↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドラゴンテイム 〜モンスターと心を結ぶテイマーの物語〜  作者: エフピー
第三章 ガルディア動乱編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
60/200

第六十話 街はずれの生活

 魔杖屋リンリンを出て、僕たちはフリールの少し後ろを歩いた。


 さっきまで店の中であれだけ騒いでいたのに、今のフリールは妙に静かだった。


 足はちゃんと前に進んでいるけれど、さっきまでのテンションとは違っていた。


「……」


 フリールは、何か考え込むように前だけを見ている。


「なぁ、フライ」


 横でハルが小声で言う。


「フリール、黙っちゃったけど大丈夫なのか?」


「……どうしたんだろうね」


 僕も、フリールの背中を見ながら答える。


「あのー、フリール?」


 少し声を大きくして呼びかけた。


「大丈夫?」


「ん?」


 フリールが肩をびくっと揺らす。


「ああ!大丈夫だ!問題ない!」


 いつもの調子に戻り言う。


 けれど、すぐにまた口をつぐんだ。


「……」


(うーん)


(とりあえず、ついていってみるしかないか)


⸻


 しばらく歩くと、石畳もところどころ欠けていて、人通りも少ない場所にでた。


 そんな一角に、二階建ての小さな建物が一つ。


 外壁は少し古びているけれど、窓辺には小さな花の鉢が並んでいる。


 入口の前には、小さな靴やサンダルが何足も雑多に並べられていた。


「ここだよ」


 フリールが立ち止まる。


「あたいの実家ってやつさ」


 木製の看板には、簡素な文字で孤児院の名前が記されていた。


 扉を開けると、すぐに中から小さな声が飛んでくる。


「フリールねえ、おかえり!」


 ぱたぱたと駆け寄ってきたのは、茶色いおさげの女の子だった。


 エプロンの裾をギュッと握りしめている。


「おう!今帰ったぜい!」


 フリールは、いつものテンションで応える。


「フリールの家族って……」


 僕が言いかけると、フリールが振り返り、肩をすくめて笑った。


「ドーナ・リバー孤児院」


「あたいの、実家ってやつよ」


 フリールは、少しだけ照れたように頭をかく。


「孤児院育ちでさ」


「まぁ、なんとかやっていってるって感じだね」


「きょうは、いんちょういないっていってたよ」


 さっきの女の子が、フリールの服の裾を引っ張る。


「ごはん、フリールねえつくる?」


「あちゃー、そうなんだ、院長いないのか」


「じゃあニナちゃんに、今日はお姉がご飯作っちゃうよーん」


 フリールはしゃがみ込んで、女の子の頭をわしゃわしゃ撫でた。


「他の子も、中にいんのかい?」


「うん、みんないるよ!」


 ニナが笑う。


「ならよし!」


 フリールは立ち上がった。


「じゃあ、ちょっとみんなで仲良くしててね」


 ニナの顔がぱあっと明るくなる。


 フリールはにかっと笑って、ニナのほっぺたを軽くつついた。


「……うん! わかった!」


 そう言うと、ニナは「ただいまー!」と孤児院の中へ駆け込んでいった。


 静かになった玄関先で、フリールは小さく息を吐いた。


「……」


 しばしの沈黙。


「まぁ、なんだ」


 フリールは、僕たちの方を向き直る。


「これが、ウチの実家なんよ」


「ちょいとガタがきてたりすっけどさ」


 目線だけで建物を指す。


「あったかくって、楽しいとこなんだ」


「フリール」


 ハルが、ぽつりと言った。


「お前、テンション高ぇだけの変なやつかと思ったら」


 ニヤッと笑う。


「いいやつだな」


「およ?」


 フリールが目を丸くする。


 僕も、自然に笑っていた。


「元気で、強引で、無茶苦茶な子だと思ってたけど」


「優しいんだね」


「おいおい」


 今度は、フリールが頬をふくらませる。


「あたいをなめんじゃねぇよ」


「ってか、それ以上言うとちょっとあたい傷つくよ」


 その言い方がおかしくて、僕とハルは、つい笑ってしまった。


「ってことだから」


 フリールは手を叩き、気を取り直すように言った。


「今日出発と思ったけど、ほんっとごめん!」


「院長いないし、飯作んなきゃだし、ダンジョンは明日からでいい?」


「もちろんだよ」


 僕は頷いた。


「明日朝また、リンリンまで行けばいいかな」


「おう!」


 フリールは親指を立てる。


「そこで君たちを待つッ」


「んじゃ、今日は宿だな」


 ハルが周りを見回す。


「フライ、泊まるとこ目星ついてんのか?」


「うん」


 僕は孤児院の位置と、前回の地図を頭の中で重ねる。


「前に来た時に、また来るって約束した宿があるんだ」


