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ドラゴンテイム 〜モンスターと心を結ぶテイマーの物語〜  作者: エフピー
第三章 ガルディア動乱編

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第六十四話 ドーナのダンジョン 後編

 迷路のような通路を抜けてしばらく。


 感じていた流れが、はっきりと一点へ向かって強くなっていった。


「……そろそろだね」


 前を歩きながら、僕は小さく呟く。


「その先に待ち受けるものとは……」


 フリールが、なぜか芝居がかった声で言う。


 その一歩先で、視界がふっと開けた。



 そこは、今までの通路とは明らかに違う空間だった。


 広さは、アルミ村の広場くらいだろうか。


 天井は高く、石のアーチを描いている。


 壁一面には、これまでの通路以上に濃い緑が絡みついていた。


 太い根、苔、葉。


 石そのものが森に呑まれたみたいに、びっしりと覆われている。


「……嫌な広さだな」


 ハルは剣を握る手に、自然と力が入っていた。


「魔力が、中心に向かって渦巻いてる」


 僕は、魔力がざわつくのを感じていた。


 この空間全体の魔力が、真ん中へ、真ん中へと吸い寄せられている。


(こりゃ、くるな)


 パディットの声が響く。


 同時に、壁の一部が、ゴト……と音を立てた。


「……!」


 次の瞬間、壁や天井から石が剥がれ落ちるようにして、中央へ集まり始めた。


 ひとつ、またひとつ。


 それはただ崩れているんじゃない。


 明確な意志を持って、形を作っていく。


 脚、胴、腕、頭。


 石が石を呼び、重なり合い、組み上がっていく。


 最後に、顔の位置に二つの光が灯った。


 青白い目が、僕たちを見下ろした。


(魔力がすさまじいね……)


 パンが緊張した声で言う。


 六メートルほどはあるだろうか。


 まるで建物の一部が、そのまま立ち上がったみたいだった。


「でっかー!」


 フリールが思わず叫ぶ。


「建物みたい!」


「……動くぞ!」


 ハルが声を張る。


 次の瞬間、その巨体の目が、ぎらりと光った。


「気をつけて!」


 僕は叫んだ。


 けれど──


 フレアゴレムは、僕たちではなく、自分自身へ向けて魔法を放った。


「……え?」


 巨体のまわりに、風が巻き起こる。


 淡い魔力を帯びた風が、全身をぐるぐると包み始めた。


「なんだ……?」


 ハルが眉をひそめる。


「誤爆したのか?」


「いや」


 僕は首を振った。


「効いてない、様子がおかしい……」


 そしてもう一度、フレアゴレムの目が光る。


 今度は、炎。


 自らに纏わせた魔力の風へ向かって、炎を放った。


 風が、炎を巻き上げる。


 一瞬で、巨体の全身に炎がまとわりついた。


 ごう、と音を立てて燃え上がる。


「なんだこいつ……」


 ハルが息を呑む。


「燃えてる……」


(ただ燃えてるだけじゃないのん)


 ムーの声が鋭くなる。


(魔力の炎だから、魔法も弾くのん)


 フレアゴレムが一歩踏み出すたびに、纏った炎が周囲の蔦や根に燃え移っていく。


 壁際の緑が、一気に火に包まれた。


 逃げ道になりそうな端の方まで、ぱちぱちと燃え広がっていく。


「引火までして……!」


 ハルが舌打ちする。


「逃げ道もねぇ!」


「あー……あかんやつや、これ……」


 フリールが顔を引きつらせた。


(相手が炎ってことは、氷)


 僕は、必死に頭を回す。


(でも、纏ってる魔力が高くて、氷も通るかどうかなのん……)


 ムーの声にも迷いがあった。


(しかも、辺りが燃えてるせいで、水も生み出せないのん)


(……ここまで計算してるのか)


 この空間ごと、自分の有利な戦場に変えている。


(器に溜めてある分なら、魔法は撃てるのん)


(わかった)


 その時、フレアゴレムが腕を持ち上げた。


 纏っていた炎の一部が細く伸びる。


 ぐにゃり、と形を変えて、鞭になった。


「まずい!」


 ハルが身構える。


(させないのん!)


 ムーが飛び出した。


 ぷるん、と体を膨らませ、そのまま魔力の水をまとっていく。


(〈〈ウォーターシールド〉〉なのん!)


 振り下ろされた炎の鞭を、ムーの水の盾が真正面から受け止めた。


 じゅううう、と激しい蒸気が上がる。


「ムー!!」


(大丈夫なのん!)


 ムーが必死に踏ん張る。


(なんとかなるのん!)


