第二十七話 迷子
カイバル平原に入って、四日が過ぎた。
空と草。
それ以外、何もないような景色の中を、ひたすら歩き続ける。
(……あっち)
パンの声が響く。
(匂いが少し変わるね、水場があるかも)
「ホルスさん」
「どうした」
「この先、水場があるかもしれません」
「本当か?」
ホルスさんが、目を細めて平原の先を見た。
「行くぞ」
「でも、水場はモンスターが集まりやすい場所だ」
ホルスさんが警戒しながら言った。
「だが、だからって無視もできねぇ」
「……そうですね」
水分はもう尽きかけて節約しながら進んでいた。
「ここから先、三日はまともな水にありつけない可能性が高い」
ホルスさんが、肩の荷物を少し持ち直す。
「水は腹にも袋にも入れとく」
「モンスターの気配はどうだ?」
その水場周辺の気配を覗いてみる。
「比較的安全そうです」
「じゃあいくぞ」
⸻
しばらく進むと、草の切れ目に、地下から湧き出たような水場がある。
見渡すと、結構な広さだ。
水の表面には、風に揺れる草の影が映っていた。
「思ったより、ちゃんとした水場ですね」
「そうだな」
ホルスさんが、周囲を見回す。
背の高い草が風に揺れ、遠くには何の気配もない。
「……今のところ、大型はいねぇな」
「よし」
ホルスさんが、荷物から水袋を取り出す。
「ありったけ汲むぞ」
「分かりました」
僕も自分の水袋と、予備の袋を出して、水面近くまでしゃがみ込む。
水は、思ったよりも冷たかった。
「飲んで大丈夫そうですか?」
「流れはねぇが、匂いは悪くない」
「多分この辺りの湧き水だ」
ホルスさんが、指先で少し水をすくって飲んでみる。
「鉄っぽくもねぇし、腐った感じもしねぇ」
僕も、両手ですくって飲んでみる。
水が乾いた体に染みていく。
「……生き返る」
「あと三日の平原で、水にありつけないかもしれねぇ」
「今のうちに、可能な限り水分補給だ」
「分かりました」
黙々と水袋を満たしていく。
その時だった。
胸の器に何かの気配が触れた。
(みず のむ かえる)
「……?」
思わず、手を止める。
「どうした」
「いえ、今……」
言いかけた瞬間。
「ホルスさん!」
気配が確かなものに変わった。
「来ます!」
「何がだ!?」
「水の中!」
水面の一部が、じわりと色を変えた。
透明な水の中に、ほんの少しだけ違う水色がある。
それは、ゆっくりと形を持ち始め――
ぷるん、と水面を割って、顔を出した。
「スライム、です!」
⸻
半透明の、水色の塊。
ぷるぷると震えながら、水たまりに近づいてくる。
つぶらな瞳が、水面からこちらを見つめていた。
「スライムか!?」
ホルスさんが、顔をしかめる。
腰の剣に手をかける。
その瞬間――
(やめて やめて)
(みず のむ かえる)
さっきよりも、はっきりとした気配が胸の器に響いた。
「ま、待ってください!」
思わず、ホルスさんの前に出る。
「なんか、このスライム」
「……なんだ」
「攻撃する意思がないです」
さっきから胸の器に届く気配が、そう訴えていた。
「やめてって、水を飲んだら帰るって」
(みず のむ かえりたい)
はっきりした声じゃなくて、感情と一緒に流れ込んでくる気配の断片。
でも、それは確かに敵意じゃなかった。
「感覚が、伝わってきてて」
「少なくとも、敵意はないです」
スライムは、水たまりの縁でぷるぷる震えている。
「……そうか」
ホルスさんが、剣から手を離す。
「なら、助かったな」
ほっとしたように息を吐いた。
「え?」
「スライムはな、剣士殺しって言われてんだよ」
ホルスさんが、苦い顔で水たまりを見る。
「こいつも、この前のサンドパペットみてぇなもんだ」
「切っても切っても手応えなんざありゃしねぇ」
「ばっさり斬ったと思ったら、ぷるぷるっと戻ってきやがる」
「……確かに、厄介そうですね」
「しかも、たまに妙に賢い奴も混じってる」
ホルスさんが、肩をすくめる。
「魔剣でもあればいいが、剣術一本だと、正直あんまり相手にしたくねぇ」
そう言われると、目の前のぷるぷるが急に怖く見えてくる。
⸻
(スライムかぁ)
そこで、シアンさんが言っていたことが頭に浮かんだ。
詰所裏の訓練場。
休憩中に、喋っていた時だった。
『あのね、フライ』
杖をくるくる回しながら、シアンさんは言った。
『スライムってね、かわいいの』
『はぁ……』
『あのすべすべぷるぷるは、ずるい』
『はぁ……』
僕が適当に聞き流していると、
『でもね』
シアンさんが、意味ありげに目を細める。
『怒らせたら、強烈な魔法が飛んでくるのよ』
『えっ』
『スライムって、単体持ちが多いから』
『火だけ、とか、風だけ、とか、氷だけ、とか』
『ひとつの属性だけ、やたら極まってるやつが多いんだよね』
『かわいいけど、マジで本気で怒らせちゃダメなやつ』
『覚えときなー?』
その時は、そんなに会う機会もないだろうと思って聞いていた。
目の前でぷるぷるしているスライムを見る。
(かわいい……けど、こわい……のか?)
