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ドラゴンテイム 〜モンスターと心を結ぶテイマーの物語〜  作者: エフピー
第三章 ガルディア動乱編

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第五十四話 逆襲の一手

 それぞれの、やるべきことを確認した次の日の朝。


 僕はいつも通りハンターギルドへ向かった。


 まだ人の少ないギルドの中で、僕は依頼板の前に立つ。


 並んだ依頼を、一枚ずつ目で追っていく。


(……大型モンスターの目撃、だいぶ減ってきた)


 先週まで、真っ赤な印と共に貼られていた、危険の文字は、だいぶ少なくなっていた。


 代わりに増えたのは、平野周辺の安全確認や、行商の護衛依頼。


(これならガルディアも、少しは持ち直してくるかもしれない)


 大型モンスターが減れば、ハンターは戻ってくる。


 ハンターが戻れば、ギルドも街も息を吹き返す。


 そんな当たり前の循環が、ようやくここにも戻り始めていた。


「フライ、おはよう」


 背後から聞き慣れた声がした。


 振り返ると、ファラが入り口の方から小走りにやってくる。


「ファラ、おはよう」


「今日は早いね。もう依頼見てるなんて」


「うん、ちょっとね」


 僕はボードから目を離して、声を少しだけ抑える。


「昨日の件だけど──」


「ホップは、会えて、無事に救出したよ」


 ファラの表情が、ぱっと明るくなる。


「……本当!よかった」


 目立たないように、声を押さえているのが分かる。


 それでも、その表情は、はっきりとした安堵が浮かんでいた。


「多分、今日中には大罪人が処刑されたって報告が城から出ると思う」


「書類上では、大罪人ホップはもういない扱いになる」


「ちょっと、複雑な気持ちになるね……」


「でも、よかった」


 ファラは、胸の前でそっと手を重ねながら言った。


「ホップさんが、生きてるって分かって」


「うん、色々考えて、これが最善だって思ったからね」


 僕は、ゆっくりとうなずく。


「これで、よかったと思う」


「そうだ、そのうちちゃんと紹介するよ」


 そう言うと、ファラは安心したように微笑んだ。


「あ、それとこれ」


 借りていた赤目キマイラのルミナストーンが入っている小袋と、懐から小さな紙片を取り出す。


「ありがとう、助かったよ」


「あと、これヴェンドさんに渡してもらえる?」


「ええ、確かに」


 ファラは、何でもないような仕草でメモを受け取り、懐にしまった。


「それで、今日も討伐いくの……?」


「うん」


 僕は軽く頷いた。


「今日も平野の方で大型モンスター中心に行こうと思うけど、大丈夫?」


「大丈夫、いつも通りだね」


 このやりとりも、もう日課になっていた。



 平野に出る頃には、太陽はちょうど頭上に差し掛かっていた。


 風が少し強い。


 いつものように、人目の少ない場所に出ると、僕はローブのフードを深くかぶった。


「さ、行こうか」


「うん」


 ファラも、慣れた手つきで装備を整える。


 その後はいつも通り、ただひたすらに探知、見つけては倒す。


 大型モンスターの気配は、確かに減っていたけれど、ゼロではない。


 道から少し外れた丘の上、森に近い茂みの陰。


 そんなところに、ぽつぽつとまだ気配が残っている。


 平野の向こう側には、街道を行くキャラバンの姿も見える。


 行商人の笑い声。


 荷馬車のきしむ音。


(日常がもどりつつある──)


 そんなことを考えた。



 夕方、ギルドに戻ってくると、空気が朝とはまるで違っていた。


 どこかピリピリした気配。


 入り口付近には、いつもの依頼ボードとは別に、一枚の紙が貼り出されていた。


 人だかりの合間を縫って近づいていく。


 そこには、王家の紋章と共に、固い言葉が並んでいた。


 ──大罪人ホップなる人物、偽の王家の剣を持ち込み王国の秩序を揺るがしたため。

 ──王家転覆を企てた大罪により、これを処刑した。


 そんな内容が、淡々と綴られていた。


(……うわ)


 胸の奥が、少しだけ苦しくなる。


 こうなることは分かっていた。


 ホップを生かすための、必要な形だ。


 頭では、分かっている。


 でも、文字として処刑という言葉を目にすると、やっぱり落ち着かなかった。


(……ホップ)


(でも、これでやっと次に進める)


(ここで止まってしまったら、それこそホップがここまで耐えてきた意味がなくなる)


 視線を横に移す。


 周りでは、ハンターたちが好き勝手に噂話をしていた。


「なんでも、騎士見習いになって潜んでたらしいぞ」


「王家の剣まで持ち出してたって、とんでもない悪党だな」


「でもよ、これで王家のゴタゴタも解消されるんじゃないか?」


「そうだな、これで騎士団達も動いてくれるな」


「平野の化物が減ってくれりゃいつもみたいに討伐できるな」


「俺は最初からテオ様しか次の王はいねぇと思ってたぜ」


「よく言うわ、王家の剣を使えるのが何より大事だとか散々言ってたくせによ」


 笑い声とため息。


 恐れと安心が入り混じっている。


(……そうだよね)