「いいね」


 フリールが言う。


「あそこの宿なら安心やね」


「じゃあ、行こっか」


 手を振るフリールに、僕たちは手を振り返した。


「んぢゃ、また明日ねー!」


「宿のおばあちゃんによろしく頼むー!」


「チャオー!」


 フリールの明るい声に見送られながら、僕たちは宿へと向かった。


⸻


 孤児院から少し歩いた先。


 細い路地へと曲がると、人通りがさらに減る。


 路地の隅には鉢植えや木箱が並べられ、どこか静かな生活の匂いがした。


「たしか、この辺りだったはず……」


 前に来たときの記憶をたどりながら歩く。


「あ、ここだよ」


 僕は、一軒の小さな建物の前で足を止めた。


 木の扉の横には、手書きの宿屋の看板。


 窓からは、あたたかい灯りが漏れている。


「いや、これ宿なんだな」


 ハルが目を丸くする。


「前に来たとき、また来るって約束したんだ」


 僕は微笑んで、扉を押した。


 ちりん、と鈴が鳴る。


「いらっしゃーい」


 カウンターの向こうから、優しそうなおばあちゃんが顔を出す。


「あら、この前の」


「覚えててくれたんですね」


 僕は少し照れながら笑う。


「また来ました、おばあちゃん」


「よく来たねぇ」


 おばあちゃんは目を細め、ふふっと笑った。


「今日はお客さんもいないから、ゆっくりしていきな」


「貸切か、嬉しいな」


 ハルが肩を回す。


「一部屋ずつ取っても、同じ値段でいいよ」


「おー、個室いいですね」


 僕はすぐに食いついた。


「ハルのいびき、うるさいから」


「よく言うぜ」


 ハルが眉をひそめる。


「お前の寝言も、大概だからな」


「ほっほっほ」


 おばあちゃんが楽しそうに笑う。


「じゃあ、お願いします」


 僕は頭を下げた。


「じゃあ夕食も、もう少ししたら出すからね」


「楽しみだな」


 ハルが嬉しそうに言う。


「ところで、おばあちゃん」


「フリールと、どういう知り合いなんですか?」


「そりゃあ、長い付き合いさね」


 おばあちゃんの表情が、少しだけ柔らかくなる。


「あの子も色々苦労しててね」


「物心ついたときから孤児院暮らしさ」


「……」


「ただねぇ」


 おばあちゃんは、カウンター越しに僕らを見る。


「あの子が、元気ない時なんて見たことないんだよ」


「いっつも元気で笑ってて、逆境なんて吹き飛ばすみたいな顔してさ」


「分かります」


 僕は頷いた。


「見てて元気になりますよね、フリールは」


「最初は無茶苦茶なだけに見えたけどな」


 ハルが付け足す。


「ほっほ」


 おばあちゃんも笑ったあと、少しだけ真顔になる。


「でも、最近ね」


「少し思い詰めた顔をして、上の空の時があるんだよ」


「何なのか聞いても、はぐらかされてねぇ」


「……」


「まあ、あの子もあの子で、何か考えてるんだろうけどさ」


(やっぱり、ルミナストーンに何か関係があるんだろうか)


(あの時も、命懸けでモンスターを狙っていた)


(笑ってごまかしていたけれど、あの必死さは……)


「そうなんですね」


 僕は、おばあちゃんをまっすぐ見る。


「僕たちは、フリールの力になりに来ました」


「おうよ」


 ハルも胸を張る。


「とにかくね」


 おばあちゃんが、僕たちを見て言う。


「あの子はいい子なんだよ」


「いい子がゆえに、心配でねぇ」


「だから、あんたらみたいなのが見ててくれるなら、助かるよ」


 僕とハルは、同時に頷いた。


⸻


 部屋に案内され、荷物をほどいて少しだけ休んだあと。


 夕食の時間になり、食堂へ行くと、川魚を使った料理が並んでいた。


 塩焼き、香草蒸し、スープ。


 どれも、川の街ならではの味がして、とても美味しかった。


 食事を終え、自室で一息ついていると、扉がノックされた。


「おーい、フライ、入るぞー」


「どうぞー」


 扉を開けて入ってきたのは、ハルだった。


 少し真面目な顔をしている。


「なぁ」


 部屋の中に入ると、扉にもたれかかるようにして言った。


「フリールの、ちゃんとあいつの力になってやりてぇよ」


「そうだね」


 僕は即答する。


「そのためにここまで来たんだから」


「たとえ何を抱えていても、力になる」


「おばあちゃんと話してて」


「孤児院での姿見て、余計にそう思ったよ」


「……だな」


 ハルが小さく笑う。


「なら、いいんだ」


 少しだけ表情を緩める。


「急ぐ旅だけどよ」


「ちゃんとフリールを助けて、ガルディアに帰りてぇ」


「うん」


「じゃあ、それだけだ」


 ハルは軽く手を挙げて、部屋を出ていった。


 残された部屋の静けさの中で、僕は天井を見上げる。


(フリールは、何かを背負ってる)