「受けたのはいいけど……」


 僕は歯を食いしばる。


「攻撃手段がない……」


「俺の剣も、今のままじゃ通らないだろうな」


 ハルが下唇を噛んだ。


「……魔力の風で、払い除けるとか?」


 フリールが、炎を見ながら言った。


「さっきの蜘蛛みたいにか」


 ハルが顔を上げる。


「炎が消えれば、魔法も通るかも」


 その時、フレアゴレムのもう片方の腕が動いた。


 今度は別の炎の鞭が、ハルめがけて飛んでくる。


「くっそ、連発してくんのか!」


 ハルが横へ飛んでかわす。


 炎の鞭が床を叩き、石を溶かしかける。


 その瞬間、鞭の付け根の炎が少しだけ薄くなった。


「そこだ!」


 僕は器から魔力を練り杖を向ける。


「〈〈エレク〉〉」


 雷が、炎の薄くなった部分に直撃する。


 ばんっ、と弾けるような音。


 そこだけ、炎が乱れ、腕の一部が感電したように青白く光った。


「……弾き飛ばせるのか?」


 手応えは、少しだけあった。


 しかし、フレアゴレムは両腕に炎の鞭を構えた。


 横からと、縦から、二方向同時に。


(片方で限界なのん!)


 ムーが叫ぶ。


(〈〈ウォーターシールド〉〉なのん!)


 片方は、再びムーが受け止める。


 もう片方の縦から落ちてくる鞭が、フリールを狙う。


「フリール!!」


 僕は咄嗟に杖を振る。


「〈〈エレク〉〉」


 横合いから雷を叩き込み、炎の軌道をわずかにずらす。


 完全には逸らしきれない。


 けれど、フリールは、その炎を紙一重でかわした。


 身をひねり、腰を落とし、するりと。


「フライ、あんがと!」


 フリールが着地して叫ぶ。


「多分、この速さならあたいはかわせると思う!」


(でも……攻撃手段が無さすぎる)


(最終手段しかない、か)


 パディットの声が、重く響く。


(フライ!クロープを呼んでくれ)


(このままじゃジリ貧だ!)


(えっ!? クロープ!?)


(オイラ、行くよー……)


 眠そうな声が重なる。


(この相手なら、最適だ、それしかない!)


 パディットが断言する。


 迷ってる暇はなかった。


「フリール!」


 僕は叫んだ。


「今から更に仲間を呼ぶけど、これも全部後でまとめて説明するから!」


「今さら何がきても驚かんっ!」


 フリールが半ばやけくそ気味に叫ぶ。


「……と思いたいっ!」


「〈〈テイムバンク〉〉!」


 足元に白い魔法陣が広がる。


 光の中から、一つ目獣のクロープが現れた。


 しかし、召喚された瞬間を狙うように、炎の鞭が交差して飛んでくる。


「危ない!」


 僕が叫ぶより早く──


 クロープが、すっと立ち上がった。


 大きな単眼が光る。


(まかせて……)


 その瞬間、周囲の床石が、ごごご、と音を立てて浮かび上がった。


 ものすごい魔力が石に宿る。


(〈〈ストーンシールド〉〉)


 響いた声とともに、持ち上げた石床が巨大な盾となり、炎の鞭を正面から受け止めた。


 激しい衝突音。


 炎が石を叩く、だが貫けない。


「な……」


 僕は言葉を失う。


「うお!?」


 ハルも目を見開いた。


「こいつ、無茶苦茶強くないか!?」


(そのまま行く……)


 そのままクロープは、魔力を帯びた石の盾を、フレアゴレムへぶん投げた。


 ごう、と空気を裂いて飛んだそれが、片腕に直撃する。


 巨体の腕が、大きく弾かれた。


(クロープは、ただ眠ってるだけじゃない)


 パディットの声が響く。


(魔力を自分の中に蓄えてんだ)


(蓄えるのに時間かかるから)


 パンも続ける。


(本当に最終手段だよね)


「知らなかった……」


 僕は呆然と呟く。


「クロープが、こんなに強いなんて」


「え!?」


 ハルが振り返る。


「知らなかったのかよ!」


「だ、だって、いっつも寝てるから……!」


「あたいらも魔法で応戦しよっ!」


 フリールが叫ぶ。


「ハル! さっきの行けっか!?」


「うっしゃ、やるか!」


 ハルが剣を構える。


「〈〈ウィンドグレース〉〉」


 フリールの風が、ハルの剣にまとわりつく。


「いっくぞおおおおおお!」


 ハルが、全力で剣を縦に振り下ろした。


 放たれた風の斬撃に、すかさず──


「〈〈トーネード〉〉」


 フリールの竜巻が重なる。


 二つの風がひとつになり、フレアゴレムのもう片方の腕へと直撃した。


 ごうっと炎が吹き飛ぶ。


 まとわりついていた炎が、そこでようやく大きく剥がれた。


「今だ!」


(オイラも……)


 クロープが、さらに動く。


(〈〈アースアーマー〉〉)


 周囲の岩と砂が、クロープの体にまとわりつく。


 全身を岩鎧のように覆ったまま、そのままフレアゴレムへ突っ込んだ。


 激突。


 巨体が、ぐらりとよろける。


(ムーも合わせるのん!)


