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ドラゴンテイム 〜モンスターと心を結ぶテイマーの物語〜  作者: エフピー
第三章 ガルディア動乱編

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第六十二話 ドーナのダンジョン 前編

 石で組まれた階段を、僕たちは一段ずつ降りていった。


 足音が、暗い空洞に響く。


 上から差し込んでいた光は、もうずっと背中の方。


 数歩ごとに、暗さが濃くなっていく。


「……そろそろ、いっかな」


 フリールが立ち止まり、杖を軽く掲げた。


「〈〈ライト〉〉」


 杖の先に、小さな炎の玉がぽっと灯る。


 炎はふわりと宙に浮かび、僕たちの頭上に寄り添うように移動した。


 オレンジの光が、階段と壁をやわらかく照らしていく。


「ありがとう、フリール」


「うい」


 短く答えるフリールの声は、さっきまでより少しだけ緊張していた。


「ってかさ」


 階段をまた降り始めて、数歩進んだところで、フリールがぽつりと言った。


「下のほう、魔力がすごい」


 胸のあたりを押さえながら、眉をひそめる。


「渦巻いてる感じすんね。これがダンジョンなんだ……」


「モンスターも出るだろうからな」


 ハルが腰の剣に手をやる。


「気を引き締めてけよ」


(この感じは久しいな)


 パディットの声が、器から響いた。


(最初は、魔力の渦がくる。ダンジョンの洗礼だな)


 足を踏み出すたびに、空気の重さが少しずつ変わっていく。


「……さすがに、ちーっと怖いね」


 フリールが苦笑する。


「言うて、あたいもダンジョンは初めてでさ」



 階段を降り切った先は、一本の通路だった。


 ただの石の洞窟を想像していた僕の目に飛び込んできたのは⸻


 緑。


 壁一面にびっしりと生えた苔と、地上の森からそのまま持ってこられたような太い根っこ。


 天井からはツルが垂れ下がり、薄い葉っぱが揺れている。


 足元だけは、かろうじて石が見えた。


 けれど、そこにも、ところどころに苔が張り付いている。


「おー!」


 フリールが、嬉しそうに目を輝かせた。


「地下なのに、森っぽい!」


 あたりを見回して、さらに言う。


「しかも一本道だ、今度は迷わないで済むね」


「いや」


 僕は、壁のツルを指先でつつきながら言った。


「一本道ってことは」


「モンスターを避けることはできないってことだよ」


「……だな」


 ハルが肩を回す。


「戦うしかねぇか」


「どのみち、モンスターは倒さないと……ルミナストーンは手に入らないしね」


 フリールが、腰の小袋をそっとさわる。


「ダンジョンモンスターは、ルミナストーンを結構持ってることが多いからね」


 僕も頷く。


「……」


 フリールの表情が、一瞬だけ引き締まった。


 けれど、それもすぐにいつもの笑顔に戻る。


「よっしゃ!」


「じょーずに狩って、じょーずに回収だ」



 通路を進んでいくと、やけに静かで、足音だけが響いた。


(のん)


 胸のあたりで、ムーが小さく震えた。


(魔力を感じるのん)


「……前方にモンスター」


 僕は足を止めた。


「近いよ、戦闘の準備を」


「っしゃこい」


 ハルが剣を抜く。


 静かだった通路に、金属の音が響き渡った。


「お手柔らかにぃー」


 フリールも怯えながらも杖を構える。


 ライトの位置を少し上に上げて、前方を照らしたそのとき⸻


 通路の先、苔むした床の影が、ぬらりと動いた。


 ずるずる、と嫌な音がする。


 長い胴体。


 節を刻んだ多くの脚。


 そして発達した二本の前肢。


 その先には、金属のように硬そうな刃が伸びていた。


「……!」


 僕は思わず息を呑む。


「なんだあれ」


 ハルが顔をしかめた。


「ムカデ……か?」


「魔力を感じるんだが……」


 フリールが、ぐっと表情を引き締める。


「ありゃ、持ってるっぽいな」


「どのみち戦うしかない」


 僕は、胸の奥の恐怖を押し込めて前を見る。


「行こう」


 ソードミルパット。


 百足型のモンスターで、両腕が剣になっている。


 尻尾には毒針、大きさは二メートル半ほどはあるだろうか。


 ライトの光を嫌うように頭を振り、甲殻の隙間からぬらりとした体液を光らせながら、ずるりと体勢を低くした。


 刃のような前肢が、床をカツンと叩く。


 次の瞬間⸻


「うおっ!」


 ハルの目の前まで、一気に距離を詰めてきた。


 両の刃が、横なぎに振るわれる。


 甲高い金属音。


 ハルが剣で受け止めると、腕ごと後ろへ押し込まれた。


「結構重い!」


 火花が散る。


 ソードミルパットの体重と勢いが、そのまま刃の重さになっている。


「フライ!」


「うん!」


(効きそうだけど……)