(それでも笑ってる)


「……だったら」


 小さく呟いて、目を閉じた。


「僕たちが、一緒に背負えばいい」


 そんなことを考えているうちに、まぶたが重くなっていった。


⸻


 翌朝。


 身支度を整えて部屋を出ると、おばあちゃんがちょうど食堂を片付けているところだった。


「お世話になりました」


 僕はカウンターの前で頭を下げる。


「昨日の料理、すごく美味しかったです」


「やっぱ川の街だけあって、魚がうめぇな」


 ハルも満足そうに言う。


「満足してくれて、よかったよ」


 おばあちゃんは、にこにこと笑った。


「これ、お代です」


 僕は財布からお金を取り出して差し出す。


「二部屋分あるが……」


 おばあちゃんは少し考えるような顔をしてから、首を振った。


「一部屋分でいいよ」


「いや」


 ハルがすぐに首を横に振る。


「もらってくれ」


「ここまで良くしてもらって、一部屋分なんて、逆に後味が悪りぃからな」


「そうかい」


 おばあちゃんは、少しだけ目を細めた。


「じゃあ、ありがたくもらっておくよ」


「それと、フリールのことは頼んだよ」


「任せてください」


 僕とハルは、もう一度頷いた。


 宿を出て、朝の空気を吸い込む。


 朝のドーナは、昨日よりも少し静かで、川の音がよく聞こえた。


「じゃあ、リンリンに行こっか」


「ああ」


 僕たちは、魔杖屋リンリンへと向かった。


⸻


 からん、と鈴の音を鳴らして店に入る。


「フリール?」


 僕は奥に向かって声をかけた。


「来たよー!」


 奥の方から、ドタドタと足音が聞こえてくる。


「やあやあやあやあ!」


 少し焦りながら、勢いよくカーテンをめくって、フリールが現れた。


「今日はよろしくおねがいしますです」


 ハルが親指を立てる。


「任せとけ」


「絶対、目的達成して帰ってこようね」


 僕も、いつもより少しだけ大きな声で言った。


「お、おう?」


 フリールがきょとんとする。


「どした?」


「昨日より気合い入ってねぇか?あんたたち」


「まぁ、色々あってね」


 僕は笑う。


「気にすんな」


 ハルが肩をすくめる。


「ま、ええわ」


 フリールは手を組んで、ぐっと伸びをする。


「気合いがあるのは、いいことだぁ!」


「じゃあ、行こっか」


「ああ」


 ハルが腰の剣を軽く叩く。


「場所は分かってるんだろ?」


「ドーナから北西の森の中だよ」


 フリールが指をくいっと動かす。


「そんな遠くはないから、森を歩いて、数時間程度かなぁ」


「おっけー」


 ハルが頷く。


「じゃあ、ダンジョン攻略と行きますか!」


「ハル」


 僕は小声で、ハルの方を向く。


「ダンジョンのためにも、道中モンスターはなるべく避けて行くからね」


「探知してくから」


「助かる」


 ハルも小声で返す。


「うん? 二人でボソボソどしたー?」


 すぐ前を歩いていたフリールが振り返る。


「何でもねぇよ」


 ハルが即答する。


「道中、モンスター出ないといいなーってな」


「うん」


 僕も笑って、ごまかした。


「ほほう」


 フリールはニヤニヤしながら前を向く。


⸻


 ドーナを出て、北西へ向かって進む。


 川沿いの道から少し外れ、やがて森の手前へと到着した。


「ここからが、ドーナの森さ」


 フリールが、森の入口で立ち止まる。


「そんな強いモンスターはいないけれど」


「気をつけないと、迷う! と言われている!」


「え……それって、フリールは迷わないの?」


 僕が聞くと、フリールはニヤリと笑う。


「ふっふっふ」


「ここは、あたいの庭だからね」


「庭で迷うアンポンタンはいないってよ」


「なんか、あんま信用ならねぇな」


 ハルが半眼になる。


「大丈夫なのかよ」


「ふっふっふ」


 フリールはどこからか小さな金属の丸いものを取り出した。


「この最強道具があれば、大丈夫ってもんよ!」


 太陽の光を反射して光る、それは──


「って、ただのコンパスじゃねぇか!」


 ハルが即座にツッコむ。


「ちっちっち」


 フリールは指を振る。


「ダンジョンは森のさらに西にある!──……はずだと思う」


「コンパスがあれば、必ずたどり着ける!──……はずだと思う」


「ねぇ」


 僕は、静かに指摘した。


「今、はずって言った?」


「二回、はずだと思うって?」


「だー! 喋ってても、らちがあかねぇな」


 ハルが、頭をかきながらため息をつく。


「諦めて行くか……」


 半分不安で、半分ワクワクしながら。


 僕たちは、フリールの背中と揺れるコンパスを追いかけて、ドーナの森の中へと入っていった。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

次話も読んでいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。