


 やがて――


「おお」


 ハルが声を上げる。


 見覚えのある石の階段が見えてきた。


「入ってきたところだ」


 その瞬間、フリールが階段を駆け上がっていった。


「うおー!空だー!」


 差し込む光に向かって、両手を広げる。


 地上へ出た時の昼の光が、やけに眩しい。


 森の風も、ダンジョンの空気に比べるとずっと澄んでいた。


「どのくらい時間経ったっけ?」


 ハルが空を見上げながら聞く。


「ちょうど、ドーナを出て二日だね」


 僕は答える。


「ゆっくりしてる時間はねぇな」


 ハルが真剣な表情で言う。


「……でも」


 フリールが、少しだけ表情を曇らせる。


「でも、あたいの一生のお願いだけは頼む」


 それでもすぐに、僕たちの方を見た。


「もちろんだよ」


 僕は強く頷く。


「まず急いでドーナに帰ろっか」


「パディットはここまでね」


「森は探知で帰るから、大丈夫だよ」


「わかった」


 パディットが頷く。


「何かあったら、また呼んでくれ」


「またな、パディット」


 ハルが、少し照れたように笑う。


「キラーウルフと話せて、ちょっと嬉しかったぜ」


「達者で暮らすんじゃぞ、パディットよ」


 フリールも手を振った。


「〈〈テイムバンク〉〉」


 光が包み、パディットの姿が消える。


「その、なんだっけ」


 フリールが、僕の左手と、消えた場所を交互に見る。


「テイムバンクとやらは、魔法なの?」


「魔法だよ」


 僕は頷く。


「ただ、訳ありなんだよね」


「戻ったら、ゆっくり話そっか」


「うい」


 フリールも、小さく頷いた。


「よし」


 ハルが前を向く。


「ドーナに出発だ」


⸻


 帰り道は、探知のおかげでモンスターを大方避けることができた。


 森の気配を読み、危険な方角を避けながら進む。


 そうして半日もかからないほど歩いて、ドーナを出発して二日目の夕方――


 僕たちは、ようやく街へと帰ってきた。


「ふあー……長かったなぁ」


 フリールが、大きく伸びをする。


「じゃあさ」


 そして、少し真面目な顔になった。


「さっそくで悪いけど、あたいの店まで行こっか」


「うん」


 僕はすぐに答える。


「行こうか」


⸻


 街の中を歩き、魔杖屋リンリンの前に辿り着く。


 夕方の光の中で、店の看板がオレンジ色に染められていた。


 けれど、フリールはすぐには扉を開けなかった。


「……」


 その場で立ち止まり、俯く。


「おい、入るんじゃないのか」


 ハルが、不思議そうに声をかける。


「ん?」


 フリールが顔を上げる。


「ああ、そだね」


 それから、ぎゅっと唇を噛んで。


「その前にさ」


「ちょっと、言っとかないといけないことがあるんよ」


「聞くよ」


 僕は、まっすぐに言った。


「おう」


 ハルも頷く。


 フリールは、僕たちを見比べる。


「多分、君たちは大丈夫だと思うけど」


「驚かないでほしい」


「約束する」


「もちろんだ」


 僕たちが答えると、フリールは小さく息を吐いた。


「じゃあ、店の奥……ついてきて」


 店の中へ入り、そのまま奥へ進む。


 すると、カーテンの向こうに、地下へ続く小さな扉があった。


 フリールは腰の鍵束から一本を取り出し、その扉を開ける。


 軋んだ音。


 そして、中へ降りていく。


 ランタンに火を灯すフリール。


 ぼやっとした灯りの中に、影が浮かび上がった。


「……」


 僕たちは、思わず息を呑んだ。


 そこには、パディットくらいの大きさの、犬のような姿をした存在がいた。


 けれど、ただの犬じゃない。


 体つきはもっとしなやかで、微かに魔力があるように見えた。


 それなのに今は、床に伏せたまま、かろうじてこちらを見るだけで精一杯という様子だった。


「この子はね」


 フリールが、静かに言う。


「ヴァンハウンド」


「モンスターなんだ」


「え……モンスターなの?」


 僕は目を見開いた。


「でも、魔力が……微かにしか……」


 探知を向けるが、今にも消えそうなほど、か細い魔力だった。


「魔力がさ……」


 フリールが、ヴァンハウンドの頭をそっと撫でる。


「自分で維持できなくなっちゃってんの」


「だから、あたいがルミナストーンで補填してあげてたんだ」


 そう言って、ダンジョンで手に入れたルミナストーンを少しだけ与えた。


 ヴァンハウンドは、ゆっくりとそれを受け取る。


「もう、あたいが持ってるルミナストーンも尽きかけててさ」


「それで……ダンジョンに……」


「うん」


 フリールは、俯いた。


「もし、フライたちが来てくれなかったら」


「諦めるつもりだったんだ……」


「理不尽に、生きながらえさせても……ってね」


「フリール……」


「でもさ」


 フリールの声が、少し震える。


「どうしても、諦められなくって……」


「出会いは、あたいがお金に困ってた時だった」


 静かな地下室の中で、フリールは語り始めた。


「孤児院育ちってだけでね」


「まあ、あんまりいいことなくってさ」


「だから、いっそシーフになって、ルミナストーンでも盗んでやるって」


「そんなことしてた、ある日だった」


「ヘマやっちゃってさ」


「街道で、貴族のルミナストーン狙っちゃって」


「貴族の護衛に見つかって、ボッコボコよ」


 フリールは、自嘲するように笑う。


「もうダメだ死んじゃうって思った時」


 ヴァンハウンドを見る。


「この子がね……助けてくれたんだ」