(外から見たら、ホップは王家をかき乱した厄介者でしかない)


 それが、少しだけ悔しかった。


「フライ」


 隣に来たファラが、小さく囁く。


「これで、母さんに近づけるのかな……」


「うん」


 僕は頷いた。


「これで、ようやく次の一手が打てる」


 ファラの横顔は、不安と希望が入り混じった複雑な表情だった。


 でも、その中でちゃんと前を向こうとしているようにも見えた。


 それで十分だと思った。



 その日の報告を済ませて、僕は宿へ戻った。


 ホルスさんの部屋の扉をノックすると、中からホップの声がした。


「入っていいぞー」


 扉を開けると、床の上でホップが腕立て伏せをしていた。


「ただいま」


「おう、フライ!」


 ホップはひょい、と軽く起き上がる。


「鍛錬?」


「親父の愛の特訓メニューだとよ」


 ホップが笑う。


「半年も地下生活してたら、体がなまってな」


「とりあえず、できることから戻してる」


「そっか」


 その言葉に、ちょっと胸が締め付けられる。


(地下の小部屋で半年間……)


「僕も鍛錬しないとね」


「お前もか?」


「ホップがいない間、僕がホルスさんにしごかれてたよ」


 僕は苦笑いしながら言った。


「毎日毎日、へとへとになるまで訓練させられてさ」


「うわぁ……」


 ホップは心底同情するような顔になった。


「フライみたいなの相手でも、容赦ねぇからな親父は……」


「みたいなのって、ひどいな」


 思わずツッコむと、ホップがケラケラ笑った。


「でも、おかげでかなり安定して魔法撃てるようになったし」


「テイムバンク何回か使っても、前ほどへばらなくなったよ」


 僕は少し自慢気に言う。


「そっか、お前もこの半年で立派になったんだな」


 ホップは腕を組んで頷く。


「俺も負けてらんねぇな」


「ほどほどにね」


 そんな他愛ない話をしていると、部屋の扉が開いた。


「お、帰ってたか」


 ホルスさんが、いつものローブ姿で入ってくる。


「おかえりなさい、ホルスさん」


「街の噂、聞きましたか?」


「ああ」


 ホルスさんは肩をすくめた。


「ギルドに行く途中、耳が痛くなるくらい聞こえてきたな」


「大罪人ホップが処刑されたってな」


「とうとう俺も処刑か」


「処刑されても生きている男ってな」


 ホップが適当に言う。


「ホップは不死身だね」


 その冗談のやり取りに、胸の奥が少し軽くなる。


「冗談はそれくらいにしとけ」


 ホルスさんは苦笑しながら、真顔に戻る。


「これでようやく、敵が動きやすくなった」


「ええ」


 僕も表情を引き締める。


「バルダン王の側は、大罪人ホップ処刑で王家の面目は保たれた」


 ホルスさんは、静かに状況を整理するように口を開いた。


「ホップの幽閉は、向こうにとってもまだ使い道がある駒だったはずだ」


「半年、何も動けなかったバルダン王が、急に動ける状況になった、ってことになれば──」


 そこで一度言葉を切り、ホルスさんは僕たちの顔を見た。


「察しがいい奴なら、裏で何かが動いてるって、勘づくだろう」


「ヴェンドさんに、何か言ってくるはず……ってことですね」


「そういうこった」


 ホルスさんはホップをちらりと見た。


「お前はしばらくここから出るな」


「王家の剣も、出すんじゃねぇ」


「分かってるよ」


 ホップが頷く。


「俺が表に出たら、全部台無しだもんな」


「その分、こっちで親父の特訓メニューしとくわ」


 そんな会話を交わしたあと、ホルスさんは僕のほうを見た。


「フライ」


「明日からも、ギルドはいつも通り頼む」


「何もなきゃ、引き続き大型討伐だ」


「はい」


「それと──」


 ホルスさんが懐から何かを取り出す。


 小さく折られた紙片だ。


「ファラに、これを渡しておいてくれ」


「サラームから動きがあったときの、段取りだ」


「分かりました」


 紙を受け取り、懐にしまう。


(あとは、向こうがどう動いてくるか)


「じゃ、今日はもう休め」


 ホルスさんが言う。


「明日から、また忙しくなるぞ」



 それから数日後。


 僕はいつも通り、ギルドへ向かった。


 扉を開けると、すでに受付近くに、ファラの姿が見えた。


「おはよう」


 僕が声をかけると、ファラはびくっと肩を揺らす。


 いつもとどこか違う。


「朝早く珍しいね」


 そう言いかけたところで、ファラがゆっくりとこちらを振り向いた。


「……フライ」


 その瞳は、不安と覚悟に揺れていた。


 両方を抱えている目。


「お父さんに──」


 一拍置いて。


「手紙が来た」


 僕の鼓動が早くなる。


 ついに、サラームの次の手が動いた。


 僕達の、逆襲の一手がついに動き出す。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

次話も読んでいただけると嬉しいです。

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