「〈〈ウォーターフォール〉〉なのん!」


 ムーから放たれた水が、フレアゴレムの足元の炎を一気に削る。


「動きを止める!」


 僕は杖を突き出した。


「〈〈エレク〉〉」


 炎が消えた足に、雷が走る。


 帯電した巨体がびくりと震え、そのまま片膝をついた。


「いける……!」


 だが、その瞬間。


 フレアゴレムの目が、再び光った。


 炎が、一直線にクロープめがけて走る。


 岩鎧をまとった腕を貫いた。


「クロープ!!」


(あっつい……)


 クロープの声が、珍しく痛そうに揺れる。


(でも……)


 それでもクロープは止まらなかった。


 下がったフレアゴレムの頭部へ向かって、もう片方の岩鎧の腕を叩き込む。


 ごしゃあっ、と鈍い音。


 頭の炎ごと、石の顔がひび割れる。


 だが、まだ壊しきれない。


「最後の力、振り絞るよ!」


 フリールが叫ぶ。


「ハル、もっかい行く! 今度は頭っ!」


「こいっ!」


「〈〈ウィンドグレース〉〉」


 剣に、再び風が宿る。


「からのぉ!」


「〈〈トーネード〉〉」


「雷も乗せる!」


 僕は、自分の魔力を最大まで引き上げた。


「全力だあああああああ!」


「〈〈ハイエレク〉〉」


 三人の声が重なる。


「いっけええええええええええ!」


 ハルの風の斬撃。


 フリールの竜巻。


 僕の最大出力の雷。


 三つの攻撃が重なって、雷を帯びたハリケーンとなり、フレアゴレムの頭部へ直撃した。


 轟音。


 閃光。


 石の頭が、吹き飛ぶ。


 支えを失った巨体が、ガラガラと崩れていく。


 床が揺れ、炎が消え、部屋に静寂が戻った。



「はぁ……っ、はぁ……」


 フリールが、その場に倒れ込んだ。


「もう、ダメや……」


「フリール!」


 浮かんでいたフリールが出していた、ライトの魔法が消える。


「〈〈ライト〉〉」


 僕は辺りを照らすと、慌ててフリールに駆け寄る。


 魔力切れだ。


 命に別状はなさそうだけど、完全に力を使い果たしている。


 そして、クロープも、その場に崩れた。


 腕を焼かれた火傷が、かなり痛々しい。


「クロープ!」


(あっついー……)


 単眼が、少しだけ細くなる。


(パン!)


 僕は器に叫ぶ。


(クロープを牧場に送る!)


(わかった!)


 パンが即座に応える。


(治療所にケールを呼びに行く!)


(クロープ、大丈夫……?)


(ごめんね、無茶させて)


(大丈夫だよー……)


 クロープの声は、もうかなり眠そうだった。


(まだ耐えられるから……少し眠るー……ZZZ)


「クロープは、牧場に送る」


 僕が言うと、フリールを見ていたハルが頷いた。


「早くした方がいい」


「〈〈テイムバンク〉〉」


 白い魔法陣が光り、クロープの姿がその中へ消えていく。


「フリールは魔力切れなら、いつか目が覚めるだろ」


 ハルが、フリールを見ながら言った。


 僕は、崩れた残骸を見ながら呟く。


「少し……甘く考えてたかも」


「クロープがいなかったら全滅してた」


「だから普通のハンター達じゃ、潜らねぇんだ」


 ハルが、静かに答える。


「今度から、ダンジョンに潜る時はもっと覚悟しないとかもね……」


(ムーも……魔力がほとんど残ってないから、ローブの中で休むのん)