 僕は、一瞬で周りを確認する。


 床には苔、壁にはツルと根っこ。


(ここで炎はまずい。燃え広がったら進めなくなる)


「まず足を止める」


 僕は杖を突き出した。


「〈〈アイシクルバインド〉〉」


 床の苔の間から、透明な氷柱が伸びて、ソードミルパットの脚を絡め取る。


 ガキッ、と嫌な音がして、動きが一瞬止まった。


「次はこっちから行くぞ!」


 ハルが踏み込む。


 頭を狙って、上から斬り下ろす。


 ソードミルパットは、刃の前肢を交差させて防御した。


 剣と刃がぶつかり、火花が散る。


「っ、さすがにかてぇな!」


 ハルの腕に、じんじんと衝撃が走る。


「お客さん」


 フリールの声が飛ぶ。


「風魔法はどうだい!」


 杖を水平に構え、短く詠唱する。


「〈〈ウィンドアロー〉〉」


 空気がひゅっと収束し、鋭い風の矢がソードミルパットの横腹へ飛んだ。


 風の矢は、甲殻の隙間に食い込み、内部を切り裂く。


「ギィイイイイ!」


 耳障りな悲鳴が通路に響いた。


 ソードミルパットが暴れる。


 絡んだ氷がミシミシと軋んで、いくつかの脚が氷を砕き始めた。


「おー、効いてるよ!」


 僕が叫んだそのとき⸻


 ソードミルパットの体勢が、ふっと変わった。


 尻のほうにある細い尾を高く掲げ、その先端が、ぎゅっと窄まる。


「構えが変わったぞ!」


 ハルが叫ぶ。


「なんかくる!」


 次の瞬間、ぱすっ、ぱすっ、と空気を裂く音がした。


 尻尾の先から、細長い針のようなものが何本も飛んでくる。


「フリール、危ない!」


 僕が叫んだときには、すでにフリールが横に跳んでいた。


 ひらり、ひらりと体を傾けて、飛んでくる毒針をギリギリで避けていく。


「当たらなければ」


 着地しながら、フリールがニヤッと笑う。


「どうということはないッ!」


「……あいつ」


 ハルが一瞬、目を見張る。


「結構やるんだな」


(身のこなしは、一流だな)