⸻
ホルスさんが、水たまりのスライムを顎で示す。
「そいつ、今は何て言ってる」
「えっと……」
もう一度、スライムの気配に意識を向ける。
(かわ かえりたい わからない)
「帰る場所が分からないって」
「川に帰りたいけど、どっちか分からないって感じです」
「川ねぇ」
ホルスさんが、腕を組んだ。
「このあたりで川ってありますか?」
ホルスさんが、少しだけ目を細める。
「ここからしばらく行けば、ドーナ川ってでかい川がある」
ホルスさんが、遠くの空を指さす。
「こっから三日も歩けば、ドーナ大橋が見えてくるはずだ」
「その川の近くで迷ってここまで来たってことですか?」
(かえれない わからない)
スライムが、ぷるぷる震えながらこちらを見ている。
「川の方向がわからないって言ってます」
「方向だけなら、教えてやれる」
ホルスさんが、指を伸ばす。
「あっちの方向に、三日歩けば帰れる」
(あっち)
スライムが、身体をぷるぷるさせてそちらを向く。
でも、そのぷるぷるは、すぐにしぼんだ。
(とおい わからない)
「遠いしわからないって、言ってます」
「……わがままだな、そいつ」
ホルスさんが、頭をかく。
(かえりたい つれてく)
「連れてってほしいって言ってます」
スライムのつぶらな瞳が、じっとこちらを見つめている。
(帰りたい場所があって)
(でも、自分ひとりじゃ辿りつけなくて)
(それでも、帰りたいって、何かホップみたいでほっとけない)
⸻
「……ホルスさん」
「うーん」
ホルスさんが、少しだけ考えるように眉間にシワを寄せる。
「テイム……してみますか?」
「このスライムに、敵意はないので、あるいは」
僕は恐る恐る提案する。
「なるほどな」
ホルスさんが、口元だけで笑う。
「テイムできればかなり心強いな」
「ただ――」
ちらりとスライムを見る。
「テイムに応じるかは別だがな」
「試してみます」
僕は、水たまりの縁まで一歩近づいた。
スライムがびくっと震えるが、逃げようとはしていない。
僕はゆっくりとスライムの気配に声をかけた。
(僕は、フライ)
(今から、テイムの魔法を使います)
(もし嫌だったら、ちゃんと嫌って伝えて)
ぷるぷると震える身体が、ほんの少しだけ前に出た。
「行きます」
指輪のはまっている左手をスライムに向けて近づける。
すると手の甲から光が走り、指輪が熱を持つ。
水色の身体の表面にその光が触れた。
(……!)
視界が、真っ白になりイメージが頭に流れた。
冷たい水の感触。
遠くで流れる川の音。
高い橋の影。
そこから離れてしまった時の、不安と寂しさ。
そして、川辺のにぎやかな光景。
人の行き交う足音。
橋を渡るキャラバンの馬車。
そのすぐ脇の、静かな水辺。
スライムの見ていた景色が、一気に流れ込んできた。
「〈〈テイム〉〉」
手の甲と指輪が光を放ち、スライムと一本の線で繋がる。
すると胸の器に、新たな気配が増えた。
「……よし」
ゆっくりと目を開ける。
目の前のスライムが、ぷるぷると揺れた。
(……ん?)