「ただ、あたいが弱くて、痛ぶられてるのを見てられなかったんだと思う」


「この子、すごく賢いから」


「弱い存在が、理不尽に痛めつけられてるって思ったんだろうね」


 僕は、胸の奥がきゅっと締めつけられるのを感じた。


「それで、助かったんだけど」


 フリールは続ける。


「この子、元々魔力をうまく溜められない体質だったみたいで」


「無理して戦ったせいで、そのあとフラフラ倒れちゃって」


「……ほっとけなかったんだよね」


「感謝とかが先にきちゃってさ」


「命の恩人だと思った」


「正直、あたい、殺されても文句言えないことしてたから」


「だから気がついたら、ここまで運んできてた」


「なんとかルミナストーンをあげてたんだけど」


「元々、裕福じゃないからね……」


「すぐルミナストーンも尽きちゃって……」


「……」


「フリールは、生きることに、精一杯だったんだね」


 僕は、静かに言った。


「俺はお前を責めねぇよ」


 ハルも、真っ直ぐに言う。


「たしかに盗みはダメだ」


「でも、そこで断ち切ったのはすげぇよ」


「……えへへ」


 フリールの目に、涙が滲んだ。


 それを乱暴に拭う。


「ここからが……お願いなんだ!」


 僕の方を見た。


「この子、フライの力で診てあげられない?」


「なるほど……」


 僕はヴァンハウンドを見つめた。


「テイムすれば……何か分かるかも」


 ヴァンハウンドは、起き上がろうともせずに、ただ静かにこちらを見ていた。


「診てやろうぜ」


「できることなら」


 ハルが言う。


「もちろんだよ」


 僕は頷いた。


「じゃあ、繋げてみるね」


 僕は、指輪のはまった左手をそっとヴァンハウンドの鼻先に触れさせた。


 その瞬間――


 意識が、深く沈む。


⸻


 声が聞こえた。


(あなた……誰?)


 静かで、落ち着いた声だった。


 やさしい声。


(僕はフライ)


 僕は、答える。


(君の声を、聞きにきた)


(フリールは……大丈夫?)


 ヴァンハウンドの最初の言葉は、それだった。


(あの子、すごくいい子なの)


(わたしのために、頑張ってる)


(あの子を悲しませたくない)


(生きないと)


(わたしは、あの子のために生きてる)


(フリールがいい子なのは、知ってるよ)


 僕は、ゆっくりと言葉を返した。


(僕も力になりたい、そう思ってここにいるんだ)


(あなたは、いったい……)


(僕はテイマーだよ)


(君がフリールと喋りたいなら、僕は力になれる)


(ほんとうに……?)


 ヴァンハウンドの声が、微かに揺れる。


(そんなことが可能なの……?)


(できるよ)


(僕と繋がれば、そこからフリールに伝えられる)


(……わたし)


 少し間があいた。


(あの子に、さよならを言いたい)


(もう、わたしのために頑張らないでって)


(悲しまないでって)


「……」


 胸の奥が、痛くなる。


(君は、もう……)


(わたしは、もう魔力をうまく集められないの)


(だから、もう……)


(僕は……)


 言葉が詰まる。


 けれど――


(僕は、フリールが悲しむ顔を見るのは嫌だ)


(それと、君も)


(僕が君をテイムしたら、器で繋がれる)


(魔力も、ちゃんと蓄えられると思う)


(僕は君を、生かしたい)


(ダメかな?)


 沈黙。


 それから、ヴァンハウンドが静かに答える。


(そんなこと……できるの……)


(……いえ)


(ここで話していること自体、奇跡のようなものだものね)


(本当にできるなら)


(わたしは、なんだってする)


(あの子のために)


(じゃあ、行くよ)


(〈〈テイム〉〉)


 左手の甲と指輪が、強く光った。


 熱が走る。


 何かが、器へと繋がる感覚。


 そして視界は、ゆっくりと戻っていった。


⸻


「フライ?」


 フリールの声。


「おい、フライ! 大丈夫か!?」


 ハルの声。


「うん……平気だよ」


 僕は、ゆっくりと目を開けた。


 左手の甲と指輪は、まだ淡く光っている。


「突然、手が光って止まるからどうしたんだと思って」


 ハルが、心配そうに覗き込んでくる。


 その時だった。


「フリール」


 静かな声が、地下室に響いた。


「……え」


 フリールが、凍りついたように固まる。


 ヴァンハウンドの声が確かに届いていた。


「今まで……ありがとう……」


「あなたのおかげで、わたしはここまで生きられた」


「う、うそ……」


 フリールの目から、大粒の涙が溢れた。


「そんな……あ、あたしも」


 声が、震える。


「あの時……た、たすけてくれて…………ありがとう!!」


 フリールは、そのままヴァンハウンドに抱きついた。


 ヴァンハウンドも、静かに首を寄せる。


 その目にも、涙が滲んでいた。


「うわあああああああああん!」


 フリールが、ついに大声を上げて泣き出した。


 それは、ずっと一人で抱えてきたものが、ようやく届いた涙だった。


 感謝を。


 ありがとうを。


 やっと、お互いに伝えられた、その涙。


 地下室の中に響くその泣き声を聞きながら、僕はそっと左手を握りしめた。


 この力は、きっと。


 こういう時のために、あるんだと思った。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

次話も読んでいただけると嬉しいです。

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