 パディットが、珍しく素直に認めていた。


「続けていっくよー!」


 フリールが、息を合わせるように杖を振る。


「〈〈トーネード〉〉」


 ソードミルパットの足元から、風の渦が巻き上がる。


 風は、刃のように鋭くなってソードミルパットの脚を切り裂き、そのうち数本を吹き飛ばした。


「ギィイイイイ!」


 巨体がぐらりと揺れる。


「フリール、すごい!」


 僕が叫ぶと、フリールは胸をどんと叩いた。


「えっへん! 続けていっくぞー!」


「ちょ、ちょちょちょ、たんま!」


 ハルが慌てて制した。


「フリール、連発しすぎだ!」


「魔力切れになるぞ!」


「ほえ?」


 フリールが瞬きをする。


「あ、あたい、いっつもそれで魔力なくなってんだった」


「今日は、自重します、はい」


「なるほどね」


 僕は苦笑する。


「この前、ヤードゴートに追いかけられてたのは、それでか」


「でも、効いてるのは確かだ」


 ハルが息を整えながら言う。


「今度は通す!」


 氷と風でよろめいているソードミルパットに向かって、地面を蹴る。


「うおおおおおおお!」


 渾身の踏み込み。


「斬ッ!」


 ソードミルパットが刃を上げて防御しようとした瞬間、その根元に深く剣を叩き込んだ。


 ぐしゃ、と嫌な感触。


 刃の腕の一本が、根元から斬り飛ばされる。


「ギィイイイイイイイ!」


 悲鳴が、さっきよりも一段高くなる。


 怒り狂ったソードミルパットが、今度はハルに尻尾を向けた。


 毒針が、雨のように飛んでくる。


「やっべ!」


 ハルが剣で数本弾き飛ばす。


 しかし、一本だけ、弾き損ねた針が足元から這い上がるようにして飛び、ハルの脛に突き刺さった。


「っ……!」


 鈍い息が漏れる。


 毒針が刺さった場所から、じわじわと紫色が広がっていく。


「ハル!!」


 僕の声が、少し裏返った。


「ポイズンポーションならあるよっ!」


 フリールが腰のポーチから小瓶を取り出し、ハルに投げる。


「ナイス!」


 ハルは片足で踏ん張りながら、小瓶をキャッチした。


 毒針をぐっと抜き、その場所に一気にポイズンポーションをかける。


 じゅ、と少しだけ煙が上がった。


 紫色が、ゆっくりと引いていく。


 ただ、足に走る痛みは完全には消えない。


「……サンキュー」


 ハルは歯を食いしばりながら立ち上がる。


「これなら動ける」


「こいつ、装甲は固いけどよ」


 剣を握り直し、ソードミルパットをにらみつける。


「根元はやわらけぇぞ!」


「分かった!」


 僕は、胴体のつなぎ目を狙う。


「行くよ!」


 杖を突き出し、魔力を走らせる。


「〈〈エレク〉〉」


 雷光が通路を走り、ソードミルパットの胴の付け根に直撃した。


 甲殻の隙間から、緑色の体液が勢いよく飛び散る。


 巨体が痙攣し、動きが一瞬止まった。


「今だ!」


 ハルが地面を蹴る。


「俺が首を落とす!」


「支援するよ!」


 フリールが杖を振った。


「〈〈ウィンドグレース〉〉」


 ハルの剣を中心に、風が巻きついた。


 刃のまわりに、薄い風の刃が幾重にも重なる。


「うお……!」


 ハルの目がわずかに見開かれる。


「すげーな、これなら⸻」


 痛む足に力を込め、一歩、二歩と踏み込んで跳び上がる。


 ソードミルパットの頭上に躍り上がり⸻


「斬ッ!!」


 風をまとった剣が、一閃。


 ソードミルパットの首のつなぎ目を、真横から切り裂いた。


 甲殻が、がきん、と音を立てて割れ、内部がずるりと滑り出る。


 次の瞬間、巨体がぐらりと揺れ、そのまま前のめりに倒れ込んだ。


 床がびしん、と震える。



 静寂。


「……ふぅ」


 肩で息をしながら、僕は杖を下ろした。


「やった!」


 その横で、ハルが片膝をついた。


「足!」


 フリールが急いで駆け寄る。


「毒は引いてるけど、ポーション使って!」


「分かってる」


 ハルはもう一本、回復用のポーションを傷口にかける。


「ちょい、ズキズキするけど大丈夫だ」


 立ち上がってみせる。


「そんな深くは刺さってねぇ」


「無茶するんだから……」


 僕は、ほっとしたような、呆れたような声を出した。


 倒れたソードミルパットの胴体のあたりが、ぼうっと淡く光る。


「あっ!」


 フリールが指さした。


「ルミナストーンだ!」


 甲殻の隙間に、透明な石がはさまっている。


 さっき感じた魔力の渦の一部が、そこに集まっているようだった。


「結構大きいね」


 僕は頷く。


「フリール、持っておいて」


「え、いいんか?」


 フリールが、少し目を丸くする。


「もらって……いいの?」


「俺たちの目的は別だからよ」


 ハルが、肩をすくめた。


「フリールが持ってけよ」


「……」


 ほんの一瞬、フリールの表情から笑顔が消えた。


 何かを押し殺すような、強張った顔。


「……あ、ありがたくもらっとく!」


 すぐに、いつもの調子に戻る。


 ルミナストーンを丁寧に小袋へとしまった。


 僕は首をかしげた。


(今の、一瞬の間……)


(やっぱり、ただのお宝ってだけじゃないんだ……)