さっきまでより、はっきりした声が響く。
(何か変な感覚なのん)
その声に胸を撫で下ろした。
「テイム、成功です!」
「おー、よかったな」
ホルスさんが、ほっとした顔をした。
「じゃあ、こいつは牧場の仲間ってことだな」
「名前は?」
「そうですね……」
ぷるぷるしている見た目を見ながら考える。
「ムーってどうですか?」
僕の中ではかなりしっくりきていた。
「いいんじゃねぇか」
ホルスさんも納得した様子だった。
(ムー、ってよんでいい?)
(ムーなのん)
ムーが嬉しそうに飛び跳ねる。
「気に入ったみたいです」
ホルスさんが、軽く笑う。
(ムーって何の魔法が使えるの?)
(魔法なのん?)
(水とか氷とかぶつけるのん)
(へー、氷なんだね!)
ムーの身体の一部が、きゅっと冷たく固まった。
水色の表面に、白い氷の結晶が浮かび上がる。
「氷か」
ホルスさんが、感心したように唸る。
「スライムの単体持ち、氷属性」
「平原でも川辺でも、かなり活躍してくれそうだな」
「ですね」
僕の周りに、少しずつできることが増えていく。
⸻
「さて」
水袋を全て満たし終えたところで、ホルスさんが立ち上がった。
「水も補給した」
「平原を抜けるまで、あと三日ってところだな」
「はい」
ムーは、水場でぷるぷると震えながら、僕らの方を見ていた。
(行くのん?)
(一緒に、川まで行こう)
(行くのん!)
ムーが、小さく跳ねて水から出る。
ぷるぷると揺れながら、僕の足元まで転がってくる。
「重さは?」
「うーん……」
試しに両手で少し持ち上げてみる。
見た目より、ずっと軽い。
「意外と軽いですよ」
(意外と軽いのん)
「なら、そのサイズだしローブに入れりゃ隠せるな」
僕は、平原の向こうを見た。
(ムー)
(なあになのん)
(足元から、あまり離れないでね)
(何かあったり、隠れてほしい時は僕のローブの中に入って、薄くなってて)
(わかったのん)
ムーが、僕の足元でこくこく頷くようにぷるぷるする。
「あ、そうだ」
(ムー)
(なあに、なのん)
(せっかくだしさ)
(牧場の仲間たちにも、ちゃんと挨拶しようか)
(ちょっと、繋いでみるね)
僕は器に繋がっている気配に意識を向ける。
(珍しいな、そっちから呼ぶとは)
最初に応えたのは、パディットだった。
(新しい仲間ができたから、紹介したくて)
(スライムのムーだよ)
(……なんかいっぱいいるのん)
ムーの声が器で響く。
パディットが、どこか楽しそうに笑う。
(オレはパディットだ。よろしくな、ムー)
(パディット、よろしくなのん)
(ぷるぷるの友達なのん)
(ぷるぷるの友達……まぁ、そういうことにしとくか)
(パン)
今度はパンの声が響く。
(うん、聞こえてるよ)
(ムーだよね)
(パンだよ。よろしくね)
(よろしくなのん)
(うん、こっちに来たら色々紹介するよ)
次はネールだ。
(仲間が増えるとは、良いものだな)
(よろしく頼む)
(ムーなのん、よろしくなのん)
パディットがまとめる。
(あと、そこでずっと眠っているのがクロープだ)
(一日で、飯食う時以外は眠っている)
眠たそうな声が、ふわぁ、とあくび混じりに広がった。
(よろしく、ムー……ZZZ)
(よろしくなのん)
(みんな優しそうなのん)
ムーの声が、少しだけ嬉しそうだった。
胸の器の繋がりが、ひとつ分また増えた。
水袋を全て満たし、ムーの自己紹介も終わったところで、ホルスさんが立ち上がった。
そして、平原の中に一歩を踏み出す。
その中に、新しい仲間の足音、いや、ぷるぷる音が加わった。
⸻
平原の穴を縫うように、僕たちは進んでいく。
「……喉、乾いた」
ムーを仲間にしてから三日目の昼過ぎ、思わず漏らす。
「平原って、こんなに長く感じるんですね」
「森より変化がねぇからな」
ホルスさんが、汗をぬぐう。
「木も変わらねぇ、風も似たようなもんだ」
「だから、余計長く感じる」
それでも、確実に前には進んでいた。