 ムーが、するするとローブの中へ戻っていく。


 そのまま、すぐに静かになった。


「フライ」


 ハルが、周囲を見回して言う。


「ここはもう、安全なのか?」


「うん」


 僕は気配を探る。


「大きい魔力は、もうないし」


「……あとは」


 視線を奥へ向ける。


 そこに、小さな石の扉があった。


 緑に半ば埋もれながらも、確かにそこにある。


「気配の流れの奥の、あの扉」


 ハルも、その先を見た。


「お前の目的は、あの扉なんだろ?」


「……」


「俺は、フリール見てるから行ってこい」


「でも……」


「そのために来たんだろ」


 ハルの声は、まっすぐだった。


「サラームと戦うための力なんだろ」


 心配とか、不安とか、正直ある。


 でも、それでもここまで来たのは、その先に必要なものがあると信じているからだ。


「……そうだね」


 僕は、深く息を吸った。


「任せたよ」


「ああ」


 ハルが頷く。


「ライトの魔法はここに置いていくね」


「しばらくは灯ってると思う」


「じゃあ、行ってくる」


 ハルは黙って頷いた。


 僕はそう言って、終点の奥にある扉へと歩き出した。


 気配の流れは、はっきりとその先を指している。


 ダンジョンの最深部。


 崩れた石の残骸を避けながら、僕は息を整えた。


「〈〈ライト〉〉」


 杖の先に、淡い光が灯る。


 宙に浮かんだ光が、暗い通路の先をやわらかく照らしていった。


 そして──


 その先にあったのは、一枚の重い石の扉だった。


 古びた扉の表面には、見覚えのある模様が刻まれている。


 アルミ村の祠で見たもの。


 そして、僕の指輪に刻まれているものと、同じ紋様。


「ここだ……」


 胸の奥が、どくんと鳴る。


「また、ゼインの遺物かな……」


 僕は、左手をそっと持ち上げた。


 指輪のはまっている手を、扉に近づける。


 そして指先で、石の表面に触れた、その瞬間。


「……っ!」


 左手の甲の紋章と、指輪が同時に熱を帯びた。


 じわりとした熱が、皮膚の奥へと染み込むように広がっていく。


 次の瞬間、重い扉が──


 ゴゴゴゴゴ……と低い音を立てながら、横へとゆっくりスライドした。


 ダンジョンとは違う空気が、奥から流れ出してくる。


 僕は一度だけ深呼吸をした。


「よし、行こう」


 小さく呟いて、中へ足を踏み入れる。



 部屋の中央には、一つの石碑が立っていた。


 表面には読めない文字とも模様ともつかない線が刻まれている。


「やっぱり、あった……」


 僕は、ゆっくりと石碑へ近づいた。


 そして、左手を伸ばす。


 その瞬間、また指輪に光が灯る。


 左手の甲の紋章も、呼応するように淡く光り始めた。


 紋章の光が、少しずつ強くなっていく。


 すると──


 頭の奥に、声のようなものが流れ込んできた。


(ここに 力を 残す)


(正しき 心と 力を 持つ者が)


(いつか たどりつくと 信じて)


「……!」


 石碑から、一筋の光が溢れた。


 その光はまっすぐに、僕の左手の紋章へ飛び込んでくる。


「……っ!」


 体の奥へ、何かが染み込んでくる。


 熱い。


 指輪が、光と共に熱を持つ。


 器の中に、魔力が満ちたような感覚が広がっていく。


「これ、は……」


 その時だった。


(ねぇ、フライ)


 パンの声だ。


(パン、しゃべれるようになったかも)


(え?)


 僕は目を見開く。


(どういうこと!?)


(なんていうかね)


 パンの声が、少し弾んでいた。


(今、急にケールと直接話せてる)


(直接!?)


(うん)


(フライと喋るみたいに、喋れてるよ)


 僕は、石碑と左手を交互に見つめた。


「ゼインが残したものって……もしかして、言葉?」


(クロープはちゃんと助けるから)


 パンが続ける。


(ケールが心配するなって言っておいて、ってさ)


「本当に……喋れるんだ……」


(とにかくよかった、そっちはお願いね)


(まかせて)


 パンが、力強く答える。


 左手の紋章と指輪は、まだ光っていた。


 僕は、石碑に刻まれた最後の一行へと視線を落とす。


『この紋章を見て、心を震わせる子孫がいるなら』


『その者に、テイムの道が続いていることを願う』


「……また、この文字だ」


 南の森のダンジョンで見た石碑と、同じ。


 ゼインが残した言葉。


 ゼインが、未来へ託した願い。


「ゼイン……」


 僕は、自然とその名前を口にしていた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

次話も読んでいただけると嬉しいです。


フレアゴレム(BOSS)

大きさ:6m

ゴーレム型:全身に炎を纏う

生息:ダンジョン

魔力:炎寄り、風小

全身に風を纏いそこに火を放つ

炎魔法:フレアウィップ(纏った魔力の炎を鞭のように伸ばして放つ)

炎魔法:ファインフレア(火炎放射みたいな広がる炎)



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