 ソードミルパットの死体を通路の端に寄せてから、僕たちはふたたび歩き始めた。


「ダンジョンのモンスターって感じだね」


 僕は前を見ながら言う。


「やっぱり、強い」


「でも、倒せちゃうなんて」


 フリールが、前を歩きながら肩を回す。


「やっぱり、ちみたち強いんだねー」


「いや」


 ハルが苦笑する。


「フリールも相当すごかったぞ」


「身のこなしなんて、そうそう見ねぇ動きしてた」


「褒められた、てへ」


 フリールは舌をぺろっと出した。


 少し沈黙が流れる。


 そして僕は口を開いた。


「フリール、もしさ……何かあるなら、話してよ」


「一人で抱え込むのは……辛いからさ」


 僕は真面目な顔で言った。


「……」


 フリールの足が、一瞬だけ止まりそうになって、すぐにまた動き出す。


「俺たちはさ」


 ハルも、横から言葉を重ねた。


「フリールの助けになりに来たんだからな」


「……」


 フリールは、前を向いたまま。


 横顔に、いつもより少しだけ影が差していた。


「いやー」


 それでも、いつもの調子を引っ張り出してくる。


「あんたら、いいやつやなぁ」


「ありがとね」


「でも、大丈夫だから!」


 そう言って笑った瞬間⸻


(……止まって)


 パンの声が鋭くなる。


(前から、いっぱい来る!)


「止まって!」


 僕は反射的に叫んだ。


「前から、何かくる!」



 通路の先で、ざわり、と床がうごめいた。


 ライトの明かりに照らされて、小さな影が何十と見える。


 黒い体。


 発達したアゴ。


 膝ほどの大きさの蟻型のモンスターが、地を這うように近づいてきた。


「今度はアリやー!」


 フリールが叫ぶ。


「ファングアントだね」


「森でも数体見かけたよ」


 僕は、冷静さを保ちながら言う。


「行くぞ!」


 ハルが駆け出していた。


 剣を構え、先頭にいるファングアントの頭めがけて斬りつける。


 一匹、二匹、三匹。


 アゴごと頭を跳ね飛ばし、そのまま通路の脇へと蹴り飛ばす。


「こいつは、あんまり硬くねぇ!」


 ハルが叫ぶ。


「行けるぞ!」


「〈〈アイスニードル〉〉」


 僕は、ハルの背中を抜けるようにして魔法を放つ。


 空中にいくつもの氷の針が生まれ、ファングアントの群れに突き刺さる。


 甲殻を貫いた針が、数匹をその場に縫いとめた。


 だが数が多い。


「囲まれた!」


 いつの間にか、前だけじゃなく横と少し後ろにも影が回り込んでいた。


 ファングアントたちは、まるで打ち合わせていたかのように、一斉に飛び込んでくる。


「〈〈ウィンドシールド〉〉」


 フリールの声が、通路に響いた。


 次の瞬間、僕たち三人を囲むように、薄い風の膜が張り巡らされる。


 見えない壁のようなそれに、突っ込んできたファングアントたちが次々とぶつかった。


 風の膜が、ギラリと光る。


 触れたファングアントの体が、内側から引き裂かれるようにして弾けた。


 一気に十匹ほどが、ばたりと音を立てて倒れる。


「ナイス、フリール!」


「あとは任せろ!」


 盾が消えるタイミングを見計らって、風がすっと薄くなる。


 その一瞬に、ハルが飛び込んだ。


 左右から迫ってくるファングアントのアゴを、斜めに、縦に、横に。


 剣の軌跡が残像になるほどの速さで、残りのアリたちを切り裂いていく。


 やがて⸻


 最後の一匹が、足をばたつかせたあと動かなくなる。


 通路に、再び静寂が訪れた。


「はぁ……」


 フリールが、大きく息を吐いて膝に手をついた。


「疲れたぁ……」


「ダンジョンは、連戦になることが多いからね」


 僕は呼吸を整えながら言う。


「魔力切れする前に、どっかで休まないとね」


「俺も」


 ハルが、自分の足を軽く叩いた。


「毒は引いてるけど、ちょい気になるな」


「ここをまず、抜けちゃおっか」


 フリールが通路の奥を見た。


「一本道で休むのは、ノンノンでしょ」


「そうだね」


(奥に行くと、少し雰囲気が変わるかも)


 パンの声が、少しだけ落ち着いた調子で聞こえた。


(魔力の渦から外れた場所がある)


「行こう」


 ハルが頷き、ふたたび歩き出す。



 しばらく進むと、通路の片側が少しだけ広がっている場所に出た。


 壁がへこんで、小さな窪みになっている。


 そこだけ、苔の色が薄く、空気がほんの少し軽い。


(あ、もうすぐ)


 パンが器で囁く。


(魔力の渦から外れた窪みがあるよ)


(ここなら、休めるかも)