夕方が近づく頃に変化は訪れた。
「……あれ」
前方の地面の様子が、少しだけ変わった。
草の背が低くなり、土が見える場所が増えていく。
そしてついに、
「……抜けたな」
坂を登り切った先で、空が一気に広がった。
振り返れば、延々と続く緑の海。
前を見れば、その先にゆるやかな丘と、建物の影。
「ここが、カイバル境界丘だ」
ホルスさんが言う。
「そしてあれが、カイバル見張り台跡だ」
「うわぁ……」
思わず、声が漏れた。
「やっと抜けたー!」
「なっがかったなぁ……」
ホルスさんも、珍しく疲れた声を出す。
背中の荷物を、どさりと地面に置いた。
「ふぅ……」
肩をぐるりと回す。
「……本当にお疲れ様です」
「まだ道は長ぇけどな」
平原を抜けた安堵が、少しだけ胸を軽くする。
その矢先だった。
「うわーーーーーーーっ!!」
女性のでかい悲鳴が聞こえる。
「たーすーけーてーーーーーー!!」
「……!?」
ホルスさんと顔を見合わせる。
「今の……」
「女の悲鳴だな」
「なにもしてないのにーーーっ!!」
足音が、こちらに向かってくる。
⸻
カイバル見張り台跡の石壁の影から、勢いよく飛び出してきたのは、
「うわっ!」
僕より少し背の低い、短い金髪の女の子だった。
軽装のジャケットに、動きやすそうなホットパンツ、腰には小さなナイフと、短めの魔杖。
同じ歳くらいだろうか。
その子が全力でこっちに走ってくる。
そのすぐ後ろから、
「メェェェェェェェェ!!」
羊のようなモンスターが、石をばらまきながら突っ込んできた。
「ヤードゴートか……!」
ホルスさんの顔が引き締まる。
厚い毛並み。
前傾した角。
地面を蹴るたび、足元から石が浮き上がって飛んでくる。
羊型モンスター、ヤードゴート。
飛んできた石が、境界丘の岩をえぐった。
「ちょ、ちょっと!」
女の子がこっちに向かって叫ぶ。
「何もしてないー! 寝てるとこちょっとつついただけだしー!」
「それを何もしてないとは言わねぇ」
ホルスさんが、思わずツッコむ。
そして周囲を一瞬で見回し、
「人目は避けたいが……」
腰の剣に手をかける。
「とりあえず助けるぞ」
「はい!」
(ムー)
(ローブの中で、じっとしてて)
(わかったのん)
スルスルとムーが僕のローブに入って行った。
「右に避けて!」
叫ぶと同時に、女の子が勢いよく右に曲がった。
そのすぐ横を、石の弾丸が通り過ぎる。
「メェェェェッ!!」
ヤードゴートが、今度はこちらに角を向けた。
「フライ!」
僕は杖をヤードゴートに向ける。
「〈〈フレア〉〉」
地面すれすれに走る炎が、ヤードゴートの足元へ。
「メェッ!?」
一瞬体勢が崩れ、その場で足を踏みしめる。
「踏ん張るやつには、足を払えだ」
ホルスさんが、一気に間合いを詰める。
低く滑り込むようにして、前足の付け根を斬り払った。
ヤードゴートの身体が、ぐらりと傾く。
その瞬間、地面から尖った石が突き上がった。
「っ!」
ホルスさんが、身をひねってかわす。
「力はそこそこだな」
「動きを止めます!」
「〈〈エレク〉〉」
細い雷が、地面を伝ってヤードゴートの足元を走った。
毛並みがバチバチと逆立ち、身体がびくんと痙攣する。
「メェェッ!」
踏ん張っていた足が、わずかに浮いた。
「そこだ!」
ホルスさんの剣が、首筋を正確に断ち切る。
一閃。
ヤードゴートが、どさりと崩れ落ちた。
「ふぅ……」
杖を下ろし、息を吐く。
「大丈夫ですか?」
「あーりーがーとー!!」
さっきの女の子が、両手を広げて叫んだ。
「マジでやばかったんだけど!? 死ぬかと思った!」
⸻
「何やったのさ、君」
思わず聞くと、女の子はえへへと笑った。
「ちょっとね? 寝込み襲おうとしたら、こうなったんよ」
「……寝込み?」
「ヤードゴートってさー」
「たまに魔力のかたまりみたいな個体がいるの」
「そういうやつの体内には、けっこうな確率でルミナストーン溜まってるんよね」