「……あっ」


 僕は前方を指さした。


「向こうに、窪みがあるよ」


 フリールが目を凝らす。


「ここなら安全そうかも」


 ポーチを直しながら、嬉しそうに中へ入っていった。


「フライ」


 ハルが小声で耳打ちしてくる。


「ここ、本当に安全なのか?」


「パンが安全だって言ってるし」


 僕も小声で答える。


「ここは、さっきみたいな魔力の渦から外れてる」


「大丈夫そうだよ」


 耳打ちしているのに気づいたフリールが、じとっとした目でこちらを見る。


「まーーーーーたコソコソと!」


「いやいや」


 僕は慌てて手を振った。


「ここが安全かなーって話してただけだよ」


「うんうんうん」


 ハルは、全力で頷く。


 嘘は言っていない。


「……まぁ、ええか」


 フリールは、あっさりと肩をすくめた。


「ここで休んでいこっか」


「賛成」


「賛成」


 僕とハルの声が重なった。



 窪みの床に転がっていたツルや細い枝を集めて、僕は小さな焚き火を起こした。


 火がぱちぱちと音を立てて燃え始めると、少しだけぬくもりが戻ってくる。


「じゃあ、今回はあたいが料理するぜ」


 フリールが袖をまくる。


 荷物の中から小麦粉の袋を取り出し、木のボウルにあけた。


 少しずつ水を加え、手でこねていく。


 粘りが出てくるまで、リズムよくこねて、丸めて、少し休ませる。


 その間に、別の鍋で野菜を刻み、水と一緒に煮始めた。


 粉になっている魚の干物を取り出して、ぱらぱらと鍋に入れる。


 ダンジョンの湿った空気の中に、魚のいい香りがふわりと漂った。


「っしゃ!」


 フリールが、丸めた生地を細く伸ばして棒に巻きつける。


 それを焚き火の上でくるくる回し始めた。


「できた!」


 焼き色がついてきたところで、生地を棒から外す。


 こんがりとしたパンが、出来上がった。


 同じように何本か焼き、スープも頃合いを見て火から下ろす。


 フリールが胸を張る。


「できた!」


「作ってるときから、めちゃくちゃいい匂いしてたからな」


 ハルが、パンとスープを見て目を輝かせる。


「パンって、外で作れるんだね」


 僕も感心してしまう。


「あったりめーよ」


 フリールが得意満面で言う。


「あたいのパンは、うっまいぞー!」


「小麦粉からして、チューリップ印の良品さね!」


「あ、これテュリップさんの……」


 思わず口に出しかけたところで、ハルがそっと僕の袖を引き、首を横に振った。


「おい」


 目だけでそう言ってくる。


(……そっか、アルミ村関連はまずいか)


 ひと口パンをかじる。


 外は香ばしく、中は思ったよりもふわふわしている。


 噛むたびに、小麦の甘みと、どこか懐かしい香りが広がる。


 ラサジエで食べたパンの味が、一瞬、頭の中に重なった。


「これ、すっごく美味しいね!」


 思わず笑みがこぼれる。


「外でパン焼くなんて、発想なかったよ」


「レシピ教えてよ」


「この魚粉のスープも絶品だぜ」


 ハルがスープの器を傾けながら言う。


「体に染みる」


「えっへん!」


 フリールが胸をどんと叩く。


「もーーーーっと褒めるがいい!」


 僕が苦笑すると、魔力渦巻くダンジョンだけど、その場が少し和んだ気がした。



 食べ終えて、しばらく焚き火を眺めていると。


「……話すか」


 フリールが、ぽそっと呟いた。


 火の音にかき消されてしまいそうな小ささで。


「……でも」


 その言葉は、焚き火の向こうで消えた。


 フリールは、自分の膝をぎゅっと抱えて、火を見つめている。


(僕からは、無理に聞かない)


 僕は火に照らされたフリールの横顔を見ながら考える。


(フリールの力になりたいけど)


(人には、人の事情がある)


(今は頼まれたことをこなそう)


 ルミナストーンを集める。


 ダンジョンを抜ける。


 それが、今の僕たちにできることだ。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

次話も読んでいただけると嬉しいです。


ソードミルパット

大きさ:2m50cm

百足型:手が剣のようになっている

生息:森、ダンジョン

魔力:地寄り、水小(魔法は使わない)

両手の剣で襲ってくる、尻尾の毒針


ファングアント

大きさ:50cm

蟻型:発達した顎

生息:森、ダンジョン

魔力:地寄り、風小(魔法は使わない)

噛み付く攻撃がメイン、集団で行動する

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