「で、あいつからね、ビリビリくる感じで魔力感じちゃったわけ」
頬をかく。
「あ、これ絶対持ってるやつじゃん?って思って」
「気づいたら、つついてた」
「てへへ」
「で、あんま魔力残ってないの忘れてて、魔法もろくに撃てないし、走るしかないって感じでさー」
「その辺で助けに来たのが、白馬に乗った勇者様ってわけよ!」
「白馬にものってないですし、勇者でもないです」
ホルスさんが、目を細めて呆れた顔で言う。
「さ、助けたな」
剣を鞘に収める。
「終わったなら行くぞ、フライ」
「え、ちょちょ、ちょっと待って!」
女の子が、慌てて二人の間に滑り込んでくる。
「どこまで行くの? 旅の人でしょ? ね?」
じーっと僕の杖を見つめる。
「ってかその魔杖さー、かなりいい物でしょ?」
「魔力ビリビリ感るんですけど」
「けっこうできる系の魔杖使いさんだよね? あたいの目はごまかせへんよ?」
「同じ魔杖使いとして、ウビビビビっときたね、うん!」
「えっと……」
「で、そっちの剣の人もさー……」
今度はホルスさんを指さす。
「剣とかよくわかんないけど、ナンカスゴカッタヨ、タブン」
「無理やり褒めんでもいいわっ!」
ホルスさんが完全にツッコミ役になってしまった。
「それでさぁ」
にこーっと笑う。
「お願いがあるんだよね♡」
「♡じゃねぇよ」
ホルスさんが、即座にツッコむ。
「俺たち急いでんだよ」
「助けました。じゃあな」
それだけ言って、くるりと背を向けた。
「ま、待ってってば!」
女の子が、ホルスさんのローブの裾をつかむ。
「街まで送ってってくんないと、この辺でモンスターに襲われて死にます!」
「目覚め悪くなっちゃうよ!いいの!?」
「見たでしょ、キュウシニイッショウを、あたいのキュウシニイッショウ!」
「お前それ、よくわかんなくて使ってるだろ」
「それは……大変だね」
僕は思わず口から出た。
「おい、フライ?」
ホルスさんが、睨む。
「何度も言うけどな、俺たちは――」
「その街って、どこなんですか?」
僕は、女の子の方を向いた。
「ここらで街って言ったら、ドーナしかないじゃん?」
彼女が、きょとんとした顔で言う。
「ドーナ」
ホルスさんが、わずかに顔をしかめる。
「あっ、方向一緒ですね」
つい、言ってしまった。
「あ、バカ待て」
ホルスさんが頭を抱える。
「方向一緒じゃな、これはもう運命だと思う、絶対そう、そういうことにしよう、今した!」
女の子が、勢いよく僕の腕を取った。
「決まり! はい、今決まりましたー!」
「決まってねぇ」
ホルスさんが、深いため息をつく。
「いいじゃないっすかー先輩」
僕は、苦笑しながら言う。
「案内もしてもらえますし、助かりますよ、きっと」
「お前あのなぁ、天然なのかなんなのか……」
それでも、観念したように肩をすくめた。
「はぁ……」
空を仰ぐ。
「じゃあ、行くか」
「マジっすか!!っしゃああああああ!」
女の子が、ぴょんと飛び跳ねる。
「じゃ、改めまして!」
くるっとターンして、僕らに向き直った。
「あたいは、フリールってんだ!」
にかっと笑う。
「ルミナストーンハンター、魔杖使い見習い、魔杖屋店番、街の人気者、十七歳!」
「何か肩書き多いなお前」
「道中、よろしく頼むぞ! 護衛の方々!」
その勢いに、思わず笑ってしまった。
カイバル平原の出口で。
思いがけない、無茶苦茶な同行者が増えたのだった。
読んでくださりありがとうございます。
ムー加入で活躍を書くのが楽しみです。
次話も読んでいただけると嬉しいです。
ヤードゴート
大きさ:1m70cm
羊型:角が大きい
生息:カイバル境界丘、森、平野
魔力:地寄り、氷小
地属性魔法で石を浮かせて弾丸のように飛ばす。
角を突き立て突進
ガルルカ
大きさ:1m20cm
犬型:必ず4匹ほどの群れでいる
生息:カイバル境界丘、森
魔力:風寄り、炎小(魔法は使わない)
気配を消して忍び寄る、引っ掻く、噛み付く




